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『復讐 消えない傷痕』(1997)/菅田俊演じる哀川翔大好きヤクザが良すぎてメインストーリーなどどうでもよくなってしまった感ある🕶️


監督&脚本:黒沢清 音楽:吉田光 製作国:日本 上映時間:80分 初公開日:1997/05/31 シリーズ:『復讐』シリーズ第2作目

 

 

黒沢清監督のリメイク版『蛇の道』(2024)まだ観に行ってないけど、10年ぶりくらいに90年代黒沢作品を観てたらハマってきて色々観返してる。
自分が好きだ!と思ってたものでも10年経ったら価値観が変わったりするので見返したりすると、より好きになったり逆に「何でこんなの好きだったんだろ?」と好きじゃなくなったりする。脳の天日干し的な動き。昔のもの観て懐かしんだりする心の動きは大嫌いなのでそういう意味合いはない。
たとえば以前はあまり面白くないと思っていた『地獄の警備員』(1992)を先日観返すと、今回は主人公の上司(演:長谷川初範)が怪力殺人鬼であるはずの地獄の警備員よりも心身ともに強かったのが凄く面白かった、以前観た時は気づかなかった。

これは商業映画の失敗でVシネ界に落とされた黒沢監督が主演・哀川翔と組んだVシネの末期の作品『復讐』シリーズの『復讐 運命の訪問者』(1997)に続く第2作目。本当は『蛇の道』(1998)と『蜘蛛の瞳』(1998)も復讐シリーズだったらしいけど2つに別れた。
どちらのラインも、高橋洋脚本の陰惨でシリアスな前編(『復讐 運命の訪問者』(1997)、『蛇の道』(1998))、黒沢清脚本で何がしたいのかよくわからない間抜けでシュールな後編(本作、『蜘蛛の瞳』(1998))という感じで前編同士、後編同士がよく似ている。そしてどちらのラインも一応主人公が同じで続編ということになっているが、あんまり厳密に繋がっていなさそうなくらい雰囲気が違う。『マッドマックス』旧三部作(1979-1985)『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015)以降の世界が、ボンヤリ繋がっているように考えることも可能だがあんまり繋がってなさそうなのと似てる。
高橋洋脚本の方が筋道が通ってて誰が観てもわかるストーリーなので黒沢清好きじゃない人は高橋洋脚本の2本、黒沢清ファンは清脚本の後編2本を好む傾向が強い。僕も広がりのある後者だ。あと高橋洋脚本の2本は陰惨さが凄いし女子供が殺される要素や生理的嫌悪感を催す要素が多いので、面白いけど「嫌な気持ち」になるのであまり何度も観たくない。だがエンタメとして普通にまとまってるのは高橋洋脚本の2本である事には異論はない。

ネタバレあり

 

 

 

 

前作『復讐 運命の訪問者』(1997)のあらすじ

幼い頃に家族を殺され成長して刑事になった安城伍郎(演:哀川翔)は、自分が追っている犯罪組織にも殺されてしまう。安城復讐のため刑事を辞めて組織を皆殺しにした――

刑事を辞めて妻の仇を討った安城伍郎(演:哀川翔)だったが、彼の復讐はまだ終わっておらず”山本”という偽名を名乗って、あの組織に妻を殺すよう指示した上の存在に関わる者を探して殺して回っていた。
暴力団組長の吉岡(演:菅田俊)は、安城の正体や目的を知らないまま安城を異常に気に入り兄弟のように懐く、
安城は、同じアパートの服飾学院生美津子(演:小林千香子)や、闇資金の出どころを追う刑事・西(演:井田國彦)などから妻の仇のヒントを得て、仇の居場所を探り当てる。前作で安城の上司だった刑事課長(演:大杉漣)は安城からも闇ルート資金からも目をそむける。
……のだが「妻を殺す指示した上位的存在を探して殺す」というメインの部分にはもう全然熱がこもっていない。安城の本心はわからないが、それ以外にすることがないので他にやることもないし仕方なくやってるという感じ。
前作での安城は、刑事として組織を追うことも復讐のために組織を皆殺しにすること、どちらも熱があったが本作では復讐することに対しては、まるで幽霊のように熱がない。
蛇の道』(1998)では、まだ目的遂行に熱があったが『蜘蛛の瞳』(1998)では、空虚な幽霊みたいになってしまったのと似てる。
やる気がないのは安城だけでなく作品を作ってる黒沢監督も、そのメインストーリー部分を描くことに全く興味がないように見える(もしくは全く興味がないように見えるよう頑張って撮ってるのかもしれないが)。
メインストーリーよりも、菅田俊演じる安城大好きヤクザ吉岡との触れ合いの方を熱心に撮っている。
その差があまりに激しいので、安城が刑事と会ったり復讐相手を追う描写になると退屈感を感じ、本筋とはあまり関係ない吉岡とのシーンになると楽しさを感じる。
吉岡は、どういうわけか凄く躁鬱っぽい情緒不安定な男で、不良や体育会系にたまに居る妙にホモソーシャルな密な関係を求める男。たまに居る。「おい、なぁここ座れよ」と頻繁に自分の隣に座らせようとしたり同じことをしたがるタイプ。躁鬱っぽい男らしい男ってこういう感じの人多い印象。
「なぁ、山本(安城の偽名)こっち来いよ。将棋しようぜ……やめるか、つまんねぇな」と誘ってはすぐ辞めたりをよくする。
吉岡はメインキャラだが安城の復讐という目的は最後まで知らないまま安城とはただ遊んでるだけという凄く不思議なキャラ。安城を仲間にしたがっているが安城はヤクザになる気がないのでいつも断る、仕方ないので吉岡は安城とただ一緒に居て子供みたいに遊ぶ。吉岡自身のやりたい事は漠然と組を大きくしたがってるが子分が本家に取り立てられたら静かに嫉妬して歓迎会はやるものの最終的に「勝手なことすんじゃねぇ」と殺してしまう。非常に吉岡っぽい。それでさすがに着いていけない子分は皆居なくなったので安城とドライブする。子分に先越されて予定が狂ってキレた……のだろうが吉岡は最初から様子がおかしいので別に子分に先越されなくても遅かれ早かれ絶対自滅していただろう感がすごい。
めちゃくちゃに車を走らせてたら安城に甲高い哀川翔ボイスで「オマエー、温泉の場所、知ってるのか」と訊かれても「わかんねぇな……まぁ、なんとかなんだろ」と走らせ、結局なんともならず道に迷ったので「コンビニで地図でも買うか……いや、やっぱ、それも面倒くせぇな……」といった一連のダラダラしたシーンが本作の一番の見せ場。何の目的も意味もない2人が車を走らせてるが道に迷う……という観たまんまの人生の暗喩。というか本作で吉岡と絡んでる以外のシーンはハッキリ言ってどうでもいい。
安城を気に入ってる理由はわからないが多分、安城が自分と同じように空虚だから幽霊同士気に入ったのかもしれない。
吉岡はやることなくなったので組本部に突っ込んでいき何人か殺して射殺されるという自殺で退場。ダラダラと遊んだり空虚で死にたがる様子は北野武ソナチネ』(1993)の影響だろう事は間違いないが、たけしの場合たけし本人の死にたがりを主人公たけしがやるというナルシスティックな雰囲気があった。黒沢清の場合、ナルシスティックな感じではなくそういうキャラをただ出したいってだけに見えて、今観ると黒沢清のそういう描写の方がマジじゃないだけ観れる。たけしの場合マジなので当時はそこに痺れてたが今観ると、そういった死にたがりたけしキャラはナルシスティックすぎて少し恥ずかしい。

吉岡以外にも同じアパートの服飾女学生との触れ合いも楽しかった。情報を教えて貰う代わりに安城が衣類製作のマネキン代わりになる。安城の採寸をするにあたって、安城の部屋には復讐相手を調べた色々な資料があるのでダメ、女学生の部屋には両親がいるのでいきなりグラサンかけた哀川翔を連れ込むわけにはいかんのでダメ。最終的に安城は森の中で採寸される。画面のシュールさと「なんで森で採寸するシーンなんてわざわざ撮りたかったんだ」と考えると非常にたまらないものがある。

安城が遂に見つけたラスボス的存在は既に老衰間近で寝たきりの老人だった。老人が殺されるのを必死に止める若妻も居たことも関係したのか安城は復讐を一旦止めるが、結局再訪、安城を刺そうとした若妻を撃ち殺して老人を絶望させた後、老人も射殺する。復讐は終わったものの、もう別に安城もこの男を殺したいと思ってたわけでもなさそうだし、自分の妻の仇で来たのに彼の妻も殺してしまって嫌な感じだし生きる目標もなくなってしまったので全然楽しくない感じで車でどっか行って終わる。

もう本格的にやる事なくなったので、仇を討つと同時に安城も殺された方がまだ楽になれる気もするが、もう何も残ってないのでこれは安城本人が死ぬという逃げができないので辛い終わりだといえる。
老人へ復讐するため再訪した影で真っ黒になった哀川翔のラストシーンも良いのだが、いかんせん吉岡との絡みが良すぎて、吉岡が退場した瞬間どうでもよくなってしまった感はある。闇資金を追ってた西も死体になってる様だけ描かれるという北野武映画的な結末だったが、このキャラは黒沢監督の本作のそういった要素への興味のなさを体現するかのように最初から最後まで全く魅力がなさすぎてどうでもよかった。
だいぶ前に感想書いたから新しくは書かないが『復讐 運命の訪問者』(1997)も同時に久々に観て、本作は吉岡を観るためにまた観たいなと思った。
次は似たような楽しい内容の『蜘蛛の瞳』(1998)観るか。でもセットだから『蛇の道』(1998)も観るか。加齢のせいか陰惨な話はあんまり観たくなくなってるところがあるね。

 

 

 

 

そんな感じでした

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