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『蛇の道』(1998)/セルフリメイクからカットしたらしい”コメットさん”と”宇宙の法則を教える塾”は今見ても面白いのだが、面白すぎて確かにメインストーリーの邪魔かも📺️


監督:黒沢清 脚本:高橋洋 音楽:吉田光 製作&配給:大映 製作国:日本 上映時間:85分 公開日:1998/02/21 旧題:修羅の極道 ~蛇の道~ 英題:Serpent's Path シリーズ:新島直巳の復讐シリーズ第一作目

 

 

黒沢清監督本人による本作のセルフリメイク『蛇の道』(2024)が今公開中で、観に行く前にこの古いバージョンとか……ついでに90年代黒沢作品を観返してみようと思ったらハマってきたので今も好きみたい。
黒沢清はやっぱ90年代後半から『叫』(2006)くらいまでが信者に近いファン状態で、その後純粋なホラーじゃなくて普通のドラマとホラーを混ぜたりするへんてこりんな映画を撮るようになった。今のも観てるし悪くないのだけど単純にホラーというジャンルに居たりオバケが出てたわかりやすい時の方が好きだったので97年から2008年くらいまでが大ファンだった時で今は、ただほぼ全部観て楽しんでるだけのファンじゃない状態といえる……だが今こうして客観的に自分を見たら今の方が良い状態のファンな気がしてきた。今はファンじゃないので『スパイの妻 〈劇場版〉』 (2020)とか観て「なんですか、この誰でもわかることをラストで絶叫する珍作は……」と思うがファンだった時は、あの手この手で良いところを見つけて無理に褒めていただろう(滑稽な姿勢だ)。そう思うと好きなやつは好きどうしようもないものはどうしようもないと言えるのが健康的な状態といえる。
今やってる本作のセルフリメイクも当然興味あるのだがストーリーほぼ同じでコメットさんと宇宙の法則塾カットと聞いたら何か大体想像できてしまったので別に今すぐ観なくてもいいかという気持ちになってきた。

ネタバレあり

 

 

 

 

幼い娘を殺された男・宮下辰雄(演:香川照之)は犯人に復讐するため塾講師新島直巳(演:哀川翔)の協力を受けて、犯人の疑いがあるヤクザ大槻(演:下元史朗)を誘拐、監禁する。
宮下は娘の生前のビデオを見せながら遺体の検査レポートを読み上げた自分の音声を大音量で流す。娘は生きていた時に拷問されながら凌辱されて惨殺され、それをスナッフ・ビデオにして売っていた事がわかり、それを娘の笑顔が映ったビデオと共に聞かされるので単純に”嫌な気持ち”にさせられる。
あまり激しい拷問のたぐいはせず、廃工場の床に鎖で繋ぎ水も殆ど与えず、排便もその場でしかさせず食事はその汚い床に落としたものを犬のように食べさせる。ヤクザはだんだん酷い境遇と尊厳破壊で衰弱していく。
そのままじゃ病気になって死ぬので新島……と書いてもj誰だかわからんので以下は俳優の名前で書く……哀川翔はヤクザにホースで水をかけて綺麗にする。ヤクザはこの時水を飲むこともできる。
痛めつけられながら犯されながらバラバラにされた娘の話やヤクザへの不潔で嫌~な感じの監禁が続き”嫌な気持ち”にさせられる。
「性的または生理的に嫌な感じ」というのは脚本の高橋洋の当時の要素で(他には『復讐 運命の訪問者』(1997)とか)、当時の高橋洋脚本以外ではあまり出てこない。

こういった陰惨ムードも、肝心のストーリーが面白いし陰惨な要素もこれはこれで強烈で嫌なタイプの興味もひかれるんだけど、そういった陰惨な描写や言及のある作品を観てたり後で思い返してる間に「やられた人可哀想だな~」という、そういう思いが頭の半分くらい占められてしまう。そうなるとそれがノイズになってあまり純粋に楽しめなくなる。また犠牲者を過剰にかわいそがってしまうと加害者が痛めつけられるターンになったら「もっとやれ!」「殺せ!」といった「恨み」の念によって脳が占められてしまう。こういう感情もまた健康的とは言えず……というか幼稚で動物的だよね。最近少なくなったレイプ復讐映画とかもそうだが。
だからPTA的な意見や「残酷な場面は観てられない!」とかいった意見では全然ないのだが、過剰に酷い場面はない方がいいのではないか?と最近思う。
たとえば一斉を風靡した(日本以外)『ゲーム・オブ・スローンズ』〈シーズン1-8〉(2011-2019)も評判通り中盤はめちゃくちゃ面白いのだが売りの一つでもあった残酷な場面の多さが本当に嫌だった。女子供お年寄りが率先して酷い目に遭い、悪人はあっさり死ぬ……そういった描写自体が嫌だというよりも視聴者にショックを与えてやりたがってる制作者の二チャった嗜好が嫌だった。
逆に『マッドマックス:フュリオサ』(2024)は、そういった問題に敏感なジョージ・ミラー監督によって「単純なレイプ復讐映画にはしないぞ」という意気込みを感じた、美しいフュリオサの母は捕まったら画面が抽象的になって神話的な磔刑で死ぬし、フュリオサも「悪役ディメンタスに無理やり娘代わりにされた」「少年に偽装してメカニックやジャックの仲間になる」などのルートでフュリオサや女性キャラがレイプされるのを回避、リクタスの幼女レイプも片鱗だけ、腕もぎオサも自発的だし神話的に描くことで、見てられられなくなり感情的にさせられる幼稚な状態にされなくて済んだ(とはいえ初見ではどうなるか知らんのでフュリオサがレイプされたり腕もがれる場面があるんじゃないかと極度に恐れて初見あまり楽しめなかった。二回目からは最高)。
そういうことで初期黒沢清を代表する面白い作品なのを認めつつも、本作の極度に陰惨な作風は個人的にノイズになってあまり好きじゃない。勿論「そここそが良いんやろが!」という人もいるだろうが。

話を戻して、この辺りである監禁装置を作る哀川翔、銃の練習する香川照之、食事かなんかしてるヤクザが一つの画面に収まった画面も有名。
一人目のヤクザ・大槻は犯人候補として、檜山(演:柳憂怜、旧芸名:柳ユーレイ)というヤクザの名を出す。すると檜山の名前を聞いた香川照之は怯え始める。どうやら以前なんらかの繋がりがあり檜山の恐ろしさを知っている模様。
しかし被害者の父・香川照之以上に乗り気な哀川翔が、香川照之を引っ張って檜山拉致に成功。気絶させた檜山を袋に入れて引っ張って逃げている新旧ともに使われている有名なビジュアルはこのシーン。人が入った袋を引っ張って草むらに轍が残る様が正に「蛇の道」だから、このシーンをピックアップしたんだろう。
檜山の女であるコメットさん(演:砂田薫)が仕込み杖で哀川翔に斬りかかる。
「コメットさん」とは60年代と70年代に放映されていた魔法少女もの?っぽい特撮らしいが観たことないのでよく知らない。このキャラは「コメットさん役に似てるからコメットさんと呼ばれている、しかし全然似てない」という設定のキャラ。無表情で一切喋らず足が不自由で杖をついて歩き仕込み杖で戦う。幽鬼のような異様な雰囲気。『復讐 運命の訪問者』(1997)にも似たような足が不自由で陰気な女の敵が出てきた(が、喋れるしコメットさんほど異様ではない)。なんか如何にも高橋洋って感じのキャラ。一瞬しか出てこないし陰惨な雰囲気なのに名前が「コメットさん」なので観る人に強烈な印象を残す初期黒沢清作品の人気キャラでもある。
コメットさんについてはまた後述。

主人公2人はコメットさんを振り切り檜山誘拐に成功。
2人の容疑者が繋がれた。
一人目のヤクザ・大槻はこの過酷な状況に慣れつつあり、脱糞した柳ユーレイに哀川翔が放水する時に「飲んどいた方がいいですよ。水くれないから」と言って飲んだり顔洗ったりしてる。こいつも幼女惨殺に関係しているのでろくな奴じゃないんだけど過酷な状況で責めを負わされ続けてた奴が慣れてきてるのを見ると不思議と応援したくなるのが不思議だ。まぁ犯人役として責められてる時間しか見てないからか。
柳憂怜(旧芸名:柳ユーレイ)は、師匠である北野武作品の数々や『女優霊』(1996)『リング2』(1999)、OV版『呪怨』&『呪怨2』(2000)シリーズ……などで割と痩せてて気弱な男性をよく演じてたけど、これはこれで不思議と怖いヤクザに見えなくもないなぁと思った。どういう人なのかは知らないけど子供の時たけし軍団の中で一人だけおとなしいので好きだった気がする。
檜山も自分がやったとは言わない(言ったら拷問されて死が近づくだけなので当然だ)。しかも檜山も恐れられてるヤクザだけあって一人目ヤクザ同様この状況に慣れてきている。
この状態を続けても事態は進展しない。
哀川翔香川照之に内緒で、二人のヤクザに「俺も狂った香川照之にまいってるんだ。2人で口裏合わせて誰か適当な犯人をでっちあげてくれ」と言う。

そうして新たに真犯人候補・有賀(演:翁華栄)が浮かび上がる。
有賀捕獲に向かう前に二人のヤクザを殺し合わせて一人目ヤクザ死亡、柳ユーレイも有賀捜索の途中で銃殺。全員、幼女スナッフ・ビデオを作って売っていた奴らなので最初から生かすつもりはなく、この監禁は関係者を全員あぶり出すための装置だったのだ。
有賀も捕獲。哀川翔は殺人組織を一網打尽にするため残ったコメットさんやその弟達も呼び寄せ、ラストバトルで全員をブッ殺す。
しかし、その最後の場所で香川照之は何かに気づく。
……というか流れで、あらすじ全部書いてたが真相がわかる終盤のことは書くのやめとこう。

 

 

そういえば哀川翔演じる新島の私生活は塾講師をしている。
塾には老若男女がおり何やら数学のような?謎の方程式を解いている。
誰か少年か誰かが方程式を書くと、細かい台詞忘れたけど「だめだだめだ、これじゃ時間が巻き戻って宇宙がめちゃくちゃになっちまう。お前だけの世界じゃないんだぞ」とか、そんな事を言うので当時見た時は凄い衝撃を受けて初期黒沢清の大好きなシーンになった。
この塾は何なのかというと説明はない。塾で一番、哀川翔に懐いている優等生少女がまるで幽霊のような雰囲気で撮られており香川照之が性的な目で少女を見るので「この少女は哀川翔の死んだ娘なのかも」と思わせる。繋げて考えると、だから塾に集まった善人そうな老若男女も皆、悪い奴らに殺された人たちの集合体なのかもしれない。哀川翔は娘や彼らのために復讐を行っている。この塾は哀川翔が「(復讐を)ああしようこうしよう」と考えている脳内を映像化したものなのかもしれない。香川照之が一回入ってきたのは香川照之哀川翔の考えてることを探ろうとした、そして追い出された……という流れを映像化したものなのかもしれない。というか昔は宇宙の法則にはしゃいでいただけで何も考えてなかったけど今久々に観たらそう(哀川翔の脳内)としか思えないので多分そうだろう。
哀川翔香川照之の出会いで終わるのは「世界の法則を操れる哀川翔が、香川への責めを永遠に繰り返している」というSF的な観方をする人もいるが僕はただ2人の出会いを最後に持ってきただけだと思う。しかし最後に持ってくることによって、まるでまたイチから地獄のような一連の流れを始めるかのような印象にさせている……だから結果的に哀川翔=黒沢監督によって香川照之が無限地獄に閉じ込められてる、と見ることも出来るのでまぁSF的なことでは無いにしても似たようなものか。

初期黒沢清ファンの殆どは「コメットさん」「宇宙の法則を教える塾」は大好きで僕も当時夢中で今も面白いとは思う、2つともメインストーリーに間接的には繋がってるのだが今観るとやはりメインストーリーから浮いてるので(まだ観てないけど)セルフリメイクで2つの要素をカットしたのは正解だったような気がする。
だって当時観た時、陰惨なメインストーリーも面白かったけど「コメットさん」「宇宙の法則を教える塾」が面白すぎてメインストーリーどうでもいいやと思ったことあるしね。コメットさんも、檜山の仇を討ちに来た只の悪人なんだけどキャラとしての存在感が凄すぎて映画という時空が歪んでいる。舞台の端っこに身長2m50cmくらいある大男が最後まで黙って立ってる劇みたいなもんで、面白い話が展開されてたとしても「大男は何なんだよ!説明してくれよ」と気が散ってしまう。宇宙の法則も言わずもがな。

そういう感じでセルフリメイクが楽しみになりました。流れからして次は『蜘蛛の瞳』(1998)観るか。

 

 

 

 

そんな感じでした

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黒沢清監督作品〉
『岸辺の旅』(2015)/幽霊が黄泉平坂で宇宙の終りと始まりを語る場面が好きでした👫 - gock221B
『復讐 運命の訪問者』(1997)/エンターテイメント性高めな映画でした🕶️ - gock221B
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『クリーピー 偽りの隣人』(2016)/大変な怪作だが犯罪がテーマなのに現実感なくて好きになれなかった🏠🏡 - gock221B
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985)/洞口依子の可愛らしさと大学のフワフワした感じ👩 - gock221B
『散歩する侵略者』(2017)/黒沢清映画のおかしな夫婦って好きですわ👉 - gock221B
『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)/本編は愛の話だったが、こっちは〈心の弱さ=悪〉という話かな 👉 - gock221B
『ダゲレオタイプの女』(2016)/本作のあらすじ同様、現実世界から隔絶されたような黒沢幽霊映画inパリ👱‍♀️📷 - gock221B
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『Chime』(2024)/45分間でサイコパスと幽霊どちらも楽しめる。今回の全く映さない幽霊表現いい🔪 - gock221B

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蛇の道 - 映画情報・レビュー・評価・あらすじ・動画配信 | Filmarks映画
Serpent's Path (1998) - IMDb
Serpent's Path | Rotten Tomatoes

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