仏題:Le chemin du serpent 監督&脚本:黒沢清 原案:黒沢清『蛇の道』(1998) 製作:小寺剛雄 製作会社:CINÉFRANCE STUDIOS 音楽:ニコラ・エレラ 撮影:アレクシ・カビルシーヌ 編集:トマ・マルシャン 製作会社:CINÉFRANCE STUDIOS 制作&配給会社:KADOKAWA 製作国:フランス、日本、ベルギー、ルクセンブルク 上映時間:113分 公開日:2024.06/14
黒沢清監督自身による『蛇の道』(1998)のセルフリメイク。
うろ覚えだけど、フランスに出資してもらってセルフリメイクするなら?と選ばせてもらってこれを選んだ……と言ってた気がする。
観た人が「大体のあらすじは同じ、宇宙の法則を教える塾とコメットさん無し」と言ってて「あらすじ同じで、『蛇の道』(1998)で本編より面白い宇宙の法則を教える塾とコメットさん無いんじゃ観る意味ないな」と思って観に行くのスルーした。レンタル始まってたから観た。
今年は黒沢清映画が3本も公開されて奇妙な年だった。ちなみに『Chime』(2024)がはめちゃくちゃ良かった。後は『Cloud クラウド』(2024)だけか。
ネタバレあり
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何者かに娘を惨殺された男アルベール・バシュレ(演:ダミアン・ボナール)。
彼は、偶然出会った精神科医の新島小夜子(演:柴咲コウ)の協力を得て、犯人を突き止めて復讐しようとしている。
とある財団の関係者を2人で拉致・拷問していく中で明らかになっていく真相――
みたいな感じ。
あらすじはオリジナルと大体同じ。
主人公の中年男性が柴咲コウの助けを借りて、犯人の組織の男を芋づる式に拉致して、ゆっくり真相に迫る。ただ2人が一番最初に拉致する男を演じてるのがマチュー・アマルリックと、意外な大物がこんな役を……感があった。
拉致した者には食べ物を地面に落として犬のように食わせたり、トイレにも行かせず垂れ流しにしてホースで放水したり……などのくだりも同じ。オリジナルと違うのは、監禁する廃屋がオリジナル版はマジで公衆便所の床みたいに汚かったのだが、今回は落ちた物そのまま食っても大丈夫なくらい綺麗。オリジナルのジメジメさはオリジナルの脚本を書いてた「90年代の高橋洋色」、本作の小綺麗さは「フランスの黒沢清色」ってことなんだろう。僕、割と映画の劇中で本気で汚い所とか観たくないので(きたねぇから)「汚い廃墟ですよ~」と、本作のように記号で示して実際は大して汚くない方が助かる。
それと本作の主人公2人は、拉致の段取りが異常に下手でアクシデントも多い。まぁ少しサスペンス要素を出そうとしたのかもしれない。二人とも素人だし。だが、アクシデントやピンチというにはあまりに細やかなのでサスペンスには至らず「ドジだなぁ」と思わせる。本作で割と不評な部分がこの辺だという印象が、本作は他の黒沢清作品と比べてかなり「普通のエンタメ映画」っぽくなってたので僕としては特に気にならなかった。
映画は「この監督が撮れば全員同じようなキャラになる」というのがよくあるが黒沢清はモロにそうで、柴咲コウのキャラは『リアル〜完全なる首長竜の日〜』(2013)の中谷美紀同様の謎の美女感。柴咲コウの役を中谷美紀がやっても寸分たがわぬ同じキャラになりそう……とも思ったが「蛇」感はやはり柴咲コウの方が上かもしれない。中谷美紀って一見同系統の美人に見えるが独特のウェットさがあるし全然違うか。
彼女の生活感のない綺麗な自宅では、ロボット掃除機が働いており、漆黒の闇を隠したカーテンのかかった奥の部屋が意味ありげに2回も映る、2回目は柴咲コウをぼかしてその闇を隠したカーテンにわざわざクローズアップする。……だもんで何か隠してるのかと思ったら特に出てこなかった。単純に柴咲コウの心の奥のドス黒いものを表現したんだな、と観終わってわかった。
オリジナルで香川照之がやってたもう一人の主人公はダミアン・ボナールというフランス人俳優が演じている。香川照之の場合、演じてたのが香川照之だったから妙にギラギラしてたが、本作の彼は常に薄らボンヤリとぼーっと抜けていてドジも多く、また協力してくれる柴咲コウに惚れて手を握ったり誘ったりして無視されるなど、観ていて痛々しいシーンが多い。「リアルに描いたダメな男」感。
「宇宙の法則を人間かどうかもわからない人々に教える塾」の講師・哀川翔が、精神科医・柴咲コウ……になっている。ということで主人公が大きく変わっている。哀川翔の妻などは出なかったが本作では柴咲コウの夫が出てくる。
「宇宙の法則を人間かどうかもわからない人々に教える塾」の要素は変えて正解だった気がする(だって本編よりこの設定の方が遥かに気になって本編が入ってこなかったから)。同じくオリジナル作の大人気キャラ「コメットさん」も削除されてたが、これまた削除して正解だろう(これまたインパクトありすぎて本編どうでもよくなってたし)。
数ヶ月前に久しぶりに観たけど、やはり「宇宙の法則を人間かどうかもわからない人々に教える塾」と「コメットさん」で頭が一杯になった。「本編より面白ディティールの方が面白すぎて本編がどうでもよくなる」って意味でマジで要らない要素だったと言えよう。「コメットさん」も明らかに高橋洋の世界観って感じで黒沢清っぽくはなかったもんね。
途中、柴咲コウの患者として「出張で来てるフランスに馴染めず鬱になっている男」みたいな役で西島秀俊が出てくる。精神が荒れているのか女性を舐めているのか失礼な態度ばかり取る……というか殆ど狂人に見えるくらい常軌を逸しかけている印象。薬を出しても改善されずいつものように悪態を吐く彼に柴咲コウは「『終わらない』って事が一番怖いですからね。どうすればいいかは御自分が一番わかっているはずです」と、何と自殺を勧め、西島は見事にその夜に首を掻っ切って死んでしまった事が明らかになる(まるで『CURE』(1997)の殺人催眠のように伝播する死……呪いみたいで描かれる)。そんで、西島秀俊が児童売買などの犯罪に関わってるわけでも何でもなく、ただ鬱っぽくなってカウンセリングに来てるだけのサラリーマンなのに殺してしまうのが非常に恐ろしかった。
「西島秀俊のキャラなんなん?」と思ったが、「『終わらない』って事が一番怖い」というテーマを報せるためのキャラだったのかな。それで西島が児童組織の一人だったら「復習の一環だな」と観客が思って終わりなので敢えて何の関係もない奴にしたのだろう。
柴咲コウは、西島秀俊の妻?らしきフランス人女性が嘆いていると「彼は苦しみのない安らかな世界に行きました」と慰めていたので、ひょっとしたら柴咲コウは本気で西島秀俊をCURE……癒やしてあげようと自殺教唆したのだろう。
まぁ、色々あってクライマックス。
敵の児童売買組織の本拠地に乗り込んでチンピラを撃つアルベール。
途中のモニターに柴咲コウの娘の映像が流され柴咲コウが「娘が殺された」と解説する。アルベールが徐々に、今まで拉致してきた男たちの立場になっていってる事がわかる(アルベール自身は気づいていない)。
「なんで用心棒が多くいる敵のアジトのコンピューターなのに柴咲コウが自由に操れてるんだ」という感じだが、これはもうアルベールが敵のアジトごと柴咲コウの術中に囚われてるからだろう。ダメ押しに、不自然に壁に大小10個くらいのモニターが貼られててそこに柴咲コウの映像が映る場面などは監督の「もう、いい加減、わかれ!?」という迫力を感じた……が、黒沢清ファンは酔いしれて逆に黒沢清好きじゃない一般観客には「この場面、不自然だろ?この監督、素人か?」と言われてそう、これもまた、お馴染みの光景……。
最終的には敵組織の女ボスは既に死んでおり、アルベールの元妻が成り代わっている。そして、妻の周りには孤児がまとわりついているが、まるで小学校の劇してる児童たちのかのような生きてない人間みたいな不自然な感じ。
だから「前の恐ろしいボスほどではないがアルベールの元妻も少なからず悪いことを継続している」と捉えた。彼女によればアルベールは娘に全く愛がなく、ボスに売ればどうなるか薄々わかっていながらそうした。そして娘が殺されたら急に以前のことを忘れたかのように悲しみ始めた……そんな感じ。
で、オリジナル同様の仕置きと決めセリフを決めた柴咲コウ。
ラストで日本にいる夫と通話してると夫が「こうして2人で話してると別居してても良い感じだな。俺たち2人だけで暮らしてたらフランスでも上手くいったのかもしれないな?」と言う。娘を殺された親が言う台詞ではなく絶対的におかしい。
そこで柴咲コウが一言言って終わる。
この柴咲コウの夫婦描写の描写が決定的にオリジナル版になかった要素で(あと西島秀俊)、柴咲コウの夫はアルベールと連動しているし児童売買組織はかなりどうでもよく母親とダメな父親の話だったんだなと捉えた。
哀川翔やコメットさんや「宇宙の法則を教える塾」が無いのは残念だが、さっきも言ったけどオリジナル版は飛び道具的なところばかり目立って作品全体が散漫だった印象なので、映画として総合的に見ると本作の方が良かった。
とはいえ、他の作品よりはかなりエンタメに振った分かりやすい作品になってたが、黒沢清特有の作家性が漏れ出たシーンなどはファン以外が観たらトンチンカンにしか見えない要素なので、これでもまだ一般受けはしないな今後も無理だろうなと思った。まぁもういいでしょう、お好きな人とヨーロッパの人たちだけで楽しめば……。
『叫』(2007)以降Jホラー撮らなくなってから正直かなり興味を失ってたが、最新作である『Chime』(2024)といい本作といい、全体的にホラーなのか文学的な話なのか、よくわからない曖昧な感じが非常に好み。まだ観てないけど『Cloud クラウド』(2024)も楽しみですわ。
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そんな感じでした
〈黒沢清監督作〉
『岸辺の旅』(2015)/幽霊が黄泉平坂で宇宙の終りと始まりを語る場面が好きでした👫 - gock221B
『復讐 運命の訪問者』(1997)/エンターテイメント性高めな映画でした🔫 - gock221B
『893(ヤクザ)タクシー』(1994)/やとわれ仕事ゆえのエンタメ性と縛られた中での製作の姿勢 🚕 - gock221B
『クリーピー 偽りの隣人』(2016)/大変な怪作だが犯罪がテーマなのに現実感なくて好きになれなかった🏠🏡 - gock221B
『ドレミファ娘の血は騒ぐ』(1985)/洞口依子の可愛らしさと大学のフワフワした感じ👩 - gock221B
『散歩する侵略者』(2017)/黒沢清映画のおかしな夫婦って好きですわ👉 - gock221B
『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)/本編は愛の話だったが、こっちは〈心の弱さ=悪〉という話かな 👉 - gock221B
『ダゲレオタイプの女』(2016)/本作のあらすじ同様、現実世界から隔絶されたような黒沢幽霊映画inパリ👱♀️📷 - gock221B
『彼を信じていた十三日間』(「モダンラブ・東京」第5話)(2022)/黒沢清への興味を失ってたが久々の名作!💔 - gock221B
『地獄の警備員』(1992)/今まで黒沢清作品の中ではあまり好きじゃなかったんだけど20年ぶりに観たらありとあらゆる清要素が入ってて良かった。地獄の警備員よりサラリーマンの方がキャラ強い👮 - gock221B
『復讐 消えない傷痕』(1997)/菅田俊演じる哀川翔大好きヤクザが良すぎてメインストーリーなどどうでもよくなってしまった感ある🕶️ - gock221B
『勝手にしやがれ!! 強奪計画』『勝手にしやがれ!! 脱出計画』『勝手にしやがれ!! 黄金計画』『勝手にしやがれ!! 逆転計画』『勝手にしやがれ!! 成金計画』『勝手にしやがれ!! 英雄計画』(1995-1996)/言っても仕方ないが1本でよくね?💴 - gock221B
『蜘蛛の瞳』(1998)/90年代当時はおもろいけど意味わかんなかったが今見たら色々言語化しにくいサムシングが浮かんできて楽しかった👤 - gock221B
『Chime』(2024)/45分間でサイコパスと幽霊どちらも楽しめる。今回の全く映さない幽霊表現いい🔪 - gock221B
Le chemin du serpent - IMDb
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