
原題:Conclave 監督&製作総指揮:エドワード・ベルガー 脚本:ピーター・ストローハン 原作:ロバート・ハリス『教皇選挙』(2016) 主演&製作総指揮:レイフ・ファインズ 製作総指揮:トーマス・アルフレッドソンほか 撮影:ステファーヌ・フォンテーヌ 編集:ニック・エマーソン 音楽:フォルカー・ベルテルマン 製作国:アメリカ/イギリス 上映時間:120分 公開日:アメリカは2024年10月25日/イギリスは2024年11月29日(日本は2025年3月20日)
今日初めて観たので他人の感想は読んだり見てないけど恐らく大勢が”根比べ”という言葉を感想で多用していそうな映画。ロバート・ハリスの小説『教皇選挙』(2016)を元にしたミステリー。
第97回アカデミー賞において作品賞含む8部門にノミネートされ、ピーター・ストローハンが脚色賞を受賞した。
ネタバレありです
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ローマ教皇が心臓発作で死去したため、世界各国から枢機卿が集まりコンクラーベ(教皇選出選挙)が行われる。
♔主人公、英国出身のトマス・ローレンス首席枢機卿(演:レイフ・ファインズ)はコンクラーベを取り仕切る立場、彼は選挙に出るつもりはなく教会への信頼に迷いがある。
他の候補者は、
♖アメリカ出身でトマスの親友でもあるリベラル派のバチカン教区アルド・ベリーニ枢機卿(演:スタンリー・トゥッチ)。
♝教皇の死の直前に会っていたカナダの穏健保守派のジョー・トランブレ枢機卿(演:ジョン・リスゴー)。
♞イタリアの強硬保守派のベネチア教区ゴッフレード・テデスコ枢機卿(演:セルジオ・カステリット)。
♟初のアフリカ系教皇を目指す社会保守派のナイジェリア教区ジョシュア・アデイエミ枢機卿(演:ルシアン・ムサマティ)。
コンクラーベはこの4人で争われ、規定の有効得票数(投票総数の2/3以上)を得る人物が出るまで何度でも繰り返される。
映画冒頭で前教皇が亡くなり、彼の指輪が外され特別な機械で特別な手順で破壊される。そして教皇の部屋にはチェス盤があり彼と親しかったトランブレ枢機卿は「教皇はチェスの名手で8手先まで読んでいた」「私は一度も勝てなかったよ」と語る。この数分間がカッコよすぎて一気に惹き込まれた。
恥ずかしながら、最初は「カトリック教会の選挙って、厳かで興味ないなぁ」と全く興味が湧かなかった。でも「陰謀ミステリー」だという事がわかって「え?面白そう」と思い、そして公開後の好評が空気を伝ってきたのもあり(他人の感想は一切見たり聞いたりしてないが、”これ”を数十年間続けてる映画ファンは、具体的な評判を見聞きしなくても”映画ファンの間の空気の揺らぎ”でその評判が大体わかるようになる)「あ、これはジャンルに興味ある人はもちろん興味ない人にも突き抜けるほどの面白さを持ったやつなんだな」とわかった、が観に行く時なかったのでアマプラに来て観た。
前述の「冒頭数分だけで既に面白い」というのはその後も続き、全編面白かった。
なんか、自分が若い時から好きだったような派手なジャンル映画(ホラー、アクション、アメコミ)をいつも先に観ちゃうが、それらで真に面白いのは10本中1、2本あれば良い方で(それらの作品のパターンの殆どは既に知っているからだろう)、本作のような大人の感じの映画は後回しにしちゃうけど実際観たら打率がめちゃくちゃ高いですよね。特にアカデミー賞ノミネート作をここ数年ほぼ観るようにしていて、観る前はあまり興味が湧かなかったりするのだが実際に観たら前述の若い時好きだったエンタメ系と違ってハズレがほぼない、響かなかったとしても満足感あるものが多い。まぁ単純に高齢化による変化だとは思うが、昔のように派手なエンタメ作とか先にチェックしてそれらも楽しみ(これらは駄作だったとしても、それは駄作として別の楽しみ方もあるし)そして若い時にはあまり興味なかった賞レース残る系の映画も全部楽しめる、という事で総合すると今が一番面白いかもしれない。子供時代は『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)をTVで観て面白すぎて部屋をグルグル回って数年間、魔宮の伝説のことを考えていた今はそこまで脳が焼かれないのでそれはそれで子供なりの強烈な楽しみ方で、その時その時の楽しみ方があったんだろうね(しかしSNSが出て来始めた「他人の目」がやたら気になっていた30歳前後、この時だけは明確に駄目な映画ファンだっただろう)。
話が逸れたので僕の話から本作に戻しましょう。本作に絡めて言うと今の話は「教会のおじいさんばかりで地味そうだと思った『教皇選挙』だけど最初の数分だけで面白かった~」という最初に書いたことをふくらませようとして書いただけなので特に必要ではない。
主人公トマス・ローレンス枢機卿(演:レイフ・ファインズ)は、その敬虔さと有能さゆえ前教皇から、コンクラーベを取り仕切る議長となる首席枢機卿の座を与えられており。教皇を失った辛い気持ちは抑えて仕切る必要がある。
トマスは、神へ……ではなく教会への信仰心が揺らいでおりコンクラーベが終われば引きこもるつもりでいた。しかしコンクラーベ開催の儀式の時、多様性を説いた演説をしたら、それがリベラル派の枢機卿にウケたのか票が入ってしまう。
トマスは教皇になるつもりなどなく、むしろ辞めようとすら思ってたので困惑し「いや私は議長活動はするけど教皇とかなるつもりない!私に入れず親友のアルドに入れて!?」等と皆に言うのだが、親友アルドを始めとしてコンクラーベで闘争中の教皇達は「トマス……君にこんな野心があったとはね?」と言われてしまう。トマスは「いや、だから私は教皇になるつもりないんだって!私を信じて!私を」とか言うがライバル枢機卿たちは「またまたァ……ま、そういうことにしとこうか?笑」と言われる。大人の皆さんは知ってるだろうが、社会で”こういう状況”になったら「自分はそうじゃない」と言っても決して信じてもらえず、否定すれば否定するほど信じてもらえなくなる。
アフガニスタン出身のヴィンセント・ベニテス枢機卿(演:カルロス・ディエス)は前教皇によって枢機卿に任命されたばかりの紛争地域で教えを広めていた男性。
トマスが改めて皆の前で「彼は枢機卿だ」と紹介される。アフガニスタン系のベステスに皆は動揺するが最終的には拍手する。多様性を嫌う保守派のテデスコはもちろん拍手しない、彼は一貫してわかりやすい伝統派の”そういう役”だ。
トマスは、自分に票を入れたと言うベニテスに「君は私に入れてくれたそうだが私は教皇になる気はない。どうかアルドに入れてくれないか?」と言うがベステスは「いや、貴方に入れる」と言う。トマスは「だから、私は教皇にはならないんだって!」と言うがベステスは「それでも貴方に入れる。自分に嘘はつけない」と言う。
ベステスは真に崇高な枢機卿だったのだ。という事は「リベラル派のアルドがなるのが一番それが駄目なら仕方なく穏健保守トランブレに……教皇保守テデスコだけは絶対ダメ!教会が後退する!」こういった政治的な理は、敬虔で崇高なベステスには届かない。
トマスのように立派で有能な人物ではない我々も、普段こういうことって小さなサイズでありますよね。野望を捨てた無私の状態になったら、他人はその状態を「この人には邪気がない」と思い(実際そのとおりだが)慕ってくる現象。一言で言うなら結婚して妻子に誠実な男性は独身の時と違ったモテ方するのもこれだ。
トマスは、ライバル枢機卿たちの「過去の過ち」「不正」などを次々と暴いていく。
親友アルドは「そんな暴き立てはやめろ!誰しも脛に傷持つ身だ。清廉潔白な枢機卿など一人もいない」と言い、腐敗を暴き続けるトマスの働きぶりに警鐘を鳴らす。しかしアルドの警鐘は権力を欲しているが故にトマスの暴きたてを止めたかっただけだった。
コンクラーベが行われている聖堂の外ではテロが起き、聖堂の一部が破壊される。
困惑する世界各国の各派閥の枢機卿たち。つまり本作はコンクラーベを通じて現在の世界全体をわかりやすく戯画化した映画。
コンクラーベが進み、冒頭でも映ったチェス盤が意味ありげに画面中心に映り、どうやら前教皇はコンクラーベがどうなるか全て読んでいて、敬虔で真実を求める有能なトマスなら自分が思い描く結果に辿り着くだろうと画策していたことが示唆される。
ちなみに僕はつい先月から唐突にチェスを始めたので「チェスや!」とチェス盤が出たことで興奮した。同時に「チェス盤は小さければ小さい木製のものほどカッコいいな」と非常にミーハー的なことを思った。
修道女のシスター・アグネス(演:イザベラ・ロッセリーニ)はコンクラーベ中、枢機卿たちの宿泊する施設や食事の管理をしている。カトリック教会において女性は男性しかいない枢機卿の世話をするだけだ。働きながら若い修道女に寄り添い枢機卿たちに冷たい視線を送っていたアグネスは「どうやらトマス議長はガチで前教皇の意思をついで真面目にやってるっぽい」と認め、トマスに陰ながら協力してくれるようになる。それでいてある枢機卿の不正を暴き刺しもする。
アグネス役のイザベラ・ロッセリーニ、中高生の時デヴィッド・リンチつながりで凄く好きで久々に見れたし、この役で第97回アカデミー助演女優賞ノミネートされたのも嬉しかった。
そーいう感じでコンクラーベはトマスが枢機卿たちの疵や不正を暴き、リベラル派がトマス、保守派はテデスコという一騎打ちとなる。
テデスコは「多様性とやらを広めた結果が、外のテロだ!世界は壊れかけている。他宗派の動物たちにわからせてやる必要がある!」的な過激な演説をする。
しかしこれまでのコンクラーベを見てきたベステスが「あなた達は野望や自分のことばかり……あなた達は最低だ。こんなくだらない選挙から早く解放されて人々を助けに行きたい」と、枢機卿達を断罪。それが枢機卿たちに響いて突然ベステスが選ばれる。
それ自体は良い。ベステスで良いと思う。
だが正直、こんな事は起こらんだろう感が強すぎて乗り切れなかったというのが本心だ。
テデスコを担いだ保守派が「はっそう言われてみれば……ベステスの言う通りだ……」などと心変わりはしないだろう、そりゃ数人はいるかもしれないが……。
かといってリベラル派や中道派、彼らの心情的にはベステスを応援する可能性は高い。しかし幾らリベラルといっても伝統を重んじる傾向がある彼らがベステスを選ぶだろうか?しかも自分たちやコンクラーベを罵倒した彼を。
アルドも「清廉潔白な枢機卿など一人もいない」と言っていたし、そんな彼らがベステスのスピーチ一発で「はっ。そういえばそうだ……初心を忘れてた……」などと改心するだろうか。
僕は別にベステスの意見に異論は全くない。ここで言いたいのは「あまりに理想的な展開すぎて説得力がなくない?」ってこと。
『ファンタスティック4:ファースト・ステップ』(2025)で「(地球が助かるから)赤ん坊フランクリンをギャラクタスに渡せ!」と集まってた暴徒の前に、フランクリンを抱いたスーが来て演説して皆が「それもそうだ我々が間違ってた」とスンと改心するシーン、あれはもっとひどくて「子供を魔人に奪わせろ!」と家まで来て叫んでる暴徒たちがきれいごと一発で納得すると思う?あまりに理想的すぎて乗れない、どちらも「そうであって欲しいが、100%起こらない出来事過ぎて困惑」という感じ。
せめて「テデスコを始めとする保守派が文句言って退場して、テデスコに乗れないリベラル派の一部も眉をひそめる」などのシーンが一個でもあれば良かったのかも。テデスコはベステスが教皇になった瞬間から映らなくなってしまう。勿論現場では反対派も居たのだろうがこれは映画なのでそういう人物も映してもらわないと、これではまるで「コンクラーベで集まった枢機卿はベステスの言葉で一瞬にして全員が改心した」かのように見えてしまう。それが僕の疑念を生んだのだろう。
とはいえベステスの当選や秘密や亀や修道女見習いのラストカットなど良かった。
そういうことでコンクラーベの決着(の描写)以外は全体的に素晴らしい。
ただ、画面内で起こる出来事が眩しすぎて私はサングラスをかけたくなった。
そんな感じでした

