gock221B

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『アメリカン・フィクション』(2023)/”白人が喜びそうな黒人っぽい小説”を望まれて仕方なく大衆が喜びそうな本を書いたら大ヒットしてしまった黒人作家のコメディ。本題と本題以外の人間ドラマが相互作用しあってて凄く楽しかった🧑🏾‍🦲


原題:American Fiction 監督&脚本&製作:コード・ジェファーソン 原作:パーシバル・エベレットの小説 『Erasure』(2001) 製作国:アメリカ 上映時間:118分 公開日:2023年12月15日(日本は2024年2月27日)

 

 

これ、最初に結論をいうとかなり面白かったです。
この映画のことは知らなかったが第96回アカデミー賞の賞レースに参加してたし「黒人作家が、特に書きたくないけど『白人が望む黒人っぽい小説』を戯れで書いたら大ヒットしてしまい悩む」という、一行のあらすじだけで既に多くの映画より面白いので観た。

本国アメリカでは話題作だが日本で劇場公開はなく、知らない間にアマプラで配信されていた。
アメリカではこんなに評価されてるのに劇場公開ないのか」……と思うが、(日本では)有名ではない俳優しか出ていないし、黒人作家のおじさんの人種問題のコメディというのでは客が入らないと判断されたのかもしれない。

第96回アカデミー賞で、作品賞、主演男優賞、助演男優賞、脚色賞、作曲賞など数多くノミネートされ、脚色賞を受賞した。
監督はこれが初監督作。ブログに感想書いてないけど死後の世界を描いて面白かったドラマ『グッド・プレイス』(2016-2020)とか、黒人ヒーローのフーデッド・ジャスティスのオリジンやアメリカ史上最悪の虐殺事件だが歴史から長年消されていたタルサ暴動のくだりが凄かったドラマ版『ウォッチメン』(2019)などの脚本書いてた人。人種問題を面白く書く人という印象。
そんなコード監督がパーシバル・エベレットの小説 『Erasure』(2001)を読んで興味を持って映画化したのがこれ。

ネタバレあり

 

 

 

 

セロニアス・”モンク”・エリソン(演:ジェフリー・ライト)はもう何年も出版していない売れない作家。普段は大学教授として教鞭をとっており文学賞の審査員を務めたりもしておりちょっとした権威でもある。
その名前は、やはりジャズピアニストを想起させるみたいで”モンク”と呼ばれている。僕もセロニアス・モンクのCD持ってたわ。あと故ファラオ・サンダースも20年くらい前にブルーノートに演奏聴きにいったことある(握手したファラオの手は温かかった。あとメニューがめっちゃ高いのでビール飲むのが精一杯だった)。だがジャズは全く知らんのでこの2人のCDしか持ってなかったけど。
Thelonious Monk - Live At Berliner Jazztage (1969) - YouTube
モンクは出版社に「もっと売れそうな黒人っぽい話を書いてくれ」と言われる。
どうもモンクは神話を再解釈した感じの高尚なものを書いていたらしい。だから全然黒人っぽくない。日本のエンターテイメント作品がアメリカでウケるには「侍、忍者、ヤクザ、芸者、寿司、アニメ、任天堂、怪獣、原宿ファッション、東京の町並み、HENTAI」……そういうものじゃないとウケないじゃない。NYあるあるとかスタバあるあるなどの作品を描いたとしたら「いや、それ俺らできるから俺等が出来ない日本っぽいものを出してよ」となるだろう。こう書くとアメリカ白人が「売りやすいように黒人っぽいもの書いてくれ」というのもわからないでもないよね。しかし言われた黒人作家からしたら”黒人”という人種でしか見られてないという非人間的な扱いされてると感じ「自分は◯◯という作家、一人の人間だ!」と憤る気持ちもよく分かる。
モンクは久しぶりに帰省する。その途中で同じく黒人の女性作家シンタラ(演:イッサ・レイ)を見かける。シンタラは皆が読みたがっているような”黒人のリアル”を本に書いて人気を博していた。
そこでセロニアスはヤケクソになり如何にも白人が喜びそうな……暴力、発砲、貧困、ろくでもない父親、ドラッグ……等にまみれた小説を書き上げ出版社に提出。それは書いたモンク自身が「こんなものクソだ」と思ってるようなものだった。半ば冗談や嫌がらせのつもりで書いたのだが担当編集者は「ええやん!これ」と出版することを決めてしまう。
そこで絶対に出版してほしくないモンクは本のタイトルに「FUCK」と名付け、出版社の人たちは一瞬固まり最初は難色を示していた、モンクは「しめしめこれで出版はされないぞ」と思っていたが「……いや、その方が”リアル”かもしれない!タイトルは『FUCK』で行きましょう!」と出版が決まってしまう。
そんなつもりじゃなかったモンクは頭は抱える。そんな低俗な本を大学教授セロニアスとして出すわけにはいかないので「刑務所から出て執行猶予中に逃亡した黒人犯罪者」といった荒っぽい設定と偽名を持った「架空の黒人作家」を『FUCK』著者とした。


モンクが『FUCK』出版を断りきれないのは理由がある。
帰省して看護師している姉のリサ(演:トレーシー・エリス・ロス)に久しぶりに会うが、姉は持病かなんかで突然急死してしまう。そして高齢の母アグネス(演:レスリー・アガムズ)が軽い認知症だとわかる。夜間に海を徘徊したりして危険なのでお手伝いさんだけでは世話が無理なので介護施設に入れるしかない。しかも、なるべく良い所に……(ちなみにこのママ役はどっかで見たことあるなと思ったら『デッドプール』シリーズの、デップーの友達の盲目老婆ブラインド・アル役の人だった)。
だから大金がいるのだ。『FUCK』は最初から映画化も約束されており出版するだけで莫大な金が貰えるのだ。
『FUCK』出版、大ヒット、映画化決定……などと、モンクの思惑とは裏腹に「匿名低俗作家モンク」は「本当に書きたいものを書くモンク」とは裏腹に、面白いようにサクセスしていく。
この「モンクが乗り気ではないが要請によって書いた、白人が喜びそうな黒人っぽい本」という本作の核となるアイデアは本当にキャッチーなので、その事ばかり書いてるが本作を見ると本編の半分か、それ以上はモンクの私生活描写が描かれている。
モンクが帰省して会ってたら急死してしまった姉、認知症の傾向が見られる母、死んだ厳格な父は天才医師だったが秘密があり自死したらしいこと、ゲイの弟クリフ(演:スターリング・K・ブラウン)は陽気だが世間の目を気にして行けない場が多い、長年世話してくれてた家政婦ロレイン(演:マイラ・ルクレシア・テイラー)は町の優しそうな男性と結婚する。そしてモンク自身は実家の隣に住む弁護士の女性コラライン(演:エリカ・アレクサンダー)と知り合い付き合い始める。
てっきりモンクが偽名で出版した本を中心にしたコメディかと思ってたが「本:モンクの私生活」は割と5:5くらいで私生活の描写が多い。私生活6くらいあるかも。
で、これがめちゃくちゃ面白い。
こうやって並べると、何だかつまらない出来事が多そうに思えるが、凄く軽快だし台詞も面白く(姉の遺書も楽しかった)、楽しい場面は素直に楽しいし悲しい出来事もベタベタ描かずサラッと描いててとてもいい。僕メソメソした描写マジで嫌い、実人生でもウジウジした愚痴とか聞きたくないし(それを自分に聞かせるなら1万円ほしい)、だから邦画とか日本のドラマやアニメにも湿っぽいものが多いから嫌いなもの多いし(湿っぽくなければ好きなものも多い)。
とにかく、モンクの本についてのドタバタが楽しいのは勿論だが、モンクの人間ドラマが思いのほか面白かったのが嬉しい誤算でした。

そこで浮かび上がってくるのは、モンクの人生は楽しいことも悲しいことも人に言えない秘密や一言で言い表せないことなど実に様々という事。それが人間なので当たり前ですけどね。
ここで「誰がどんな物語を書くのを望まれてるか?」という本題に戻るが、そうなると「こんな色んな複雑さを持つモンクが書いたものよりも、モンクが思いつきで他人になったつもりで書き飛ばしたものの方が好まれる」という出版界、映画界、そしてそれぞれの読者や観客って一体なんなのか?というか全員なにもかんがえていないのではないか?という感じであらゆる問題を浮き彫りにしていく。

皮肉なことにモンクは本の賞の審査員も務めており、自分が書いた『FUCK』の審査もせざるを得なくなる。五人の審査員の中には、モンクが『FUCK』をヤケクソで書く切っ掛けとなった、大勢が求められる苛烈な黒人小説を書いて売れた黒人女性の作家シントラも居た。シントラは『FUCK』作者がモンクだとは当然知らないが「なんか、この本、低俗だしっぽくない?」と言う。
モンクは、自分と同じ立場に立たされ尚且つモンクがでっちあげた本だと看過したシントラに興味を抱いて色々質問する。
モンクは基本的には賢くて優しい男性だが、根本に自分より賢くない(とモンクが思ってる)他人を見下すところがある。ここまでも『FUCK』について悩んでて恋人コララインに「君レベルの人にはわからないよ!」みたいな事を言って怒らせたり、ゲイの弟と今まであまり仲良くなかったのもそれで、根本のところにクソ野郎としてのモンクも要て、そこが面白い。ママは夫が浮気してたことも知っていてモンクに似ているという「あんたは天才よ、パパもそうだったの。天才は孤独なのよ。わかってくれる人が居ないから……」とモンク寄りの事を言ってくれる。言ってる内容はそうだけどモンクの短所は只のクソ野郎要素なだけの気がするが……。
そういえば急死してしまったお姉ちゃんも、モンクが人の間違いを指摘したりする時に疑問形で「それしたら良くなるの?」みたいに、わざと訊き返す事によって相手の過ちを相手自身に悟らせようとする喋り方するのだが、そのやり口に対して「あんたのそういう他人を見下した態度マジで嫌いだわ。素直に『良くないと思う』って言えばいいやろ」と注意される。僕も、このわかってるくせに知らない振りして訊いて相手に悟らせる喋り方嫌いなのでお姉ちゃんに強く共感した。
シントラに対しても「君のヒットした本、あんなもん読んでないけどどうせ(僕の『FUCK』同様に)でっちあげだろ」と言って、シントラに「ちょっと待って?読んでないのに私の本を腐すわけ?」と至極当然の言い返しされたりして面白い。
そして『FUCK』はクソだとわかってるモンクとシントラは『FUCK』受賞に反対するが、残りの三人の白人審査員は「何言ってるんだ『FUCK』は最高だよ!」と多数決で負け、受賞してしまう。
喧嘩したままの恋人コララインにメールで謝罪するモンク。
そしてモンクは審査員として『FUCK』の授賞式に行く、恋人コララインも来る……そして……というところから時間が少し飛ぶ。

ネタバレ。この映画のラストでは映画化される『FUCK』の脚本を、監督によって「黒人っぽい小説書いて」と言われた『FUCK』執筆時と全く同じような事を強いられる。
このラストは多分、コップを揺さぶるように「誰がどんなものを創作するのを求められているか」といった問題を再び議題に上げる。
書きたくもない『FUCK』を書かされたモンクは、それを脚本にする際に更に「黒人っぽい結末」を書かされる。
ホラー映画のラストで、頑張ってバケモノを倒したのにラストで更に新しいバケモノが出てきて終わるようなオチにして、監督は「映画の脚本もこうだよ」と言いたいのだろう。
『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019)のラストで「キスしてないけど編集者が望むから著作権をくれるならキスした事にしてやる」みたいなことを描いてた場面に似てるね。
集中してみてたので時間を飛ばさず普通に見せてほしかった気もするが、それって自分も劇中の”愚かな読者”と同じって事だよね。それを観てる人に味合わせるためのこの結末だったって事かな。

冒頭、モンクと喧嘩する大学教授役で『マルホランド・ドライブ』(2001)でダイナーの裏に住む恐ろしい顔の女の顔を見て即死する男の役、同じくデヴィッド・リンチ『ツイン・ピークス The Return』(2017)で何か悪い事してた男ダンカン役のアイツだ!と気付いた。調べたら凄い数の脇役してる人みたい。

 

 

 

 

そんな感じでした

🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲👨🏾‍🦱👩🏾👩🏾‍🦱👩🏾🧑🏾‍🦲

Amazon.co.jp: アメリカン・フィクションを観る | Prime Video

American Fiction (2023) - IMDb
American Fiction | Rotten Tomatoes

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『PERFECT DAYS』(2023)/リアルな『ウィリーズワンダーランド』的な映画。全編小さな幸福を追求する孤立初老主人公を肯定したいが実際には緩やかな自傷行為🚻


監督&脚本:ヴィム・ヴェンダース 製作総指揮&主演:役所広司 脚本:高崎卓馬 撮影:フランツ・ラスティグ 美術:桑島十和子 スタイリング:伊賀大介 製作国:日本/ドイツ 上映時間:124分 公開日:2023年12月22日(ドイツは2023年12月21日)

 

 

公開日は昨年末だったみたいだけど近所の劇場では延々と上映し続けてるから観に行った。
ヴィム・ヴェンダース監督脚本の日本とドイツの合作。
ヴェンダースの映画ってあんまり観ないのだが検索してみたが最後に観たのってサラ・ポーリーとかティム・ロスが出てるという理由で観た『アメリカ、家族のいる風景』(2005)以来観てないから19年ぶりに観たことになるのか。
2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で、役所が日本人俳優としては「誰も知らない」柳楽優弥以来19年ぶり2人目となる男優賞を撮ったり第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされたりもした。

「東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを世界的な建築家やクリエイターが改修するTHE TOKYO TOILET プロジェクト」とやらに賛同したヴェンダースが東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いたらしい。これが原因で一部で叩かれたりもしていた。

ネタバレあり

 

 

 

 

東京渋谷トイレ清掃員として働く独身中年男性平山(演:役所広司)。
毎朝持って帰った植物に水をやること、家の前の自販機でコーヒーを買ってトイレ清掃に出発すること、仕事が終わったら銭湯に行くこと、洗濯はコインランドリーでしている、カセットテープの音楽を聴くこと、古本の文庫本を読むこと、小さなフィルムカメラで木々の写真を撮って現像して保存すること、いつも決まった地下の居酒屋やスナックで食事すること……淡々とした同じ毎日を繰り返しているが彼にとって日々は常に新鮮な小さな喜びに満ちていた――

そんな映画。
もともと東京は好きだし、それがヴェンダースっぽい美しい映像で撮られている。
そして全編を通して、平山は上記のトイレ掃除とお楽しみルーティンを繰り返す。おじさんが日々のルーティンをこなす映像というのはYOUTUBEでもたまにあるが妙に中毒性ある。それをやってるのが役所広司だし撮ってるのはヴェンダースなので凄く心地良い映像で観ていて気持ちいい。
トイレ掃除も、劇中出てくるのは「THE TOKYO TOILET プロジェクト」とやらの凄く綺麗でハイテクなトイレばかりなので観ていて不快ではない。うんちとか付いてないからね(僕はどんなにリアリティのためでも映画の劇中にうんちとかゲロとかは出してほしくないタイプなので助かった)。
映画を観てたら「帰宅したら自部屋を掃除してお茶入れて読書したい!」という欲求が強烈に生まれてくる。
平山が寝る度に、その日あった事を夢で見てるんだけど、本当に平山が夢見てるシーンの回数が多すぎて面白かった。夢見るシーン10回くらいなかった?催眠にかかりそうだったわ。

 

 

役所広司演じる平山は極端に寡黙な男。だもんで台詞は極端に少ない(たまに口を開くと、あまりに発声してないせいか寝起きみたいな声になってるところがさすが役所広司と思った)。
平山には普段から会う恋人、家族、友人、ペット等は特にいない。……しいて言うなら5、6年通っているスナックのママ(演:石川さゆり)と少し良い雰囲気というくらいか。互いに淡い好意は抱いているようだが特に関係を進展させようとはしていない。そういったものをほぼ放棄しているのが平山。
あとは仕事の頼りない後輩タカシ(演:柄本時生)や行きつけの店の人達や、よく顔を合わすが会話をするわけではない舞踏ホームレス(演:田中泯)や、いつも平山が座るベンチの隣のベンチで弁当食べてるOL(演:長井短)、トイレに◯✕ゲームの紙を差し込んで平山と対局している誰だかわからない者……など「街のいつメン」くらい。
平山の年齢もよくわからない。演じている役所広司は検索したところ何と60代後半だった。だが役所広司はスタイルがよく髪ドフサのイケメンであるためハッキリ言って役所広司の容姿を見ただけでは平山の年齢がわからない。仮に60代としておこう。
映画は中盤……あたり?まで平山は労働や毎日繰り返してる趣味を楽しんでいるだけで人間ドラマは起きない。というか平山は無口なので台詞もほぼない。

 

 

柄本時生演じるやる気のないタカシが、狙っている金髪女子アヤちゃん(演:アオイヤマダ)を巡って平山の領域に(ほんの少しだけ)侵入してくるだけだ。
タカシはトイレ清掃の仕事に対してやる気がなく遅刻したりサボり気味だし金借りてきたりするので平山は少し白い目で見ている。しかしタカシは思いのほか温かみのあるところがありダウン症の少年でらちゃん(演:吉田葵)に自分の耳を自由に触らせている。これを見た平山は初めて笑顔を見せるので観てるこちらも嬉しくなった。
だがタカシはこの仕事をしたくないので映画後半で飛んでしまう。一人で夜までシフトしなきゃならなくなった平山は事務所に電話して声を荒げるし、でらちゃんは寂しそうな顔を見せるしで少し胸が傷んだ。だけど青年ってやつはバイトを飛ぶものだ。平山に電話一本入れただけマシと言えなくもない。タカシは若さゆえ自我が固まっておらず、ダウン症の子に優しくしたり良いことするのも、逆に平山にタカったり仕事飛んだりするのも、良くも悪くも純粋で空っぽゆえだろう。
また平山のカセットを無断で持ち出したアヤちゃんが平山にカセットを返しに来る。
車でもう一度だけ音楽を聞いて平山の頬にキスして去り、平山は驚く。
ここは、「中年男性~初老男性のファンタジー」って感じがして少し嫌だった。
まるで柳沢きみおの漫画『大市民』で、若者たちが妙に主人公おじを慕ってたような寒い展開だ。ただし平山は人柄や趣味が良いし演じてるのが役所広司なのでルックスも良いイケジジイなのでかろうじて成立していたが。
またアヤちゃんは少し泣いてた、タカシはアヤちゃんと上手くいかなかった的な事を行ってたしアヤちゃんは「タカシ何か言ってた?」と平山に訊いて少し泣く。少しだけ気になるが平山は突っ込んで訊いたりする性格ではないので結局タカシとアヤちゃんに何があったのかは全くわからない。
それにしてもタカシは「いい加減さ」「若者特有の厚かましさ」を誇張しすぎて若干、コントみたいなキャラになっていた。古本屋の店主(演:犬山イヌコ)もね。

 

後半くらい?平山がいつものようにアパートに帰ると少女が座っている。
少女ニコ(演:中野有紗)はどうやら平山の妹の娘……姪。家出してきたみたいで平山は最初ニコが誰だか分からなかったので何年も会っていなかったようだ。
ニコは平山文庫からパトリシア・ハイスミス『11の物語』の「すっぽん」を読んで感情移入する。支配的な母親と暮らす少年が反抗心を抱く小説らしいので、母と喧嘩したっぽい。
ニコは平山に懐いておりトイレ清掃に着いてきたり、平山と同じくカメラで写真を撮ったりカセットの音楽を聴いたり平山と自転車で銭湯に行ったり一緒に創作した歌を唄ったりして、かなり爽やかな時間が流れる。
ニコが言うには、母は「兄さん(平山)は住む世界が違う」と語り、それ以上は平山について話そうとしない事を語る。
それを受けた平山はこの世界の小さな色々を楽しんでいることを語る。
アヤちゃんの時はジジイファンタジーって感じで嫌だったが、ニコの場合は嫌じゃなかった。あとくどいようだが平山を演じてるのが優しそうな役所広司というのもデカい。それに本作をずっと観てたら、平山が死ぬ時に彼が行きた証が何もないまま平山が消えてしまう感じがして切ないので、せめてニコくらいは伯父さん(平山)の何かを受け継いでほしいと、ただの観客なのに勝手ながらそう思ってしまう。
やがて平山がこっそり電話したので、ニコの母親&平山の妹ケイコ(演:麻生祐未)が娘を迎えに来るのだが、運転手付きの車に乗っておりお金持ちだという事がうかがえる。
数年ぶりに会った平山とケイコの僅かな会話で、どうやら平山も金持ちのエリートだったっぽい雰囲気を感じた。そして平山と父は確執があり認知症になって曖昧になってしまった状態の父にさえ平山は会いたくない様子が伺える。
その後も、スナックのママの元夫(演:三浦友和)との触れ合い(これもまた影踏みとかしてかなりポエティック、だが日曜劇場ドラマみたいにおじ同士が具体的な事ばかりしても味気ないのでこれくらいは許してほしいきもちになった、三浦友和も長くなさそうだし……)

 

 

そんな感じで淡々とした平山の生活に、小さな人間ドラマが幾つか差し込まれ、いつものようにトイレ清掃に出かける平山のドアップの笑顔で映画は終わる。ただしその笑顔はやがて泣き顔に変わりそしてまた笑顔に変わり再び泣き顔になる……?すごい演技だが正直、役所広司の顔のドアップをずっと見せられてゲシュタルト崩壊気味になって平山が泣いているのか笑っているのかよくわからなくなってきた。
そういう狙いなのかな?
この最後の泣き笑いの平山の感情……というのは情けない話だが正直よくわからなかった。彼の笑顔や美しい朝日、そして流れる音楽などは正に「今日もまた彼のPERFECT DAYSが始まる……!」っていうポジティブな映像で終わるのだが、僕には逆の意味に思えた。
ニコママが平山を指して「兄さんは私とは住む世界が違う」というのは単純に、ニコママはタカシ達……つまり最大公約数的な殆どの人達と同じような幸福を追求しているが(なるべく多く儲けて、良い結婚して、良い子を育てる)、平山はそうではない、孤立しようとしてるし普通とは違う幸せに向かっている。一言で言うとニコママは兄を指して「世捨て人」と言いたかったのだろう。ラストシーンを観て、哀しみを感じたのは平山が泣いていたからではなく、そもそもラストよりずっと前の時間から……平山のささやかな小さい幸せを追求する生活を観ていても、観てると心地いい映像だし楽しかったが、全体的にこの映画は「PERFECT DAYS……ではないよ」と言ってるようにしか見えない。この映画タイトルは反語にしか思えないんですよね。
何か、父と何かがあって実家から離れ、極力人と会わない最低限の仕事をしている。だから迎えに来た妹は、否定するわけではないがアパート住まいやトイレ清掃してる事に驚いていたよね。
どう観ても、平山は別に給料の高い仕事はとても出来なかったりするわけではなく、本来は高い能力を持っていながら、わざと多くの人が嫌がりそうな単純作業に従事して安いアパートに住んでるようにしか見えない。こういう生活が悪い訳ではないが(……というかそういう僕もほぼ平山みたいなもんだし)単純に平山は、自分の小さな幸福を追求しつつも、自傷してますよね。だからケイコも平山本人も今まで目を逸らしていたその事実をまともに見てしまい、2人は泣いたのだろう。
平山は毎日働いて部屋も体型も服装も綺麗に保ち(ちなスタイリングは日本最高峰の伊賀大介)……そんな小さな幸福を追求する孤立生活で自己完結しても、姪が数日遊びに来て他人と関わらざるを得なくなっただけで崩壊する、それが平山の「パーフェクトデイズ」だったわけです。
平山は過去に何かあってこうなったらしいし彼の臨んだ幸福を否定する訳ではないですが、安易に平山に憧れるのは止めておきましょう(そういう人たまにいるらしいので……)。

ヴェンダースは小津のイメージだったらしいが小津というより、映画の方向性は全然違うんだけど僕は「厭世的な寡黙初老が単純労働して小さな幸福を追求して自己完結する」系映画としてニコラス・ケイジ主演の低予算ホラーコメディ、『ウィリーズ・ワンダーランド』(2021)に似てると思った。

 

 

 

 

そんな感じでした

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Perfect Days (2023) - IMDb
Perfect Days | Rotten Tomatoes

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『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021)/期待せずスルーしてたが何となく観たら過去作やアーガイルより面白かった。観ないとわかんないもんですね🕴


原題: The King's Man 監督&脚本&制作:マシュー・ヴォーン 脚本:カール・ガイダシェク 制作:デヴィッド・リード、アダム・ボーリング 原作:マーク・ミラー&デイヴ・ギボンズ 製作国:イギリス、アメリカ 上映時間:131分 公開日:イギリスorアメリカは2021年12月22日(日本は2021年12月24日) シリーズ:『キングスマン』シリーズ、マシュー・ヴォーンのスパイ映画ユニバース(仮)第3作目

 

 

『キングスマン』(2014)『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)の前日譚。
独立スパイ組織キングスマン結成秘話。
『ARGYLLE/アーガイル』(2024)を観て、そういえば前日譚のやつ観てないなと思い、アマプラ見放題にあったので観た。
公開時はコロナ禍の緊急事態宣言の時……だったかな?コロナが無くても何か地味そうだな……と思って物凄く興味なかったのだが実際観たら一番面白かった。観ないとわかんないもんですね。

ネタバレあり

 

 

 

 

国家に属さない秘密のスパイ組織〈キングスマン〉誕生秘話。
1914年〈羊飼い〉と呼ばれる怪人のもとに世界各国から集まった怪人達〈闇の狂団〉は世界各国の中枢に潜り込み、従兄弟同士であるイギリス、ドイツ、ロシアの各最高指導者を裏から操り破滅的な第一次世界大戦を起こそうと企んでいた。

何者かが暗躍している事を察知した英国貴族オーランド・オックスフォード公(演:レイフ・ファインズ)、その息子コンラッド(演:ハリス・ディキンソン)、執事ショーラ(演:ジャイモン・フンスー)とポリー・ワトキンズ(演:ジェマ・アータートン)達は秘密結社に立ち向かう。
彼らは世界大戦を止めることができるか――

みたいな話。
観る前は「なんか地味だな……主人公もレイフ・ファインズだし」とか思ってたが、第一次世界大戦当時の実在した政治家や怪人物たちがわんさか出てくる。
……という内容が、同じくイギリスの怪人アラン・ムーア(『ウォッチメン』書いた人)のアメコミの中で僕が一番好きな『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』シリーズ(1999-2012)に似てるなと思いどんどん惹き込まれていった(『リーグ……』はイギリスの童話や小説や映画など、ありとあらゆるイギリスの架空のキャラクターが一堂に会して秘密結社と戦う内容)。

主人公のオーランド・オックスフォード公は、英国軍人だったが戦いに嫌気が差し、退役してからは不殺の誓いを立てて赤十字の活動を行っていたが、やがて国家に頼らない独立した諜報機関設立を目指す。
ロシアの怪僧グリゴリー・ラスプーチン(演:リス・エヴァンス)が世界大戦の引き金になる情報を諜報員から聞いたオーランド達はラスプーチンをブッ殺すためにロシアに飛んだ。また、成人直前で戦争に行きたくてたまらない息子コンラッドもオーランドの諜報機関キングスマンの前身)に加わり共にロシアへ。
そこで、脚が悪かったオーランドはラスプーチンに脚をベロベロ舐めまわして治してもらったり、ラスプーチンラスプーチンで怪しいと思っていたオーランドの脚をわざわざ治した後で殺そうとする。オーランドは息子や仲間たちと力を合わせてラスプーチンを倒す。
本作を観た人が、やたらとラスプーチンが良いと言ってた通り、ここまでの時間は、主人公のオーランド達があまりに真面目すぎたためか興味が持てないまま観てたのだが、ラスプーチンの登場で一気に目が覚めて映画に惹き込まれた。
90年代の格ゲー『ワールド・ヒーローズ』シリーズもまた実在の英雄が戦うというゲームで、そこに出てきたラスプーチンはクルクル回転してスカートで敵を斬ったり男も女も秘密の花園に引きずり込み何やら怪しいことをしてダメージを与えるというインパクトの強いキャラだった。
本作のラスプーチンもまた、ロシアバレエをを踊りながらクルクル回転して攻撃したり、男も女も問わずSEXしまくるという感じで、ワーヒーとほぼ同じキャラクターだったので「やっぱラスプーチンってこういう印象なんだな」と思った。
ルックスもバッチリだし、そのキャラクターも死を全く恐れず、いやむしろ死ぬのも気持ちよさそうだから「できそうなら殺してくれ?」って感じでオーランドたち全員を相手にする、本当に「怪人」という異名がピッタリのナイスキャラクターだった。
あまりにインパクト強すぎたので、てっきりラスプーチンが〈羊飼い〉に下剋上を果たしてラスボスになるかと思ってたらあっさり死んで、中ボスだったので意外だった。

 

父と共にラスプーチン退治した息子コンラッドは、そのまま父のチーム入りするのかと思いきや、父の反対を振り切り軍に入り大戦に参加。英雄的な活躍をするもののあっさり戦死してしまう。これも又意外だった。
というか冒頭は、オーランドの妻が戦死してしまいオーランドは「息子は絶対に護るぞ」と誓うところから始まった。だから息子の従軍に反対してたのだが、息子はそれを窮屈に感じ、結局戦争に行って死んでしまった。
妻を喪い、フィクションでは「未来」を象徴すると言ってもいい息子まで喪うとはね、老兵が妻や子を見送ってまでも戦い続ける……という話は意外と少ない展開だし「そういえばマシュー・ヴォーンってツイストが効いた展開が得意だったな」と思い出し、本作への興味がどんどん湧いてきた。
オーランドは落ち込んで飲んだくれるが執事ポリーの激もあり、立ち直り闇の教団潰しへと再起する。
戦う映画では大抵、第二幕ラストで敗北して第三幕で再起して勝利する……そんな構成が多い。だが、まさか希望に溢れた若い息子が死ぬなんて……。しかも戦場での誤解が原因となった同士討ち……という避けられた死。息子コンラッドも死の直前、自分の戦争行きをずっと止めていた父オーランドを振り切って戦地入りした事を悔いていたり、思いがけず心を動かされた。
『キングスマン』シリーズを単純に拡張するためだけの前日譚だと舐めてたけど、オーランド父子のドラマが思いのほか分厚かった。正直言って『キングスマン』(2014)『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)『ARGYLLE/アーガイル』(2024)より本作の方がずっと惹き込まれた。それら三作は英国っぽいブラックジョークが強く、それもまた良いんだけどどれも少し引っかるところもあったんですよね。そこは個人差があると思うけど。本作の場合すごく丁度よかった。
で、いよいよラスボス〈羊飼い〉とのラストバトル。
〈羊飼い〉は劇中、ずっと顔が隠れていて正体は誰か?と観てる人に想像させる。
中盤でオーランドの盟友であるキッチナー指揮官(演:チャールズ・ダンス)が魚雷を喰らって死亡した。
で、そのキッチナーを演じてたチャールズ・ダンスって『ゲーム・オブ・スローンズ』〈シーズン1-8〉(2011-2019)で恐ろしく冷酷無比な領主タイウィン・ラニスター役してたイギリスの有名な俳優なんですね。そんなキッチナーも何もせず死んでしまったし〈羊飼い〉の髪型とか背格好もキッチナーを思わせるよう描いてたから「〈羊飼い〉は絶対、キッチナーだろうな~」と思ってました。
でも、ここも捻りを加えててキッチナー……だと思わせてキッチナーではなかった。
だが、ここは本当に「〈羊飼い〉の正体はキッチナーだと何度も観る人に思わせて……違う小者っぽい奴でした~!」という引っかけがやりたいだけだったので「ここは素直にキッチナーの人のラスボスが観たかったな」と思った。
だが後から思えば、〈羊飼い〉はやたらと家畜や部下に八つ当たりする小者っぽいキャラだったので最初からヒント出してたんだよね。
そして目的を果たしたオーランドはキングスマンを結成。そこには亡き息子の戦友(アーロン・テイラー・ジョンソン)の姿が……彼はランスロットの称号を得た。オーランドは勿論アーサーね。
アメリカ大統領はウイスキーのステイツマンをやたら飲んでたし諜報組織〈ステイツマン〉も出来るんでしょうな……それとももう出来てるのかな?もうステイツマンの設定も忘れちゃってよくわかんないけど。
で、〈羊飼い〉は一旦倒すが狂団には生き残りが居て、まだ健在。そして新メンバーにはレーニンヒットラーの姿が……という感じで続きが観たくなった。いや、はっきり言って現代のキングスマンより面白いと思うのは僕だけ?歴史上の人物や事件をいっぱい使えるってのが良いよね。
でも本作は確かヒットはしなかった気もするし、次の作品はキングスマン3っぽいし、本作の続きは今のところ作られるかどうかよくわからない。
観る前は地味だと思って観なかったがいざ観てみると、過去2作や『ARGYLLE/アーガイル』(2024)より面白かった。食わず嫌いして観もせず決めつけないでちゃんと観るべきだなと思った。
ラスプーチン戦もエレベーター攻防戦も〈羊飼い〉戦のアクションも良かったしね!
なんというか現代のキングスマン系は、装備などがハイテクすぎたりアクションが漫画チックすぎるところがちょっとなと思ってたけど本作は、昔の話のせいか割と普通のスパイものっぽかったんですよね(ラスプーチンなどの怪人以外)そこが良かったです。

 

 

 

そんな感じでした

gock221b.hatenablog.comgock221b.hatenablog.com『ARGYLLE/アーガイル』(2024)/主人公エリーの秘密が明らかになる前の平凡だった時の主人公や本編の方が面白かったし、どんでん返しが5回も6回も起き続けると「もうどうでもいいから結果だけ教えろ」という気持ちになる😾 - gock221B
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The King's Man (2021) - IMDb
The King's Man | Rotten Tomatoes

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『ARGYLLE/アーガイル』(2024)/主人公エリーの秘密が明らかになる前の平凡だった時の主人公や本編の方が面白かったし、どんでん返しが5回も6回も起き続けると「もうどうでもいいから結果だけ教えろ」という気持ちになる😾


原題:Argylle 監督&制作:マシュー・ヴォーン 脚本:ジェイソン・フックス 製作会社:マーヴ・スタジオ 上映時間:139分 製作国:イギリス、アメリカ 公開:2024年2月2日(日本は2024年3月1日) シリーズ:『アーガイル』トリロジー第一作目、マシュー・ヴォーンのスパイ映画ユニバース(仮名)第4作目

 

キック・アス』(2010)一作目、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011)、『キングスマン』シリーズなどでお馴染みのマシュー・ヴォーンの新作。
この人の映画はいつも凄く良い部分と、ちょっとどうかな……という部分がいつも同居している。人によってその部分が違う。
多かったのは『キングスマン』(2014)のクライマックスでギャグみたいに敵を皆殺しに描いたところが苦手という人は当時多かった。僕は、そういうところは「最初から殺人をギャグとして描きたい人なんだな」と思って気にならなかったが、『キングスマン』(2014)で生き残ったサブキャラを『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)で大して意味なくバンバン殺したのが印象悪かった(あの同級生の女の子とかその師匠やハゲの仲間ね)。面白半分の殺人は気にならなかったが仲間を適当に殺すのは嫌だったということで、この2つは根底では同じものがあるのかもしれない。彼の映画は、つまらないものはなくどれも面白いと思うのだが他にも細かい気になる事が多々あり「ハズレはなしどれも面白いけどイマイチ手放しで最高!と絶賛しきれない監督」という印象。
本作は主演のブライス・ダラス・ハワードサム・ロックウェルが好きな俳優だし、ヘンリー・カヴィルもスパイものも好きだから久々に観に行った感じ。

ネタバレあり

 

 

 

 

愛猫アルフィーと暮らす内気な人気小説家エリー・コンウェイ(演:ブライス・ダラス・ハワード)はスパイ小説『アーガイル』シリーズの著者。
スパイ小説『アーガイル』の内容は劇中で少しだけ観れるが「角刈りスパイのアーガイル(演:ヘンリー・カヴィル)やマッチョ相棒のワイアット(演:ジョン・シナ)、仲間のキーラ(演:アリアナ・デボーズ)等が大活躍する」という内容。
ところがエリーの執筆したスパイ小説『アーガイル』の内容が偶然、現実のスパイ組織や陰謀に酷似しすぎていたため実在するスパイ組織から命を狙われる。
実家に帰省しようとしたエリーは男たちに狙われるが、組織の陰謀を正したいスパイエイダン(演:サム・ロックウェル)がエリーを助ける。
こうしてエリー&猫は現実のスパイ、エイダンと敵の陰謀を探しながら逃避行する――

という内容。
ヘンリー・カヴィル演じる角刈りスパイ”アーガイル”が主人公だと思ってたら、ブライス・ダラス・ハワード演じる小説家が主人公だった。ポスターや予告でアーガイルばかり目立ってるから彼が主人公かと思った。だけどブライス・ダラス・ハワードも好きだから別に構わない。
ブライス・ダラス・ハワードは映画一家に生まれた映画サラブレッド女優。2000年代は痩せた少女を魔法で無理やり大人にしたって印象の美女だったが若い時はあまり興味なかったが約10年前の『ジュラシック・ワールド』(2015)辺りから体型がふっくらし始めてきて気になってきた。下半身が全体的に太く上半身もほどほどに太い……でも太りすぎずくびれとかはある、そして元々細いせいか顔は細いまま、そんで未だに少女っぽい雰囲気が残ってる……という中年男性が最も好みそうな中年女性の体型。ふくらんだり痩せたりを繰り返してるが本作はかなりふっくらしてる塩梅で顔も丸い。だがどんくさい小説家という役だし合っていると言えば合っている。
あと『マンダロリアン』〈シーズン1-3〉『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』(2021-2022)で4話も監督しており、SWシリーズの監督の一人でもある。そういう感じで色んな魅力がある。
もう一人の主人公スパイのエイダン役はサム・ロックウェルで、僕はかなり好きなのだが彼は調子に乗った嫌な奴の役が最も輝くが、こういうワイルドで強い男役はあんまり合ってないような気がした。
「おとなしい女性が、荒っぽいタフガイ男性と冒険する」という『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)とか『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984)とか最近だと観てないけど『ザ・ロストシティ』(2022)とか?、地味に昔からよく作られるタイプの映画。男はワイルド男主人公に、女性はタフガイに守られるおとなしい女性に、それぞれ感情移入して楽しむ、そんでタフガイと女性は冒険を通じて愛が芽生えてラストでキス……と、こう書いててもやはり今もうこんなハーレクイン小説みたいな筋書きは古い。今だと男も女も戦って別にくっついたりしないのが主流。
そう思いながら2人と一匹の冒険を観てると、変化があった。
ここからネタバレが増えていくので、自分で観たい人は御注意。

 

 

「小説家の書いた内容が現実の陰謀と偶然一致してたから狙われた」という事ではなく
「エリーは実は凄いスパイのレイチェル・カイルだった。敵に小説家だと洗脳されて、敵が知りたい秘密を小説として描くのを待っていた」
という事でエリー……レイチェルの知っていた現実は現実ではなかった。
そしてエイダンはレイチェルと恋人同士でもあった相棒、エリーが書いていたスパイ小説でいうとジョン・シナが演じていたマッチョ相棒。エイダンはマッチョではないがエリーの潜在意識に眠る「頼もしい相棒兼恋人エイダン」をマッチョなキャラとして書いていたのだろう。
という事で中盤は、レイチェル&エイダンというWスパイの活躍を描く映画に変化した。
ここでも「両親だと思っていた2人は陰謀組織のボスと洗脳を担当した心理学者だった」とか「エイダンと共に悪を暴こうとしていたレイチェルは実は二重スパイで本当は悪のスパイだったのでエイダンを撃つ」「いやいや本当は正義を演じつつ悪を演じてるだけの正義のスパイだった、エイダンも無事」
……といった感じでどんでん返し……ってほどじゃないけどひねりの効いた展開が続く。
で、終盤はレイチェルとエイダンがシンプルに大活躍して組織を壊滅させる。
カラフルな色とりどりの催涙弾を撃って、その煙の中で愛し合うレイチェルとエイダンが互いを見つめ合ったままダンスのようにスローモーションで回転しながら敵を撃ち殺していく。これは『キングスマン』(2014)で好評だった(そして一部に不評でもあった)上級市民皆殺し描写を思わせるマシュー・ヴォーンっぽいシーンだった。
その後は重油で滑るし引火が怖いのでナイフ・ファイティングになる。レイチェルはスケートが得意だったらしいという自分の記憶を信じてフィギュア・スケートのように滑って敵を全員斬り殺す。
そんで何だかんだ細かい捻りを加えつつ敵組織を壊滅させて一件落着する。
レイチェルが強すぎてハラハラしないので一回、猫が入ったリュックサックに敵の銃弾が命中して「ニャッ!」と猫が叫ぶ。ピンチを抜けた後でリュックを確認したら猫は無事だった。しかしマシュー・ヴォーン監督は大して意味なく味方を殺したりするので「マシュー・ヴォーンなら流れ弾で猫をころしかねない」と猫がめちゃくちゃ心配だった(本作で唯一ハラハラしたシーン)。
……と書くと何だか楽しそうな映画に思えるが(実際ある程度は面白い)「エリーは実はスパイのレイチェルだった」と明らかになって以降の、どんでん返しにつぐどんでん返しやアクションの数々!……よりも、エリーと猫とスパイが普通に逃避行してる方が楽しかった。
どんくさ小説家のエリーもエイダンに「君が書いた小説は全部、すごいスパイや敵組織の行動と一致してるくらい凄いんだ!だから、ここで小説ならどうするか考えてみて!」といった感じで「エリーが内気でどんくさくて全く戦闘はできないがスパイ小説家ならではの想像力を活かす、そしてそれをスパイのエイダンが実行する」……というこの平凡な前半の方が面白かった。
中盤以降は「エリーは凄いスパイのレイチェルだったので普通に強いし、エイダンと協力して敵を倒しました」という、こっちの方が正直つまんなかったんですよね。
スパイのレイチェルより、陰キャ猫おばっさんエリーの方が魅力的だったし。
凄いスパイにはとても見えないふっくら体型熟女のレイチェルが暴れまくる映像は新鮮なものがあったが……。
またエイダンが事ある毎に、どんくさいエリーと猫をなじったりする。本作の中に入ってエイダンになったつもりで考えたら「愛し合っていた恋人兼凄腕の相棒だったレイチェルが憎い敵組織に洗脳されて内気でどんくさい小説家に変えられた」のだから「小説家エリーとか嫌だ!猫も好きじゃなかったやん!」と嫌う気持ちはわからないでもない。だけど、さっきエリーもレイチェルも同時に知った僕から見たら「エリーの方がキャラも本編も面白かったぞ」という気持ちが強い。だからそういう観客視点で見るとエイダンがエリーを貶すのは嫌だった。
エリーの正体以外にも、本作は明らかになる真相がめちゃくちゃ多い。「スパイ映画はそういうもの」という事はあるが、それにしても多い。
「アーガイルが主人公だと思ってたらエリーが主人公だった」というスタート地点もちょっとしたどんでん返しと言えるし。
だが「実は真相はこうだった!」というのが、ここまで多いと正直どうでもよくなってきて「もうどうでもいいから結果だけ教えろよ……」という気分になってくる。やっぱメリハリが大事ですよね。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 (2022)も、最初は凄い映像や展開を面白いと思ったが、凄い展開や映像が二時間近く延々と続くから後半一時間くらいもうどうでもいいと思って眠くなったし。
やはり「以外な真相」は2、3個くらいで良かったのではないか?
あとこれは只の好みですが『キングスマン』シリーズもそうなんだけど佳境になるとスローモーションでダンスみたいな戦闘になる演出があんまり好みじゃないというのもあります。あとマシュー・ヴォーン映画でよくある人の死が軽いのも、倫理的とかは別に気にならないんですが「話の都合で敵が勝手に死んだだけ」みたいに敵を倒すことのカタルシスも減っちゃうからあんまり好きじゃないかも。レイチェルがナイフを両手に持ったままスケートみたいにスライディングしたらナイフが触れてもない敵が全員即死するんですよね。「『レイチェルはスケートみたいに滑りながら凄いナイフ・ファイティングで敵を倒した』それを楽しい感じで映像化したらこうなったんだ」という意味なんだろうけどやっぱり殺すなら真面目に殺してほしい。『ジョン・ウィック』シリーズも割と劇画漫画っぽいアホらしさがあるけど一応、ちゃんと殺してはいるじゃん。撃ち方だけはリアルだったりするし。やっぱ殺人をダンスシーンにするのは好きじゃないかも。これが楽しくて良いって人もいるんだろうけどね。

 

 

そしてラストもやはり以外な真相?が明らかになる。今まで小説家エリー(レイチェル)が創造したと思っていたアーガイル(演:ヘンリー・カヴィル)が現実世界でエリー(レイチェル)に会いに来て映画は終わる。
実在したアーガイルは角刈りではなく後ろ髪が新日レスラーみたいに長い80年代サーファー風だった。「変な髪型」というのがアーガイルの特徴なのね。
アーガイルはエリーの創作ではなく、レイチェルがスパイ時代に実際に出会ったアーガイルのことが潜在意識に残ってて、エリーがそれを書いたって事?アーガイルの真相は続編でどうぞってことかな。
そしてアメコミ映画のようにポストクレジットシーンがある。20年前の酒場で看板には「キングスマン」と描かれており、実在したアーガイルの若き姿オーブリー・アーガイル(ルイス・パートリッジ)が姿を見せて銃を受け取る。
さっき検索したら、この映画は『アーガイル』三部作の一作目らしい。
で、続編はこの若いアーガイルを主人公に描いて、完結となる第3作目では本作でレイチェル達と現実アーガイルが出会ったところから始まるらしい。
ラストでアーガイルが現実世界に出てきてどういうことかと考えてる間に、ポスクレでそのアーガイルの若い時が描かれ、更に「本作は『キングスマン』(2014)と世界を共有するシネマティック・ユニバースだ」と言われたわけで、妙な情報の多さにくらくらした……いや、情報自体は順序立てて考えれば特に複雑じゃないんだけどさ。
まず本作自体に対して「なんか最後まで楽しめるくらいには面白かったけど、でもイマイチだったな」と思ってるラストで現実アーガイルが出てきて「うわ、また観なアカンんの……?」と不安になってきたところで、そもそも「変な髪型してる」という以上の何の情報もないので「実在したアーガイル」に全く興味もってないのに、更にその「興味ないアーガイルのエピソード1だ!」と言われても「いや、まず今出たばかりのヘンリー・カヴィルを先に紹介してくれよ。いや、まて別にそれも興味ないので続き作るのやめてくれないか?」という気持ちにさせられる。しかも「キングスマンと世界を共有するシネマティック・ユニバース」と聞かされたらね。元々『キングスマン』シリーズは嫌いじゃないけどかといってそこまで好きでもないからね。「めちゃくちゃおもんなさそうだからスルーしてた『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021)を観なきゃいけなくなった……」と新たな義務視聴が増えてしまった。
昨今のシネマティック・ユニバース疲れしてるライト映画ファン同様に僕も疲れてます。主にMCU全48作品観てきてるせいで……。「MCU嫌なら観るのやめたら?と思うかもしれないが基本は好きで観てるわけだし16年間観てきてる今更やめるという手はない。
結構、色んなどんでん返しやら面白バトルやおもしろキャラとか色々と面白そうな要素は満載なのに全体的につまんないという不思議な映画でした。
そういう感じでアマプラに『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021)あったしタダだから今から観ます。

 

 

 

そんな感じでした

〈マシュー・ヴォーン監督作〉
『キングスマン』(2014)/愛と師によって最強の紳士に成長しレイシストを皆殺しにする映画☂ - gock221B
『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)/ファンが望む要素を推し進めた続編っぽさとユニバース化の準備☂ - gock221B
『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021)/期待せずスルーしてたが何となく観たら過去作やアーガイルより面白かった。観ないとわかんないもんですね🕴 - gock221B
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Argylle (2024) - IMDb
Argylle | Rotten Tomatoes

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