原題:The Walk 監督:ロバート・ゼメキス
製作国:アメリカ 上映時間:123分
↑このポスターの構図、ビル(俗世)から出発して誰も着いて来れない天に昇って行ってるように見えてこの映画をめちゃくちゃ表現してるよね
1974年(あ、僕が生まれた年)にワールドトレードセンターで綱渡りしてニューヨークの市民を驚かせたフランスの綱渡りの大道芸人フィリップ・プティのノンフィクション『マン・オン・ワイヤー』を原作としている。
「マン・オン・ワイヤー」はドキュメンタリー映画にもなった。これは後日観る
本作は興味あったが、高所恐怖症なので恐れていたり舐めててDVDで観たのだが、想像以上に傑作だったので観に行かなかった事を後悔するくらい良かった。
ジョゼフ・ゴードン=レヴィット演じる主人公フィリップが、軽く生い立ちを語って師や恋人や仲間を増やす描写がササッとあり、後は綱渡りの準備と綱渡り!というシンプルな進行だった。
もう割と始まった瞬間から面白かったし、師の教えは想像以上にフィリップに染み込んでいたことは終盤わかる。
それに対して、異常に顔が小さい美人の恋人と知り合う場面は、さほど本編と関係ように思われたが、ここを丁寧にやってたのが凄く良かった(何でそれが凄くいいと思ったのか具体的には自分でもよくわからない)
フィリップは、まずツインタワーに視察に行き屋上の端に立ったりしていた。
高所恐怖症の僕はその度に「ン゛ーッ!ン゛ーッ!」と声が出た。
やめろ~!
キチガイ!キチガイ!キチガイ!
若い時、マンションの屋上で恋人と花火を観ていて、ふと彼女の方を観ると屋上の端っこに腰掛けてるのを見ただけで失神しそうになった、という出来事を思い出した。
更に仲間と侵入しての準備。スパイ映画のようで「見つかったらどうしよう」「さほど忠誠心が高くない仲間がヘマしたらどうしよう」「高所での作業中、落ちたらどうしよう」「道具が落ちたらどうしよう」という複数の「どうしよう」に繰り返し襲われドキドキし、そのドキドキは「どうしよう」の波となり、やがては俺を飲み込んでしまうかに思われた。
俺は映画を一時停止してベランダで一服して落ち着きを取り戻さねばならなかった。
訪問者
様々なトラブルがあったが明け方、ようやく準備が整い後は綱渡りするだけだ。
‥という時に階段に仕掛けた「警報装置」をクリアした背広姿の男が乱入。
ビルで働いている男か?セカンドバッグ等の類は持っていない。
ふらふらとおぼつかない足取りで屋上の端へと向かう。自殺者か?
男はフィリップの方を向く。ゆっくりと。。
酔っぱらい?
それとも、70年代のNY‥お前はアシッド的なものでも食って きまってるのか?
完全に固まって男の様子を見守るフィリップと仲間。
フィリップは鉄の棒を持っている。いざとなれば強行突破排除もやむなし。
フィリップと訪問者はお互いを見つめ合った。
二人の瞳の奥のよくわからないもの同士がぶつかる。
二人はお互いのことを何一つ知らなかった。
Jホラーの幽霊のように5m先に仁王立ちして厭世的にこちらを見つめる謎の男。
訪問者は、観てるこちらが想像しうるような台詞は何一つ言わない。一言も喋らない。
この男ただものではない
観てる俺も、いよいよ「とんでもない事が起きている」と思った。
男はフィリップに向けてかすかに頷き、去っていった。
現在のフィリップは「あの男は今も謎だ。その後も二度と会う事はなかった」と語る。
ひょっとして、男よ、そなたは神か?
これぞ実話映画ならではの良さ。実話なんだから本当にあった事なんだから仕方ない。
俺の中の映画史に残る、物凄いシーンだった。。。
Man on Wire
万難を廃して、狂気の綱渡りが始まる。
準備のシーン中、高所恐怖症と見つかったらどうしようというダブルのドキドキで死にそうになっていた俺だが、いざ綱渡りが始まると映画にのめり込んだ俺の精神は俺の主観を離れフィリップの主観へと移った。
だから綱渡りが始まると、観る前に懸念していた恐怖は去り、意外とワイヤー上のフィリップのように心穏やかな‥禅的な気持ちになった。これがよかった!
多分、他のしょうもない監督だったら、ワイヤー上でカイジ的な恐怖に襲われたり、突風に煽られたりといった、そんなシーンをやりそうなもんだが、そんな凡庸なシーンは一切ないのがよかった。
ワイヤーを渡るだけですげーのにフィリップはワイヤー上を行ったり来たりしたり、挙句の果てにはワイヤー上で寝たりする。
何でこんな事できんの?
彼にとっての感覚を我々に当てはめると多分、床に書いた線の上を行ったり来たりしたり線の上で寝るのを数時間行う事と大差ないんだろうな。
見守ってる恋人や仲間や警官隊にも感情移入してフィリップへの畏敬の念が生まれる。
警官隊やカモメに襲われた時だけ、フィリップも一瞬、恐怖に襲われそうになったりする(これらのシーンは凡人が天才の脚を引っ張って引きずり降ろそうとする流れが上手く表現されていた)
ある程度渡るとフィリップは悟ったような顔になる。
背景や雑音が消え「この世に自分一人だけ」といった感じになって観てて凄く感動した
「いまの俺の気持ちは誰にもわからない」といった表情でワイヤー上を行ったり来たりする今や世界最高峰のアーティスト‥そしてアナーキストとなったフィリップの表情にも感動した。
確かにフィリップの気持ちは俺にはわからない。誰にもわからない。
だが物凄くわかりたいと真剣に思った。
フィリップは、やがて彼を捕らえるために集まった体制側の警官隊すら魅了する。
そして彼は今は亡きツインタワーの、この屋上へのパスを「永久に」手に入れる。
もう物理的にその場所に行くことは出来ないが、空中のこの場所は永久にフィリップのものなのだ。たとえフィリップが死のうと。
観る前は「高い所こわいぞ」って感じの色物映画かと思ってたが実際は凄い傑作で驚いた。
ロバート・ゼメキス的にも、個人的に「バック・トゥ・ザ・フューチャー」三部作を超えてるような気さえする。ジョゼフ・ゴードン=レヴィット主演映画としても「(500)日のサマー」とかも超えてベストでは?
そして気になってたのに高所恐怖症だからIMAXに観に行かなかった自分が、とてつもなく他人よりも劣った‥つまらない人間に思えた(きっとつまらない人間なんだろう)
せめて明日からは自分のつまらなさを少しでも払拭してマシな人間になりたいと思った。
明日はフィリップ本人によるドキュメンタリー「マン・オン・ワイヤー」観よう
※追記
他人のザ・ウォークのレビュー見てたら「アトラクション映画なのでDVDじゃなくて映画館で観ないと意味ない」とあって「映画館で観ないと」という意見には「確かにそうだったスミマセン」と思ったが「アトラクション映画だからDVDじゃ意味ない」という意見には全然違うと思った。
主人公が散々「自分がやってるのは曲芸やスポーツじゃなくて表現‥芸術だ」と言ってた意味が全くわかってない
IMAXや映画館で観た方がいいのは当然だとしても、本作は小さいスマホ画面で観たとしても傑作だと思う
そんな感じでした
🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢🏢