原題:The Black Phone 監督&脚本&制作:スコット・デリクソン 脚本:C・ロバート・カーギル 製作:ジェイソン・ブラム 製作会社:ブラムハウス・プロダクションズ 製作国:アメリカ 上映時間:107分
スコット・デリクソン監督の一番有名な映画はMCUの『ドクター・ストレンジ』(2016)。彼がストレンジ一作目で発案して描いた〈60年代の原作コミックを思わせるサイケデリックなマルチバース移動〉〈ミラー次元〉〈ドルマムゥの倒し方〉等はとても良かったし一応ヒットはしたものの、ディズニーが望むほどの大ヒットではなかった。そのせいか二作目は巨匠サム・ライミにバトンタッチして大ヒットした。ライミは子供の時から大好きだしライミがゾンビ映画や呪怨ハリウッド版制作などで培ったテクニックをワンダにブチ込んで情報量がめちゃ多いのに上映時間は短く圧縮しててMCUの流れが変わった。良かったのだがデリクソンは毎日ストレンジのツイートしたり「二作目ではナイトメアと戦う!」と燃えてたり(その夢要素はライミ版でドリームウォークに変わった)家が家事になった時に「アガモッドの眼」だけ握りしめて脱出するほどストレンジに入れ込んでたので、制作総指揮には据えられたものの監督から外されて少し可哀相だった。
When evacuating for a fire, you only have time to grab a handful of things.
— N O S ⋊ Ɔ I ᴚ ᴚ Ǝ ᗡ ⊥ ⊥ O Ɔ S (@scottderrickson) 2018年11月15日
The original Eye Of Agamotto is safe. pic.twitter.com/EwlIbe2BgO
ストレンジ一作目の後、彼のホラーを観た。本作同様イーサン・ホークが出てる『フッテージ』(2012)、はまぁまぁ、8mm映像の内容が非常に不気味で良かった。あと『NY心霊捜査官』(2014)は一見地味だが凄く良かった。名作だったと言える。
そして知らん間に、ストレンジ一作目から5年ぶりにホラー映画を撮った。
特に観に行く予定はなかったが用事で出かけた先でたまたま上映してて時間あったので観たら意外なほど面白かった。
ネタバレ少なめ。
Story
1978年のコロラド州、子どもの連続失踪事件が起きていた町。
自分に自信がない少年フィニー(メイソン・テムズ)は突然、怪しい男に連れ去られ、地下室に監禁されてしまう。怪しい男は5人の子供を攫ってはゲームをして殺害していた連続殺人鬼(イーサン・ホーク)だった。
地下室は防音で殺人鬼が出入りする頑丈な扉、鉄格子が付いた半地下窓、あとはトイレしかなく脱出不能。
……そして壁には壊れて断線している黒電話(ブラック・フォン) ☎があった。
霊能力を持つフィニーの妹グウェン(マデリーン・マックグロウ)は、予知夢で見たヒントを元に兄の監禁場所を必死で捜索する。
フィニーが監禁されている地下室、その繋がっていないはずの黒電話が鳴る。
フィニーは恐る恐る黒電話に出ると……――
そんな話。
凄くワクワクする。
兄フィニーと妹グウェンは、いじめられっ子……というほど弱くはないのだが、時代が70年代で人々も荒いので乱暴な男子に殴られがち。
舞台が70年代というのは特に意味がない。携帯電話がない方がこの話を作りやすかったからか?あとは「フィニーの好きな映画はブルース・リーのカンフー映画と『悪魔のいけにえ』(1974)」というくらいしか70年代要素はない(だが最後まで観るとこの二つは割と本作と被ってた)。
フィニーとグウェンの兄妹を育てているシングルファザーである父親も、ちゃんと働いてDV父……って程ではないのだが神経質で怒りっぽく兄妹は父の顔色を伺って若干ビクビクしている。父はグウェンが「予知夢を見た」と聞くと怒り狂って折檻をする。
というのも、どうやら彼の妻……兄妹の母は、予知夢をよく見る霊感の持ち主だったのだが、ある日聞こえてくる声に従って自死してしまった(ここにも独自の幽霊ものホラー映画のような展開があったのだろうが何があったのかは死んだ母しか知らないので最後までわからない)。シンプルな本作に奥行きを与える良い設定だ。妻を愛していた父は酒浸りになって精神のバランスを崩し、霊感を憎んで子供に辛く当たるようになったのだ。だが「どうしようもないDV父」というほどではなく、あくまで普通の良い父親が哀しみのあまり心のバランスを崩してしまっただけというリアルな塩梅。
で、上のあらすじ通り……フィニーはイーサン・ホーク演じるマスクを被った殺人鬼に誘拐されてしまう。
殺人鬼はフィニーを閉じ込め、たまに食事を与える。恐らく一日に一回くらい炒り卵のようなものと水だけ。数日中に殺すつもりなので自分が殺すまでに衰弱したら楽しめない、だから最低限の食い物だけ与えている感じ。数日後あるいは1分後いきなり地下室に入ってきて殺されるのかわからず、観ていてヒヤヒヤする。ここで誘拐事件とあまり関わってない妹の存在が効いてくる。「フィニー少年が途中で殺されて次に誘拐された妹に主人公の座がバトンタッチしてしまうのではないか?」と思うのでハラハラする。
殺人鬼は、粗末な食事の差し入れ以外では滅多に地下室に入ってこない。
今まで行方不明になった少年は確か……5人だったかな。フィニーをいじめられっ子から護ってくれていた強い友達ロビンも攫われて恐らく既に殺されてしまっている。小さい町なので他の行方不明の少年もフィニーが知っている少年達だった。
「僕を悪ガキから護ってくれていた強いロビン、野球の試合で僕を負かせた少年、元気な新聞少年、町で恐れられていた荒くれ者の不良少年……僕より強い彼らも殺されたのに僕は絶対にここから出ることは出来ない」早くも打ちひしがれるフィニー少年。
殺人鬼はフィニーをなかなか殺そうとしない。
そして繋がっていない壊れた黒電話が鳴る。
……この設定、一体どうなるんだ?と凄く、最近では珍しく観ててワクワクした(中年男性の僕は、加齢によって感受性が鈍ってきてるのか今まで色んな面白さを観てきたためか又はその両方か、人気の映画を観ても感動する頻度が減ってしまってきている)。
この、ワンシュチュエーション一本槍で「この先どうなるのか?」という興味をラストまで持っていくタイプの映画好き。大抵の映画は飽きられるのを恐れて、あれもこれもと余計な要素を足してダメにしてしまう。
序盤の妹グウェンが父にぶたれる場面は観てて辛かったが「アメリカ映画で滅多にない少女をぶつシーンあるから本作は誠実で期待できるかも」と思った。
別に「誰も想像できない展開がある」ってほどではないが本作は自分で観た方が面白いタイプの映画だと思うので、ここまで読んで興味出た人は映画観てからこの先読んだ方がいいかも。
☎
黒電話をかけてきたのは少年だった。少年というのは勿論、殺人鬼に誘拐されて殺された少年だ。電話がかかるたびに違う少年が話しかけてくる。
これがわかるまで少しかかるのも凄く丁度いい塩梅。
彼らは既に死んでしまっているので名前を聞いても忘れてしまっている者がいたり同じことを繰り返し言う子もいる。だが魂だけになり記憶がボンヤリしている彼ら幽霊たちは「フィニーが置かれている状況」「自分が知る限りの殺人鬼や地下室の情報」を教えてくれる。彼らにはそれしか残っていない。つまり殺された子たちは全員「フィニーが殺人鬼に殺される前に地下室から出れる方法」を、それぞれ教えてくれる。
……と言っても彼らは全員、地下室から脱出成功する前に殺されてしまったので言う通りにすれば必ず脱出できるという保証はない。
フィニーは果敢に挑戦する。フィニーに危険が迫ると黒電話が逐一教えてくれる。彼らの魂はファニーと共に地下室に囚われているのだ。冒頭では悪ガキに殴られていたが実はフィニーはとても強い子だという事がだんだんわかってくる。
フィニーは黒電話からの話を参考に、窓とか壁とか扉とか色んな箇所にあたって脱出しようとする。
殺人鬼は一日のうち食事の時くらいしか入ってこない。だけど前半、フィニーが寝てるところを意味なく近くでじっと見ていた事があった。その一回が全編に効いてて「あいつが、いつ地下室に来るかわからない!」という緊張感の中でフィニーが色んな物を使ってゴソゴソやってるので最後まで緊張感が続き、凄くハラハラする。大人ならともかくフィニーは体格的にも精神的にも殺人鬼にはとても敵わなさそうな少年だし「早く何とかなってくれー!」とヒヤヒヤした、そのスリリングさも久しぶりだったな。
そして徐々に熱いものがこみあげてくる。
数十年前が舞台のアメリカの子供が次々と殺されてる田舎町で殺人鬼に対抗する少年少女……という部分で『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)を思い出すが、本作の方が何十倍も面白い。「非常に残酷な状況にいる良い子が変態の殺人鬼に立ち向かう」のでハラハラ感が凄い、ハラハラしすぎて「早く終盤になってくれよ」と、ちょっと嫌だったくらいだ。早送りしたくなる。本作は子供と危険の扱いが凄く前向きで誠実だった。この面白さや誠実さは本作同様に、美しい幼女が一軒家の中でデカい変態殺人鬼たちからサバイブするホラー映画『ゴーストランドの惨劇』(2018)とも似てた(これは本作と同じかそれ以上に名作なので観て欲しい)。
『NY心霊捜査官』(2014)でもそうだったけど心霊表現も良いし。
黒電話をかけてくる少年たちの言う事や、彼らが死の地下室とフィニーの事以外おぼろげな記憶になってるのが凄く幽霊っぽい。彼らにとってフィニーは「まだ殺される前の自分」。だから何としてもフィニーに脱出して殺人鬼に一矢報いたいのだろう。「君が脱出してくれないと僕たち無駄死にだよ……」などと言って凄く痛ましい。
「幽霊が電話かけてきたり、たまにぼうっと現れたりする」のは平常時なら凄く怖いことだし実際怖い感じで撮ってはいるのだが「変態の殺人鬼に殺される寸前」という超現実の前では頼もしい味方になるというのが面白い。
いわば「子供&幽霊 vs.殺人鬼」。
また兄妹の父や独自に殺人鬼を探してるミステリーオタクのおっさんなど、大人が全く頼りにならず子供ばかりが頼りになるあたりも良い。
物凄いオチというわけではないが何となくネタバレしたくない、映画の内容を自分の中に留めておきたいタイプの面白くて感動もする映画でオススメです。
そんな感じでした☎
『NY心霊捜査官』(2014)/警察官&エクソシストvs.軍人の肉体に憑依した霊的にも物理的にも強い悪霊!悪魔祓いシーンの魅力✙ - gock221B
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The Black Phone (2021) - IMDb