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『ラストナイト・イン・ソーホー』(2021)/最後までハラハラしたがラストが良かったのでオールOK。実は他の人よりサバイブ能力が高い主人公👩🏻👱🏻‍♀️


原題:Last Night In Soho 監督&脚本&原案&制作:エドガー・ライト 脚本:クリスティ・ウィルソン=ケアンズ 製作:ティム・ビーヴァン、エリック・フェルナー、ナイラ・パーク 製作国:イギリス 上映時間:116分

 

 

これは去年「エドガー・ライトによるデヴィッド・リンチの『マルホランド・ドライブ』的な映画かな?」と期待して前売りまで買ってたのだが色々あって行けなかった映画、レンタル開始してかなり経ったが今頃観た。Twitterで観た人が「女性が性被害に遭って辛い」とやたら言ってて観るのが嫌になって後回しにしてた(加齢のせいか歳と共に女子供が虐められるシーンがキツくなってきている)。
前売りでは暗闇で光るステッカーが付いてきたのだが全く以て全く光らないステッカーだった。こんな事なら光らないステッカーだった方がマシだった。
「女性が虐げられる」っぽい内容だと聞いて観たくなかったが主演トーマシン・マッケンジーは今一番好きな女性の俳優なので「これは観とかなければ」という気持ちだったので観れてよかった。ダブル主演のアニャ・テイラー=ジョイも凄い好きだった……いや今も好きだが既に大メジャーになってしまったので安心してしまい新人の方を応援しなければ!という気持ちでになりがち、フローレンス・ピューもそう。
トーマシン・マッケンジー『ジョジョ・ラビット』(2019)『オールド』(2021)『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)など出演作は少ないが注目度が高い作品を狙い撃ちで出ててブレイク前夜といった感じ。「アカデミー賞ノミネート作品の『ジョジョ・ラビット』(2019)『パワー・オブ・ザ・ドッグ』(2021)二つに出ててブレイクしてないだと!?」と思う人もいるだろうが「(映画ファン外にも)ブレイク」という意味だ。映画好き以外はトーマシン・マッケンジーとか知らん。とりあえず今世界で一番かわいい。
やたらと劇中での不幸が似合うアーニャ氏。その瞳が大きく個性的な顔立ちはホラー映えするアーニャ氏は劇中で酷い目に遭いがち。実際よく似合うと思うが、そんな観方は割と前時代的で遠回りに女性を不幸にする気がしなくもない。そう思ってたら不幸なままで終わらない『クイーンズ・ギャンビット』(2020)で(映画ファン外にも)ブレイクしたのは良い事だと思った。当初はアーニャが主人公エロイーズの予定だったらしい、確かに『ウィッチ』(2015)の時の儚げなアーニャならエロイーズだろうがアーニャは数年でオーラがスターのそれに増大してたからサンディにしたんだろう。そんでデビューしたばかりのトーマシンをエロイーズにしたと。
ぼんやりネタバレしてます

 

 

 

 

ファッション・デザインを学ぶため憧れのロンドン古い下宿に棲み始めた若い女エロイーズ(トーマシン・マッケンジー)。彼女はスウィンギング・ロンドンと呼ばれた1960年代ロンドンに惹かれており、また人並み外れた第六感を持っておりロンドンで自殺したという母親の幻影も度々見ていて祖母を心配させていた。
エロイーズは下宿で眠りに落ちるたび憧れの歌手サンディ(アニャ・テイラー=ジョイ)となって1966年のロンドンを毎晩、追体験する。
ナイトクラブでエロイーズをプロデュースしてくれるハンサムな男性ジャック(マット・スミス)と恋に落ちて過去のサンディの体験、現実世界でのデザイン学校を謳歌するエロイーズ。
だがやがてスウィンギング・ロンドンは見た目通りの華やかさだけではなく裏の顔がある事も知ったエロイーズは、現実と夢との境界線が曖昧になっていく――

そんな話。
真面目な女の子が性加害者の幻に怯える展開なので「デヴィッド・リンチが撮った『ブラック・スワン』」という雰囲気がある。
主人公エロイーズはスウィンギング・ロンドンに憧れているが、学校の遊び好きで意地悪な同級生は田舎出身で真面目なエロイーズを馬鹿にしており彼女が聴いてる曲も「お祖母ちゃんが聴く音楽じゃない?」などと馬鹿にする。エロイーズに好意的な同級生ジョン(マイケル・アジャオ)は最後までエロイーズをフォローする。
この一から十までエロイーズに意地悪なだけの同級生や、一から十までエロイーズを助けて気持ちをわかってくれる彼くんジョンのキャラはステレオタイプで古臭いなと思った。……そう思ったが本作は情緒不安定なエロイーズの視点で描かれてるから「エロイーズから見て、彼ら彼女らはそう見える」っていう、わざとそう描いてるのかも。
エロイーズは街の人の視線や語りかけにビクッとしている。まだ他人が怖い。最初に乗ったタクシー運転手がお茶に誘ったり「待ち伏せしている?」というストーカー疑惑があったりする、この運転手は「都会で初めて会った年上の異性が冗談言ってるのかヤバい奴か判断できない」という不安を上手く表現している。あの運転手は実際ヤバげな感じだったが、それは置いといて「エロイーズの主観で余計に都会の人がヤバそうに見えてる」って描写なのだろう。
こういったエロイーズの混乱ぶりは割とわかる、特に何か悪い事があったわけでもないが思春期の時から20代後半まで幻覚こそ見ないものの、ずっと自分もエロイーズみたいに常に情緒が混乱していた(30代半ばからは一切動じなくなったので今の精神で18歳に戻れたら最強だろうな……とおっさんが思いそうなことをエロイーズ観てて思った)。
エロイーズは意地悪なルームメイトのいる寮を飛び出し、老婦人コリンズ(ダイアナ・リグ)が営む古い下宿に棲み始める。エロイーズは感受性に優れてるだけあって「ここアカン!」と思ったらすぐに飛び出る決断が出来るだけ優れてるね。多くの若者は「もうちょっとだけ我慢しよう……」とねばってる間に飛び出す元気もなくなるほど侵されてしまうものだ……それと困ったら田舎の祖母にすぐ弱音を吐けるのも正解だ、多くの子は自分が辛いという事を家族に言うのが嫌で溜め込んでるうちに状況がどんどん悪化してしまう。……こう見ていくと劇中のエロイーズは情緒不安定な時が多いから「大丈夫か?」と思いがちだが、そこら辺の人より生き抜く能力が強い。
つまりエロイーズは大都会ロンドンに慣れていないのだが、夢の中で憧れのサンディになり、現実世界でもサンディの髪型や口癖を真似するという一種の逃避を現実世界にポジティブにシンクロさせる事によってロンドンに馴染んでいく。ジョンやスクール講師からのウケも良い。

 

 

毎晩楽しみに追体験していたサンディの夢だが雲行きが怪しくなっていく。
サンディはナイトクラブでセクシーなダンスを踊らされ、客の初老男性客の夜の相手をさせられていた。ジャックは素敵なマネージャー兼恋人ではなく女衒(ぜげん、女性を売春労働に斡旋する仲介業者)だったのだ。クラブの女性ダンサーは皆ジャックの暴力や金によって売られていた。レコードも出てたから歌手活動も少しはできたのだろうがサンディの実態は娼婦だった。
うまくいっていたエロイーズの日常だったが、哀しそうなサンディや女を喰い物にしていたジャックや顔がない客の男達を日常生活の至る所で幻視するようになる。
劇中の描写としてエロイーズは霊感があるからそれが視えているわけだが、超自然的な要素を抜いて現実に当てはめるとエロイーズは「サンディがいるスウィンギング・ロンドン」という自分だけの信仰を見つけ、その憧れを真似たり沿う事で現実を生きれていた。その信仰である「サンディがいるスウィンギング・ロンドン」の裏の顔の悲惨さを知ってしまったエロイーズの現実は、もう歪んでいくしかなかった。
幻覚は酷くなり、遂にはサンディとジャックの殺傷事件を自部屋で幻視するエロイーズ。
家賃のためバイトしていたバーにいる常連の老人も、エロイーズが金髪にした途端、話しかけるようになってきた。エロイーズは彼を「サンディを殺したポン引きジャックの現在の姿」だと思い警察に飛び込む。常連の老人の正体である若い時の人物が印象深く夢に出てるのでミスリードになってないが、ここも「エロイーズの目からは全て怪しく見えてる」って表現なんだろう。自分の推理が間違っていた事でエロイーズの情緒は更に不安定になる。
そういえば下宿の管理人さんを演じてた年配の女性俳優ダイアナ・リグは、今Wikipedia見たら60年代にセクシーなボンドガールをやってた人なんだね。それを知ってたらより面白くなってたね。このダイアナ・リグ氏は公開直前に癌で亡くなったらしい。
悪夢が現実に侵食してきて生活がままならないエロイーズ。
そんな感じで、割と冒頭から生きづらかったが毎日幻覚観てしんどそうなエロイーズや売春を強要されてたサンディなど全編つらい。
こうなると問題は終わり方になる。
こういう内容の映画だとエロイーズみたいな主人公は大抵、幻覚に追いつかれて死亡してエロイーズの死体撮ってるカメラが上昇していき(魂が天に昇る表現)「少女を飲み込む都会……恐ろしす……」といったラストが来るのが定番。そうなったら嫌だから観るのを避けてたところがある。そんでエロイーズのボーイフレンドや意地悪同級生などの描写がステレオタイプ過ぎたため「これはエロイーズも死ぬかも」と心配だった、もうエロイーズの可愛さと無事かどうかしか観てなかったと言っても過言ではない。
でも、何とかハッピーエンドに辿り着いたので良かった。しかも「被害者だった加害者」の魂も救って己に取り込んで生きていくしベストなラストだった。
逆に言うと前述の「エロイーズが死んでカメラが上昇してロンドン全体を映して終わり」だったら嫌いな映画になってただろう。真犯人を断罪したままでなくエロイーズだけが密かに暖かい気持ちを送るというラストのラストも良かった。
最後に死んだ方が映画締まる事が多いので主人公に生きる死ぬにこだわってるわけじゃないが、本作の場合はエロイーズが死んだらダメなパターン。華やかなスウィンギング・ロンドンの闇と現在の生き辛い女性を描いて、最後に「都会に飲み込まれて死んでしまった……」というラストは無い。90年代くらいまでの映画だったら多分エロイーズも死んでただろうな。そうならなくて良かったと心の底から思った。
そういえばエロイーズの自殺した母は、都会に殺されてしまったバージョンのエロイーズだったのかな。自殺した母は「一昔前に作られたらラストで死んでいたであろうエロイーズ」なのかも。
そんな感じで、エロイーズとサンディ可哀相だからもう観ないと思うが、映像や音楽も美しく最後までハラハラして楽しめたしラストも良かったので良かったです。
感想書いてて新たに気付くこと多いのだが本作の場合「エロイーズは全ての局面においてのサバイブ能力が他の人よりむしろ強い!」ってとこですね。
そこから得た教訓は「ヤバいと思ったら即、走り去る!」「困ったら身近な家族に速攻で話せ!」って事だよね。簡単そうでなかなか出来ない事だと思う。本作を観たりこの部分を読んだ人は若い子にそう伝えてほしい。

 

 

 

 

そんな感じでした

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Last Night in Soho (2021) - IMDb

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