脚本:小林靖子 演出:渡辺一貴 監修:柘植伊佐夫(人物デザイン) 音楽:菊地成孔 原作:荒木飛呂彦『岸辺露伴は動かない』(1997-継続中)&『ジョジョの奇妙な冒険 第4部』(1992-1995)、北國ばらっど『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』 製作国:日本 放送時間:各話約50分、第1話~第8話
荒木飛呂彦の『ジョジョの奇妙な冒険』第4部のサブキャラクター、スタンド能力を持つ天才漫画家の岸辺露伴を主人公にしたスピンオフ漫画『岸辺露伴は動かない』……の実写映像化。また『ジョジョの奇妙な冒険』第4部で露伴が活躍する回をアレンジした話や、荒木飛呂彦以外が書いたノベライズの実写映像化も入ってる。
2020年から毎年末にNHKで放送されている。僕は20数年間TV持ってなくてNHKと縁がないので人の家で観たり配信サービスで観たりしている。
毎年、3話づつ放送してたのに最新シーズンの先月……2022年末は2話だけだったので「なんで今回は2話だけなんだろ?」と不思議だったが数日後に映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2023)が発表された、映画撮ってたから2話だけだったのね。
僕は、ジョジョは連載初回から読んでるし、ジョジョが国民的漫画となって10年以上経った今現在でもファンですら全く読んでなかった……読んでても感想を語る人がほぼいなかった『ジョジョリオン』も最初から最後まで読んでいた(良いところもなくはないが今までで初めて全体の90%以上がつまらなかったジョジョだった)。
『岸辺露伴は動かない』の不定期連載は90年代に一本、2000年代に一本、2010年代以降は10話……という感じで、露伴の読み切りが描かれる事は稀だったのに2010年以降から掲載頻度が上がった。
最初は「へぇ露伴の読み切りかぁ」と注目してなかったのだが、前述したように『ジョジョリオン』はめちゃくちゃつまらなく、しかし同時期の『岸辺露伴は動かない』読み切りはむしろ面白さが上がっていった。だから近年は「もうジョジョの連載やめて岸辺露伴だけ続けたら?」と思うようになった。めちゃくちゃ本編がつまらない『ジョジョリオン』だが〈回想シーン〉や〈色んなウンチクとか社会への愚痴など荒木のエッセイ〉などもキレが増してるので、一話完結の『岸辺露伴は動かない』と合わせて鑑みて「もう荒木は長期連載じゃなく結末が決まった、短いストーリーの方が上手く描けるのでは?」と思い始めた。「回想シーン」って本編の中に入れ込まれた前日譚短編漫画みたいなもんだからね。7部までは行き当たりばったりで描いてても途中から方向性が決まって面白くなり、終盤は毎回傑作に仕上がっていたけど今は難しいのかもしれない。他のおかしくなっていく巨匠にも言えるが、カリスマ大御所化したりメディア展開による利益は大きいので大御所の息子や孫みたいな年齢の編集者は大御所に、とてもネガティブな意見を言えないのではないか?と思う今日この頃。
『岸辺露伴は動かない』は、キャラが立った岸辺露伴という登場人物、荒木のウンチクや愚痴、ホラー展開、読み切りだから毎回終わる……など、今でも優れたままの荒木の良い部分「だけ」で構成されている。話が続いてないので矛盾などもない(矛盾があったり旧キャラのデザインが大きく変わってても「この回は四部じゃなく一巡後の露伴なんだろう」等と、ファンが好意的に捉えられる仕組みになっている)。
『岸辺露伴は動かない』……いまチェックしたら僕は去年執筆されたらしい「ドリッピング画法・前後編」という回だけ読んでなかった。あとノベライズも読んでない。
そういえばアニメ版もあって一応観たけどジョジョのTVアニメ版を更に低予算にした感じでイマイチ。ツルツル確定。
ネタバレあり
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『岸辺露伴は動かない』第1話~第3話 (2020)
……第一話の感想の前に、全話に共通する岸辺露伴と泉京花の設定を消化しとこう。
✒岸辺露伴
主人公。集明社が発行する少年ジャンボの人気漫画『ピンクダークの少年』第8部を連載中の天才漫画家。〈ヘブンズ・ドアー〉というギフト(超能力)を持っており、漫画のネタにするため危険に自ら首を突っ込んで毎回窮地に陥る。天才漫画家のせいか生まれつきなのか気難しい。「嫌な奴」に半歩入ってるが読者の子供へのファンサービスはやるし漫画のネタになるためなら全財産はたいても構わないストイックさもある。
第一話冒頭、露伴のカッコいい家に忍び込んだ二人組の泥棒をヘブンズ・ドアーで本にして懲らしめるアバンで露伴の性格や超能力をささっと見せる。
本作が発表された時は「また実写化?しかも高橋一生が露伴?おいおいおいおいおいおいおいおいふざけるなよ?」などと思ってたが、高橋一生の岸辺露伴が登場して数秒でいいじゃんと思いました。
ちなみに2020~2022までの3シーズン共、第一話の冒頭で露伴を舐めて家に侵入する二人の考えなしの男たちがヘブンズ・ドアーでボコられる……というアバンが描かれている。初見の人たちのために露伴の性格と能力ヘブンズ・ドアーの説明を数分で済ませるためだ。ちなみに今年気づいたが三年連続、同じ俳優さん二人が演じている。
僕はひねくれた性格だった10代~20代の時は、こだわりが強く自分を曲げず極端な事だけをする露伴をカッコいいと思ってたが、加齢して中年になったせいか今となっては露伴は偏屈過ぎるし「もうちょっと言い方があるだろ」とかいちいち思ってしまい若い時のように良いとは思えなくなってきた。そんな偏屈な露伴をフォローするのが後述するレギュラーキャラ泉京花だ。
岸辺露伴のギフト「ヘブンズ・ドアー」
原作での露伴のスタンド(個別の超能力を持った背後霊みたいな像のこと)の〈ヘブンズ・ドアー〉は「相手を本にして生い立ちや秘密を読んだり、指示を書き込んで行動を操ることが出来る」という能力の効果は同じだが〈像(ビジョン)を持たない只の超能力〉になっている。ドラマの作中で露伴はこの超能力を「ギフト」と呼んでいる。原作のヘブンズ・ドアーからして像(ビジョン)を持つ意味が全くないスタンドだったし、初見の人にスタンドの説明するのは面倒。しかも『岸辺露伴は動かない』でスタンドを持ってるのは露伴だけで敵の殆どは神とか超自然現象とかイカれた人間など、スタンドじゃない驚異ばかりなので時間をかけてスタンドを説明する意味があまりない。たいして重要じゃない露伴のスタンドを「あーだこーだ」説明してたら観て欲しいメイン層の一般視聴者へ届く社会性が目減りしていくばかり。だから、只の超能力にした事はベスト。本作の原作に登場するジョジョ本編から持ってきた数少ないスタンド「チープ・トリック」と「ボーイ・Ⅱ・マン」もまた「ヘブンズ・ドアー」同様にスタンドの像(ビジョン)が必要ないスタンドだったのでこれまた問題なし。ドラマを観る限り乙雅三は「六ツ壁坂の妖怪に取り憑かれただけ」っぽくてジャンケン小僧も「四つ辻」で倒れて能力を得る……という感じで乙雅三と似た描写だったが露伴が「こいつ僕と同じ様なギフトを!?」とか言ってたから憑依されたのではなくギフトを手に入れたっぽい。
✒泉京香
集明社が発行している少年ジャンボの岸辺露伴の担当編集者の泉京香(演:飯豊まりえ)。後で、担当編集が廃人化した志士十五の担当も掛け持ちする。
このドラマの主人公・岸辺露伴がシャーロック・ホームズ(性格に偏りのある天才)だとすると助手のジョン・H・ワトソンのポジション(天才をサポートして読者の分身となり得る社会性のあるキャラ)。
原作の泉京香はドラマの第一話になった『富豪村』の一話だけに出た「荒木の身近にモデルがいるんじゃあないのか?」と思わせる妙に人をイラッとさせる生々しい人間力に溢れた憎めないサブキャラに過ぎなかったが、ドラマ版では毎話出てくるレギュラーキャラに抜擢された。原作ではこってり豚骨味というかケーキのシロップがけみたいな濃いキャラだったが、ドラマではルックスも雰囲気もレモンを漬けたミネラルウォーターのようにカラッとした飯豊まりえが演じている。毎話出てくるんだから泉京花は確かに爽やかな方がいい。
そしてドラマ化された影響か、2022年に描かれた漫画『ホット・サマー・マーサ』で泉京香は再登場して『岸辺露伴は動かない』25年間の歴史の中で初のレギュラーキャラとなった。他にジョジョ第4部のキャラがカメオ出演することはあったが、ここで言うのは「『岸辺露伴は動かない』で出たキャラがレギュラー化した」って話だ。
泉京香は俳優・飯豊まりえ氏が演じ、週刊少年漫画編集者なのに毎回ロリータファッションのようなフリルの付いた御洒落な衣装をしている俗でミーハーだがポジティブな生命力を感じさせるキャラクター。神経質で気難しいクソ野郎の露伴に足りない部分を補完している。リアリティがディフォルメされた原作漫画なら岸辺露伴に違和感もなかったが実写ドラマになると「うわ……露伴、初対面の大人に敬語ひとつ使えないのか……」みたいに社会に対峙する露伴に痛さを感じたりする。「他人を見下しがちな天才漫画家」なんだから別にいいんだが加齢のせいか時代のせいか気になる。そんな実写版・岸辺露伴が社会に足を踏み出した時に纏うアーマー、それが泉京香。露伴が失礼な態度を取った時に謝ってフォローする(といっても、こんな場面でも本当に反省してるのは露伴で泉くんは全く悪く思ってないようにしか見えないが)原作は露伴ひとりで成立するがドラマ版は泉くんとコンビで動いた方が話がスムーズに進む。話が進むにつれて「怪異に強い」「悪運が強い」という露伴とは逆の怪異耐性を獲得しつつある。露伴と泉くんの絡みは第一話放送の時点ですぐ人気になった。
微笑ましいスキャンダルがあったが本作のファンはそれよりもドラマに影響あることを恐れてかTwitterの感想などでも皆、知らないふりを貫いてるのでこれ観てる人は大人が多いんだなと思った。
第1話「富豪村」(2020) 🍿🍿
原作は2012年の少年ジャンプに掲載された読み切り。『岸辺露伴は動かない』1巻に収録
少年漫画『ピンクダークの少年』第8部を連載している天才漫画家、岸辺露伴(演:高橋一生)。彼には対象の生物を本にして生い立ちや秘密を読み指示を書き込むこともできる〈ヘブンズ・ドアー〉という特殊能力があった。
Story
周囲から隔絶された山奥に豪邸が立ち並ぶ〈富豪村〉。所有者はいずれも各界で成功した大富豪ばかり。ただし、ある〈試験〉をクリアしないと買うことが許されないらしい。真偽を確かめるべく天才漫画家、岸辺露伴(演:高橋一生)と、集明社の露伴の担当編集者の泉京香(演:飯豊まりえ)の付き添いで富豪村に赴く。そこで案内役の少年、一究(演:柴崎楓雅)から課された試験は「マナー」だった――
富豪村を訪れた露伴と泉くんが試される試練は〈正しいマナー〉。
マナーには正しいか正しくないかだけ、寛容はない。
取り仕切るのは案内役の少年、一究。演じてる子役の演技も良い。
客室に通されお茶や食べ物を振る舞われ、正しいマナーで食さないと失格となる。
正しいマナーで合格すれば「破格の値段で土地が買えるし住めば金運がガン上がりする富豪村」に住むことが出来る。マナーが正しければ一生安泰だ。
そこまでは泉くんも承知だったが「〈正しくないマナー〉を行えば〈その者にとって大切なもの〉を一つ失う」という事は知らなかった。
泉くんは紅茶をいただく時にマナー違反があり、入院中のボーイフレンド平井太郎が事故にあってしまう。そしてその事故の電話を家主に断りなく出たマナー違反によって泉くん自身が心臓発作を起こして瀕死の状態。
露伴は案内人・一究の能力かと思い彼をヘブンズ・ドアーで本にするが、一究は只の案内人。そして、今起きている現象の秘密を知る。
この現象を起こしているのは一究ではなく〈山の神〉。
「人の心を勝手に読む」という行動が山の神に〈マナー違反〉と解釈されて露伴は漫画家の命である右腕の自由を失い、本にされた一究もヘブンズ・ドアーの能力から脱して勝ち誇ったように露伴を見下ろす。普通の人間に対しては無敵とも思えるヘブンズ・ドアーだが、運命を容易く操る〈山の神〉には通用しない。第一話なのに、いきなりヘブンズ・ドアーが破られるのが面白い。というか原作でも毎回ピンチになるけどね。
ここで山を降りれば露伴の命は助かるが〈泉くんの命〉〈泉くんのボーイフレンドの命〉〈自分の右手〉という「3つの命」を取り戻すため露伴はマナー試練の再トライに挑戦する。
ここで露伴を代表する名言「だが断る」が出てくる。原作だとジョジョ4部のハイウェイスター戦で出てきた台詞だったが露伴のキャラを決定付けるため第一話に持ってきたんだろう。
「試練の前に『成功すれば得れるが、失敗すれば失う』と教えてこないのは山の神のマナー違反ではないのか?」という気もするが、そもそも「富豪村の試練のルール」というのは、あくまでもこの山の神々が決めたマイホームルールなのでその辺は山の神々の俺ルールに乗った上で勝たなくてはいけない。
この「山の神々が支配する富豪村」というのは単純にハイソサエティーの比喩といえる。金持ちや有名人やインフルエンサーなどの集まり……、または欧米の大学の上級陽キャの集まりフラタニティやソロリティ、何でも良いんだけどそういった集団の中の上澄みにはルールがある。その上澄みコミュニティに入るためには厳格なルールや〈イニシエーション(通過儀礼)〉がある。それは凄い犠牲を払う必要があったり又は「皆と同じように庶民に横柄な態度を取る」「ビールの一気飲み」とかくだらないものある。「正しいマナーで富を手に入れるか大切なものを失うか」という博打のような両極端な〈試練〉が、この富豪村の〈イニシエーション(通過儀礼)〉だったわけ。だから一見、公正に見えて実は公正ではない。
露伴はヘブンズ・ドアーで一究がマナー違反するように書き込んだ。そのおかげで露伴の右手、泉くんと彼氏の命は復活した。
露伴が「ヘブンズ・ドアーで一究の心を読んだ」だけでマナー違反として右腕を奪われたのに、それより悪そうな「ヘブンズ・ドアーで一究の行動を操る」というのは「心を読む」ことよりも悪いマナー違反に見えなくもないが、露伴はTwitterで数年に一度はバズる「マナー講師は、他人のマナー違反を指摘するマナー違反をしてる!」という小市民が大好きなネタで一究を攻めた。原作の一究と違って本作の一究は泉くんや露伴のマナー違反を誘ったりサディスティックにマナー違反を指摘していた。山の神は「マナー違反を指摘するというマナー違反」という一究のイキりポイントを指摘した露伴に一本を挙げた。
この第一話は、負かせた子供を嘲笑する露伴の笑顔、楽しい泉くん……などで僕も含まれた腕組みして険しい顔で観ていた荒木ファンの多くも笑顔になった。
ちなみに命を握られた泉京香のボーイフレンド平井太郎は第3話のメインキャラ。このシリーズは毎年、放送される2~3話が薄っすら繋がった構成になってるから。
一究の主である〈山の神々〉も、原作通り最後まで姿も声も出て来ないのが良かった。せっかく本編が面白かったのに最後にしょうもない幽霊出して台無しにしてしまった『残穢【ざんえ】住んではいけない部屋』(2015)を作った人たちだったら最後に〈山の神々〉を出して台無しにしてたんだろうなと想像つくから、露伴はこのスタッフで良かったと思いました。普通の子供である一究の主が〈山の神〉で、じゃあ一究はどうやって〈山の神〉と出会ってどういう結びつきでこんな事してるのかとかも、気になるが一切わからない。ジョジョ本編だと怪奇現象の殆どはスタンドだが露伴は、こういう訳のわからない怪異や謎生物がいっぱい出てくる。そしてヘブンズ・ドアーで倒すことは無理だから露伴は逃げるだけ……という結末が多い。そこが良い。ジョジョはスタンドで全部倒してしまうので爽快感はあるが神秘性は消え失せてしまう。その点『岸辺露伴は動かない』だと敵を倒せないのでクトゥルー神話的な底知れなさがずっとある。
菊地成孔の音楽も耳に残るミステリアスさで良かったですね。
第2話「くしゃがら」(2020) 🍿🍿🍿
原作は2017年のウルトラジャンプに掲載された北國ばらっどによるノベライズ。『岸辺露伴は叫ばない 短編小説集』に収録
Story
岸辺露伴は同僚の漫画家・志士十五(演:森山未來)から相談を受ける。失踪した担当編集者から「くしゃがら」という言葉は使用禁止だと言われたがネットにも文献にも詳細が載っていない。十五は「くしゃがら」がどういう言葉なのかが日に日に気になって仕方なくなり狂気に陥り露伴は十五を「本」にするが――
禁止用語「くしゃがら」という言葉が何なのか探していくうちに漫画家・志士十五は「くしゃがら」の事しか考えられなくなり常軌を逸した精神状態となり古本屋のオヤジ(演:諏訪太朗)に絡んだり一週間も飲まず食わずでフラフラになり岸辺露伴がヘブンズ・ドアーで十五を読むと十五の中には「くしゃがら」が詰まった真っ黒い袋とじがあり、十五ほどじゃないが少なからず「くしゃがら」が気になり始めていた露伴に伝染しようとしている。なんで袋とじなのかというと「気になるけど意味はわからない」というのをヘブンズ・ドアーで変えた本にした時、ぴったりの表現だったんだろう。
昔、TVで女性器の名称三文字を叫んだ松本明子が2年間か干されたように禁止用語にはリスクが伴う。
本にしても躍動するほどヤバい「くしゃがら」袋とじを見た露伴は十五に「くしゃがらを忘れる」と書き込んだが字が消える。今回もまたヘブンズ・ドアーが通用しない怪異だ。「『くしゃがら』はTVや出版物などの禁止用語などとはレベルが違う「この世界そのものの禁止用語だった!」と悟る、聞いたり読んだだけで感染する言葉のウイルスとでもいうべき言葉だった。『マウス・オブ・マッドネス』(1994) に出てくる魔の小説とか、クトゥルー神話のネクロノミコンとか『リング』の呪いのテープや『HUNTER×HUNTER』の呪いの楽曲を聴いたセンリツなど、そういう「情報」自体が呪いになってるもの。「くしゃがら」もまた意味がわかるわからない関係なく「言葉の文字列」自体が怪異だった。露伴はヘブンズ・ドアーで「くしゃがら」に関連する指示は不可能だったが「くしゃがら」には触れず志士十五本人に指示する事はできるので「最近の記憶」を失わせることで解決する。
これは原作がノベライズだから読んでなかったがドラマ全話の中で一番面白かった。
その理由の殆どは志士十五役の森山未來の怪演のせいだろう。
はっきり言って完全に露伴と泉くんを喰ってたし未だに「泉くん同様に志士十五もレギュラーにしてほしい」という想いが消えない。といっても「漫画家キャラ」は主人公の露伴がいれば充分だし泉くんというサポートもいるので十五は必要ない。単純に「森山未來の演技がもっと観たい」という理由のみ。この話の前半はカフェで露伴に対して志士十五が喋りまくってるのだがここだけ10回くらい観た。志士十五に魅力ありすぎて。こうまで良いと志士十五のドラマが観たくなってきたので、むしろ「ミスキャストだ、もう少し魅力が少ない俳優を選べよ」と思ったほどだった。
それと本作は構図や衣装や美術など全体的にカッコいいが、この回は只の会話シーンが殆どなせいか構図が異常に凝ってる。また十五の部屋も好みのカッコよさでマジで住みたい理想の部屋(普通はオフィスに使用するような雑居ビルの四角形じゃない部屋にソファーとか置いて無理矢理住んでる感じで、夜になると向かいのビルの灯りとか入ってくる殺伐とした豊かさが溢れてる感じ。黒沢清『LOFT』(2005)の中谷美紀が最初に住んでたアパートも良かったが、この十五の部屋も最高)。
泉くんも「くしゃがら」を聞いたはずだが何ともなかった。恐らく「くしゃがら」に何の興味がなかったから脳の中に袋とじが出来てなかったんだろう。
超現実主義の人間は幽霊を信じてないので全く見えないので霊に対して最強。泉くんが本作で怪異に対して妙に強いのは泉くんのこの性格のおかげだろう。
第3話「D・N・A」(2020) 🍿
2017年の別冊マーガレットに掲載された読み切り。『岸辺露伴は動かない』2巻に収録
泉京香から「記憶喪失になっているボーイフレンドの写真家・平井太郎(演:中村倫也)を催眠術で探ってほしい」と頼まれた岸辺露伴。
太郎は6年前に交通事故に遭い一命は取り留めたが記憶喪失になって社会復帰できずにいた。一方、6年前に交通事故で夫を失った片平真依(演:瀧内公美)の娘・真央(演:北平妃璃愛)は太郎に何かを感じる――
少女漫画雑誌に掲載された読み切りが原作だから、この話はホラー色少なめでハッピーな感じで終る。
前回、くしゃがら感染で暴れる十五を露伴はヘブンズドアーで鎮めたが、泉くんには「十五には催眠術をかけて治した」と言い訳した。
それで泉くんに「記憶喪失の太郎の記憶も催眠術で探ってほしい」と言われる。
だが通りすがりに太郎の袖を引いた幼女に露伴は着目する。幼女・真央の母・真衣は集明社とも仕事してるデザイナーだったので、露伴と泉くんは訪ねて行き真央をヘブンズ・ドアーで読む。
母の”愛情の檻”から逃げ出した娘・真央は”透明の赤ちゃん”みたいに姿を消し屋外に逃走。心を開かない娘が見知らぬ太郎にだけ懐いたので太郎のもとに行ったのだろうと三人は太郎が居そうな所へ向かうと、太郎と娘は公園で遊んでいた。
太郎は6年前の事故で臓器移植を受けていた。真衣の亡き夫も6年前に事故で死んだ。真衣の死んだ夫の臓器を移植された太郎はDNAレベルで真衣の亡き夫の記憶が混ざっていた。それで真央はDNAレベルで太郎に親しみを感じ近づいたようだ。亡き夫の仕草や口癖を発する太郎を見て真衣は涙ぐむ。
死んだ夫のDNAと、それを感じた真央が母と太郎を結びつけた……みたいな話。
「きっといいヤツ」「わちにんこ」「たいわかどの」など印象的な台詞が多い。
原作だと露伴は何もしてないんだが(原作、露伴は何もせず話を聞くだけって話は多い。何しろ「動かない」んだから)真央をヘブンズ・ドアーしたり全員まとめてヘブンズ・ドアーして読んだりと話をわかりやすくする役で参加。そのせいか一瞬見かけただけの母子の家を聞き出してズカズカ家に上がり込んで真衣が止めてるのに真央に接触したりと「露伴が、何も関わりない母子にこんなに接近するかな?」と思うくらい強引。
まぁ露伴は好奇心が異常に強いという設定なので母子に何かを感じたと納得できなくもない。こうでもさせないと露伴をストーリーに組み込めなかったんだろう。ちなみに今回ではヘブンズ・ドアーされた人は顔がパラパラと本のようにめくれるのではなく全員「本そのものになる」という描写がされている。泉くんは女性ファッション誌になったり真央は子供のらくがき帳みたいになるなど工夫されている。
原作では、前述でも話したが小松菜奈そっくりの山岸由花子が出演してたんだけど、由花子の出番は消えてその役割は泉くんになった。由花子の唯一の出番が消えたのは残念だが、ジョジョ四部を経てないのにいきなり由花子出しても「え?誰なのこのJK?何で露伴と知り合いなの?」などと説明が必要だからこの方が自然なのか。
原作で、真央が公園のガラガラと回転する遊具で遊んでるのを太郎(のポジションの男性キャラ)が誘拐したと勘違いした真衣の背後で、無事だった真央は背後でガラガラ!と回転してるコマがめっちゃカッコよくて好きだったのだが実写化されず残念。
原作からしてそうなんだが、この話は無茶に無茶を重ねすぎた荒唐無稽すぎる展開に対して「そ、そういうもんですかね……」と脳の処理が追いつかず感動しきれない。ドラマ版もそんな感じだった。
元の泉くんがファンだった「街を切り取るクールなカメラマン平井太郎」の人格が事故で完全に消えて、記憶こそないものの完全に死んだ真衣の夫のそのものの人格を持つ男・平井太郎になってるという展開にホラーを感じてしまう。
真依の亡き夫がDV父で、その亡きDV夫の人格になった太郎が暴れだす展開ならホラーになってたんだろう。だが真依の亡き夫はきっと良いヤツだったのでハートウォーミングな話になった。
原作も映像化どっちも「あと一歩で感動できそうだししたんだけど……感動せんなぁ」という惜しい話だった。
この回で露伴がやたらチンチロリンいじってたからシーズン2では仗助とチンチロリンするのかと思った……がやらなかった。あれは凄く露伴が活躍するので恐らくスタッフもやりたいはず。
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『岸辺露伴は動かない』第4話~第6話 (2021)
第4話「ザ・ラン」(2021) 🍿
原作は2018年の週刊少年ジャンプに掲載された読み切り。『岸辺露伴は動かない』2巻に収録
岸辺露伴は会員制のスポーツジムで駆け出しのモデル兼俳優の橋本陽馬(演:笠松将)と出会う。最初は無気力な青年だった陽馬だがランニングと筋トレに異常に執着し常軌を逸していく。
筋肉が付き自信に満ちあふれるようになった陽馬は露伴とある勝負をする――
シーズン2の第一話なのでシーズン1の第一話アバンの「泥棒二人組撃退」と同じように露伴に不利な不動産投資を持ちかける二人組をヘブンズ・ドアーで懲らしめるアバンで露伴のキャラとヘブンズ・ドアーの能力を紹介。
今回のシーズン2もまた〈泉くんの記憶喪失のボーイフレンド平井太郎〉で薄く繋がってたシーズン1同様に〈妖怪が住む土地、六壁坂〉で繋がっている。この第4話の冒頭で露伴は「漫画のネタ探しのため六壁坂の山林を買い占めて破産」してしまった事が語られるし「シーズン2で起きる3つの怪異は全て六ツ壁坂由来のもの」という感じでシーズン1よりもっと直接的に繋がっている。
この話も原作では「只のランニングと筋トレにハマったサイコパス青年が鍛えすぎているうちにヤバい筋肉殺人鬼になった」というだけの話だっただがドラマでは「ランニングしてるうちに何でも『捨ててしまう』サイコパスになった青年がランニング・コースにしていた六ツ壁坂で取り憑かれてしまう」って筋書きになっている。ただの筋肉サイコパス青年を六ツ壁坂由来の怪異にして第4~6話をまとめるというのは一見ストーリーが深まったように思えるが僕としては原作の方が数倍良かった。「原作とは違うがドラマもいいな」と思う話が多いが、この話だけは完全に原作の方が良かった。というのも僕が『ザ・ラン』は原作露伴で1、2を争うくらい好きな話だったというのがあるかもしれない。
いかにも荒木作品に出てきそうなサイコパス青年の橋本陽馬と露伴がランニング対決して露伴勝利……という展開は別に原作もドラマも同じ。橋本陽馬役の笠松将もボディを鍛え上げてるし顔も原作そっくり。でも漫画で好きだったのは露伴vs.橋本陽馬の闘いが終わった後の最後の2ページの部分だったんですよね。
(原作では……)露伴に敗北してスポーツジムの窓から落下した橋本陽馬。ドラマだと落下したはずの橋本陽馬の「露伴先生……」という声が聞こえて露伴が逃げる……という結末で「取り憑かれていた橋本陽馬は墜落死していよいよ本物の怪異になってしまったのか?」的な匂わせで終る。原作の落下した後の橋本陽馬は喋りもしないし姿も見えない、露伴が独り言言ってるだけ、それでどこまでも飛躍させるのが凄かった。
原作の、勝利した露伴は「この窓ガラスから下を覗いて見るのはやめておこう……」と思う「今……もし僕がこの窓から下方向を見たら……もし上から見下すように窓から覗いたら僕はたぶん『彼』に殺されるだろう……」と確信し速やかに逃走する事を決意する。
別に神や吸血鬼や〈柱の男〉でもない只のサイコパス青年を一話完結の話で倒しただけなんだから普通は高所から落とした露伴の勝ち!それで終わりでいいはずなのに倒した後で只のサイコパス青年をぐんぐん持ち上げる!前述したように別に橋本陽馬は壁をよじ登ったり又は階段を駆け上がってきたりする足音とかは聴こえない。ただ露伴が勝手に言ってるだけ。でもそのまま終われば綺麗に終わる話を、わざわざ露伴に喋らせて終るのだから橋本陽馬は確実に死んでおらず戻ってこようとしてるのは100%事実だと言っていいだろう。
更に露伴はランニング勝負クライマックスで橋本陽馬の背中とくるぶしと耳の後ろの筋肉が「翼のような形」に見えた事に言及する。そして「彼は『化身』――そういう『印』――」「彼は『筋肉の神』に取り憑かれた男――」「『橋本陽馬』はヘルメス神の化身となった男なのだ」と、勝負が終わった後の最後の1ページで単なる筋肉サイコパス青年だった橋本陽馬が露伴の独り言のみで人間を超えた「筋肉の神ヘルメス神の化身」とかいう訳のわからん存在になってしまった。『富豪村』ラストで〈山の神々〉との勝負を降りたのと同様、まるでクトゥルー神話の邪神を前にしたかのように露伴が逃走せざるを得ない素晴らしいラスト。まぁ露伴の敵はスタンド使いではなく神や怪異なので倒しきらず逃走するラストが多いが(そこがいい)。この飛躍!僕は、ファンが喜ぶ集大成的なラストバトルを終えたと思ったら最後に急に飛躍して、それまでの楽しいドラマ全話すらどうでもよくなるほど感動した『ツイン・ピークス リミテッドシリーズ』(2017)最終話とか、それまでは割と泥臭いロボがいっぱい出て楽しかったのだが最終話で神みたいな真ゲッターロボが出てきて一気に飛躍して終る石川賢の漫画『ゲッターロボ號』(1991-1993)とか大好きなので、原作の『ザ・ラン』も似たテイストを感じて好きなのかも。この話が好きなのは、はっきり言って最後の2ページがあるからといえる。ランニング勝負までは荒木作品でよくあるサイコパス対峙の話ってだけだからね。
原作の『ザ・ラン』の最後の飛躍の魅力を具体的に伝えたかったが、何故良いのかは結局上手く書けなかった。
ドラマはその最後の飛躍がないんだから、まぁよくある荒木作品の映像化にすぎない。
そして原作の露伴は最後に「この場はただ……逃げる(ザ・ラン)しかない」と言って立ち去って終る。つまりサブタイトルの『ザ・ラン』とは、ランニングに取り憑かれた橋本陽馬の事でもあり、橋本陽馬vs.岸辺露伴のランニング勝負のことでもあるが、それ以上に露伴が最後に逃走せざるを得なかったという事こそが最もサブタイトル『ザ・ラン』に含まれている。ドラマも一応、露伴は逃走するが、さすがにヘルメス神の化身から逃走するほどのインパクトはなかった。ドラマの橋本陽馬は六ツ壁坂からまろび出た妖怪に取り憑かれたサイコパスに過ぎないからね。
とはいえドラマのラストで「筋肉の神ヘルメス神の化身がどうのこうの」言い出したら視聴者は「え?」と訳わからんだろうし六ツ壁坂出身の妖怪先鋒として無難にまとめた方が分かりやすくなるのもわかるので別に「原作通りやれ!」とかは思わない。
そもそも「筋肉の神ヘルメス神の化身」ってジョジョにすら出てきてない新概念だからね、この後の露伴にも当然出て来ないし。荒木本人も「80年代に描いてた筋肉系ヴィランを描いてしまった自分自身」に驚いていた。いわばジョジョ初期の波紋戦士や〈柱の男〉みたいなもんですよね。それを超自然的な要素じゃなく、性格悪いサイコパス青年がただ筋トレしてるだけでそうなってしまったという飛躍が最高だったんですよね。
読み切り『ザ・ラン』が掲載された時って本業の『ジョジョリオン』は何度も言うように90%以上クソつまらなかったわけですが(完結して数年経ったがまだつまらない)同時期の露伴は何で面白いんだ?というか昔より面白いんだが……とか思いました。だが同時に「露伴が面白いからジョジョリオンも最後盛り上がるかも」という呪いも同時に受けてしまったので面白くない『ジョジョリオン』を最後まで読まされる刑も同時に受けていたが。
そういえば露伴は、橋本陽馬が危険だとわかっているのに橋本陽馬を全部知りたくなってランニング対決を続けてしまう自分を嘆くのだが、ここでの高橋一生の演技が舞台役者みたいにあまりに大袈裟すぎて面白い。
第5話「背中の正面」(2021) 🍿🍿
原作は『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』(1992-1995)の中の一話。『ジョジョの奇妙な冒険』第44巻(文庫なら第27巻)、電子書籍カラー版なら四部の第16巻に収録されている
岸辺露伴の家にリゾート開発会社に勤める男、乙雅三(演:市川猿之助)が訪ねてきた。家の中に招き入れると乙雅三は背中を壁につけたまま不自然な格好で入ってくる。以降、何をする時も愛想笑いしながら乙雅三は決して露伴に背中を見せない。猛烈に好奇心をかきたてられた露伴は無理やり乙雅三の背中を見てしまう――
原作は『ジョジョの奇妙な冒険』第4部で、自分がスタンド使いだと認識していないスタンド使い・乙雅三のスタンド〈チープ・トリック〉と露伴が戦う話だった。
このドラマ版では「六壁坂でメロンを捨てたために妖怪に取り憑かれた乙雅三」というアレンジになっている(六壁坂で何かを捨てると取り憑かれる)。だが別にスタンドだろうが妖怪だろうがどちらでも問題ない怪異なので問題なし。スタンドではないので取り憑いた後は、スタンドの像(ヴィジョン)ではなく「前回呪われてた者」の姿で新たな宿主の背中に取り憑く。つまりビジュアル的には市川猿之助が高橋一生におぶさって苦しめるという絵面。
好奇心の高い露伴は「理由はわからないが絶対に背中を見られたくない」という乙雅三の背中を絶対に見たくなり、そして見て、取り憑かれる。
おぶさった市川猿之助演じる乙雅三が露伴に嫌がらせし続ける。
森本未來の怪演が楽しめた『くしゃがら』の回同様、市川猿之助の怪演が楽しめる。
原作では〈振り返ってはいけない小道〉でチープ・トリックを振り返らせて葬り去ってたが本作では泉くんが見つけた都市伝説が囁かれている「平坂」と名付けられた高架下でこの妖怪を振り返らせて葬る。「平坂」は黄泉の国と現世の「境目」である〈黄泉平坂〉であり、踏切の音が「かごめかごめ」に変わった時に振り返ると何者であろうと無数の亡者の手によって黄泉の世界に引きずり込まれる。
本作はナイスな原作改変が多いが、この回はスタンド知らない人も一発でよくわかるように上手く出来ていてナイス改変だった。
原作では康一くんが露伴を助けたが、ドラマでは露伴に邪険にされながらも平坂を調べ続けた泉くんのおかげで露伴は生き延びることができた。
カッコいいロケーションが多いが、この「平坂」という高架下がとてもカッコいい。そして黄泉の世界と繋がった「平坂」は上の画像のように灯りがついた向こう側の通りが黄泉の世界に見えるような演出されてて、「地獄の亡者」は俳優の後ろで裸の役者陣が手を出して蠢いてるだけなのだが凄く地獄の亡者っぽくて、どれも大金をかけたCGなどよりずっとカッコよかった。
第6話「六壁坂」(2021) 🍿
原作は2008年のジャンプスクエアに掲載された読み切り。『岸辺露伴は動かない』1巻に収録されている
財産よりも漫画のネタが大事な岸辺露伴は妖怪伝説がある六壁坂村の山林を買い占め破産してしまう。露伴と泉京香は取材のため六壁坂村を訪れる。
村一番の名家の跡取り娘、大郷楠宝子(演:内田理央)は何かを隠している。楠宝子をヘブンズ・ドアーで読んだ露伴は、楠宝子と六壁坂にまつわる驚愕の秘密を知る――
橋本陽馬に取り憑いた走る妖怪、乙雅三に取り憑いた背中から背中へ憑依する妖怪を生み出した六壁坂に遂に取材に行った露伴と泉くん。
露伴は、六壁坂村一番の跡取り娘、楠宝子をヘブンズ・ドアーで読むと「楠宝子の愛人だった庭師の青年・郡平がトラブルで出血、意識はないが出血し続けて、今も『死に続けている』とでもいう状態で大郷家の屋根裏に居る」という恐ろしい秘密を知る。郡平もまた六壁坂から這い出た何か不思議な存在らしい。原作だと単純に代々そうして他人に寄生して生きてきた生き物だった気がするが本作だと前の2話同様に妖怪なんだろう。
都会に住んでいた大郷家が村の中心の名家に戻ってきた時に「境目」が開き数々の妖怪が現れたらしい。
それにしても郡平を演じてる俳優の演技が上手い。
回想で、出血し続けている郡平のボディを婚約者から隠そうとする楠宝子を演じている内田理央が美しい顔を歪めて半狂乱になりつつ大立ち回りを繰り広げる様が圧巻。ここが最大の見どころ。
あとは露伴や泉くんも郡平一族の罠にかかりそうになるが今回も上手く逃れる。
前回の『後ろの正面』もそうだが泉くんは怪異を自動的に才能がある。
露伴は、好奇心で自ら進んで怪異に巻き込まれる才能があるので泉くんと真逆。
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『岸辺露伴は動かない』第7話、第8話 (2022)
第7話「ホットサマー・マーサ」(2022) 🍿🍿
原作は2022年の『JOJO magazine 2022 SPRING』に掲載された読み切り。単行本未収録
緊急事態宣言下でリアルな取材ができずにいた岸辺露伴は漫画のキャラクター「ホットサマー・マーサ」のデザインで担当編集の泉京花と揉めていた。飼い始めた子犬バキンと散歩に出かけた露伴は見知らぬ神社の根元が洞になった巨木に迷い込み気を失う。家に戻ると何やら様子がおかしい。更に寝室には最近、露伴を追いかけ回していたファンの女イブ(演:古川琴音)がいた――
昨年、執筆されたばかりの読み切りが原作。
今年もまた2人の侵入者を本にして懲らしめて露伴のキャラを説明するアバン。
今年の第7話と第8話は、露伴が連載している少年漫画『ピンクダークの少年』に登場するキャラクター〈ホットサマー・マーサ〉によって繋がっている。
妖怪伝説によって全3話が繋がっていた六壁坂ほど直接ではないが、フィクションの中のフィクションによって話が結びついてるってのが御洒落だ。またホットサマー・マーサ以外にも、この世ならざるものが現れるという十字路……〈四つ辻〉も第7話&第8話共に共通している。この、場所きっかけで怪異が出てくるのは六壁坂と被ってるから特に要らなかった気がしなくもない。
神社の巨木の祠に入ったことで、露伴のダークサイドな分身〈藪箱法師〉が本物の露伴と入れ替わり、2周間くらい?入れ替わっていた。目を覚ました露伴が家に帰るとやべーファンの女の子イブが棲み着いていた。露伴の姿をした藪箱法師が引っ張り込んでいたのだ。それより何よりもホットサマー・マーサが、露伴の希望のデザインではなく炎上を恐れた泉くんのデザインに変わっていた。自分に成り代わった藪箱法師がそうしたのだろう。
で、露伴は神社の神主父子に巨木の祠や藪箱法師の秘密を聞く。
経ってしまった時間は戻らないが藪箱法師を消す儀式をやれば、藪箱法師が行った不本意な事は起きなかったことになる。これでホットサマー・マーサのデザインは自分の希望通りに戻るはずだ。
だが儀式は失敗、更に3ヶ月が経っていた。
愛犬バキンは藪箱法師に虐待されて?凶暴な犬になっており、泉くんは露伴(藪箱法師)の子を宿したファンの女イブに毒を射たれて死亡寸前、もう無茶苦茶だ。
イブを演じる古川琴音の演技が素晴らしかった。ストーカー気質があるが可愛らしさもあるヤバい女の子の役がめちゃくちゃうまい。声も良い。
山の神以外の、どんな怪異も回避できてた泉くんもヤバい人間からの驚異は回避できなかった。ついでに露伴も注射されて動けない。イブが露伴を最も追い詰めた敵かも。
しかし何やかんやでピンチを乗り越えイブも藪箱法師も何とかして解決する。
時間以外の色んな事が元通りになるがホットサマー・マーサだけは露伴が希望したデザインに戻らなかった→デザインを変えたのは藪箱法師より泉京花の割合の方がデカかった……というオチ。
いわゆる「邪悪なドッペルゲンガーもの」の話だった。
暗喩的には「巣ごもり生活で鬱になって荒れて変なことしてた、あの時期の俺は変だったなぁ」という話を『岸辺露伴は動かない』形式に落とし込んだ話と見ることもできる。普通だったらラストに藪箱法師と直接対決して倒して解決するだろうが、そんな事は起きない、いやむしろ藪箱法師は監視カメラに映ってた数秒しか画面に出て来ない。やはり、どこまでも「調子悪かった俺がしでかした事で困ってしまう」話という事なんだろう。だからクライマックスで戦うのは藪箱法師とかいうフンワリした存在ではなく「調子悪かった時の俺が遊んだ女に復讐される」という〈超現実〉だったのだろう。
荒木漫画でたまにある、この「凄い現実には勝てない」という流れ好き……例えばジョジョ7部くらいになると〈スタンド〉なんていうフワフワした存在よりも国家や銃の方が驚異であるところなど。幻想的なスタンド能力よりも国や銃といった超現実の方が強い。本作でも「ヘブンズ・ドアー」や「怪異に強い泉くん」なんていうフワフワした要素は「ダークサイド露伴が遊んで捨てたファンの女」という超現実によって壊滅寸前まで追い詰められてしまう。
原作漫画は読み切り、ドラマは50分だが一本の映画に引き伸ばしても耐えうるくらい、妙に複雑で味わい深い話だった。
原作も、凄くつまらなかったジョジョリオン連載終了後のかなり新しい読み切りなのに面白かったから、またジョジョ第9部『ジョジョランド』に期待しておくか……と新たな呪いをGetした。
第8話「ジャンケン小僧」(2022) 🍿🍿
原作は『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』(1992-1995)の中の一話。『ジョジョの奇妙な冒険』第40巻(文庫なら第25巻)、電子書籍カラー版なら四部の第12巻に収録されている
泉京香と打ち合わせ中、岸辺露伴の漫画『ピンクダークの少年』大ファンの小学生、大柳賢(演:柊木陽太)が突然尋ねてきた。追い返された少年は、露伴の行く先行く先に現れてジャンケン勝負を露伴に挑んできた――
ご存知、ジョジョ4部で露伴と宙に浮く勢いでジャンケンで対決したジャンケン小僧。
本作のジャンケン小僧は岸辺露伴の『ピンクダークの少年』の大ファン(しかも露伴が真に描きたい事を完全にわかっている熱狂的ファン)という設定になっている。ジャンケン小僧は〈ホットサマー・マーサ〉に対して「これは岸辺露伴の本意のデザインではない」と看破し、露伴に直接言いに来る。ジャンケン小僧が本物のファンだとはわかりつつも作者として一度出したものを撤回することは出来ないので追い返す露伴。苛ついたジャンケン小僧はウロウロしてるうちに例の神社近くの〈四つ辻〉で、ヘブンズ・ドアーのような〈ギフト〉を手にし、ジャンケンで勝ったらパワーを奪えるようになった。
そしてジャンケン小僧は露伴を追い回し、ジャンケン勝負を仕掛ける。
「ジャンケンは運ゲーではなく、舌戦や心理戦そして心の強さがものを言う」そんな感じでジャンケンを撃ち合う露伴とジャンケン小僧。西部劇っぽい。
パッと見た感じは子供とジャンケンしてるだけの、のどかな光景だが露伴本人からしたら「絶対に負けられない闘い」。一度譲ってしまうと一生立ち直れないダメージを負ってしまう。
藪箱法師やホットサマー・マーサによって自分の前に立ちはだかるジャンケン小僧との闘い。前回のイブと同じく「過去のやらかしのツケを払わされる話」と見ることもできる。ジャンケン小僧役の子役も演技めっちゃ良かったですね。
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※追記:2024年5月16日
第9話「密漁海岸」(2024) 🍿🍿🍿
原作:本編の前半は『ジョジョの奇妙な冒険 Part4 ダイヤモンドは砕けない』(1992-1995)の中のエピソード第294話~第297話『イタリア料理を食べに行こう』。『ジョジョの奇妙な冒険』第33巻(文庫なら第20巻)、電子書籍カラー版なら四部の第5巻に収録されている。本編の後半は『岸辺露伴は動かない』第1巻(2013)
初回放送日:2024年5月5日
露伴邸の近くにひっそりとオープンしたイタリアンレストラン。その店を訪れた露伴と京香が出会ったのは客の体の悪いところを改善させる不思議な料理を提供する力を持ったシェフのトニオ・トラサルディ(演:アルフレッド・キャレンザ)だった。トニオは露伴に、どんな病気でも治してしまうという伝説のヒョウガラクロアワビを手に入れようと密漁を持ちかける。トニオには重病を抱えたフィアンセ森嶋初音(演:蓮佛美沙子)がいた――
去年は映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2023)があったせいかTV版はなかった(ちなみに映画は、時間を持て余してる感あったので別にいつもの一時間のドラマで充分だった感)。
今年は一話だけだが待望の「密漁海岸」。
ジョジョ四部がない世界なので、まずトニオ登場回であるジョジョ四部「イタリア料理を食べに行こう」を、原作では億泰&仗助がやっていた代わりに露伴と京香でやり直す必要がある。
ジョジョ四部のその辺の前半はこの先どうなるかわからない頃だったし、敵じゃないスタンド使いが出てくるなんて凄く意外な回だったしインパクトが凄かったです。
そしてモッツァレラ・チーズなんて一般的じゃない時代だったので「どんな味だろう?」と興味津々で当時、一人暮らしを始めた頃だったが公開された『もののけ姫』(1997)を観に行ったついでに大阪梅田の手ごろなイタリア料理屋で初めて食べた記憶が鮮明です。
大体、原作通りの流れを再現するのだが、京香は虫歯と寝不足、露伴は肩こりと胃荒れをトニオの料理で治してもらう。肩こりは「露伴の愛犬バキンとフリスビーしすぎた」という設定で、出てきはしないがバキンを飼っている設定が忘れられず存在しすぎてるのが何かうれしいですねこういうの。
トニオは、露伴同様に不思議な力〈ギフト〉を持っており、それは原作のスタンド〈パール・ジャム〉とほぼ同じ。料理の効能を数十倍に強化させるというもの。
それと素材が有している毒を、体に良い効能が出るように使っているという要素もあった(毒を故意に客に出していいのかという問題はあるが、まぁいいだろどっちでも)。
京香は涙をボウル二杯ぶんくらい流すし露伴も垢を出しまくる(丸めてソフトボール大くらいにしても欲しかった)という原作でおなじみの「薬菜飯店」展開。
これは文句なく良かったですね。特にめしとよ(飯豊まりえ)のオーバーアクションが抜群の可愛さでした。
そして、実はトニオさんの妻の頭にグレープフルーツ大の腫瘍が……という話になり、丁度アワビについて調べていた露伴と目的が一緒という事で二人は手を組む。
そんで原作通り色々あってハッピーエンド。病気が治ったフィアンセがトニオのママの得意料理を作り四人で食べるという幸福感あふれる終わり方。たまにはこういうほっこり終わりも良いね。「トニオのフィアンセはパティシエ」という設定もそうだが今回も色んな設定を上手い事つなげていた。
タイトルは「密漁海岸」だが、本編の三分の二以上は「イタリア料理を食べに行こう」だったが「イタリア料理を食べに行こう」はジョジョ屈指の面白エピソードなので文句なし。
とか書いてたら2024年5月16日に高橋一生と飯豊まりえが結婚した。2人の交際は一年前?くらいにフライデーされてたがファンが皆、大人や女性ばかりだったせいか皆観て見ぬふりしてる様が凄かったね。末永くお幸せに……
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そーいう感じで観たばかりの第7話、第8話の感想だけ書こうとしたがキリ悪いから全部観返して全8話の感想書こうとしたら疲れました……。
特に好きだった回を各シーズンから選ぶと、第2話「くしゃがら」(2020)、第5話「背中の正面」(2021)、第7話「ホットサマー・マーサ」(2022)ですかね。
露伴が住む町……杜王町中心に描かれてるので〈露伴の家〉は勿論、〈露伴の家から下る坂道〉〈行きつけのカフェ〉〈諏訪太郎の古書店〉など何度も出てくる場所、あと高架下みたいなところも毎回同じようなところだし杜王町が何となく脳内でイメージできてきた。これは漫画ではなかった感覚だ。普段「あの町また行きたいな」と想像して、しかし妙にアニメカの風景だったりして「あれ?こんな町いったことあったっけ?」とよくよく思い出してみたらオープンワールドゲームの記憶だったりして「将来、認知症になったらゲームの記憶を自分の記憶として思い出しそう」と思ったりする。そんな感じで「杜王町」が立体的に脳内に構築されつつある。北の国からとか寅さんを全部観る人の気持ちが少しわかってきた。
まだ映像化されてない中で一番観たいのはトニオ・トラサルディーと鮑を盗みに行く「密漁海岸」ですかね(済)。あとはやっぱり仗助とのチンチロリン対決。
ノベライズの「くしゃがら」も面白かったし脚本の小林靖子の信頼度が高すぎて別に原作にはないオリジナルの話を小林靖子が書いても成立する気もする。
観た人みな言ってるが色んな要素や俳優の演技など全て凄く荒木飛呂彦っぽいよね。
映画『岸辺露伴 ルーヴルへ行く』(2023)は今年、2023年5月26日に公開されるそうだ。
そんな感じでした
『ジョジョの奇妙な冒険 ストーンオーシャン』(2021-2022) 全38話/今まで通りのジョジョアニメだが最終回が原作同様あまりに良かった🦋 - gock221B
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