原題:Hit Man 監督&脚本&制作:リチャード・リンクレイター 主演&脚本&制作:グレン・パウエル 原案:スキップ・ホランズワースがテキサス・マンスリー誌に執筆した記事「Hit Man」(2001) 配給:Netflix 製作国:アメリカ 上映時間:113分 公開日:(日本は2024.09/13)
先月アマプラで『ツイン・ピークス』が配信開始されたから全30話+18話、あと映画版と、全部観返して記事にしようと色々しててブログの更新が停滞気味になってます。いま旧シリーズ全30話と映画と新シリーズ4話まで再見できたところ。このブログ一ヶ月で8回更新する目標でやってるので半月以上も停まっててヤバい。どれくらいの人が待ってるかは知らんが……今月は全体的にツイン・ピークス全体にかかりきりで更新少なめです、とあらかじめ言っておこう。
今かかってて評判いい映画といえば『エイリアン:ロルムス』(2024)、フェデ・アルバレス監督も好きだし。だが近所でやってない。休日に電車乗ってまで観に行くのはしんどい。代わりにもっと観たかった本作はやってたのでこっちを選んだ。『エイリアン:ロルムス』(2024)もきっと面白いだろうが、逆に言えば観なくても何となく内容は想像つくし。
”ヒットマン”といえばIOI(IOインタラクティヴ)の暗殺ゲーム『ヒットマン』がある。僕はこのゲームが死ぬほど好きで、この8年間くらい『ヒットマン』リブート三部作しかゲームしてないってくらい好きだが、本作には関係ない。本作も楽しみだが「じゃゲーム版の三回目の映画化の時にタイトル被るじゃん」と思ってたが本作の原作は2001年の記事なので、まさかのゲーム『ヒットマン』シリーズ(2009-)より先だった。
リチャード・リンクレイターが監督で、今ブレイク中のグレン・パウエルが主演しつつリンクレイターの友人でもあるので脚本や制作にも参加。
これまたリンクレイターの友人である有名な犯罪系ライター、スキップ・ホランズワースがテキサスの地元紙に書いた記事『Hit Man』(2001)を元にしたロマンチック・サスペンス・コメディ映画。
1980年代後半から1990年代にかけて一般人でありながらヒューストン警察のおとり捜査に協力して〈架空の殺し屋〉を演じて70人以上を逮捕に導いた大学教授ゲイリー・ジョンソン(1947-2022)。まるで映画のような彼の実話を元に映画化した。ちなみに本物のゲイリー・ジョンソンは本当に囮捜査していただけなので誰も殺していないし2022年に75歳で穏やかに亡くなったらしい。
監督のリンクレイターは日本では『スクール・オブ・ロック』(2003)が一番有名か?……と思ったが今となっては昔過ぎるので『6才のボクが、大人になるまで。』(2014)が有名か、それにしても10年前だ。これは一人の子供を12年間撮影し続けたドキュメンタリーで話題になったが観てない。
あとロトスコープ技法で作られたアニメ映画『ウェイキング・ライフ』(2001)、『スキャナー・ダークリー』(2006)や、『ビフォア・サンライズ 恋人までの距離』(1995)、『ビフォア・サンセット』(2004)、『ビフォア・ミッドナイト』(2013)のビフォア三部作なども有名。この監督の映画をよく観てたのは2000年代で近年すっかり存在を忘れてたのでこのブログにあるリンクレイター映画の感想は『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)しかない。
アヴリル・ラヴィーンも出てた事しか覚えてない『ファーストフード・ネイション』(2006)で、まだ中学生だったグレン・パウエルを初めて起用し、前述の『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)で大人になったグレンと意気投合して友人になり、それで本作を一緒に書いたらしい。
グレン・パウエルは『トップガン マーヴェリック』(2022)でブレイクして『恋するプリテンダー』(2023)、『ツイスターズ』(2024)……とかヒット作ばかりに出ていて今「最も男受けするナイスガイ」と評判。
ネタバレあり
2匹の猫と静かに暮らすバツイチの大学教授、ゲイリー・ジョンソン(演:グレン・パウエル)。
彼は、大学で心理学と哲学を教える傍ら、副業として地元警察のおとり捜査に協力していた。暗殺の依頼人をしてくる一般人の好みに合わせた偽の殺し屋に扮し、何十人も逮捕へ導いていくゲイリー。
ある日、専業主婦のマディソン(演:アドリア・アルホナ)が支配的な夫の殺害を依頼してきた。ゲイリーは”セクシーな殺し屋ロン”に扮して彼女の事情を聞くうちに、逮捕させるはずのマディソンに同情して「暗殺は考え直して、この依頼金で家を出て新しい人生を送れ」と見逃してしまう。
これが切っ掛けで、ロン(ゲイリー)とマディソンは恋に落ちるが──
という話。
「一般人が副業で暗殺者を装って警察の囮捜査をする」っていう設定が驚きだが、実話なので仕方がない。
「エージェントやギャングの暗殺ではなく、”金さえ貰えば誰の依頼でも受け、誰でも殺す。”などという”映画に出てくるような暗殺者”は存在しない」という前提がある。しかし映画やドラマなどで毎日のように”暗殺者”を観ているアメリカ人からすれば「居てもおかしくない」と思う人が多いのだという。
確かに、こういう都市伝説っぽい”暗殺者”についてあまりまともに考えたことはない。でも、銃社会であるアメリカなら「何となく居るのかも~」とボンヤリ思ってしまう人がいてもおかしくないのかも。だが冷静に考えると、「殺して、死体を処分もする」なんて仕事、端金ではリスクが大きすぎて成り立たないだろう。
それでも「暗殺者はいるんだ!」と思い込んだ市民からの暗殺依頼はちょいちょいあるようで、依頼を受けたらゲイリーは依頼人をSNS等でリサーチし、依頼人が信じそうな”暗殺者”に扮装し、その扮装に合った演技をして依頼人に信じ込ませ、暗殺の依頼を口頭でバッチリ受け、殺人依頼の金を受け取る。
ワイルドなタフガイ、殺人学の教授、神経質そうな変態暗殺者、陽気なヒャッハー暗殺者……ゲイリーは、依頼人が「こいつはホンモノだ……」と思いそうな暗殺者キャラを作り上げて依頼現場に出向く。そして相手によっては恐ろしい作り話なども披露する。依頼人は元々、暗殺者を信じてるし更に信じたがってるものだから「やっぱり本当にこーいう感じの暗殺者は居たんだ!」とあっさり信じてくれる。
その音声が録音できて現金を受け取ってしまえば証拠はバッチリ。カフェから出た依頼者は”殺人教唆”で現行犯逮捕される。
本作の主人公ゲイリー・ジョンソンのモデル、本物のゲイリー・ジョンソン(1947-2022)は、これで70人以上を捕まえたというのだから驚きだ。
捕まえた依頼人は、裁判を受ける。その裁判には素顔のゲイリーも毎回訪れる。
依頼人に睨まれたり、依頼人の弁護士に口汚く罵られたりもするようだが、ゲイリーは割と平気。
最初は「こんな囮捜査とか怖くないのかな?」「殺しを依頼するような危ない奴を罠にかけ続けて、裁判で素顔も名前もバレて、恨まれて危険じゃないのかな?」と思ったが、殺しの依頼をしてくるような市民は大抵アホだし、ゲイリーを殺したら自分が恨んで殺しましたと言うようなものだし割と平気みたい。
またモデルとなった本物のゲイリーはベトナム戦争帰りの男だそうだしアホの市民など怖くはなかったのだろう。
この囮役は、汚職やDVなどで署でも嫌われ者の警官ジャスパー(演:オースティン・アメリオ)がやっていたが、問題を起こして停職になり、ある日突然ゲイリーが代わりにする事になった……というのが本作の冒頭。
急遽だったが、ゲイリーは本職である心理学を活かし、たまたま演技や機転も上手かったので上手くいき。この件に当たる他のスタッフもジャスパー嫌い、ゲイリー大好きなので問題なく、ジャスパーが囮をしていた時よりも逮捕率が上がった。
ゲイリーは「囮捜査は俺の舞台。犯人逮捕が観客の喝采さ」と確かな、やりがいを感じて次々と依頼者を逮捕していく。
グレン・パウエルが演じるゲイリーが次々とあらゆるタイプの暗殺者に変身し、次々と捕まる依頼者たちのマグショット(「ママを殺して欲しい」と格ゲー『モータルコンバット』を差し出す少年も)と、単純に面白い前半。
しかも、これが全て事実なんだからな。「事実は小説よりも奇なり」とはよく言ったものでね。この記事を読んだリンクレイターとグレン・パウエルが「映画にしよう!」と意気投合したのも頷ける楽しさ。
ある日、「抑圧的な夫を殺して欲しい」というマディソン(演:アドリア・アルホナ)というセクシーな主婦の依頼を受けたゲイリー。
ゲイリーは、マディソンが好きそうだと思ったのか”ロン”というセクシーな色男系暗殺者に成りきっていた。
マディソンは束縛系の夫にありとあらゆる事を禁じられており悲壮感が漂っていた。
ゲイリーは同情したのか、金を受け取らず「家出して、その金で暮らせ」と言い、依頼を途中でキャンセルしてしまう。
「あんたはセラピストやカウンセラーじゃないんだよぉ?なんで途中で逃がしちゃうのさ」と仲間の婦人警官に注意されるゲイリー。
ロン(ゲイリー)の忠告通り、家を出て離婚を進めるマディソンは新しい生活を始めていた。マディソンとロン(ゲイリー)はすぐに惹かれ合い付き合い始める。
ゲイリーは「こんな事もあろうかとSEXの腕も磨いててよかった」とマディソンと連日SEXしまくる。なんか単純に本物の暗殺者じゃなくても、本物の暗殺者よりもある種の”超人”に思えてくるゲイリーだった。
マディソンは女の勘か「貴方、良い人すぎる。本当は殺し屋じゃないんでしょ?」と言う、僕だったらここで正体を明かした方がいいと思うんだが、ゲイリーは暗殺者ロンとしての演技を続けたまま交際を始めてしまう。「マディソンが好きなのはセクシー暗殺者”ロン”だから、ロンの仮面を脱いで物静かな猫好き教授ゲイリーの正体を明かしたら恋が終わっちゃうかも」と思ったのかもしれない。
……というところで本編の半分くらいで、あとはロン(ゲイリー)とマディソンの恋に、マディソンに捨てられた嫌な夫、ゲイリーに囮捜査の座を奪われた汚職警官ジャスパーなどが絡んでくる中盤。
そしてピンチ……をいつもの機転と演技ですり抜けた……と思ったら更なる大ピンチが!という終盤を迎えて上手いこと終わる。
大体の映画は前半でほぼ全ての面白い設定を吐き出し、中盤で上手くトラブルが大きくなり、そして意外性や示唆に満ちた終盤で如何に見事に終わるか。
この終盤で映画全体の良さが全て決まる。というか中盤くらいまで幾ら面白くても終盤がダメだと全部ダメになっちゃうんだよね印象が。逆に言うと終盤が良ければ途中がグダグダでも後から良く思えてくる……まぁ「後半良いけどそこまでがつまんなかった~」なんて殆ど無いけど、後半が良い映画は前半も大抵おもろいからね。
その点、本作は……面白かったですねぇ。さすが大ベテランのリンクレイター……といったところか。ねばり腰で、ストーリーを鷲掴みして振り回し続けて見事に着地させた感じ。多くのリンクレイター作品の中でもトップクラスに良いかも。去年から期待してたけど期待通り面白くて嬉しかったわ。
ちなみに本物のゲイリーは囮捜査において一人も殺さなかったそうで本作は「終盤だけちょっとフィクションにした!」だそうです。
前半、ゲイリーの別れた妻が「なりたい自分を演じているうちに、そのペルソナが本人に取って代わる」みたいな……アズイブの法則の話してたけどあれが正に本作のテーマなんだろう。僕もそういうことを最近考えてたところだったので、なりたい自分像を演じていき本体の自分を理想に近づけよう、と素直に思いました。
観に行く時間がなくても割とすぐNetflixに来るだろうから、来たら観てみたら?おもろいから。
そんな感じでした
〈リチャード・リンクレイター監督作品〉
『エブリバディ・ウォンツ・サム!! 世界はボクらの手の中に』(2016)/魅力を説明しにくいがとにかく傑作! - gock221B
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Hit Man (2023) - IMDb
Hit Man (2023) | Rotten Tomatoes
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