監督&脚本:井上雄彦 演出:宮原直樹、北田勝彦、大橋聡雄、元田康弘、菅沼芙実彦、鎌谷悠 作画監督&キャラデザ:江原康之 CGディレクター:中沢大樹 原作:井上雄彦『SLAM DUNK』(1990-1996) 制作会社:東映アニメーション、ダンデライオンアニメーションスタジオ 音楽:武部聡志、TAKUMA 製作国:日本 上映時間:124分
スラムダンクは……お好きですか?
公開4ヶ月近く経ってるが、原作を全巻読み返して行こうと思って読んでて、スラムダンクは電子書籍が出てないのもあって面倒だったり単純に忙しかったりしたが諦めたらそこで試合終了なので何とか読み終えた。遅くなったが近所で毎朝早朝に一回だけ上映し続けてる劇場があるので行って楽しかった。
感想の前に20数年ぶりにスラムダンク読んで、前半は登場人物のキャラや描写も少年漫画っぽいが(桜木も1秒間に数十回ブロックできるフンフンディフェンスしてた)、後半インターハイに行ったらフォトリアルな青年漫画みたいになる。当時……高校生~20代前半?の時はインターハイに行くまでの少年漫画っぽい前半が好きで後半は集中力が落ちてたが今読み返すと逆に後半のインターハイが内容も絵柄も死ぬほど良くて、そこまでの展開はむしろ全てインターハイ……というか山王戦を描く前ふりに感じられたほどだった。
山王戦が至高なのは勿論、特に好きなキャラや好きな試合などの話題であまり声が上がらないvs.豊玉と豊玉の選手たちがめちゃくちゃ良い!と思ったのが発見だった。特に、高校を追われた恩師に報いようとラン&ガンに拘って湘北に敗れる南とチョンマゲ……というメインテーマも良いが、宮城を挑発する「どんどんどんどん入れまっせぇ!」のアイツが顔もキャラもあまりにも良すぎる!今思えば湘北は幾ら何でも豊玉の挑発に乗りすぎな気もするが面白いから別にいい。あと湘北ベンチのメガネくんに次ぐ控えメンバーであるヤスが最も活躍する試合だし。ヤスの「おとなしいが暴力やヤジに一歩も引かない」という特性は大人になった今読むとめちゃくちゃカッコいい。井上雄彦もTwitterで突然、豊玉の南と岸本を今の絵柄で書いてたが豊玉戦、アニメで観たいな。
当時一番好きだったキャラは昔も今も一番人気の三井とリョーちん、あとメガネくんだったが、今読むとゴリ、桜木、山王の河田などのゴリラ系が最高だと思った、もちろん魚住もいい、信長も野猿だから猿グループか。まぁ大体どのキャラもいいが……。
ちなみにスラムダンクのアニメは当時観てなかった。その時、忙しかったのと、あとスラムダンクのキャラの喋り方は自分の中でナチュラル演技で喋ってる印象だったので、TVアニメ版は野太い声でアニメっぽすぎる印象だった。ただ桜木役の草尾毅と流川役の緑川光と桜木軍団・高宮役の塩屋浩三は未だにピッタリだと思う(たぶん彼らは他のキャラより最後までマンガっぽいキャラだからだろう)。
だから本作で声優が変わったり3DCGになる事に多くの40~50代の原作ファンは抗議していたが自分は特に文句もなかった(前売りを売った後に声優交代を発表したのは叩かれても仕方ないと思うが)。画も井上雄彦の原作通りの画が動く感じにも期待値が上がってた……が、原作者・井上雄彦制作の映像作品は、これが初めてなので漫画好きの自分は眠りに落ちて映画ファンとしての俺が「イノタケ監督作……面白いのか?」と未知数の作品に警戒した。
蓋を開けてみると大ヒット&絶賛の嵐……当然こうなると安心して観に行けるのだが、映画ファンとして「(面白いかどうかわからん時に行って面白さを掴み取るという)賭け」に行かなかった自分が恥ずかしい。初日に行ってれば「不安だったが、凄かった!」と興奮して書けてたし。万が一つまんなかったとしても「こんなに酷かった!」と書けたものを。これが映画の「賭け」だ。失敗のない賭けだったのに機会を逃してしまうとは恥ずかしい(これが老いか)。映画鑑賞は「面白さ」を自分から掴み取って最初に言うのが醍醐味であって、……以下の感想も僕は毎回他人の感想を読まずに書いてるのだが読む人からしたら、その証拠はないので価値がぐんと下がる。とにかく初日に行かなかった事を反省した。観に行きさえすれば、年末の人混みをかきわける時に「不確かな夢叶えるのさ約束の夜に♫」と挿入歌が脳内に再生されるようになり楽しい初詣だったろうに。
完全にネタバレあり。
Story
1980年代の沖縄(たぶん)
母子家庭の少年・宮城リョータ(CV:仲村宗悟、島袋美由利〈少年期〉)は 尊敬する兄・宮城ソータ(CV:梶原岳人)とバスケットボールに興じていた。
夫を喪い気落ちしていた母・宮城カオリ(CV:園崎未恵)を支えていた兄ソータも海難事故で亡くなり、ソータを愛していた母カオリは回復不能な精神的ダメージを負う。1990年代前半(たぶん)の現在の神奈川県。引っ越してきたリョータは湘北高校バスケットボール部に入部する。
弱小チームだった湘北バスケ部はこの年、色々あって神奈川県予選を勝ち上がり広島県開催のバスケットボール・インターハイへ初出場、2回戦に勝ち上がる。
2年生のリョータ以外のメンバーは、
3年生の主将・通称”ゴリ”こと赤木剛憲(CV:三宅健太)。一度挫折して再入部した3Pシューター・三井寿(CV:笠間淳)。1年生の天才エース・流川楓(CV:神尾晋一郎)。1年生のバスケ始めて4ヶ月の素人ながらリバウンドが得意な桜木花道(CV:木村昴)。
ベンチには3年生の木暮公延(CV:岩崎諒太)を始めとした控え部員たち。元全日本バスケ選手の安西光義監督(CV:宝亀克寿)。リョータが想いを寄せるマネージャーの彩子(CV:瀬戸麻沙美)。客席にはキャプテン赤木の妹で桜木が想いを寄せるゴリの妹・赤木晴子(CV:坂本真綾)や悪友の桜木軍団や三井応援団も駆けつけている。2回戦の対戦相手はインターハイ三連覇の優勝候補、秋田県代表・山王工業高校バスケ部。湘北バスケ部は「絶対王者・山王 vs.弱小・湘北」の下馬評を覆すことができるのか?そしてリョータは幼い頃から抱え続けた哀しみを払拭できるのか――
本作は、原作の主人公・桜木花道ではなく宮城リョータを主人公とし、リョータの半生と原作ラストの山王戦をシンクロさせ他の湘北メンバーや山王の沢北などの人間ドラマも見せながら進む。山王戦が始まり試合が終わると同時に映画も終わるというお洒落で大胆な構成。作者は「原作ではリョータを描く暇がなかった」という心残りがあったからリョータ中心に描いたらしい。なるほど、確かに山王戦だけを映画化するなら飛び道具的なキャラの桜木よりも、山王のゾーンプレスを突破する見せ場があったり、コートの中心からパスを回しつつ他のメンバーの心理描写も描くリョータを中心にした方が映画を作りやすかったのかも?リョータの過去と心の内を山王戦の展開とシンクロさせるのも「まるまる一つの試合が本編」という大胆な構成を成立させ、それを原作未読の人の心に届けるにはこの構成が良かったのかも?と思った。最初からアニメ化してたなら普通に桜木が主人公でいいが、一作で初見の人やバスケのルールも知らん人が見ることも考えるとリョータの人間ドラマを軸にしたやり方が合ってたのかもな?
だが原作読んでる自分としては、それらを充分に考慮しつつも「でもやっぱ桜木主人公のままで良くない?」とか「リョータの過去は良い話で特に不満はないが、妙に辛気臭いストーリーだなぁ」と少しだけ思った、少しだけね?とはいえ前述の通りリョータ主人公のストーリーは初見の人にめっちゃウケてたし(4ヶ月経つ早朝の劇場なのに殆ど満員だし号泣してる人も多かった)やっぱ、これでいいんだろうと思った。
そして井上雄彦自らが監督してなきゃ「宮城リョータが主人公」「映画の本編が丸々、山王戦」「原作にはないリョータの過去を描く」などの大胆過ぎる構成は受け入れられなかったかもしれないし、そもそも井上雄彦自らが監督じゃなかったら、そんな大胆な構成はGOが出なかっただろう。
3DCGアニメは井上雄彦の画そのまんま動く感じで、バスケの試合はアニメっぽい誇張表現を抑えめにしてリアルタイムで進む。アニメが単純にめちゃくちゃ良い。漫画の3DCG化では『スパイダーマン:スパイダーバース』(2018)が最高峰だが「こっちの方が良いやん、アカデミー賞くれよ」と思った。やはりアニメなのにリアルなバスケしているのがインパクト強かったのかも。原作のギャグや漫画っぽい演出は控えめなので、原作では結構長かった前半戦も映画では一瞬で過ぎる。
原作では前半戦の桜木の活躍や顔面シュート等はかなりページを割いて漫画っぽく描いてた気がするが、本作では実写のようにリアクション少なめなので数秒で終わる。この時、引いた画で桜木が「やっぱ天才?」と言いながら横移動してるカットが「めちゃくちゃドライな韓国映画のギャグシーンみたい!」と思った。原作でのギャグ漫画っぽいコマを、実写っぽい軽くてクールなギャグ描写にアレンジするセンスが凄い。
主人公・宮城リョータ、母・宮城カオリ
父が死に母カオリが鬱になり、兄ソータも死んで母カオリは更に鬱になり哀しみの擬人化のような人になってしまう(沖縄風に言うなら「マブイーを落とした」状態?)。
リョータ少年は尊敬してた兄とやってたバスケを続けるが、ソータが好きだったし喪失感に引きずられてる母ちゃんはリョータがバスケしてるのがあまり嬉しそうではない(リョータが嫌いだからではなくソータを思い出すからだろう)。リョータは時代や環境もあってチョイ悪な感じになりつつも不良ではなく、バスケを続け湘北に入って今に至る。
リョータは兄が死んだ哀しみに加え、ソータの死をいつまでも引きずる母カオリが自分を全く見てくれなくなった事でじわじわとダメージを負いながら成長した。
というかリョータの母カオリは如何にも「母ちゃん!」って感じの人物ではなく、異常なまでに「オンナ!」という雰囲気が出てる人物。バガボンドとか他の漫画にも出てくる井上雄彦が描く異常にオンナっぽい井上雄彦的ドライなセクシー美人未亡人。
「母」に振り切ってないせいかカオリはソータの死を(そして夫の死を)主観的にいつまでも引きずって生きている。リョータへの愛がないわけではなく、夫やソータが死んだ時にカオリの心も死に、心の時間が止まってしまった人なのだ。
というか母カオリは人間というより美人の幽霊みたいに描かれている。美人やセクシーさは「生(性)」なのに同時に「死」も内包されてる不思議なキャラ。
何しろ夫が死んだ初登場の時からずーっと黒い服を着ている(何故なら夫やソータが死んで心が死んでるから)、山王戦直前にリョータの健気な手紙を受け取ってハッ!としたカオリは山王戦をこっそり観に行き、初めてリョータを真正面から見れるようになる。この時からカオリは白い服を着ている、何故なら落としたマブイー(魂)を再び拾って現世に蘇ったから。この「黒い服と白い服」しか着ないカオリのキャラデザは話を分かりやすくしようとし過ぎてて正直ちょっと変だ。だって白や黒などモノクロを着そうにない人物だから。落ち込んでるからといって「落ち込んでるから黒いシャツ着るか……」みたいな人じゃないだろう。まぁ新エピソードを観客に伝えたいがあまり井上雄彦もわかりやすくしすぎてしまったのだろう。
そういえばカオリがリョータの応援に行くとき?だったかな、カオリが家の中でソータの幻を見るのだが、この出現の仕方がかなりJホラー表現っぽかったのであと一歩でめっちゃ怖いシーンに見えかねない危ういカットだった。
話を少し戻して、不自由なく暮らしてはいるものの人生がずっと微妙に噛み合ってないような、霧の中を歩いているようだったリョータ。
神奈川に引っ越したばかりの友達居ない頃にバスケに付き合ってくれたバスケ上手すぎる歳上の陽キャの三井、捻くれてたから無愛想だし一度きりの1on1だったがリョータは絶対に三井の中にソータを見て嬉しかったはずだ(この過去は新要素)。しかし高校に入るとキラキラしていた三井はいつの間にかバリバリのロン毛の不良になっていた。三井にガッカリしたリョータは三井軍団と喧嘩し三井をボコボコにするが自分もボコボコにされる(原作でのリョータの喧嘩は、両手で掴みかかるように飛びかかり、何故か次のコマでは下半身が前に出て飛び蹴りになるという不思議な技がどういうものかアニメで観たい気もするが本作はリアルなアニメなのでそんな連載初期のリョータの技は出て来ない)。その後やけになったのかバイク事故を起こし湘北バスケ部を休部する(ちなみに原作ではこのリョータ休部中に流川や桜木など期待の新一年生たちが入部し、弱小・湘北に活気が生まれ始めてきた頃)。
バスケ部に復帰する直前……だったかな?原点である沖縄に一時帰郷し幼い頃に兄ソータと遊んでた秘密基地に入り、初めて兄ソータを喪ったという事実に真正面から向き合い号泣、慟哭し、そして吹っ切れる。プライマル・スクリームってやつか(過去のトラウマに叫んで乗り越える心理療法)。母カオリは前述の通り夫とソータの死に引っ張られてるし、知り合った三井は何か知らんあいだにグレてた。リョータは自ら自分自身を取り戻すしかなかった。だが上手くいったようだ。
そしてリョータは湘北バスケ部に復帰、桜木や流川と知り合い、ひと悶着あった後で三井もロン毛を切って復帰……という以降の話は原作でどうぞ。
自分自身を救ったリョータは、不器用なメンバーが多い湘北バスケ部の潤滑剤となって活気をもたらし、そしてマブイー(魂)を落とした母カオリも救う……。
さっきは「いい話だけど辛気臭いストーリーだと少し思った」と書いたが、やはりこの映画を引っ張るリョータ中心のストーリーはこれで良かったのかもと思った。「リョータに後付けでこんな辛気臭い過去はいらん!解釈違い!」と言うファンもいるようだが作者本人が創った話だし、そもそも、このリョータのエピソードの元となる「ピアス」(1998)という短編漫画は25年も前に既に描かれているので井上雄彦の中にずっとあった話だったんだろう、解釈違いだったとしても受け入れるべきだ。まぁ各人、好きにすればいいけど俺は受け入れた。
でもラストの付け足しは「これもまた文句はないが、そもそもこれいるか?」と思った。だが井上雄彦が現実世界でバスケ留学とかを支援してるから作中のリョータや現実の日本バスケ界全体の未来の為には必要な付け足しラストだったのだろう。リョータが好きな事してるのは嬉しいし、まぁ別にいい。しかし留学したがってた流川はどうしたんだ?と気になる。
リョータの妹も可愛いし好感度高いのだが「この話にリョータの妹という役目のない新キャラいるか?」と少し思った。何かそういう感じで「文句はないが少し疑問だな」という事が多い。絶賛の映画だし僕も好きだが、数少ない「本作が気に入らない人達」はこういう部分が受け入れられなかった人達なのかもしれんね。
本作リョータで物足りなかった部分は、シリアスすぎるキャラを崩せなくなって原作での細目になって「彩ちゃん彩ちゃん」言うノリが消失してしまった事か。仕方ない。
桜木花道
他のキャラも皆、実写映画っぽいリアルな感じで描写されてるんだが、やはり真っ赤な髪の元主人公・桜木は「歯を食いしばってリバウンドしてガニ股で着地」「後半戦で、役員の机に飛び乗って山王客席を挑発!」など一人だけ漫画っぽい動作や行動が多いので異常に漫画っぽい雰囲気を纏ったままだし目立っていたし「やっぱ主人公だな」と見直した。また新ジャイアン役で御馴染みの桜木役の声優・木村昴がどんな時もめちゃくちゃ滑舌が良く台詞が聞き取りやすいというのも良かった(ラップしてるおかげか)。本作で殆どのキャラは短時間でナチュラル演技して他の奴もリアクション少ないせいか聞き取れない場面も多かった(山王・深津とか殆ど何言ってるか聞き取れない)、自分は原作読み返して行ったので何言ってるか知ってるからわかったが原作四でない初見の人は聞き取れないとこが結構多かったのでは?専門用語も多いし。そんな中、木村昴の桜木はめちゃくちゃ聞き取りやすいので「木村昴すごいな」と思った
そーいうこともあって「この桜木の主人公性……本作の主人公はリョータで文句ないが、この世界自体の主人公はやはり桜木だな」と改めて思った。にも関わらず本作での桜井はサブキャラなので、「初見の人は桜木が『チームの派手な面白ムードメイカー』みたいに見えてるのかな?」と思うと不思議な気持ちになった。終盤、背中を痛めて自らの選手生命を悲観した桜木が晴子ちゃんへの一目惚れから今までの湘北バスケ部での楽しい思い出を走馬灯のようにフラッシュバックするシーンはグッと来た、……ここもまた初見の人はどう思ったんだろう?「突然ムードメイカーのサブキャラの半生が高速で脳内に流し込まれてきた!?」と思うのか?そう思うと可笑しい。
ちなみに晴子ちゃん&バスケットへの告白シーンはややこしくなるせいか無かった。
連載当時はそうでもなかったんだけど今読み返したり、この映画観た結果、桜木が一番好きだと思った。それにしても桜木の父ちゃんって死んだのかどうか未だに謎だ。
流川楓
そういえば3DCGになったおかげで新たに思ったことが「あれ……?流川でかいな……待って!異常なほど、めちゃくちゃデカいよ!」ということだった。流川はご覧の通りクールな長身超美少年で、本作でも後半の見せ場では顔面ドアップで美少年っぷりを見せつけてたが、それ以外の普通の場面などでは「今まで漫画ではあまり気づかなかったが……流川の身体……あまりにデカすぎる!肩幅広すぎる!されどスリムでエヴァンゲリオンみたいだ!」と思った。「クソデカい恵体なのに175cmくらいの身体に乗ってそうな前髪付きの美形の顔が乗ってる」ってのがアンバランスさを生んでるのかも?
デカいのは桜木やゴリもそうなんだが彼らはゴリラっぽかったり男らしいキャラだから気にならないんだが、流川は顔もスタイルも動作も全て流麗な美少年……だけど物凄いデカすぎるというギャップで異様な雰囲気を醸し出していた。長身だけじゃなく肩がロボットみたいにデカすぎるからそう思ったのかな。
流川といえば作中で最も目立つエースだし人気キャラ。ツンツン系クールなライバル。ジャンプ漫画で女子に一番人気出るやつ。『幽遊白書』 の飛影とか『呪術廻戦』の伏黒恵とか……。この映画では寡黙なせいもあり初見の人には流川がどういうキャラか掴みにくく一番ミステリアスな謎のキャラになっている。原作では常に目立つ大人気キャラだったのに本作に限ると湘北メンバーで最も目立たないキャラになっているのが不思議な気持ちになった。無敵の流川が沢北との対決でこんてんぱんにされたり、終盤で「あの流川がチームプレイを選ぶ」という最大の名場面もあったが、この辺は流川のキャラや今までの流れを知らない初見の人に伝わったのかどうかは謎だ。
流川と言えば20歳前後の頃、恋人の友達の腐女子お嬢様が流川のBL漫画(あとソフトバレエBL漫画)を描いてたので、その売り子をさせられた事ある(唯一のコミケ参加の記憶)。会場でオウム真理教のほのぼのBLとか売ってた、そんな時代。
三井寿
作中、桜木や流川に負けず、または上回る人気を誇る三井寿。スタミナの無さゆえヘロヘロになりつつ最後の最後まで3Pシュートを決め続ける……という毎度御馴染みのズルい活躍をしていた。「弱さや影のあるセクシーな男」というキャラにプラスして「3Pしシュート」という一芸に秀でたキャラなので人気が出るに決まっている。『七人の侍』でいうと剣の達人のあいつ、『ルパン三世』だと石川五エ門……一芸に秀でたキャラは国を問わず老若男女に人気。
しかも三井は毎試合、作者・井上雄彦によって溜めて溜めて……「ここ!」という台風の目のような静まり返った無音のタイミングで3Pシュートを決める。三井の活躍シーンのイメージとしては読んでる自分が火災現場で逃げ遅れた乙女のように「誰か……誰か助けてー!」というタイミングでカッコいい三井が壁をぶち破って「よう……大丈夫かよ?」と手を伸ばしてくる感じ。こんなの誰が読んでも(観ても)好きになるに決まっている。だから昔からズルい印象がある。
本作では中学生の時、神奈川に引っ越してきたリョータ少年と1on1やってたという新たな過去が明かされた。そして憧れた安西先生の湘北バスケ部に入るも挫折したくだり……は描いてる時間なかったが90年代特有のロン毛ヤンキーになって影から大好きな安西先生をこっそり見てる新たな場面も見れた(ロン毛三井が出てくる度に「ウィンターソルジャー……」という言葉が頭に浮かんだ。関係ないが俺も20代前半の時三井のロン毛になってた事ある)。そして原作で御馴染みの、喧嘩したリョータに集中的に狙われて歯が折れてダウンするくだり(不良のくせに誰にも勝てない尋常じゃない弱さもまた三井の魅力だ)。
初見の人の三井の感想を検索すると「この三井って人はサボってたから体力ないんだよね。煙草も吸ってただろうし」等と言われてて「サボってた……と言えばまぁ結果的にはそうだが、そんな練習が面倒でサボってたみたいな言い方……」とか「わざわざ作中で言及するほど、煙草は吸ってない事が明らかなんだぞ!」などと擁護したい気持ちが湧いた。あと「前髪のある黒髪」という事もあり三井と流川との区別が最後までついてない人も多かった。だから本作の三井はインターハイ前までの髪上げたヘアスタイルにした方が良かったかもね?
一番人気のシーン「バスケがしたいです」も入れようと思えば入れることできた、だけど入れなかったって事は「三井が主人公の続編あるかも?」と少し思った。
連載当時は一番好きだったが「三井が好きというのは皆そうだろ」と除外するようになってきた。殿堂入りってやつか。割と呑気な性格してるのも魅力。
赤木剛憲(ゴリ、キャプテン)
ゴリは、山王の日本最強センター河田にやられて縮こまって伸び伸びとプレイできなくなる様、そして自分とメガネくん以外やる気がなくリョータとも打ち解けてなかったギスギスした湘北バスケ部で、やる気のない先輩に嫌味を言われ、その先輩の幻がきっかけでゴリが蘇るのが面白かった。
原作ではライバル魚住が突然「板前の格好に着替えてコートに倒れたゴリの上で大根を包丁でかつら剥きしながら説教してゴリの調子を取り戻す。その後も普通に客席に戻り元気に応援する」……という確実に通報されそうなショックシーンだったが突然、包丁を持った誰だかわからん巨漢を出したら初見の人が混乱するので「やる気のなかった先輩の幻影」に変わっていた。この改変は面白いと思った。魚住のように赤木に愛のある者の言葉ではないというのが面白い。
この先輩は「やる気がなくゴリに嫌味を言う」という悪役なのだが、彼は単純に楽しくバスケをしたかっただけの高校生であって別に悪者ではない。ゴリは凄いバスケの素質を持ち「全国制覇!」を掲げて他の部員をシゴキまくるガチ勢しかも先輩にとってそんな後輩いやだろ。エンジョイ勢だったバスケ部に超ガチ勢ゴリラが入ってきて上手くいくはずがない。ゴリも口下手だしね。チームはバラバラになっていた感じ。そこに新一年生の天才・流川と素人・桜木が入ってきてリョータや三井も復帰……一転、強いチームになった。それでとても無理だと思われたインターハイに出場できた。それでゴリは終盤、感極まって「ありがとよ……」と言う。それにしてもゴリを奮起させるのがやる気なかった先輩の幻影というのは意外で面白いとは言ったにも関わらず、それでゴリが奮起する理由がよくわからなかった。いや、なんとなくはわかるが言葉にできるほど明確にわからない感じ。先輩の幻が「赤木、お前、上から目線で下手くその俺らを見下ろしてたんだろ?」と言う。今は逸材だった赤木以上の最強の河田にコテンパンにやられてゴリが初めて見下された状態。だからゴリは、あの時の先輩の劣等感を知ったということか?それでゴリが吹っ切れるのがわかるようなわかんないような……。ゴリは、こんてんぱんにされた事で気づいてなかった自分の中に僅かにあった傲慢さに気付き初心に戻ったということか?原作の魚住も初心を取り戻させて縮こまってたゴリを檻から開放させてたから「エンジョイ先輩の幻影」もきっとそうだろう。
そういえばゴリが何度か「ウホッ!」と叫びながらゴリラダンクを決めてたが、この掛け声が明確に「ウホッ!」と言ってるのだが同時に「おおぉっ!」「ぅおおっ!」といった感じの普通の叫び声にも聞こえる絶妙の叫びで、声優さん上手いなと思った。ソーで御馴染みの三宅健太か。木村昴に並んで本作の声優賞をあげたい。
久々に読み返したら、桜木に次いでゴリが一番好きかも。ゴリもっと観たい。
あと漫画全巻通して読むとゴリがヒロインに思えてくる。
河田雅史(河田兄、丸ゴリ)
映画行く前に原作全巻読み返して、当時はそうでもなかったけど今読むと山王までの本編が全て前フリに思えてしまうほど山王戦が良すぎた。だから、井上雄彦がこれ以上連載を続けられなくなって山王戦が終わったら連載終了してしまった理由が今ようやくわかった。
桜木が「丸ゴリ」と呼ぶ河田兄は日本最強センターとして、ゴリこと赤木を完膚なきまでに抑え込む。当時は気にしてなかったが原作でも本作でも、この河田兄のキャラが良すぎる!最高だ。
まずキャラの造形が良い。全く美男子とは程遠いジャガイモのような顔なのだが、凄い運動神経やバスケの才能があるため機能美っていうんですかね?機能美が香っている。豊玉の「ボボォン!」のアイツもそうだが美とは関係なく凄く良い顔、良い造形している。特に河田はガンダム等で御馴染み大河原邦男デザインのジオン軍のMSみたいなカッコよさがある。ザクとかゲルググとか、タコとかブタみたいな顔でずんぐりむっくり体型だけど流麗なガンダムよりめちゃくちゃカッコいいじゃん。それと同じカッコよさ。ダンクの際の「ぶし!」「だらっ!」などという美しさの対極にある絶妙の泥臭い掛け声や、常にガニ股だったりする姿勢など、全てが「流麗さ」「美しさ」等とは対極の無骨な男、だがそれが「逆に美しい……!」と思うのは俺だけか?最強ゆえの機能美。音がバカでけえ無臭の屁をブチかましそうな快男児。核で世界がディストピアになったら一緒に同行したい男NO1だ。本作では描く暇なかったが河田兄は最初、背が低かったが驚異のスピードで背が伸びるにつれてポジションを変更していき、やがて「最強のセンター……ってだけでなく、他のポジション全てこなせる最強のセンター」になるキャラ。バトル漫画で言うと終盤に出てくる「今までのキャラの技を全部使える敵」みたいでカッコいい。
赤木との対決や、桜木の挑発も全て嬉しそうに受け止める。
ゴリを苦しめてる時の最初の方の河田兄、その驚異の強さや王者のオーラを表現するためにか、前半、明らかに対戦相手のゴリや桜木より一回りサイズ大きく描かれてたカット何度かあったよね?アニメの中のエヴァンゲリオンが場面によって実際よりデカく描かれたりするように……。とにかく対戦相手なので「強い」ってこと以外の人間ドラマはないのだがスラムダンクの湘北メンバー以外では一番好きなキャラ。河田兄のフィギュアが出たら買うかもしれん。
沢北栄治、深津一成や他の山王メンバー
天才・流川や天才・仙道をも超える作中、最も才能のある超天才エースとして描かれてた沢北。下から掬うように放つ、桜木が呼ぶ「へなちょこシュート」も当時は日本の高校生で沢北しか出来なかったみたいだし。
沢北はこのインターハイが終わったらバスケの本場アメリカへ留学が決まっている。
本作でも、前半は出番少なかったが後半からは流川を完膚なきまでに叩きのめす……作中、流川がここまで完敗したのは初めてだから「あ、あの流川が……」と湘北サイドや読者に絶望を感じさせたキャラクター。
原作ではバスケ好きの父がバスケットリング付きの家に引っ越したりするエピソードが語られたがそんな事を描いてる時間はないので映画ではカット。その代わり、彼は試合前日に神社にお参りに行き「今回もたぶん勝つと思うけど」という雰囲気を纏った感じで「高校バスケで俺がやり残した事があれば、それを経験させて欲しい」とお祈りするという原作にはなかった新たなシーンがあった。原作読んでる人は、この場面でハッとする。そして試合終了して控室に帰ってる時、沢北はお参りした事を思い出す。その回想でさっきの台詞が繰り返され「神にプレゼントして欲しい『やり残したこと』=敗北」という事に気付いた沢北が号泣する。
これって山王のモットー「相手が格下だろうと、いつも全力で立ち向かう」を、沢北も実行できてた……と思いつつも先のお祈りって要は「敗北を知りたい」と同義語だもんね。「沢北は意識上では油断してなかったが、無意識下では慢心してた部分があった」ってことだったのかな。
それにしても一回、神社で言ったことをこっちは覚えてるので二回も繰り返すのは余計だと思った。ここだけは少し「観客わからんかもしれんから口頭で言わせとけ!」と、観客を信用せず口頭で全部説明台詞を喋らせがちな黒澤明の欠点に似たものを井上雄彦に感じた。少しだけね。
一方、河田兄と同じ三年生の目立つキャラ、深津一成は目立つ活躍が少なかったように思えた。口癖の「~ピョン」も、ナチュラル演技のせいで「え?今何言った?」と聞き取れない。「~ピョン」くらいは声を際立たせて発音させたり、それを聞いた湘北メンが「ピョン?」と大きくリアクションするなどして深津をもっと際立たせるべきだったと思うがどうか?
あとはリバウンド勝負で桜木に出し抜かれる野辺将広、すっぽんディフェンスで三井のHPを削った一ノ倉聡、後半に三井と対決する松本稔なども見逃せない。河田弟こと河田美紀男は前半でのvs.桜木の活躍シーン自体がカットされてたので「デカいだけであまり上手くないし気も弱い」みたいな見え方になってて少し気の毒。
そーいう感じでキャラ中心に感想書いた。
そういえば安西先生が「聞こえんのか?(あ?)」と一瞬怖くなって桜木をビビらせるコマが大好きだったが無かったのが残念。でも初見の人からしたら安西先生の過去を知らんし意味わからんだろうからカットか。その代わり奥さんとジョギングしてる場面や、グレて退部した三井がじっとり安西先生を見つめてる新シーン等が増えてた。
安西先生の声優の人も「優しい声だが本当は怖い部分も内包しており、大人だから怖い感じを出してないだけ」……って響きの声で良かった。
数十年ぶりに原作読んで本作を観た結果……全員好きな気持ちを抑えて考えると……やっぱ元主人公・桜木が好きかな。作品を引っ張る力がすごい。主人公から外した事でそれをより感じる事となった。あとゴリ、山王なら河田兄の魅力ね。
みんな思うだろうけど、過去の話……を三井、赤木、流川、桜木をそれぞれ主人公にして続編が観たい。過去の相手……陵南、翔陽、海南、豊玉……ちょうど4人の湘北メン+4試合で丁度いいじゃん!特に豊玉が観たい。
もしくは過去じゃなければ、リョータが三年生のキャプテンになった原作の続き?
しかし井上雄彦の考え方を考えると、山王戦を超える試合を思いつかない限り続きは作らないとは思う。何でもいいから観たいけどね。勿論おなじ手法での『リアル』『バガボンド』も観たい(本作は『リアル』っぽいから想像も容易だな)。
素直に最初から最後まで面白かったです。最初に書いたように、どうせなら公開初日に観て感想書きたかった。「井上雄彦が監督できるのか?」と「見(けん)」の姿勢になって出遅れました。どあほうですね。世界が終わるまでは……
未だスラムダンクは
大好きです。今度は嘘じゃないっす
そんな感じでした
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映画『THE FIRST SLAM DUNK』
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