
原題:악녀 英題:The Villainess 監督&脚本:チョン・ビョンギル 製作:ムン・ヨンファ 撮影:パク・ジャングフン 編集:ホ・スンミ 音楽:グ・ジャワン 製作会社:Independent Filmmakers Group BFG 上映時間:124分 公開日:2017年6月08日(日本は2018年2月10日)
アクションが話題になって『ジョン・ウィック』シリーズやジェームズ・ガンにも影響を与えた映画……で観たかったけど配信にいつもなかったがU-NEXTで配信されててやっと観れた。主演のキム・オクビン&ハ・ギュンはパク・チャヌクの『渇き』(2009)の主演もしてた。韓国映画って年に数本観るか観ないかなのだが、それは嫌いなわけではなく監督や俳優あまり知らんので観る切っ掛けがない。そんな自分でも知ってる2人だわ。本作のキム・オクビンは若い時の浅野温子に似てるなと思った。
暗殺者スクヒ(演:キム・オクビン)が『ハードコア』(2015)的なFPSアクションで犯罪組織に殴り込んで50人くらい殺害していく主観映像で始まる。
主観映像大好き、だけど段取りが大変すぎるためか『ハードコア』(2015)のイリヤ・ナイシュラーも主観映像アクションやめて『Mr.ノーバディ』(2021)とか『ヘッド・オブ・ステイト』(2025)とか普通のアクション映画撮るようになっちゃった。
この冒頭も凄く良い。まぁ多少ギャングたちが銃を持ったスクヒにどんどん来すぎだろうとか、まるで電灯に集まる虫であるかのようにスクヒの持ってる武器に自ら吸い寄せられて死んでいってるような気がしなくもないが、ここは素直にスクヒの主観アクションを楽しむ方が、人生をより豊かに生きることができるシコウ(思考、志向、嗜好、施行、指向、至高)であろう。
主観映像なので主人公の顔は見えないが建物の鏡に叩きつけられる時から少しづつ顔が見えるようになって「こういう顔なのか」と徐々にわかってくる演出が巧みですね。
無事、皆殺しにした後、警察に捕まったスクヒは暗殺者養成組織で微妙に整形されて別人となる……これ、「キム・オクビン似のスタント得意な若手が『整形で美人のキム・オクビンに変わった』という設定か?」と思ってたら、実はキム・オクビンは格闘技を2種類マスターしててスタント得意なので今昔どちらもキム・オクビンだった。無駄にややこしい。若手時代は鼻が丸く見えるのは、そういうメイクや角度やライティングでそう見せてるっぽい?個人的には親しみやすい若手時代の顔の方が好き。
父を殺された少女スクヒが、犯罪組織の男ジュンサン(演:ハ・ギュン)に助けられ犯罪者として育成され恋愛感情が芽生え父の仇を結婚する……しかし父の仇にジュンサンを殺され復讐で殴り込みに行ってる……というのが冒頭のシーン。
まずアドレナリンを一気に放出させといてから、謎の組織で育成され直す……という盛り上がる流れの中で、そのスクヒのオリジンを巧みに回想シーンが時系列バラバラでちょいちょい挿入されていく。回想シーンってタイミングが悪いと「あっ……昔の話か……」とテンション下がるがタイミングや順番が巧みなので観てても混乱しないし面白く観れる。
スクヒが強制加入させられたクォン部長(演:キム・ソヒョン)が仕切るエージェント養成組織は韓国政府の諜報組織っぽい。少女から育てて長生きできない使い捨て女性暗殺者を量産してて怖い国やで。
暗殺の腕だけでな充分ではなく、様々な所へ潜入しなければならないので様々な特技を磨く。スクヒは料理は苦手だが演技が上手く、美人ということもあり舞台女優という世を忍ぶ仮の職を得る。
組織では舞台があり、演劇など稽古している。
『ジョン・ウィック:パラベラム』(2019)で出てきた「殺しとバレエを教える」秘密組織は完全に本作からのインスパイアですね(その組織出身のアナ・デ・アルマス演じる暗殺者のスピンオフ『バレリーナ:The World of John Wick』(2025)まで作られた)。あとバイク搭乗や乗馬しながらの殺し合いとか『ジョン・ウィック:コンセクエンス』(2023)でちょっとしたアクセントみたいな感じで主人公が車にはねられる場面などもモロに本作からのインスパイアだね。でも、そもそも本作も『ジョン・ウィック』(2014)からインスパイアされて本作を作ったっぽいしお互い様か。スタントマン出身監督同士だから思考が似てるのかも。そういえばジェームズ・ガンが『ピースメイカー』〈シーズン2〉(2025)のポッドキャストで何度も本作のアクションを褒めてて「真似させてもらった!」と言ってたのは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』(2023)終盤の通路でガーディアンズが一人づつ敵を殺してるところをグルグルカメラが回転しながら見せてた評判いいシーンとかのことか(フェイズ4以降のエポックメイキングなアクションこれだけかも)。あと本作や『ジョン・ウィック』シリーズ……ほどじゃないけどワンカット風長回しアクションが増えた気もする。どれも好きだしお互い様ではあるが、本作は『ジョン・ウィック』シリーズやジェームズ・ガン作品ほど世界的メジャーなビッグバジェット作品ではないので、それらに比べると本作がちょっと報われてない感じする。
スクヒは政府の組織に拾われた時すでにジュンサンの子を妊娠していたので出産は許された。やがて初任務を成功させ、娘ウミと共に組織の施設外の外界に住むことを許された。
普通の集合住宅に住み始めたスクヒとウミは、隣りに住む男性ヒョンス(演:ソンジュン)と知り合い。スクヒは警戒するがヒョンスはスクヒと親しくなろうとグイグイ来てやがては信頼へを経て付き合い始めて結婚する。
だがヒョンスは例の政府の諜報組織の職員で、映画序盤から出ている。
ジュンサンの妻だったスクヒを「実はジュンサンのスパイかもしれない」と思った政府は、見張りとして一般人のふりをさせ近親者とならせた、それがヒョンス。だがヒョンスは組織でスクヒを監視カメラで見てた頃から彼女を本気で好きになってきてるので、騙してるのだが実際の恋愛でもあるという感じ。
だがヒュンスの序盤のグイグイ加減が凄くうっとうしい。
ピザの配達の代金を払ってスクヒに玄関を開けさせたり、雨の日に傘を持ってバス停で待っていたり、「ご主人はいますか?」「シングルマザーですか?」「◯号室ですか?」「それってデートのお誘いですか?」など、一切のオブラートなしにグイグイ来る、苦手なタイプだわぁ……と思った。だがこれくらいグイグイの方がいいのか?だが爽やかイケメンのヒョンスだから許される感じか、いや爽やかイケメンを突き抜けるくらいうっとうしかった……やはり序盤でヒョンスは「スクヒを気に入って一日に何回トイレに行くか監視カメラで見て数えてる」という激キモ要素があったからうっとうしさも加速したのかも。
ヒョンスの鬱陶しさだけでなく妊娠のあたりから「暗殺アクション映画を観たくて観始めたが妊娠出産や恋愛結婚とか、なんか主人公がどんどん重荷を背負って重苦しくなっていくな~」という、そういう意味での不快感があった。またスクヒとヒョンスが恋愛を深める描写が、韓国映画でありがちだが少女漫画みたいなラブコメになる。なんか本作には凄く精密機械みたいな感触を求めてたので、妊娠+出産+ラブコメ風恋愛+結婚……みたいな特に望まぬ展開ばかり来て、うわぁこういう映画かぁ……とちょいダメージあった。
とはいえヒョンスは実は監視役で騙してるのと、うっとうしい以外は、スクヒやウミを愛する男性でもあった。
そしてヒョンスとの結婚式、お色直しの途中で狙撃の命令が出る。
スコープを覗くとなんと死んだはずのジュンサン。ジュンサンの死体は顔が潰されていた、彼は死を偽装していたのだ。スクヒの上司クォン部長が、ジュンサン暗殺をスクヒにやらせようとしたのはスクヒが二重スパイかそうでないかを見るためか?
とはいえ、この時は的さえ外さなければ100%ジュンサンを狙撃できたタイミングだったのでスクヒにやらせず他の者にやらせてれば全てあっさり解決してたのに……なんて言っても仕方ない。
とにかくスクヒは、生きていたジュンサン、現在所属している組織、どちらを信じればいいのかわからなくなる。そんなスクヒにジュンサンはヒョンスが組織の者だとバラす。揺れるスクヒに色んな悲劇や真相が降りかかりラストバトルへいく。
ラストバトルは、スクヒが車のアクセル全開で固定させてボンネットの上に座り後手でハンドルを操り、ジュンサン一味が乗っている大型バンに乗り移り次々と殺害していく……ここの長回しワンカット風アクションシーンは本当に素晴らしい「MCUで、このシーンの10分の1くらいでもいいから、こんなアクションがあれば……」と思っちゃった。本当に素晴らしい。冒頭の主観アクションはちょっと「雑魚が主人公の武器に吸い寄せられてない?」って感じがあったけどこの場面は本当にカッコいい。そんでバスってとこがいいね。窓を破って入ったり、ドアから落とされそうになったり、落とした雑魚が別の車両に撥ねられて風車みたいに回転しながら遠くに飛んでいったり……そしてこのシーンの結末も……文句なく素晴らしい!
ただ前述したが中盤以降の「妊娠+出産、ラブコメ風恋愛+再婚、昔の男と再会、多くの悲劇…」そういった無駄にドロドロした要素、そしてどんでん返しの連続などは、かなり好みと正反対。だけどアクションとかキム・オクビンは最高なのでそこだけでかなり取り返した感はあるほどアクションが良かった。
それにしても中盤以降、観ながらそして観終えてしばらく「ジュンサンは一体何がしたいんだ?」「都合が悪いなら何でスクヒを殺さないんだ?」などよくわからない事が一杯なのでしばらく疑問に思い、なんなら「いたずらにどんでん返ししたさすぎて全く無駄な複雑さじゃないか?」などと不快にも思ったのだが……結局のところ「ジュンサンはスクヒに並々ならぬ執着を持っていて、彼女のあらゆる感情、運命など全て自分が掴んで自分の目で見たい、そして最後は自分を殺させて彼女を解放することで自分の命ごとその執着を手放したい……というタイプの、スクヒを愛する異常な育ての親だったんだな」
と、そういう結論がつくと何だか自分の中で納得がいったのでジュンサンや、無駄に複雑な展開もそれほど嫌じゃなくなったかも。
要は、スクヒを愛しながらも捨ててどっか行った男が、新しい男と新生活してるスクヒを見て「いや、やっぱ俺のもの!その怒りさえも」って感じで無茶苦茶しにきた男にNOと言って初めて人生で自由を得た女性の話……それをアクションで表現したもの、という感じの映画かも。
だが、スクヒはジュンサンをやはり殺せず、仕方なくジュンサンが自分を殺しやすくなるような事をして、それで反射的にスクヒは決行したので、最後の決断をしたとはいえないよね。だからこそ最後のカットでスクヒが精神崩壊した感じで終わったのかな。
可哀想だし、スクヒに同情心を抱いてるクォン部長がきっと保護してくれただろう、そう思いたい。
そんな感じでした
The Villainess (2017) - IMDb
The Villainess | Rotten Tomatoes
The Villainess (2017) • Letterboxd
悪女/AKUJO - | Filmarks映画
