gock221B

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『霊的ボリシェビキ』(2018)/霊障より怪談をメインに据えた百物語映画で高橋洋の映画で一番おもしろかった🎙


監督&脚本:高橋洋 製作国:日本 上映時間:72分

 

 

本作の監督、高橋洋氏は主に脚本家として知られてて『女優霊』(1996)やホラー史上に輝く傑作ホラーで90年代の時はエヴァより繰り返し観てた『リング』(1998)とかプールがあの世と繋がるシーンが素敵な『リング2』(1999)や隠れた名作『おろち』(2008)や登場人物の女性の現実が可哀想過ぎて肝心の呪いの家や霊障が全く怖くなくイマイチだった『呪怨:呪いの家』(2020)、あと『本当にあった怖い話』『学校の怪談』『怪談新耳袋』などホラーオムニバスドラマの短編など……主にJホラーの脚本で知られてる方。
あと『復讐 運命の訪問者』(1997)、フランス映画としてリメイクされる事が決まった『蛇の道』(1998)、『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)などの盟友、黒沢清作品の脚本や共著でも知られる(黒沢清高橋洋の共著は霊を全く信じてないが映画に出てくる霊には興味ある黒沢清と現実の霊を信じすぎてる高橋洋との間の空気感が面白い)。

高橋洋氏の監督作だと、観念的すぎて難しかったし内容もう完全に忘れた『恐怖』(2010)とか映画美学校まで観に行って「『心にスタンガンを持て』というけど心に持つなら銃でいいのに何でスタンガンなんだろ?」と未だに疑問な『旧支配者のキャロル』(2011)、YoutubeにUPしてるから観やすい短編『夢の丘』(2019)……を始めとした美学校関係の短編とかくらいしか観てない。高橋洋監督作はどれも高橋洋の高い理想に予算や色んなものが追いついてない印象が強かった。とりあえず高橋洋がいつも真剣なので雰囲気がよく「言葉の意味はよくわからんがとにかく凄い自信だ」と思わされる印象が強い。
高橋洋の作品や脚本には幽霊、あの世、杖をついて片足が不自由な強い中年女性、姉妹の確執、悲惨な目に遭う女性、実在した悲惨な事件の記憶……等の要素が頻出する。
アマプラのレンタルであったので観た。本作は文句なく面白かった。

ネタバレ少しあり

 

 

 

 

Story
壁にレーニンスターリンの写真が飾られ集音マイクがそこかしこに仕掛けられた奇妙な施設。集められたのはかつて人の死や”あの世”に触れたことがある男女数名。
幼い頃“神隠”に遭遇した若い女性、由紀子韓英恵)も“神隠し”以降、現実に対して抱えていた違和感の正体を探るべく、この心霊実験に参加した。
強すぎる霊気のためにデジタル機器が使用できないこの場所で静かにアナログのテープが回り始め、テープには“霊的革命”が記録されてゆく――

心霊実験に参加しているメンバーは、主催者の男性と助手の女性。
メンバーの御意見番っぽい雰囲気の、片足が不自由で杖をついた霊媒師の女性。
刑務官の男。初老の女性。主人公・由紀子の恋人の青年。この人達はこのオカルト団体の会員らしい。そして由紀子の恋人に連れられて由紀子も参加した。
この団体の目的はよくわからないが”あの世”を研究しているらしい。そして今回の、この心霊実験によって”あの世”そのものをここに呼び寄せようというのだ。
その心霊実験の内容とは、参加者がそれぞれどんなかたちでもいいから「死に触れた時の話」を、この霊気の高い場所でしていくというもの。「怪談を順番に百話語り終えると本物の物の怪が現れる」と言われた怪談会スタイルの一つ「百物語」みたいな感じ。
映画は、主催者二人を除いた5人が死の話をする……その語りが本編の殆どを占める。勿論、怪異は少し起こるもののそれを描写するのがメインではなく怪談を語る「百物語」が映画のテーマらしい。自主制作映画なのでかなり低予算な感じで時間も短い、という理由もあるのかな。だが語りの連続が低予算で最大限の効果を生んでてそこら辺によくあるホラー映画より良い。
だから本作は『残穢【ざんえ】住んではいけない部屋』(2015)と同じく、怪異よりも「劇中での語る話」がメインの「百物語系ホラー映画」とでも呼びたい内容。『残穢【ざんえ】住んではいけない部屋』(2015)もそうだが上品だし純粋な怖さが出ていて面白いと思う。にも関わらず後に続くJホラーがなかなかないのは優れた怪談とその順番や俳優の演技、「怪異があまり起こらなくても怖くする」といった映画を作るのは単純に難しそうだからあまり作る人は居なさそうだ。そういえばせっかく面白かった『残穢【ざんえ】住んではいけない部屋』(2015)も最後に本物の幽霊出して台無しにしてたな。
高橋洋は動画やラジオや舞台などで極たまに怪談を話すことがある、僕は高橋洋の怪談が凄く好きで滅多に話さないが、話し方、情報を出す順番……など怪談にも妙にこだわりがある様子が伺える。それ以上に高橋洋が真剣なのが伝わってくるのが良い。何か知らんが「あの世と繋がる」を始めとしたこだわりを超えたオブセッションが怪談や創作物に頻出する。「低予算でいけるからホラーでいっちょメイクマネー」というより本当に幽霊やあの世が好きな感じが良い。だから本作は単純に高橋洋の怪談を6つも聞ける映画として楽しめる。
なお本物のボリシェビキレーニンが率いた革命党派)についてはよく知らないし興味もないのでスルー。 ボリシェヴィキ - Wikipedia
単純に「超常現象で革命を起こすぞ」みたいな意味だと受け取った。

劇中の百物語の内容はここで書くと台無しなので詳しく書かないので各自、観て聞いて欲しい。百物語のラインナップは

〈一日目〉
1:刑務官の男「連続殺人を犯した死刑囚を死刑にした話。笑い声
2:初老の女性「水害に遭った被災地で顔が視認できぬ裸足の女に会った夢の話」
3:霊媒師「山で”這っている何か”を見て足が不自由になり霊能力に目覚めた話」
4:由紀子「幼い頃、三ヶ月間、神隠に遭うが帰還した話」

〈ニ日目〉
5:由紀子「母が死んだ後、押し入れにあった誰かに似てた人形の話」
6:由紀子の恋人の青年「ある殺人事件の話」

大きく分けて6つ。

1:映画冒頭の刑務官の話は心霊の話ではないのだが一言で言うと「凶悪な受刑者を死刑にしようとしたら死刑囚が信じられないほどの怪力で抵抗した」という話。現実的に言うと「死を目前にした者が生への執着から火事場の馬鹿力を発揮した」というだけの話なので確かに死に接近した話ではあるが社会の中の現実的な話ではある。だが刑務官は「あれは本当に死刑囚だけのオリジナルの力だったのだろうか?」と超自然的な現象だったのではないかという雰囲気で語る。この語り口が本当に見事で最初から引き込まれる。
話の終盤、主人公・由紀子の彼氏が立ち上がって「それって『人間が一番怖い』って話じゃないですか?」と面白くない大学生のようなイチャモンを付ける(由紀子の彼氏が立ち上がった瞬間に「あ、なんかイチャモン付けようとしてるな」とわかる)。「みんな違ってみんな良い」などと並ぶこの世で最もしょうもない言葉。彼が文句つけようとしたら速攻で霊媒師の女性が杖でブン殴る!「せっかくの面白い話を邪魔すな」とこちらが思ったと同時に霊媒師の物理攻撃が炸裂するので気持ちがいい。更に霊媒師は実験場の磁場を狂わせるという理由で由紀子の彼氏が持っていた数珠も焼却する。
霊媒師と主催者達は「せっかくの霊気が散ってしまった」と苛立ち、仕切り直すためにボリシェビキ党歌を唄うメンバーたち。
現実的に、怪談を話してる時に水を刺す奴がいたら白けて空気が悪くなるので共感してしまう。「この映画は結構おもしろそうだな」と期待が高まる。
霊気が散ったらしいが、この看守の話以降、実験場では死刑囚の不気味な大きな「ウワハハハ!」という笑い声が要所要所で響き渡るようになるのが凄く良い。でもこの声が聞こえてるのは刑務官だけっぽいから彼の個人的な問題なのかもしれない。

2:次は初老の女性が語る夢の話。後で明らかになるがこの初老の女性は昔、霊能力があったが今は消えてしまった霊力を取り戻すために参加しているようだ。
大きな水害があった場所の夢……とうぜん東北の震災のことだろう。現実の事件をからめがちなのも高橋洋作品でよくあるやつ。その夢の中には「ぼやけて顔が見えない」裸足の不気味な女性が出てくる。この女性も後で何度も出てくる。
この話は現実の出来事じゃなく「印象に残った夢の内容」という事もありあまり面白くも怖くもないのだが怪談よりもこの初老の女性役の俳優の演技がとにかく怖い。
この後も、この女性は由紀子が話す途中で悲鳴をあげるその悲鳴の声やタイミングなどが完璧すぎて場の空気を最高のものにしてくれている。あと怖い話をしたり聞いてる時の目を見開いた顔が単純に怖い。リアクション最強メンバーだ。

3:三番目は霊媒師の話。片足が不自由な杖の女性は高橋洋作品でよく出てくる。霊的なアドバイスをよくしているしこの女性は現場監督的な役割のキャラクター。
彼女の話は2ちゃんの洒落怖「くねくね」とほぼ同じ話。
話自体は特筆すべきところはないのだが、話の装飾や付け足しが良いタイプの話。
”山を這う何か”を見たこの女性の弟は翌朝に絶命し、女性は足が不自由になり代わりに霊的な力を獲得したという。
「どんなものを見たのか」と訊かれても「答えたくないし言っても伝わらない」と言う。見えないものが一番怖いのでこれはベストな回答だ。そして主催者は「この霊媒師さんに色んな写真を見せたが、これが一番近いらしい」と言って写真を取り出す。
それは「コティングリー妖精事件」の写真だった。これはオカルトに傾倒していた『シャーロック・ホームズ』シリーズ作者のコナン・ドイルも夢中になった事件。二人の少女が妖精と写った写真が話題になった事件。
コティングリー妖精事件 - Wikipedia

実際に起きた騒ぎの真相は、少女が絵本から切り抜いた妖精の絵と一緒に写ったものだと言われているが1917年当時にそんな合成写真を撮る者など恐らくいなかったがために多くの大人も信じてしまったという事件。
霊媒師が見たバケモノが妖精に似ていたというわけではなく「『コティングリー妖精事件』の写真に写っていた妖精のような感じ」が一番似ているという。
黒沢清がよく『降霊』などでも窓際の幽霊を撮る時に大きく引き伸ばした平らな写真を用いて幽霊を描写していた。


平面……二次元の幽霊を三次元世界に混在させることによって「この我々が居る世界(三次元)のものではない何か」を表現していたのだろうが、霊媒師で山で見た”見てはいけないし説明できない何か”も「明らかにこの世のものじゃない」ものだったのだろう。それを名前も真相も素敵な「コティングリー妖精事件」の写真一発で説明してくれるのが鮮やか。というのも僕が以前から「コティングリー妖精事件」が名前も内容も大好きだったから……。
高橋洋と黒沢清の対談によると霊媒師で山で見たバケモノは高橋洋の知人が実際に目撃したが形容できないから説明できないものだったという、実話だったのが驚きだが、こういった口頭で形容すらできないものをどうやって映像化するのか想像するのも楽しいね。予算がないということもあって高橋洋はコティングレー妖精事件→二次元→この三次元ものじゃないから形容できない、という台詞で処理したのが趣きあるし想像力を掻き立てられて良かったのかもね。
ここで一日目の実験は終了。昼間だったのに何故か急に屋外が真っ暗になる。心霊実験が順調に進んでいるのだろうか。

 

 

4:夜になるが落ち着かない由紀子は廊下に出ると、初老の女性にばったり会って流れで自身が神隠しにあった時の話をする。
話してる途中、由紀子は初老の女性の背後に、初老の女性が夢で見たという”顔が見えない裸足の女性の霊”を見て恐怖する。
全然関係ないけど僕は由紀子役の韓英恵さんが昔から好きで(異性としての意味で)、たぬき系の顔が好きだが唯一、きつね系だが韓英恵さんの目とか頬骨とか顔全体のフォルムを見たら凄くたまらない気分になります。特に理由はないが脳に直接来る顔。

5:二日目。由紀子は神隠しから帰ってきた後の日々について話す。ある日、平面みたいな母のドッペルゲンガーを目撃、そして母の死後に押入れで見つけた人形の話。これは単純に話の内容が怖い!あと単純に話を聞いてる初老の女性が漏らす「ひいいいぃぃえ」みたいな悲鳴がめっちゃ怖い。話も怖いが初老の女性のリアクションで数倍怖くなっている。

6:由紀子の彼氏の恐るべき秘密の話。その話の後日談で青年は自分と他人の境目が曖昧になったというデヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』(1997)的な話をするが、この話は途中まではシンプルなヒトコワなんだが、それよりも彼氏が後半で語る自分が誰だかわからなくなってる辺りがほんのり怖い。

実験が成功間近のせいか声がしたり夜になったりと怪奇現象が増えてくる。
軽く取り乱した看守の男がトイレで顔を洗ってるが途中で停電になったりする。
このトイレのシーン、いかにも何か起きそうだし何が起きるかわかんないから凄く怖い。実際たいした事は起きなかったが冒頭から色んな怖い積み重ねが来てるからこのトイレでもっと強烈な事が起きたらヤバいほど怖かった気がする。

それで、裸足の女の霊の正体とか由紀子の謎とか色々明らかになりつつクライマックスに近づく。それでも謎のまま終わる要素も多いが想像力を掻き立てられるのでOKだ。
それにしても由紀子の実家に届いた手紙、あれ出したの由紀子だよね。どうやって届けたんだろう。それを考えるとめっちゃご飯が進む。そして何で手紙をこの会の人達が持ってたんだろ?主催者が見せてきた理由は生贄候補の由紀子の彼氏に衝撃を与えて実験を進めるためかな。由紀子の彼氏が向こうを向いた由紀子の顔を見てビビった時は、顔が被害者の顔に変わってたのかな。最後に皆が呼び出そうとしていたバケモノは由紀子で実は最初から出てたってことでいいのかな。で、その由紀子も自分のことを自覚しきれないまま死んでしまったが代わりに本物の由紀子がバケモノ化して街に放たれてしまったってこと?
前述したように、色んなタイプの怪談と謎が多くて色々想像して遊べる終盤とか、今までの高橋洋作品で一番面白かった。
贅沢言うなら「怪談の連続だけで」あのトイレのところで決定的に怖い怪異が出てきて刑務官はあそこで死ぬとか、予算があれば霊媒師が見た見てはいけないやつが最後にちょっとでも出て皆を殺すところとか観たかった気もするが描写不可能な存在っぽいから無理か。

とにかく本編よりも、終盤までの皆がする怪談や演技それが一番面白かった百物語映画でした。
ホラー映画は多く作られてる割には支持する人が異常に少ない不思議なジャンルで、評価サイトなど見るとわかるがホラーは全体的に評価が低い。比較的一般人気があるのは怖くてわかりやすくて物語も最後まで良い『リング』(1998)だけが未だに一番まともに評価されてる気がする。本作も人によっては「何が面白いのか全くわからん!」という人のほうが圧倒的に多い気もするがホラーや怪談が好きな人ならいけるだろう。

 

 

 

 

そんな感じでした

『復讐 運命の訪問者』(1997)/エンターテイメント性高めな映画でした🔫 - gock221B
『予兆 散歩する侵略者 劇場版』(2017)/本編は愛の話だったが、こっちは〈心の弱さ=悪〉という話かな 👉 - gock221B
『呪怨:呪いの家』(2020) 全6話/ソーシャルホラー色を強めて換骨奪胎したドラマ。可哀想な聖美🏠 - gock221B

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映画『霊的ボリシェヴィキ』公式サイト

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