gock221B

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『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021)/期待せずスルーしてたが何となく観たら過去作やアーガイルより面白かった。観ないとわかんないもんですね🕴


原題: The King's Man 監督&脚本&制作:マシュー・ヴォーン 脚本:カール・ガイダシェク 制作:デヴィッド・リード、アダム・ボーリング 原作:マーク・ミラー&デイヴ・ギボンズ 製作国:イギリス、アメリカ 上映時間:131分 公開日:イギリスorアメリカは2021年12月22日(日本は2021年12月24日) シリーズ:『キングスマン』シリーズ、マシュー・ヴォーンのスパイ映画ユニバース(仮)第3作目

 

 

『キングスマン』(2014)『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)の前日譚。
独立スパイ組織キングスマン結成秘話。
『ARGYLLE/アーガイル』(2024)を観て、そういえば前日譚のやつ観てないなと思い、アマプラ見放題にあったので観た。
公開時はコロナ禍の緊急事態宣言の時……だったかな?コロナが無くても何か地味そうだな……と思って物凄く興味なかったのだが実際観たら一番面白かった。観ないとわかんないもんですね。

ネタバレあり

 

 

 

 

国家に属さない秘密のスパイ組織〈キングスマン〉誕生秘話。
1914年〈羊飼い〉と呼ばれる怪人のもとに世界各国から集まった怪人達〈闇の狂団〉は世界各国の中枢に潜り込み、従兄弟同士であるイギリス、ドイツ、ロシアの各最高指導者を裏から操り破滅的な第一次世界大戦を起こそうと企んでいた。

何者かが暗躍している事を察知した英国貴族オーランド・オックスフォード公(演:レイフ・ファインズ)、その息子コンラッド(演:ハリス・ディキンソン)、執事ショーラ(演:ジャイモン・フンスー)とポリー・ワトキンズ(演:ジェマ・アータートン)達は秘密結社に立ち向かう。
彼らは世界大戦を止めることができるか――

みたいな話。
観る前は「なんか地味だな……主人公もレイフ・ファインズだし」とか思ってたが、第一次世界大戦当時の実在した政治家や怪人物たちがわんさか出てくる。
……という内容が、同じくイギリスの怪人アラン・ムーア(『ウォッチメン』書いた人)のアメコミの中で僕が一番好きな『リーグ・オブ・エクストラオーディナリー・ジェントルメン』シリーズ(1999-2012)に似てるなと思いどんどん惹き込まれていった(『リーグ……』はイギリスの童話や小説や映画など、ありとあらゆるイギリスの架空のキャラクターが一堂に会して秘密結社と戦う内容)。

主人公のオーランド・オックスフォード公は、英国軍人だったが戦いに嫌気が差し、退役してからは不殺の誓いを立てて赤十字の活動を行っていたが、やがて国家に頼らない独立した諜報機関設立を目指す。
ロシアの怪僧グリゴリー・ラスプーチン(演:リス・エヴァンス)が世界大戦の引き金になる情報を諜報員から聞いたオーランド達はラスプーチンをブッ殺すためにロシアに飛んだ。また、成人直前で戦争に行きたくてたまらない息子コンラッドもオーランドの諜報機関キングスマンの前身)に加わり共にロシアへ。
そこで、脚が悪かったオーランドはラスプーチンに脚をベロベロ舐めまわして治してもらったり、ラスプーチンラスプーチンで怪しいと思っていたオーランドの脚をわざわざ治した後で殺そうとする。オーランドは息子や仲間たちと力を合わせてラスプーチンを倒す。
本作を観た人が、やたらとラスプーチンが良いと言ってた通り、ここまでの時間は、主人公のオーランド達があまりに真面目すぎたためか興味が持てないまま観てたのだが、ラスプーチンの登場で一気に目が覚めて映画に惹き込まれた。
90年代の格ゲー『ワールド・ヒーローズ』シリーズもまた実在の英雄が戦うというゲームで、そこに出てきたラスプーチンはクルクル回転してスカートで敵を斬ったり男も女も秘密の花園に引きずり込み何やら怪しいことをしてダメージを与えるというインパクトの強いキャラだった。
本作のラスプーチンもまた、ロシアバレエをを踊りながらクルクル回転して攻撃したり、男も女も問わずSEXしまくるという感じで、ワーヒーとほぼ同じキャラクターだったので「やっぱラスプーチンってこういう印象なんだな」と思った。
ルックスもバッチリだし、そのキャラクターも死を全く恐れず、いやむしろ死ぬのも気持ちよさそうだから「できそうなら殺してくれ?」って感じでオーランドたち全員を相手にする、本当に「怪人」という異名がピッタリのナイスキャラクターだった。
あまりにインパクト強すぎたので、てっきりラスプーチンが〈羊飼い〉に下剋上を果たしてラスボスになるかと思ってたらあっさり死んで、中ボスだったので意外だった。

 

父と共にラスプーチン退治した息子コンラッドは、そのまま父のチーム入りするのかと思いきや、父の反対を振り切り軍に入り大戦に参加。英雄的な活躍をするもののあっさり戦死してしまう。これも又意外だった。
というか冒頭は、オーランドの妻が戦死してしまいオーランドは「息子は絶対に護るぞ」と誓うところから始まった。だから息子の従軍に反対してたのだが、息子はそれを窮屈に感じ、結局戦争に行って死んでしまった。
妻を喪い、フィクションでは「未来」を象徴すると言ってもいい息子まで喪うとはね、老兵が妻や子を見送ってまでも戦い続ける……という話は意外と少ない展開だし「そういえばマシュー・ヴォーンってツイストが効いた展開が得意だったな」と思い出し、本作への興味がどんどん湧いてきた。
オーランドは落ち込んで飲んだくれるが執事ポリーの激もあり、立ち直り闇の教団潰しへと再起する。
戦う映画では大抵、第二幕ラストで敗北して第三幕で再起して勝利する……そんな構成が多い。だが、まさか希望に溢れた若い息子が死ぬなんて……。しかも戦場での誤解が原因となった同士討ち……という避けられた死。息子コンラッドも死の直前、自分の戦争行きをずっと止めていた父オーランドを振り切って戦地入りした事を悔いていたり、思いがけず心を動かされた。
『キングスマン』シリーズを単純に拡張するためだけの前日譚だと舐めてたけど、オーランド父子のドラマが思いのほか分厚かった。正直言って『キングスマン』(2014)『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)『ARGYLLE/アーガイル』(2024)より本作の方がずっと惹き込まれた。それら三作は英国っぽいブラックジョークが強く、それもまた良いんだけどどれも少し引っかるところもあったんですよね。そこは個人差があると思うけど。本作の場合すごく丁度よかった。
で、いよいよラスボス〈羊飼い〉とのラストバトル。
〈羊飼い〉は劇中、ずっと顔が隠れていて正体は誰か?と観てる人に想像させる。
中盤でオーランドの盟友であるキッチナー指揮官(演:チャールズ・ダンス)が魚雷を喰らって死亡した。
で、そのキッチナーを演じてたチャールズ・ダンスって『ゲーム・オブ・スローンズ』〈シーズン1-8〉(2011-2019)で恐ろしく冷酷無比な領主タイウィン・ラニスター役してたイギリスの有名な俳優なんですね。そんなキッチナーも何もせず死んでしまったし〈羊飼い〉の髪型とか背格好もキッチナーを思わせるよう描いてたから「〈羊飼い〉は絶対、キッチナーだろうな~」と思ってました。
でも、ここも捻りを加えててキッチナー……だと思わせてキッチナーではなかった。
だが、ここは本当に「〈羊飼い〉の正体はキッチナーだと何度も観る人に思わせて……違う小者っぽい奴でした~!」という引っかけがやりたいだけだったので「ここは素直にキッチナーの人のラスボスが観たかったな」と思った。
だが後から思えば、〈羊飼い〉はやたらと家畜や部下に八つ当たりする小者っぽいキャラだったので最初からヒント出してたんだよね。
そして目的を果たしたオーランドはキングスマンを結成。そこには亡き息子の戦友(アーロン・テイラー・ジョンソン)の姿が……彼はランスロットの称号を得た。オーランドは勿論アーサーね。
アメリカ大統領はウイスキーのステイツマンをやたら飲んでたし諜報組織〈ステイツマン〉も出来るんでしょうな……それとももう出来てるのかな?もうステイツマンの設定も忘れちゃってよくわかんないけど。
で、〈羊飼い〉は一旦倒すが狂団には生き残りが居て、まだ健在。そして新メンバーにはレーニンヒットラーの姿が……という感じで続きが観たくなった。いや、はっきり言って現代のキングスマンより面白いと思うのは僕だけ?歴史上の人物や事件をいっぱい使えるってのが良いよね。
でも本作は確かヒットはしなかった気もするし、次の作品はキングスマン3っぽいし、本作の続きは今のところ作られるかどうかよくわからない。
観る前は地味だと思って観なかったがいざ観てみると、過去2作や『ARGYLLE/アーガイル』(2024)より面白かった。食わず嫌いして観もせず決めつけないでちゃんと観るべきだなと思った。
ラスプーチン戦もエレベーター攻防戦も〈羊飼い〉戦のアクションも良かったしね!
なんというか現代のキングスマン系は、装備などがハイテクすぎたりアクションが漫画チックすぎるところがちょっとなと思ってたけど本作は、昔の話のせいか割と普通のスパイものっぽかったんですよね(ラスプーチンなどの怪人以外)そこが良かったです。

 

 

 

そんな感じでした

gock221b.hatenablog.comgock221b.hatenablog.com『ARGYLLE/アーガイル』(2024)/主人公エリーの秘密が明らかになる前の平凡だった時の主人公や本編の方が面白かったし、どんでん返しが5回も6回も起き続けると「もうどうでもいいから結果だけ教えろ」という気持ちになる😾 - gock221B
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The King's Man (2021) - IMDb
The King's Man | Rotten Tomatoes

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『ARGYLLE/アーガイル』(2024)/主人公エリーの秘密が明らかになる前の平凡だった時の主人公や本編の方が面白かったし、どんでん返しが5回も6回も起き続けると「もうどうでもいいから結果だけ教えろ」という気持ちになる😾


原題:Argylle 監督&制作:マシュー・ヴォーン 脚本:ジェイソン・フックス 製作会社:マーヴ・スタジオ 上映時間:139分 製作国:イギリス、アメリカ 公開:2024年2月2日(日本は2024年3月1日) シリーズ:『アーガイル』トリロジー第一作目、マシュー・ヴォーンのスパイ映画ユニバース(仮名)第4作目

 

キック・アス』(2010)一作目、『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(2011)、『キングスマン』シリーズなどでお馴染みのマシュー・ヴォーンの新作。
この人の映画はいつも凄く良い部分と、ちょっとどうかな……という部分がいつも同居している。人によってその部分が違う。
多かったのは『キングスマン』(2014)のクライマックスでギャグみたいに敵を皆殺しに描いたところが苦手という人は当時多かった。僕は、そういうところは「最初から殺人をギャグとして描きたい人なんだな」と思って気にならなかったが、『キングスマン』(2014)で生き残ったサブキャラを『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)で大して意味なくバンバン殺したのが印象悪かった(あの同級生の女の子とかその師匠やハゲの仲間ね)。面白半分の殺人は気にならなかったが仲間を適当に殺すのは嫌だったということで、この2つは根底では同じものがあるのかもしれない。彼の映画は、つまらないものはなくどれも面白いと思うのだが他にも細かい気になる事が多々あり「ハズレはなしどれも面白いけどイマイチ手放しで最高!と絶賛しきれない監督」という印象。
本作は主演のブライス・ダラス・ハワードサム・ロックウェルが好きな俳優だし、ヘンリー・カヴィルもスパイものも好きだから久々に観に行った感じ。

ネタバレあり

 

 

 

 

愛猫アルフィーと暮らす内気な人気小説家エリー・コンウェイ(演:ブライス・ダラス・ハワード)はスパイ小説『アーガイル』シリーズの著者。
スパイ小説『アーガイル』の内容は劇中で少しだけ観れるが「角刈りスパイのアーガイル(演:ヘンリー・カヴィル)やマッチョ相棒のワイアット(演:ジョン・シナ)、仲間のキーラ(演:アリアナ・デボーズ)等が大活躍する」という内容。
ところがエリーの執筆したスパイ小説『アーガイル』の内容が偶然、現実のスパイ組織や陰謀に酷似しすぎていたため実在するスパイ組織から命を狙われる。
実家に帰省しようとしたエリーは男たちに狙われるが、組織の陰謀を正したいスパイエイダン(演:サム・ロックウェル)がエリーを助ける。
こうしてエリー&猫は現実のスパイ、エイダンと敵の陰謀を探しながら逃避行する――

という内容。
ヘンリー・カヴィル演じる角刈りスパイ”アーガイル”が主人公だと思ってたら、ブライス・ダラス・ハワード演じる小説家が主人公だった。ポスターや予告でアーガイルばかり目立ってるから彼が主人公かと思った。だけどブライス・ダラス・ハワードも好きだから別に構わない。
ブライス・ダラス・ハワードは映画一家に生まれた映画サラブレッド女優。2000年代は痩せた少女を魔法で無理やり大人にしたって印象の美女だったが若い時はあまり興味なかったが約10年前の『ジュラシック・ワールド』(2015)辺りから体型がふっくらし始めてきて気になってきた。下半身が全体的に太く上半身もほどほどに太い……でも太りすぎずくびれとかはある、そして元々細いせいか顔は細いまま、そんで未だに少女っぽい雰囲気が残ってる……という中年男性が最も好みそうな中年女性の体型。ふくらんだり痩せたりを繰り返してるが本作はかなりふっくらしてる塩梅で顔も丸い。だがどんくさい小説家という役だし合っていると言えば合っている。
あと『マンダロリアン』〈シーズン1-3〉『ボバ・フェット/The Book of Boba Fett』(2021-2022)で4話も監督しており、SWシリーズの監督の一人でもある。そういう感じで色んな魅力がある。
もう一人の主人公スパイのエイダン役はサム・ロックウェルで、僕はかなり好きなのだが彼は調子に乗った嫌な奴の役が最も輝くが、こういうワイルドで強い男役はあんまり合ってないような気がした。
「おとなしい女性が、荒っぽいタフガイ男性と冒険する」という『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』(1984)とか『ロマンシング・ストーン 秘宝の谷』(1984)とか最近だと観てないけど『ザ・ロストシティ』(2022)とか?、地味に昔からよく作られるタイプの映画。男はワイルド男主人公に、女性はタフガイに守られるおとなしい女性に、それぞれ感情移入して楽しむ、そんでタフガイと女性は冒険を通じて愛が芽生えてラストでキス……と、こう書いててもやはり今もうこんなハーレクイン小説みたいな筋書きは古い。今だと男も女も戦って別にくっついたりしないのが主流。
そう思いながら2人と一匹の冒険を観てると、変化があった。
ここからネタバレが増えていくので、自分で観たい人は御注意。

 

 

「小説家の書いた内容が現実の陰謀と偶然一致してたから狙われた」という事ではなく
「エリーは実は凄いスパイのレイチェル・カイルだった。敵に小説家だと洗脳されて、敵が知りたい秘密を小説として描くのを待っていた」
という事でエリー……レイチェルの知っていた現実は現実ではなかった。
そしてエイダンはレイチェルと恋人同士でもあった相棒、エリーが書いていたスパイ小説でいうとジョン・シナが演じていたマッチョ相棒。エイダンはマッチョではないがエリーの潜在意識に眠る「頼もしい相棒兼恋人エイダン」をマッチョなキャラとして書いていたのだろう。
という事で中盤は、レイチェル&エイダンというWスパイの活躍を描く映画に変化した。
ここでも「両親だと思っていた2人は陰謀組織のボスと洗脳を担当した心理学者だった」とか「エイダンと共に悪を暴こうとしていたレイチェルは実は二重スパイで本当は悪のスパイだったのでエイダンを撃つ」「いやいや本当は正義を演じつつ悪を演じてるだけの正義のスパイだった、エイダンも無事」
……といった感じでどんでん返し……ってほどじゃないけどひねりの効いた展開が続く。
で、終盤はレイチェルとエイダンがシンプルに大活躍して組織を壊滅させる。
カラフルな色とりどりの催涙弾を撃って、その煙の中で愛し合うレイチェルとエイダンが互いを見つめ合ったままダンスのようにスローモーションで回転しながら敵を撃ち殺していく。これは『キングスマン』(2014)で好評だった(そして一部に不評でもあった)上級市民皆殺し描写を思わせるマシュー・ヴォーンっぽいシーンだった。
その後は重油で滑るし引火が怖いのでナイフ・ファイティングになる。レイチェルはスケートが得意だったらしいという自分の記憶を信じてフィギュア・スケートのように滑って敵を全員斬り殺す。
そんで何だかんだ細かい捻りを加えつつ敵組織を壊滅させて一件落着する。
レイチェルが強すぎてハラハラしないので一回、猫が入ったリュックサックに敵の銃弾が命中して「ニャッ!」と猫が叫ぶ。ピンチを抜けた後でリュックを確認したら猫は無事だった。しかしマシュー・ヴォーン監督は大して意味なく味方を殺したりするので「マシュー・ヴォーンなら流れ弾で猫をころしかねない」と猫がめちゃくちゃ心配だった(本作で唯一ハラハラしたシーン)。
……と書くと何だか楽しそうな映画に思えるが(実際ある程度は面白い)「エリーは実はスパイのレイチェルだった」と明らかになって以降の、どんでん返しにつぐどんでん返しやアクションの数々!……よりも、エリーと猫とスパイが普通に逃避行してる方が楽しかった。
どんくさ小説家のエリーもエイダンに「君が書いた小説は全部、すごいスパイや敵組織の行動と一致してるくらい凄いんだ!だから、ここで小説ならどうするか考えてみて!」といった感じで「エリーが内気でどんくさくて全く戦闘はできないがスパイ小説家ならではの想像力を活かす、そしてそれをスパイのエイダンが実行する」……というこの平凡な前半の方が面白かった。
中盤以降は「エリーは凄いスパイのレイチェルだったので普通に強いし、エイダンと協力して敵を倒しました」という、こっちの方が正直つまんなかったんですよね。
スパイのレイチェルより、陰キャ猫おばっさんエリーの方が魅力的だったし。
凄いスパイにはとても見えないふっくら体型熟女のレイチェルが暴れまくる映像は新鮮なものがあったが……。
またエイダンが事ある毎に、どんくさいエリーと猫をなじったりする。本作の中に入ってエイダンになったつもりで考えたら「愛し合っていた恋人兼凄腕の相棒だったレイチェルが憎い敵組織に洗脳されて内気でどんくさい小説家に変えられた」のだから「小説家エリーとか嫌だ!猫も好きじゃなかったやん!」と嫌う気持ちはわからないでもない。だけど、さっきエリーもレイチェルも同時に知った僕から見たら「エリーの方がキャラも本編も面白かったぞ」という気持ちが強い。だからそういう観客視点で見るとエイダンがエリーを貶すのは嫌だった。
エリーの正体以外にも、本作は明らかになる真相がめちゃくちゃ多い。「スパイ映画はそういうもの」という事はあるが、それにしても多い。
「アーガイルが主人公だと思ってたらエリーが主人公だった」というスタート地点もちょっとしたどんでん返しと言えるし。
だが「実は真相はこうだった!」というのが、ここまで多いと正直どうでもよくなってきて「もうどうでもいいから結果だけ教えろよ……」という気分になってくる。やっぱメリハリが大事ですよね。『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』 (2022)も、最初は凄い映像や展開を面白いと思ったが、凄い展開や映像が二時間近く延々と続くから後半一時間くらいもうどうでもいいと思って眠くなったし。
やはり「以外な真相」は2、3個くらいで良かったのではないか?
あとこれは只の好みですが『キングスマン』シリーズもそうなんだけど佳境になるとスローモーションでダンスみたいな戦闘になる演出があんまり好みじゃないというのもあります。あとマシュー・ヴォーン映画でよくある人の死が軽いのも、倫理的とかは別に気にならないんですが「話の都合で敵が勝手に死んだだけ」みたいに敵を倒すことのカタルシスも減っちゃうからあんまり好きじゃないかも。レイチェルがナイフを両手に持ったままスケートみたいにスライディングしたらナイフが触れてもない敵が全員即死するんですよね。「『レイチェルはスケートみたいに滑りながら凄いナイフ・ファイティングで敵を倒した』それを楽しい感じで映像化したらこうなったんだ」という意味なんだろうけどやっぱり殺すなら真面目に殺してほしい。『ジョン・ウィック』シリーズも割と劇画漫画っぽいアホらしさがあるけど一応、ちゃんと殺してはいるじゃん。撃ち方だけはリアルだったりするし。やっぱ殺人をダンスシーンにするのは好きじゃないかも。これが楽しくて良いって人もいるんだろうけどね。

 

 

そしてラストもやはり以外な真相?が明らかになる。今まで小説家エリー(レイチェル)が創造したと思っていたアーガイル(演:ヘンリー・カヴィル)が現実世界でエリー(レイチェル)に会いに来て映画は終わる。
実在したアーガイルは角刈りではなく後ろ髪が新日レスラーみたいに長い80年代サーファー風だった。「変な髪型」というのがアーガイルの特徴なのね。
アーガイルはエリーの創作ではなく、レイチェルがスパイ時代に実際に出会ったアーガイルのことが潜在意識に残ってて、エリーがそれを書いたって事?アーガイルの真相は続編でどうぞってことかな。
そしてアメコミ映画のようにポストクレジットシーンがある。20年前の酒場で看板には「キングスマン」と描かれており、実在したアーガイルの若き姿オーブリー・アーガイル(ルイス・パートリッジ)が姿を見せて銃を受け取る。
さっき検索したら、この映画は『アーガイル』三部作の一作目らしい。
で、続編はこの若いアーガイルを主人公に描いて、完結となる第3作目では本作でレイチェル達と現実アーガイルが出会ったところから始まるらしい。
ラストでアーガイルが現実世界に出てきてどういうことかと考えてる間に、ポスクレでそのアーガイルの若い時が描かれ、更に「本作は『キングスマン』(2014)と世界を共有するシネマティック・ユニバースだ」と言われたわけで、妙な情報の多さにくらくらした……いや、情報自体は順序立てて考えれば特に複雑じゃないんだけどさ。
まず本作自体に対して「なんか最後まで楽しめるくらいには面白かったけど、でもイマイチだったな」と思ってるラストで現実アーガイルが出てきて「うわ、また観なアカンんの……?」と不安になってきたところで、そもそも「変な髪型してる」という以上の何の情報もないので「実在したアーガイル」に全く興味もってないのに、更にその「興味ないアーガイルのエピソード1だ!」と言われても「いや、まず今出たばかりのヘンリー・カヴィルを先に紹介してくれよ。いや、まて別にそれも興味ないので続き作るのやめてくれないか?」という気持ちにさせられる。しかも「キングスマンと世界を共有するシネマティック・ユニバース」と聞かされたらね。元々『キングスマン』シリーズは嫌いじゃないけどかといってそこまで好きでもないからね。「めちゃくちゃおもんなさそうだからスルーしてた『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021)を観なきゃいけなくなった……」と新たな義務視聴が増えてしまった。
昨今のシネマティック・ユニバース疲れしてるライト映画ファン同様に僕も疲れてます。主にMCU全48作品観てきてるせいで……。「MCU嫌なら観るのやめたら?と思うかもしれないが基本は好きで観てるわけだし16年間観てきてる今更やめるという手はない。
結構、色んなどんでん返しやら面白バトルやおもしろキャラとか色々と面白そうな要素は満載なのに全体的につまんないという不思議な映画でした。
そういう感じでアマプラに『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021)あったしタダだから今から観ます。

 

 

 

そんな感じでした

〈マシュー・ヴォーン監督作〉
『キングスマン』(2014)/愛と師によって最強の紳士に成長しレイシストを皆殺しにする映画☂ - gock221B
『キングスマン:ゴールデン・サークル』(2017)/ファンが望む要素を推し進めた続編っぽさとユニバース化の準備☂ - gock221B
『キングスマン:ファースト・エージェント』(2021)/期待せずスルーしてたが何となく観たら過去作やアーガイルより面白かった。観ないとわかんないもんですね🕴 - gock221B
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Argylle (2024) - IMDb
Argylle | Rotten Tomatoes

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『落下の解剖学』(2023)/ミステリー映画だと思ってたら人間ドラマ&法廷劇のフランス映画だった。観てる間は正直しんどくて眠いだけだけど観終わって時間経つと面白いという風呂入るの面倒な時に入浴した後のような映画👩‍⚖


原題:Anatomie d'une chute 監督&脚本:ジュスティーヌ・トリエ 脚本:アルチュール・アラリ 製作:マリー=アンジュ・ルシアーニ、ダヴィド・ティオン 製作国:フランス 上映時間:152分 公開日:2023年8月23日(日本は2024年2月23日)

 

 

全然予備知識無しだが、甥が観てイマイチがってたので興味が湧いたのとアカデミー賞に色々ノミネートされたし近所でやってたから、どんな内容か全く知らない状態で観た。いや「ミステリーっぽいフランス映画?」くらいのボンヤリした予想だけあった。
主演のドイツ人女優ザンドラ・ヒュラーは本作の演技で賞を総なめ、今年のアカデミー主演女優賞にもノミネートされている。

※追記:第96回アカデミー賞脚本賞を受賞した。

ネタバレあり(……だけど厳密に言うとこの映画にネタバレは無いと思う)

 

 

 

 

が積もる人里離れたフランス山荘
ドイツ人作家の妻サンドラ(演:ザンドラ・ヒュラー)と、この山荘を売るために改装作業しているサミュエル(演:サミュエル・タイス)と、盲目息子ダニエル(演:ミロ・マシャド・グラネール)。そして盲導犬スヌープが住んでいた。
ある日、ダニエルが盲導犬と散歩から帰ると、父サミュエルが出血して息絶えていた
パニックになるサンドラとダニエル。

検死の結果、死んだサミュエルは頭に打撲の痕があり、階下には血痕が付着している。彼は作業していた3階の窓から落ちて真下の小屋で頭部を強打したか、または何者かに鈍器で頭を殴打されて落下死を偽装されたか、この2つのうちどちらかしか有り得ない。
サミュエル死亡時は息子ダニエルは散歩していたし付近には誰も住んでおらず、妻サンドラと2人だった。そして三階の窓から落下死したとしても頭をぶつけうる落下場所(小屋の屋根の上)に血痕がない。
かくして妻サンドラは夫サミュエル殺しの容疑者として裁判にかけられる。
サンドラの親友の弁護士ヴァンサン(演:スワン・アルロー)は勿論サンドラを熱心に弁護する。

 

 

という事で、残りの映画の大半の時間はサンドラの裁判が行われる。
休廷を挟んで実に4回くらいもの裁判シーンが描かれる。法廷映画だったのね。
劇中で描写されるのはサミュエルが死んだ時以外なので、息子ダニエルや傍聴人同様に我々観客もサミュエルが「事故で落下死した」のか「投身自殺した」のか「殺された」のか、わからない。
本作を観てる人は、劇中の裁判官や息子ダニエルや傍聴人に感情移入してサンドラの裁判を聞きながら「サンドラは夫を殺したのか?それとも夫の自殺か?」と考えていく映画になっている。だからミステリー映画かと思ってたけど人間ドラマ&法廷ものだった。
ちなみに「落下死したら付いてるはずの場所に血痕がない。だからサンドラが殺したのでは?」という疑念はヴァンサン弁護士の実験の結果によって「サミュエル死亡時、雪が降っていたので息子ダニエルが発見するまでの時間で雪が痕を洗い流すには充分な時間があった」という事がわかっている。つまりサミュエルの自殺か、サンドラによる他殺かは振り出しに戻り、サンドラの運命は裁判に委ねられた。

何度にも及ぶ裁判によってサンドラはバイセクシャルで女性との不倫経験があるとか、ダニエルが失明した事故があってサミュエルが自己嫌悪で鬱になりサンドラも夫を短期間憎んだりして夫婦仲が険悪になったとか、夫が数年前に自殺未遂したとか、サンドラの著作に夫殺しの願望が書かれてる疑惑とか(これは敵弁護士の稚拙な指摘)、サミュエル死亡の前日に夫婦が殴り合いに発展する大喧嘩していたとか、サミュエルが夫婦喧嘩の音声をたくさん録音していたとか……様々な事実が明らかになる。
正直言って、これらの証拠や新情報の殆どは最初から最後まで「サンドラが怪しい」というものが多い。サンドラは自分に不利な事をたくさん隠していたし激しい夫婦喧嘩の音声も法廷に鳴り響くからね。しかしサンドラが有罪になれば盲目の息子ダニエルは一人ぼっちになってしまう、それならサンドラがたとえ無罪だろうと自分が不利になる事を自分からわざわざ言わないのも当然。サンドラが怪しい新情報が多いからと言って、それが真実には直接結びつかない。
中盤から後半にかけては、殆どサンドラとサミュエルのギスギスした夫婦仲を描いていて、殆どノア・バームバックの『マリッジ・ストーリー』(2019)よろしく、険悪な夫婦を描いたヒューマンドラマの様相を呈している。……というか本作はこのサンドラの家族の人間性を描くのがメインなんですよね。人間ドラマ:法廷劇の割合は7:3くらいかな。
で、この映画は観客を驚かせるエンターテイメントなミステリー映画ではないので「第三者が忍び込んでサミュエルを殺した」「実は息子ダニエルが父を殺した」……など、意識外のサプライズな原因は有り得ない。そして散々、家族の人間ドラマを描いといて「そういうのとは何の関係もなくサミュエルは滑って落下死しただけでした」なんてことも有り得ない。つまり「絶望したサミュエルの自殺?」か「不仲の夫をサンドラが殺したか?」の二択。この2つのどっちか、それしか有り得ない世界。法廷で明らかになる主人公家族の人間ドラマを観て感じながら想いを馳せる。それがこの映画。

 


正直言って中盤から終盤にかけて、ギスギスした夫婦関係、敵弁護士のネチネチした攻めに耐える時間など、とにかく、しんどくて喋ってばかりの法廷シーン(回想シーンも少ない)がめちゃくちゃ長いので少ししんどくなってくる……いや、ぶっちゃけ「もういいから早よ終わってくれや……なんでこれがパルム・ドールとか賞そうなめしとるんや……」とか思って眠くなった。
事件の真実同様に霧がかった雪山を脱出のあてもなく彷徨い歩いてるような映画だ。
……が主演ザンドラ氏の熱演とか先を知りたい想い等があって不思議と目が離せない……だけど同時に眠い、一言で言うと観てる間あんまり面白くないまである。だけど観終わって一時間くらい経って反芻したら凄く面白くなってくる不思議な映画だった。この今おれがやってる映画の感想書くって行為は正に反芻だから、今が一番面白い。観てる間はしんどいし「これ感想書くことないからフィルマーカスにちょろっと書いて終わりだな」とか思ってたけど今面白いからこうして書けてる。たまにそんな映画ありますね。
ラストのラスト、本当なら裁判は終わりのところだが特別に息子ダニエルが最後に証言してそれで判決が決まる。もうダニエルは自分が知らない両親の秘密を裁判所で大量に聞かされてハッキリ言って十中八九ママがパパを殺したと疑ってて、途中からサンドラと口聞かなくなる。しかも最後の証言する前日、ある実験をしてサンドラが夫を殺したかもしれない証拠を新たに見つけてしまう!
……で、これはネタバレにはあたらないと思うので言うけど事件の真相は映画の最後まで観ても結局わからない。裁判の結果は、あくまでも裁判官が推測したものに過ぎないからね。
もしこれがアメリカ映画だったら、サンドラが夫を殺す瞬間の回想したり、又はそれを匂わす何かを示して映画が終わりそうだが、これはフランス映画なのでそんなのはない。裁判が終わった後のシーンが不自然なほど長い……しサンドラと親友弁護士のいちゃつきが妙に長い……が、これも又どちらにも見えるように描いている。多分「あなたが想像したものが事件の真相ですよ」形式だと思う。
というか本作がアメリカ映画だったら別に真相も匂わせも描かれなかったとしても「殺したのはサンドラ」って事になってると思う。
でも本作の場合はマジでわからない。何か僕が気づいてない匂わせがあったのかもしれないが僕にはわからなかったし実のところ真相に興味はない。
とりあえず三人家族をつぶさに見せつけられた二時間半でした。
前述の通り、サンドラが夫を殺したかどうかはマジでわからないんですけど僕の中では「サンドラは夫を殺してない」という結論になりました。メタ読みとか色々なもの総合したら「サンドラが殺した」の割合の方が高いとは思うけど。でも多分それはどっちでもいいんだと思いますわ。
そういえば犬好きな人が観たらめちゃくちゃ焦りそうなシーンあった。
結果的に面白かった。ただしそれは感想書いてる今が面白いのであって観てる真っ最中は面白くなかったです。映画鑑賞が「過去の体験」になってしまえば面白くなるタイプの映画。
めちゃくちゃ風呂入るの面倒くさくても風呂入って出た後に「くそっ風呂なんて入らなければよかった!」なんて思うことないだろ。正にそんな映画がこれ。


 

 

そんな感じでした

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Anatomy of a Fall (2023) - IMDb
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『哀れなるものたち』(2023)/赤ちゃん並の知能でSEXにしか興味なかった主人公ベラが読書や知的な友人を得て自由意志が芽生えて精神年齢が一気に上がる豪華客船のあたりから一気に面白くなる!👩🏻


原題:Poor Things 監督&制作:ヨルゴス・ランティモス 制作&主演:エマ・ストーン 脚本:トニー・マクナマラ 原作:アラスター・グレイの小説『哀れなるものたち』(1992) 製作国:イギリス/アメリカ/アイルランド 上映時間:141分 公開日:2023年12月8日(日本は2024年1月26日)



この監督の映画は全然観てなくて唯一『ロブスター』(2015)しか観てないがあまりピンと来ず……というか観たけど1mmも内容覚えてない。『聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア』(2017)は……面白そうだと思ったが何か胸糞悪そうだったので結局観てない(でも、あまりに色んな人が話題に出すので観とかなければいけない義務感が生まれつつ、でもまだ観てない)。
この映画は原題も邦題もかっこいいし予告のエマ・ストーンや映画のビジュアルが気になるので素直に観たくなった。
エマ・ストーンも自ら制作に参加し監督と何年も温めてたこの映画を制作したらしい。

※追記:第96回アカデミー賞で主演女優賞、美術賞、メイクアップ&ヘアスタイリング賞、衣裳デザイン賞……など四冠を達成した。

ネタバレあり

 

 

 

 

知能未発達女性ベラ(演:エマ・ストーン)は、外科医ゴッド(演:ウィレム・デフォー)とメイドと共に彼の屋敷に住んでいた。
ある日、ゴッドは医学生マックス(演:ラミー・ユセフ)を助手として己の屋敷に棲まわせる。
マックスはベラの成長過程を記録するよう命じられる。
ベラとコミュニケーションを取ってる間にマックスはベラに好意を抱く。
ある日、マックスはゴッドからベラの秘密を聞く。
ベラは橋から投身自殺した知らない妊婦で、飛び降り現場に居合わせたゴッドは既にこと切れている妊婦を連れ帰り、お腹の胎児の脳を妊婦の頭に移植し、全てをリセットした女性”ベラ”として蘇らせたという。ゴッドという異名からして彼はベラを創造した神というポジションだ。ちなみにゴッドはフランケンシュタインの怪物のようなズタズタの顔をしている、また身体中も外科医の父の人体実験によってズタズタみたい。最初は可哀想なのだが父にされた酷い人体実験の話も三回目くらいからは酷すぎて笑えてくるので「あ、これギャグも入ってるんだな」と分かった。それより、ゴッドは時折「ポヨン」と音をさせてシャボン玉みたいなものを口から出す、アレ何なんだろう?なんか松本人志のコント作品や映画っぽいシュールさがある。
マックスはゴッドの勧めもあってベラと婚約する。
頭ベイビーのベラを屋敷の外に出すわけにも行かず、ゴッドとしては信頼できる若者マックスと共にベラが屋敷に永遠に居てくれたら安心という事だ。
……だがマックスは優しい男性だが、この冒頭の時点のベラの精神年齢はせいぜい3、4歳?くらいで全く自立した自我がない幼女同様なので、幾ら外見が美人だからといって脳が幼女に恋して婚約してしまうのは、マックスも少し良くないなという感じはある。
すごい速度で成長するベラは性の快感に目覚め、享楽的な弁護士ダンカン(演:マーク・ラファロ)に誘惑されて屋敷から家出してしまう。
ベラはゴッドに「私はここから出ていく」と宣言。ゴッドは勿論反対するが「このままでここに居たら憎しみが私の中にいっぱいになってしまう」という感じの事をベラが言うので、ゴッドも仕方なく家出するベラを見逃す。
ゴッドも、心配は心配だが自我が芽生えた娘の自由意志を無視して監禁するのは良くないと思ったのだろう。
とはいえ、まだベラの精神年齢は幼稚園くらいなので自由に外界に出すのは早すぎるのだが、本作はかなり戯画化された、おとぎ話っぽいテイストの映画なので(ティム・バートン映画やウェス・アンダーソン映画みたいな感じ)そう細かく文句をつけても仕方がない。本作はカメラが引くと魚眼レンズのように世界が歪んでいたり、また覗き穴から撮ってるような画面に頻繁に変わる。これは「ゴッドや後の保護者の男たちがベラを閉じ込めて監視してる」ということを表してるのかな。またこのベラがゴッドの家から出れない冒頭では画面がずっとモノクロで、外界に出て以降は画面に鮮やかすぎるカラフルな色合いになる。そういうビジュアルも相まって、本作は全体的におとぎ話っぽい雰囲気が漂う。なんか現実の世界とは違う……昔なのか近未来なのかよくわかんないしね。
ベラの脳はまだ少女レベルだが「思春期の娘のやりたい事を止めてはいけない」くらいのことをフィクションにした感じなんだと受け止めた。
ちなみにベラは本気でダンカンに乗り換えて駆け落ちしたわけではなく、ダンカンと外の世界を見て遊んで帰ってきてマックスと結婚するつもりでいる。
ダンカンもまたベラに惚れたわけではなく「幼女レベルの知能しかない美女」とSEXしまくったり遊びたいだけ。
旅行に出かけたベラはダンカンとSEXしまくる。
外の世界に触れたベラは、頭脳は子供の好奇心旺盛な女性なので酒やダンスやタトゥーやダンカン以外の男など、世界の楽しいことを覚える。
最初はベラと遊んで捨ててやろうと思っていたダンカンだったが、奔放なベラが世界に羽ばたき始めると焦りや独占欲が芽生え、激しく嫉妬するようになる。
ベラが夢中で自分とSEXしまくってくれていたのは、ただベラが自分しか男を知らなかっただけ、という事を身をもって知ったためだろう。
嫉妬に狂ったダンカンは、ベラと豪華客船の旅に出る。海の上ならベラはどこにも行けないし他の男も少ない。
こうして客船で二回目の軟禁状態に陥れられたベラは不機嫌になる。

 

 

ベラは客船で、知的な老婦人マーサ(演:ハンナ・シグラ!)と黒人の紳士ハリー(演:ジェロッド・カーマイケル)と出会う。
それまでSEXや享楽的な遊びにしか興味がなかったベラだったが、マーサやハリーの語る哲学に「SEXより刺激的だわ」と興味を惹かれて読書を始める。それと共にベラの精神年齢はどんどん上がっていく。
ダンカンは、せっかくベラを軟禁したのにあまり相手にしてくれなくなったので酒とギャンブルに溺れていく。マーク・ラファロが演じてるということもあり最初はベラを外へ連れ出す魅力的な遊び人として描かれていたダンカンだったが、船に乗ってからはどんどんどうしようもない右肩下がりの男として描かれていく。
ある日、ベラがマーサやハリーと一緒に本を読んでいると酔っ払ったダンカンが「なぁ、もう本を読むのをやめろ。君の可愛らしさがどんどん失われていく」と「ここまでダメな事言わさなくても……」というくらいわかりやすくダメな事を言い始める。
ベラの自我や自由意志には、知的な新しい友人マーサ&ハリーや読書の影響で、知性や知識がつきはじめ、もはやSEXと遊びしか取り柄のないダンカンの手に負える女性ではなくなってきた。自分のものにするため軟禁したのに、それと反比例するかのようにベラと自分の距離は離れていき、ダンカンは酒とギャンブルに溺れ、ベラに悪影響(ダンカン以外には良い影響)を与えたマーサ&ハリーを逆恨みする。
この老婦人マーサが、出番が少ないけど妙にイカしてて誰だろうと思って検索したら、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー監督作品などでお馴染みのドイツのベテラン女優ハンナ・シグラだった。常に微笑しているがダンカンを軽蔑しきってるのがありありとわかる表情が本当にカッコよかった。
知性がついたベラだったが、ゴッドの家とダンカンのSEXと本でしか世界を知らない。ハリーは船が立ち寄った場所で、貧困のあまり死ぬしかない子供達をベラに見せる。ベラは生まれて初めて、貧しい人達、裕福な自分、しかし貧しい人達を救えない自分……などを一気に知ったことで半狂乱になりダンカンの全財産を貧しい人達に与えてしまう(というか船員に全部盗られただけだろうけど)。
ハリーは後で「君があまりに純粋だから意地悪したくなった」と謝罪する。
だがベラも、自分が知らなかった世界の現実を見せてくれたハリーに礼を言い、「貴方は、世界の残酷さを直視できない少年なんだわ」とハリーの内面を看破するほど成長した。
一文無しになったベラとダンカンはパリで降ろされる。
ベラは売春宿で自分の身を売って働きはじめ、知り合った娼婦と社会主義や解剖学を学ぶ。ベラが娼婦になったことを知った一文無しのダンカンは精神が完全に崩壊する……。

 

 

……というところから、まだ二転三転して終わるのだが、結局「女性の自由意志や自立や学び、そしてそれを何とか辞めさせて家に監禁しようとする愚かな男たち」という感じで最後まで進む。
もう、あらすじを追うだけでわかりやすすぎるほどに映画を通して言いたいことがわかりやすい。もう、そのままなので「これは◯◯を意味してる!」などと言ったら言った人が馬鹿に見えるくらいそのまんま。でも非情に明快で面白かった。
最初はションベン漏らすくらい頭ベイビーだったベラがどんどん成長していくところ、それをエマ・ストーンの演技ですぐわかるところなどが良かった。
冒頭は、頭ベイビーのベラが白痴みたいだし息苦しいので観てるのが辛い感じもあったが、やはり豪華客船に乗って読書や賢い友達によってベラが一気に賢くなった辺りからどんどん面白くなっていった。
最終的なところに話を飛ばすと、ベラはゴッドや婚約者マックスの元に帰ってくる。ゴッドは投身自殺した妊婦を手術して新しく生まれ直した女性がベラであることを黙ってたこと、マックスはまだ自我が殆どなかったベラと婚約したことなどを謝る。メタ的に見れば「頭がベイビーの時のベラにそんなこと説明してもどうせわからんからそうせざるを得なかった」んだけど、そういう問題じゃなくて前半の彼らは、それだけじゃなくて知能がないベラを自分たちの好きなようにしようとしてる部分もあったからね。

この映画に、特に欠点とか文句つけたいところは無いのだが、最後に改心してベラを支える婚約者マックス。優しい男なのだが、あまりに優しすぎて終始ベラに従いすぎるので、何だか少女漫画に出てくる優しすぎる彼氏みたいになってたな。ここまで来るとマックスの自由意志はないのか?と少し不安にもなった。だが本作はベラの自由意志やそこから生じる活躍を描くものであって、マックスはあくまでも「ベラの夫」という役割でしかないのだろう。徹頭徹尾「ベラという女」そして「ベラを通して女性そのもの」を語りたい映画だから、まぁそれでいいんだろうと思った。そんな感じでかなり面白かったです。画面もめちゃくちゃ人工的な美しさに溢れてたし。
あらすじ読めばわかると思うが全体的にフェミニスト映画的な色が強い。それを中年男性の自分が観てもこれだけ面白かったんだから女性が観たらもっと面白いんじゃないだろうかと思った。文句なし。

 

 

 

 

そんな感じでした

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Poor Things (2023) - IMDb
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『ボーはおそれている』(2023)/楽しい場面も多くあるがメンヘラ主人公の夢みたいな主観描写が全編3時間続くのは正直しんどい。2時間でいいだろ……と個人的な好みじゃなくても監督にはまだ好きなように暴れて欲しい気持ちも共に我に有り👨🏻‍🦳


原題:Beau Is Afraid 監督&脚本&制作&原作:アリ・アスター 製作:ラース・クヌーセン 音楽:ボビー・クーリック 撮影:パヴェウ・ポゴジェルスキ 編集:ルシアン・ジョンストン 製作&配給会社:A24 製作会社:スクエア・ペグ 製作国:アメリカ 上映時間:179分 公開:2023年4月21日(日本は2024年2月16日)

 

 

アリ・アスター長編映画第3作目。
原作?……というか元になったのはアリアスター本人が昔撮った短編映画『Beau』(2011)。今見たら公式のものはYOUTUBEに残ってないっぽいが「Beau 2011」とかで検索すれば違法のもの?なら観れるかも。
元になった『Beau』(2011)は昔、第一作目『ヘレディタリー / 継承』(2018)に激ハマりした時に観て、そのツカミが凄く気に入ったんだですが序盤と言いたい内容だけ一緒で後はかなり変えてる印象だった。
アリ・アスター監督は長編デビュー作の『ヘレディタリー / 継承』(2018)がめちゃくちゃ好きでした(2010年代の全て映画の中で一番好きだし好きな映画10本挙げる時も入れる)。
第2作目『ミッドサマー』 (2019)は普通に面白い映画だしキャッチーなので『ヘレディタリー / 継承』(2018)よりも数倍の大人気を誇ってるのはよくわかるが、僕は『ミッドサマー』 (2019)の良かったのはアメリカに居る冒頭だけで後は『ウィッカーマン』(1973)的な出来事が起こるだけで凄く退屈でした。現状や社会に不満を持つ女性の観客が主人公に感情移入して観たらエモーショナルだった……という事らしいが、僕は男性だし『ヘレディタリー / 継承』(2018)のように先がわからん恐怖を観たかったせいか全く乗れませんでした。

ネタバレあり

 

 

 

Story
異常に神経質なアラフィフの男ボー(演:ホアキン・フェニックス)。ある日、が住む実家に帰る日、家の鍵を無くしてしまい飛行機に乗り遅れる。翌日、家に電話したら何と母は事故死したという。
実家に帰ろうとするボーの現実は大きく変貌していく――

映画の冒頭、画面は見えないが風呂場で子供が頭を打って母親が動揺している声がする。
次に中年男性ボーがセラピストにセラピーを受けている。このセラピストがかなり大柄で少し異様な雰囲気がする。アリ・アスター黒沢清好きだし、この大柄セラピストは黒沢清『CURE』(1997)冒頭に出てくる、役所広司の妻の大柄セラピストのオマージュなのかな。
ボーが家に帰る時、街は異常に騒がしく暴動のような争いが起きており殴り合いが起きてたり自殺しようとしている奴がいたりする。
これでちょっと嫌な予感した。
幻覚なのか夢なのか、恐らく「社会を恐れるボーには、現実世界の普通の光景がこんな感じで恐ろしく見えている」っていう表現なんだろう。
それで「こんな冒頭からもう幻なのかよ……これが最後まで続くどころかエスカレートしていくんだろうな」と思った。冒頭から映画のラストまで大部分は夢か幻か判断つきにくい描写が延々と続くであろう……ってことが最初にわかってしまうのはしんどい。このパターンの映画は観てて疲れるんですよね。デヴィッド・リンチ作品は幻想的な場面が多いが、大部分は普通に描写してて合間合間に幻覚が入ったり異界に迷い込むくらいだったり、リアクションが良かったりして自分には丁度いいんですけど幻想的な場面があまりに多い「全編、夢みたいな映画」は正直しんどい事が多いです。

家を出る時に鍵をかけようとして2階に忘れた物を取りに行って、玄関に戻ってきたら鍵がなくなっていた。もう強盗が怖くて外出できなくなった……」というツカミの部分は、元になった短編映画『Beau』(2011)観た時は「この始まりかた最高!」と爆笑して気に入った。本作もほぼ同じシーンがあるんだが、短編の場合そこまでは割と普通っぽい描写だった気がするけど本作の場合、映画が始まった瞬間から既に幻想的すぎたので短編『Beau』(2011)よりも、この鍵のくだりのインパクトが薄くなってしまった感があった。
ボーはその夜、静かにして寝てたのに「音楽の音を下げろ!眠れない!」みたいな差紙が何度も玄関の下から差し込まれる。最終的には玄関ドラの下から差し込まれた差紙がサーーーーーーーーーーッと床を滑り続けて寝てるボーのベッドの眼の前でピタッ!と止まったりする。幾ら何でも紙が滑り過ぎで、これはめちゃくちゃ面白くて一番好きな場面だったかも。
あとバスタブに浸かって天井見たら何故か知らないオジサンが天井に張り付いててバスタブに落ちてきちゃう……という一悶着もあったり、一回外出したら外にいる街の暴徒が全員ボーの部屋に入って大暴れし始めて、ボーが自部屋に入れなくなり屋上みたいなところで一夜を明かす羽目になる……という北野武映画のギャグシーンみたいな展開も面白かった。「家を出て旅立つまでの前半は後半より面白い」という意味では『ミッドサマー』 (2019)と似た感想を抱いた。全身入れ墨でコンタクト入れてるインパクトありすぎる男が街をウロウロしてたり、そいつが知らん間に自部屋の前で死んでるのも笑った。
色んなトラブルが連発してボーはなかなか実家に帰れない。
これらのトラブルは「ボーは本心では、支配的な母親がいる実家に帰りたくない」って事の表現なのかなと思った。「刃牙」で、護身を極めた渋川剛気が自分より強い奴がいる場所に戦いに行こうとしたら巨大な扉や地割れの幻覚が見えてなかなか先に進めない……という表現があったが、それと似たようなもんだ。しかし帰省する約束をしてしまっているので帰りたくないのに帰らざるを得ない……そんなことの劇映像化だと思うと何だか可笑しい。
そう思ってたら、母の携帯から電話があり通話ボタンを押すと知らない人が出てきて「事故で君の母の首が取れて死んだ。葬式するからすぐ帰って来い」という衝撃的な報せを受ける。これも予想外でワクワクした。交通事故とかありがちな事故でなく「天井の空調のファンが落ちてきて首が取れた」という唐突で無茶苦茶すぎる事故はデヴィッド・リンチ的で好きだ。
短編映画『Beau』(2011)では確か最後まで自分の家に居た気がするが、本作では家を出る。しかし外に出たボーは車に轢かれてしまう。

目覚めると医者の家族の家で、ボーはその家のハイティーンくらいの娘の異常に可愛い部屋に寝かされていた。庭には大男がいる。
ここでも夢か現実かわからない不思議な時間をしばらく過ごす。2、3日モタモタしてたら、ボーが借りてる可愛い部屋の持ち主であるハイティーン少女が突然ペンキをがぶ飲みして昏倒。嫌な出来事!怒ったママは庭の大男をボーにけしかけてボーは逃走。
この「医者家族と大男」は最後まで観ても何なのか、よくわからなかったが後で話に出てくるので「車に轢かれて、娘の部屋で看病してもらってる」のは恐らく現実に起きた出来事だったと思った。娘に車に乗せられてたのも多分現実で、娘は自分の部屋を占領する邪魔なオッサンを追い出したかったのだろう。
庭に居て奥さんの号令で殺しに来る飼い犬のような大男は、この後も出てくるがどう見ても現実の存在とは思えないので「気が進まないが母がいる実家に帰らなければいけない」という「今は無理に考えないようにしてるが、いずれは直面しなければならない辛い現実」の象徴なのだろう。もしくは本当は単純に犬だったのかも……。

次にボーは森に立ち寄り「傷ついた心を慰めあう人達のコミュニティ」に入る。彼らは演劇の準備をしている。
森での演劇を観たボーは、「これは自分の話?」と思い、そうすると演劇の主人公がボーに代わり、ボーが女性と出会って三人の息子を誕生させ災害で離れ離れになり年老いて衰弱死寸前になって息子三人と再会する……という劇中の主人公の人生を追体験する。だけどやはり勘違いだったみたい。ボーは母に捧げるつもりで家から持ってきた母子像を、森で親切にしてくれた妊婦にあげる。また、母から「お前の父は、お前が生まれる前に死んだ」と聞かされていた父親らしき老人とその森で出会う。この痩せた「父親らしき老人」は妙に優しくて「自分をわかってくれそうな雰囲気」に満ちている。この父親はボーの妄想だと思った。
ここで医者家族の庭からボーを追いかけてきてた大男が登場し自爆、ボーは再び逃走。
この森での幻とか演劇。「幼い頃の母との記憶」はボーの本当の思い出だとして「まだ体験していない年老いたボー」とか「生まれてない息子との別れと再会」とか、一体何の暗示なのかよくわからない。一瞬「本当のボーはジジイで今まで見てきた中年のボーは昔の姿なのか?」「それとも少年たちの方がボーの過去なのか?」などと思ってたら全部どうやら勘違いだったみたい。そういう感じでこの森での演劇や幻覚は、強制的に色々考察させられる感じで何かもう疲れてきた……。
この森の人達は皆優しかったし、「実家に帰らなきゃいけない」という強迫観念のメタファーっぽい大男が大暴れして実家に帰らざるを得なくなるしで、この森での出来事は大部分はボーの現実逃避の妄想かと思った。
だが「ボーが母子像をあげた親切な妊婦」は後でも言及されるから、この妊婦は道中で本当に出会った優しいおばさんなのかな。
この森でのくだりは「こんなに長くやる必要ある?」ってくらい長い。
映像作品で意味なく撮ってるシーンはないのでここも何らかの意味があるんでしょうけど、わからないっていう事もあって「この森のくだり全部なしで時間短くしてくれや。そこまでボーに興味ないんだよ」というやさぐれた気持ちになってきた。

 

森を出てボーはあっという間に実家に着く。ほんとに一瞬で帰るので「よほどボーは実家に帰りたくなくてわざとLOSTして遠回りしてたんだろうな」と思った。
豪華な実家に着くと母の葬式が終わったところだった。
この実家は、木に囲まれた静かな場所で、『ヘレディタリー / 継承』(2018)の家を思わせる。アリ・アスターの実家もこんな感じなのだろうか。
ボーの母は大企業の社長だったらしい。そして現在のボーは世捨て人の中年ニートみたいになってるけど母と二人暮らしで大事に育てられて若い時までは優秀だったっぽい写真が飾られている。しかし言う事聞かなければ屋根裏に閉じ込められてたこと。辛い折檻を受けてた幼少期、そんな時にもボーは「折檻を受けてるのは自分じゃない」と自己を分裂させていたこと……等がわかってくる。それがボーの脆いメンタルの理由?
ボーがうたた寝していると夜、中年女性が訪ねてきた。葬式に遅れたらしい。
その女性はボーの回想に出てきた、少年時代に海水浴で出会った初恋の女性だった。
二人は久しぶりのドラマチックな再会を喜ぶ。
幻である初恋の女性が「あなたの母の会社には先週まで居た」と言って、ボーが「先週まで……?」と聞き返すシーンは何か意味ありそうでよくわからなかった……なんで「先週まで居た」と言ったらボーは不思議そうにしたんだろう。
どういうわけか「彼女は母の会社で働いていた」事がわかったり、再会して数分でベッドインしたりと、あまりに展開が早いので何だか夢っぽいなと思ったらやはり夢だった。
彼女は動かなくなり、死んだはずの母が立っている。
再会してすぐ自分を好いてくれた初恋の女性(ボーにとっての都合のいい妄想)が、母という「ボーにとって不都合で圧倒的な現実」の登場によって消えた。
母は、どうやらボーを帰ってこさせるために死を偽装したらしい。
だが「自分の代わりに家政婦を代わりに殺した」とか言ってて、死を偽装するためにそんな事する必要ないので相変わらず夢と現実が混じり合ってるのかな。
これ以降のシーンは相変わらず幻も混じるが、「母」というボーにとっての強力な現実の象徴が登場したことで「母」という存在が文鎮のように頼もしい感じで映画全体を抑えているため、これまでの時間よりも観やすくなった。ボーの母は存在感があるだけでなくボーにとって都合が悪いので幻覚では実在の存在感があるからだ。
冒頭に出てきた、ボーを担当してる大柄セラピストは実は母とグルで、セラピーの結果を全て母に送っていた。これは現実の出来事かなと思った……いや、もしくは「母には自分の考えが全て筒抜けだ」というボーの被害妄想を表現したものかな。どちらにしてもボーが母に敵わないと思ってる表現だし、どっちも似たようなもんだ。
あと「お前の父の真実を見せる」と母に屋根裏部屋に入れられたら巨大な男性器のバケモノが居たのは、どうでもいい男と望まれない妊娠をしてできたのがボーって事なのか?よくわからないが母は男性嫌悪っぽいね。
その後、ボーは母に歯向かうが「母や大勢の観覧者に囲まれた水の裁判所」のような逃げ場のない不思議な領域に追い詰められ母と弁護士に責め立てられる。もう実家に帰って母に「そこ座んなさい」と言われてコンコンと説教されてる状態だ。
「ボーは、良い子のフリしてるが自分を愛する母への愛情など持ってない」とかそういう事。道中でボーがしてきた良くない事、そしてボー自身はそれを全て自分の都合の良いように記憶を書き換えてることなどを全て暴かれ責められる。
ボーは、母への恐れや罪悪感?でボートごと転覆。そして映画冒頭で聞こえた「幼い頃のボーが浴室で頭を打って動揺する母の声」が聞こえて映画が終わる。
「支配的な母に苦手意識があったが母に呼ばれて渋々実家に帰ったが退路を絶たれて説教されてウワーッ!と自我が持たなくなってメンタル崩壊した」、それを全編3時間もかけて観せられたような印象。

そういう感じで映像とか演技は相変わらず素晴らしいし、幾つか面白い幻覚やシーンもあり最後まで観れたが、やっぱり全編、精神が危うい主人公の夢みたいな主観ばかりが延々と続く映画はしんどいものがありました。
しかも映画冒頭で「こういうの全編続きますよ」と最初に宣言されたからよりしんどい。
僕としては単純に「実家に帰りたくないけど仕方なく帰省して逃げ場なしで落ち度を延々と責められて精神崩壊した男の話」だと単純に受け取った。誰しもそういう事はあるので少し共感はしましたが……。
楽しい笑えるシーンも幾つかあったんだけど長すぎる!2時間でいいよ。別にそこまでボーの内面に興味ないし……。
次はもう少し具体的な内容にするとか、ホラーに戻ってきてほしい。だがアリ・アスターって「家族に対しての重い想い」を映画に落とし込みたくて映画作ってる人であって特別にホラーが撮りたい人が第一の人じゃないからまたホラーを撮るかどうかは謎だね。
本作は本国で大コケして未だに制作費が全く回収できてないらしいし、焦ったA24スタジオが「今後はアート寄りの映画は減らす!」みたいな事を言ってたから次はもう少し具体的な描写の映画にしてくれるだろう。つまらなかったわけじゃないけど疲れた。

……というか『ヘレディタリー / 継承』(2018)が好きすぎて、ああいうのだけを求めてる自分が居る……。監督からしたら世に出て色んな自分を試してみたいはずだもんね。視野狭窄になりかけてたが広い目で今後も監督を見守っていこう。そう、想いを新たにした今日この頃でした。

〈僕の中のアリ・アスターTier〉
神!:『ヘレディタリー / 継承』(2018) ほぼ完璧。欠点なし
良い:昔撮ってた短編映画7本。面白いし短い
平凡:『ミッドサマー』 (2019):最もキャッチーな映画だし冒頭は神だが、スウェーデンに行って以降が予定調和すぎてつまらない
  :本作『ボーはおそれている』(2023):おもろいとこも幾つかあるが長すぎてウンザリ
  :『ミッドサマー ディレクターズ・カット版』 普通のミッドサマーより30分も長い

 

 

 

 

 

そんな感じでした

アリ・アスター監督作品〉
『ヘレディタリー / 継承』(2018)/今年の映画&ホラー映画で‥というか、ここ10年の映画の中で一番好き🤴 - gock221B
『ミッドサマー』 (2019)/映画全体の中では面白い方なんだが、この監督の新作という事を踏まえると田舎に行って以降のお決まりの流れでは満足できない🌼 - gock221B

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Beau is Afraid | A24
映画『ボーはおそれている』公式サイト|2024年2月16日(金)全国ロードショー

Beau Is Afraid (2023) - IMDb
Beau Is Afraid | Rotten Tomatoes

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