gock221B

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『デューン/砂の惑星』(1984)/あまりに善悪別れすぎてて上手く行き過ぎると修正された歴史や誰かの妄想みたいに見える。ハルコネン好き🐛

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原題:Dune 監督:デヴィッド・リンチ 原作:フランク・ハーバート
音楽:ブライアン・イーノTOTO 製作国:アメリカ 上映時間:137分

 

 

 

最近ひさびさにゲームをはまってたので更新が滞ってました。
フランク・ハーバート原作のSF小説デューン』シリーズ第一部の映画化。今年の年末にドゥニ・ヴィルヌーヴによって新たに映画 化された『Dune(邦題未定)』が公開される事に沿ってか、このリンチ版がNetflixで配信されたので久々に観た。
小学生の時にTVでやってるのを観たが1mmも覚えていなかった。リンチファンだが一般的なリンチのファンが観たがる作品といえば『ブルーベルベット』『ワイルド・アット・ハート』『ツイン・ピークス』シリーズ、『ロスト・ハイウェイ』『マルホランド・ドライブ』『インランド・エンパイア』あと今年の頭にNetflixで突然配信された『ジャックは一体何をした?』などのアート性の強い短編映画などの、50年代的な明るいアメリカ像の虚飾が犯罪や悪夢、異界の住人などによってグチャグチャになり、それを朴訥とした田舎者や老人や動物が純粋な瞳でじっと見てる……というリンチが好き勝手に撮った作品なので、この雇われ監督で撮らされた上に本人も批評家も一般人も全員が失敗作だと言っている『砂の惑星』は、かなり観る気が起きないものなので実に数十年ぶりくらいに観た(だが失敗作とされているがカルト的な人気もあり最近レストア版Blu-rayBOXが発売された)。
このリンチ版の前にホドロフスキーが中心となって多くの天才クリエイターが集まって映画化しようと何年も奔走していたが頓挫してしまった。その時どんな映画を作ろうとしてたのかはドキュメンタリー映画『ホドロフスキーのDUNE』(2013)で伺うことが出来る(このドキュメンタリーは単体の映画としてデューンホドロフスキーの事あまり知らなくてもめちゃくちゃ面白いのでオススメ)。ちなみに悲願だったデューン映画化を取り上げられて悲しみに暮れたホドロフスキーは、自分の代わりに天才リンチが撮り上げた本作を観てあまりの駄作ぶりに元気を取り戻したそうだ。
2000年にTVドラマ化もされたらしいがそっちは観てない。というかそもそも原作も読んでない。子供の頃、何度か読もうかと迷った事あるが「砂がいっぱいなのかぁ……」と読む気になれなかった(どうやら少年期の自分にとって「砂がいっぱい=憂鬱」というイメージだったのだろう)。
どうでもいいけどオフィシャルな邦題が『デューン/砂の惑星』『砂の惑星』の二通りあってどちらが正しいのかよく分からない。Blu-rayには「デューン」が付いてるから、付いてる方を取った。

 

 

 

映画が始まると高貴な女性みたいな人が出てきて怒涛の勢いでデューン世界の解説を始める。重要な人物なのだろうが原作読んでないし特に調べる気もないので誰なのか未だに知らない。何だかよく知らないが重要なキャラらしき女性が第四の壁を破ってドアップで作品世界の説明を観客に対して行う。この独特の雰囲気は、リンチも好きなエド・ウッドっぽい。だが、映像なしの口頭でもって凄い勢いで専門用語を連呼されてもとても覚えてられない。今、感想を書いてても「何か言ってた」という記憶しか無く何一つ覚えていない。次にやっと本編が始まったので「説明パート終わったか」と思うが、またしても舞台となる複数の惑星や慣習などの説明をナレーションが始める!既に周知の原作ファンなら「知ってる知ってる」と思うのだろうが、原作未読の者としては「知らん知らん!説明やめろ!」と、ここで「デューン」世界と自分の間の距離がめっちゃ離れてしまう厳しい滑り出し。こんな思いさせられるなら説明一切なしでどんどん進めた方がよかっただろう。知らん人がこんな一気に説明されても何一つ入ってこないし既知の人には不要なだけ……つまりは全く無駄な時間だ。いざ本編を見ると幼児でもわかる単純化な話だったので尚更いらなかった(だけど今「説明が全く入ってこん!」という事を書いていて凄く楽しかった。という事はこの入ってこなさすぎる解説2連発は「知らん知らんw」と思わせるエンターテイメントを俺に提供してくれたことになる)。
本作公開当時は今よりも映画製作会社主導で映画が作られてた時代で、編集権はリンチに無く映画製作会社がバンバン編集したのでこんなに解説ナレーションが入ってるのかな。
超能力を発揮できる麻薬〈メランジ〉を宇宙で唯一、発掘できる砂漠の惑星〈アラキス〉、「デューン砂丘)」の異名を持つこの惑星を舞台に光と闇の闘いが描かれる。
名家アトレイデ家と、その宿敵である醜悪なハルコネン家の対決。そこに、砂丘に住む超巨大芋虫〈サンドワーム〉、超能力をもつ女性種族とか奇妙な風習などといったオリジナリティ溢れる要素が絡み合う。
麻薬で超能力を得れたり、独特の宗教的精神世界感やエコロジー的思想など60年代的なムードをビンビン感じる。『ホドロフスキーのDUNE』でホドロフスキーが幻の自作を語る時はこれらドラッグとか超人思想などの60年代的要素をもっと大々的に押し出したかった様子が伺えた。『ホーリー・マウンテン』とか観ればわかるがホドロフスキーって完全にそういった思想の人だしね。本作ではそういったカウンターカルチャー的要素はほぼ感じなかった。ながら観してたせいもあるが麻薬の採掘とかも、今Wikipedia見て初めて知った。本編でメランジがどうとか言ってたっけ?よく覚えてない。一言でいうとフォースだけあるスター・ウォーズみたいな感じ?
本作は誰でもわかるように作られた80年代アメリカエンタメ的な映画で、主人公サイドのアトレイデ家はどこまでも高潔かつ勇敢で外見も完璧な美男美女ばかりで(特に主人公を演じるカイル・マクラクランとそのお母さんが美しすぎる)、悪とされるハルコネン家は残虐かつ不潔で卑劣で全員めっちゃ醜い(スティング以外)。そんな汚らわしいハルコネン家が高潔なアトレイデ家の軍を卑劣な策で滅ぼし、奇跡的に生き延びた主人公(カイル・マクラクラン)が砂丘のゲリラと共に反乱軍を結成してハルコネン家を打倒する……という、かなりわかりやすいスター・ウォーズより更にわかりやすい勧善懲悪の英雄譚。そしてラストバトルは主人公とスティングのナイフによる一騎打ち(どんな大規模な映画でも最後に男同士のタイマンでしばきあいするのがアメリカ映画のお約束だ)。
原作でもここまで綺麗に善悪がパッカリ別れてるのかどうかは知らないけど現代の視点からすると極端に分け過ぎな気がして真面目な視点では乗りにくい。たとえば近年で言うと、放映中は記録的なほど超絶的な人気で皆が話題にしてたが最終章が放映されて以降まったく息してない『ゲーム・オブ・スローンズ』を思い出してみよう。主人公格〈スターク家〉は確かに高潔な人物が多かった、しかし「スターク好きだけど、戦乱の世に生きるには、ちょっとお人好しだったりお花畑すぎやしない?」と思わせるものがあった。そして宿敵ポジションの〈ラニスター家〉は必要以上に狡猾かつ残虐で憎たらしかったがカリスマ性のある悪役が多かったり高潔な精神を持つティリオンやジェイミーなども居た。本作のハルコネン家の場合、ただただ醜悪で、一人だけ美しいスティングにしても北斗の拳のモヒカン程度の精神しか持ち合わせておらず、ここまで人間同士の闘いなのにも関わらず善悪の差が激しいと「これって、アトレイデ家がハルコネン家を滅ぼした後、ハルコネン家を貶めるために歴史修正して書かれた記録の映画化かな?」という気分になってきて、素直に応援できないものがある。
だが、肥満で歩けないので常に宙に浮いている大柄中年男性ハルコネン男爵は醜悪さが突き抜けており、ここまでいくと清々しいものがあって凄く良いキャラだなと思った。実は策略家っぽいし。いつも汗まみれで醜いあばた面をドアップで見せつけてくるし、半裸の金髪美少年を殺して美少年の血まみれで陶酔したり、アトレイデ家の王妃を捕えてその美しい顔に唾を吐きかけたり、普段の会話シーンでも演じてる俳優がわざと唾を撒き散らせながら台詞を話したりと悪趣味さが徹底している。この辺はリンチが伸び伸びしてるのを感じられた数少ない箇所だ。あまりに嫌な奴過ぎて逆に好きになった。
そのハルコネンの息子?らしきハルコネン似の大柄中年男性も常に巨大な肉を手に持ってムシャムシャ喰いながら歩くという中世の蛮族みたいだし、ハルコネンと汗まみれ肉まみれでお互い爆笑しながらハグしていて楽しそう。
ハルコネン家で唯一美しいスティングも、主人公との一騎打ちでスーツから姑息な刃をまろび出させるセコい一手も『ジョジョの奇妙な冒険』のDIOの血の目潰し(好き)みたいで最高!
また中世ヨーロッパとスチームパンクを思わせる美術が本当にカッコいい。科学が発達した世界なのに木製の家具?みたいなのが多いのも最高だし、カッコいいSF映画の美術としてはトップレベルにいけている。ブライアン・イーノによる荘厳なテーマ曲も渋い。あとガラスに入ったナメクジみたいな異星人とかバリア張ってナイフファイティングしたり苦痛の箱に手を入れる試練など、奇妙な文化や習慣などがどれも面白い。
そして、気のせいかそれら架空の風習を行う登場人物を演じてる役者たちが「台本に書いてるからやってるけど、ところでこれ何なん……?」という遠い目をして演じてるのもまた良い。彼らのぼーっとした表情は、朴訥とした純粋な人や老人や障碍者を好むリンチっぽさを感じた(ナメクジ異星人の目をやたらアップにするのもリンチっぽかった)。
要するにストーリーはともかくディティールや美術や音楽などといった装飾は一級品だった。
アトレイデ家がハルコネン家に嵌められる前半までは割と丁寧に描いてて「結構、普通にいいじゃん」と思ったが、主人公が砂丘の反乱軍を率いてからはTVドラマの数話分をダイジェストで見せてるみたいな進行でもったいないものがあった。
アトレイデ家没落からの主人公が率いる反乱軍が苦もなく悪のハルコネンを滅ぼすくだりは、あまりにもホイホイすんなり進み、おまけに主人公がタイマンでスティングをぶっ殺して真の超人として目覚めて終わるもんだから「これはハルコネン家に陥れられ砂漠で死ぬ寸前の主人公の妄想かな?」と思ってしまった。
世の中思い通りにならないことが常なので、あまりにすんなり行く展開だと妄想にしか見えなくなってきがち。
それにしても空気を抜かれたハルコネンが「ぐわああああ!」と絶叫しながら回転しつつ宙を舞い、そのまま「ぐわああああ!」と絶叫して回転しながら巨大サンドワームの口の中に「スポ……」と入っていく凄まじい死に様が最高だった。無駄無駄ラッシュを喰らわせられた勢いでゴミ回収車にブチ込まれたチョコラータみたいなもんだ。ここまで主人公サイドの良いように事が運ぶと、絵本みたいでスッキリするし微笑ましいものがある。
確かに失敗作だろうがカルトになる奇妙な魅力は確かに感じた。
ホドロフスキーの思い通りに、もしくはリンチの思い通りに撮って上手く行けばSFの名作となっていた世界線もあったのかもしれん(もちろん実在しない絵に描いた餅にすぎないので、それらも失敗作だった可能性もあるが)。
「ビジュアルは良いし一見の価値はあるんだけど何か真面目に観る感じじゃないな」という一抹の残念感は、本作同様に大作小説原作で金かけて作った、これまた80年代映画『帝都物語』(1988)に通じるものがある。バブルな制作費で才能ある人をかき集めたけど制作会社の口出しでヘンテコな作品になった感じが似てるのかな。でもそういった「空っぽな宮殿」みたいな映画を観て豊かだった時代に思いを馳せるのも悪くはない。

🐛ちなみにヴィルヌーヴによる新作『Dune』(2020)では、主人公をシャラメ、砂丘の女性テロリストをゼンデイヤハルコネン男爵をMCUマイティ・ソー』シリーズで俺の好きなサブキャラ、セルヴィグ教授の人が演じるらしい。セルヴィグ博士のハルコネンが楽しみだな。というか俺、醜悪すぎるハルコネン男爵が好きだと今気づいてきた。まぁ公開はコロナで来年の春とかになる気もするけども。二部作を予定してるらしいから、一本目はアトレイデ家が滅ぼされるところまで描く感じかな?

 

 

 

そんな感じでした

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ツイン・ピークス The Return (2017)」全18話
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Dune (1984) - IMDb

www.youtube.com

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