gock221B

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『ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエヴァー』(2022)/意外なシュリの内面!異常な殺意の高さや暴力や復讐の連鎖などで奏でられるチャドウィック・ボーズマンへの激しいレクイエム🐈‍⬛ 🧜🏻‍♂️


原題:Black Panther: Wakanda Forever 監督&脚本:ライアン・クーグラー 製作:ケヴィン・ファイギ、ネイト・ムーア 原作:スタン・リー、ジャック・カービー 制作スタジオ:マーベル・スタジオ 製作国:アメリカ 上映時間:161分 シリーズ:『ブラックパンサー』シリーズ第2作目、マーベル・シネマティック・ユニバース第30作目

 

 

マーベル・シネマティック・ユニバースMCU)第30作目。『ブラックパンサー』(2018)の続編。MCUフェイズ4では6本目の最後の映画(Disney+作品も全部合わせたら15作目)。
もうすぐ終わりだがMCUフェイズ4は「サノスに奪われた世界の5年間の影響」「マイノリティ中心の新ヒーロー達の登場」「マルチバース展開」等に終始した。どれもMCU世界やアメコミに通じてないと楽しめないものが多かったためフェイズ3までより否定的意見も多かった。いきなり観て誰でも楽しめる『トップガン マーヴェリック』(2022)が超絶ヒットしたのはその反作用だろう。MARVELスタジオは少しだけ慌てて「3~4年後のフェイズ6ではアベンジャーズ2本やるよ!」等の、ファンが喜ぶ発表を多めにした。僕はというと、好きなので全作楽しんだがあとフェイズ4で公開前の残る一本『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデイ・スペシャル』(2022)を除いた長編映画6本+ドラマ7本+アニメ2本+中編映画1本……計16作品観たけど心底面白かったのは本作合わせて4本だけだったからファンの僕から観ても打率が悪かった気がする。

前作『ブラックパンサー』(2018)とティ・チャラとチャドウィック・ボーズマン
『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)
で初登場して、満を持して公開された一作目『ブラックパンサー』(2018)は超絶大ヒットした。『アベンジャーズ』等のクロスオーバーお祭りタイトルじゃない単独作しかも一作目で最もヒットした。単独ヒーロー映画としては、こないだ『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)に抜かれたが、あれはMCU総監督ケヴィン・ファイギがまだADだった『スパイダーマン』(2002)以降、スパイダーマン映画20年間の総決算でもあったので、ある意味『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)より規模のデカいクロスオーバー作品であったとも言える。そう考えると『ブラックパンサー』(2018)の大ヒットぶりは凄い。
ブラック・パンサーやMCUヴィランの中でも超人気のキルモンガー、ハイテク国家ワカンダやそのストーリー。やはり、アメコミのドキュメンタリー『アメコミ・ヒーロー大全』(2017) で知ったが、黒人ヒーローはおろかコミックの背景のモブですら黒人が描かれなかった時、原作で初の黒人「主人公」ヒーローだったという誕生。キャストやスタッフの多くも黒人で固め、作中に出てくる美術や劇伴やケンドリック・ラマーの凄いサントラ(未だに聴いてる、MCUで一番いいアルバム)などブラックカルチャーも目白押しだった事がデカかったのかな。そもそもMCU代表ケヴィン・ファイギMCU第一作目『アイアンマン』(2008)を作る前から『ブラックパンサー』(2018)を作りたがっていた。しかし、当時のレイシストのMARVEL会長アイザック・パルムッターにより「黒人とか東洋人とか女のヒーローとか人気出るわきゃねーだろ!w」と、多様性ある映画制作を邪魔され、見かねたディズニーの元CEOボブ・アイガーによってパルムッターがMCU制作から追放され、やっと黒人ヒーロー『ブラックパンサー』(2018)、女性ヒーロー『キャプテン・マーベル』(2019)、東洋人ヒーロー『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(2021)等の制作が可能となり発展しているのは御存知の通り……。
僕はいえば、勿論ワカンダやエムバクの楽しさや韓国でのカッコいいカーチェイスなど一通り楽しんだが日本人の僕には「アフリカに隠されたSFハイテク黒人国家の王座争い」という内容が、あまりに自分から遠すぎて(まだ異星や魔界の話の方が自分に近い)正直ピンと来なかった、ラストバトルも原っぱで殴り合って運動会みたいだったし「やっぱアメリカ住みの黒人じゃないと真には刺さらんのかも?」と公開当時は思った。昨夜ひさびさに予習として観返したら公開当時の数倍面白かった。今までイマイチだったラストバトルのショボさも「ワカンダ国民同士が、やりたくないのに仕方なく内輪もめしてるから、これだけショボい戦いなんだろう」等と擁護意見が流れるように自分の中から出てきた。どうやら昔よりずっと好きになってたみたい。理由は謎。遠い地の他人事だと思ってた内容が徐々にわかってきたからか?そういえば高校の時に背伸びして観に行ったスパイク・リーの『マルコムX』(1992)も「ピンとこない……」と思った覚えがある(今思い出したがマルコムXの妻役はティ・チャラの母ラモンダ役のアンジェラ・バセットが演じていた)。
「アイアンマンとキャプテン・アメリカ亡きフェイズ4以降、アイアンマン的なMCUのエース的な役割はブラック・パンサーで決まりだな」と思っていた(スパイダーマンSONYとの契約がややこしいし、まだ子供なので)。あと「『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)で匂わせてたからワカンダvs.海底帝国をやるのかな?今アメリカで起きてるブラック・ライブズ・マターの要素も盛り込みそうだな?」などと思っていた時、ティ・チャラ/ブラック・パンサー役のチャドウィック・ボーズマン氏が世間に隠して闘病していた大腸癌で2020年に急死してしまう。
ライアン・クーグラーチャドウィック・ボーズマン主演で2作目の脚本を完成させていたが、ボーズマン演じるティ・チャラはあまりにシンボリック過ぎたため代役は立てず、劇中でもティ・チャラは死んだとする本作を完成させた。

僕はと言うとボーズマンやティ・チャラの死は哀しいが、イベントでフェイズ4のラインナップが発表された時、正直あまり本作は期待してなかった。前述した通り、前作にハマってなかったし、はっきり言って主人公を務めるだろうと思われたシュリが――魅力的なキャラ&俳優だが――全然、主人公とかヒーローとして作られたキャラじゃなかったからだ。そこが心配で特に期待もせず待っていたが上映時間が161分もあると聞いた。フェイズ4の中で最も好きな『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』(2022)は情報量の異常な多さに対して上映時間がサム・ライミの異常な「まとめ力」によって、たったの126分と短すぎるのが魅力だった。本作の場合「ティ・チャラの葬式、ワカンダ vs.ネイモア、新ブラック・パンサーとアイアンハートの誕生だけだろ?何でそんなに時間いるんだ?」と疑問だったが逆に期待が上がって観たくなった。そして予告やポスターや試写会の画像を見ると、少し前まで明るい生意気少女だったシュリが完全にダークサイドに落ちたアナキンみたいな顔になっている。シュリのキャラ変もめちゃくちゃ気になり、期待してなかった本作が一気に観たくなった。

終盤まで……だから大体85%くらいネタバレしてます。未見の人は注意。

 

 

 

 

🐈‍⬛(ブラック・パンサー中心の)前回まであらすじ

『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)
ソコヴィア協定署名式で爆破テロ発生。ワカンダティ・チャラ王子/ブラック・パンサーチャドウィック・ボーズマン)の父である国王ティ・チャカ死亡。復讐に燃えるブラック・パンサーは犯人を捕まえたが復讐心には飲み込まれなかった――

前作『ブラックパンサー』(2018)
宇宙由来の万能鉱物ヴィブラニウムによって超ハイテク国家となったが世界にそれを隠しているワカンダ。亡き父ティ・チャカに代わり新国王となったティ・チャラ/ブラック・パンサーチャドウィック・ボーズマン)。しかしワカンダの栄光は「どんな犠牲を払ってもヴィブラニウムを隠す」という闇の上のものだった。その闇が生み出した呪われた忌み子キルモンガーによってティ・チャラとワカンダは最大の危機を迎える。致命傷を負ったティ・チャラだったが妹の天才科学者シュリ王女レティーシャ・ライト)、隊長オコエダナイ・グリラ)率いる国王親衛隊“ドーラ・ミラージュ”、屈強なジャバリ族の長エムバク(ウィンストン・デューク)ら、仲間達の協力で危機を退ける。二度とキルモンガーのような悲劇を生まないことを心に誓ったティ・チャラはワカンダを開国し、ヴィブラニウムの存在を世界に公開した――

『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)
インフィニティ・ストーンを集め宇宙の全ての生命の半分を消し去ろうとするタイタン人サノスとサノス軍が地球を侵略。ワカンダを決戦の地としてサノスを迎え撃つ地球&銀河のヒーロー達だったが『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』(2016)で分裂して団結……アッセンブルできていなかった為にサノスに破れ、全生命の半分は塵となって消滅してしまう。その中にはティ・チャラ王/ブラック・パンサーチャドウィック・ボーズマン)の姿も――
『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)
全生命の半分が消され5年後。生き残って意気消沈するヒーロー達にアントマンが解決策を語る。ティ・チャラ王/ブラック・パンサーチャドウィック・ボーズマン)を始めとする塵になったヒーロー達も現世に復活。今度こそアッセンブルしたヒーロー達は犠牲も出しつつ遂にサノスを倒した――

本作ブラックパンサー:ワカンダ・フォーエヴァー』(2022) 
ティ・チャラ/ブラック・パンサー病気で急死して一年後
ティ・チャラの妹、シュリ王女(レティーシャ・ライト)は最愛の兄を失った哀しみで研究に逃避していた。
亡き息子の代わりに母ラモンダ女王アンジェラ・バセット)は外交を行う。故・ティ・チャラがしたワカンダ開国の弊害で海外……特にアメリはブラック・パンサー焼失をチャンスとしてワカンダの万能鉱物ヴィブラニウムを奪おうと暗躍する。それを防ぐオコエダナイ・グリラ)率いる“ドーラ・ミラージュ”。
アメリカの天才少女リリ・ウィリアムズ(ドミニク・ソーン)が作った技術が陣地を脅かされたとする深海王国タロカンミュータントネイモア(テノッチ・ウエルタ)が地上に浮上する――

そんな感じ。
本作を最低限楽しむには……前作『ブラックパンサー』(2018)だけ観とけば充分です。

本作のMCUにおける時系列は『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』(2021)『エターナルズ』(2021)より後、『ソー:ラブ&サンダー』 (2022)や来年公開『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023)と同時期らしい。つまりほぼ最新の時系列。

注目の一つだったティ・チャラの死因だが病死だった。
何の病気だか具体的には最後まで語られない。天才シュリによるワカンダ超技術があるのに癌如きなどで死ぬとも思えないので最初は「『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)でサノス達と戦った時、サノス軍の誰かに付いてた外宇宙の未知のウイルスに感染して死んだのかもしれない」……等と最初は思ったが、冒頭でシュリがブラック・パンサーになるための”ヴィブラニウムの影響を受けたハート型のハーブ”を焦って人工的に作ろうとして失敗してたので、前作でキルモンガーがハーブを焼却してしまったせいでティ・チャラの病気を治せなかったと見る方が自然だ。そういえば前作でも、キルモンガーに破れて瀕死のティ・チャラを救ったのは最後に一輪残ったハーブだった。
メタ的には「チャドウィック・ボーズマンが病死したからティ・チャラも病死した……それ以上の説明が必要か?」という怒りにも似た圧を感じたので「ティ・チャラは病死した」という、それ以上でも以下でもないんだろうと思った。本作は最後まで、過去の劇中のライブラリ映像以外でチャドウィック・ボーズマン演じるティ・チャラの姿や「ティ・チャラの新しい台詞」などは出てこない。本作の「ブラック・パンサーの設定」からして死んだティ・チャラの霊と話す機会は何度もあるのに、ティ・チャラと語れない事を疑問に思う台詞すらも無い。それほどクーグラー監督やキャストやMARVELスタジオにとって、チャドウィック・ボーズマンは特別なんだと思った。

 

🐈‍⬛故ティ・チャラ『ワカンダを開国せよ!』
キルモンガーのような悲劇を生まないため、故・ティ・チャラ王により初めて開国されたワカンダ。しかしティ・チャラは自分自身があまりに気高く善良すぎたため「世界の殆どの人間はクソ野郎」だという事を知らなかった(人種差別する気持ちなどなさすぎるキャップとバッキーが、サムに盾を渡してサムが悩んだ出来事と似ている)。
ワカンダ外の世界……特にアメリカは「王のブラック・パンサーが死んだ!?よし、このチャンスにブッこんでヴィブラニウムいただこう!」と工作員を送り込み続けていた。
しかしワカンダは地球最強の国家。ラモンダ女王は外交で、シュリは開発で、オコエ率いるドーラ・ミラージュは武力で、侵略者(主にアメリカ)を退けていた。
シュリ王女は兄を失った哀しみ、天才科学者の自分が兄を救えなかった悔しさからの傷が癒えておらずワカンダの技術や防衛兵器への開発に逃避していた。
予告やポスターで気になっていた、兄をからかうメスガキっぽい明るい少女シュリの面影は薄れ、表情には陰が落ちていた。

 

🧜🏻‍♂️深海王国タロカンの王ネイモア登場
ドーラ・ミラージュの護りを突破してワカンダからヴィブラニウムを奪うのは無理だと踏んだアメリカ政府はヴィブラニウムはワカンダ外の深海にもある事を発見。天才少女リリ・ウィリアムズの技術を利用して深海のヴィブラニウムを漁っていたアメリカ政府だったが、深海の王国アトランティス……じゃなくてタロカンに棲む海底人の怒りに触れる。
……ネイモアの国は、アトランティスではなく「タロカン」という国名になっていた。これは登場を先越された上に大ヒットされてしまったDCコミック原作の海洋ヒーロー『アクアマン』(2018)との被りを避けたためだろう。他にも「巨大海洋生物をあまり使役しない」のもアクアマンとの被りを避けた結果だろう。
中でもアクアマンと最も差別化されていたのは、ネイモアやタロカン人が得意とする水中戦はせず地上で戦う場面ばかりな事だろう(というか地上でもタロカン人の方が強いのだから水中では勝ち目がない)。
ラモンダ女王とシュリ姫の前に姿を表したネイモア王。彼は深海を探った技術の開発者を探していた。ワカンダの平和のためにも先んじて深海スーツ開発者を探したいワカンダ。
前作で故ティ・チャラやシュリと共闘したアメリカのCIA捜査官エヴェレット・K・ロス(演:マーティン・フリーマン)の導きで、深海を探った天才少女リリを見つけたワカンダ最強戦士オコエ……と、オコエが引きこもりを止めさせようとラモンダの反対を押し切って連れ出したシュリ姫。
リリとシュリとオコエアメリカの場面は本作で数少ない純粋に楽しい時間。
リリを伴いワカンダに帰国しようとしたシュリ&オコエだったが、タロカンの深海戦士が立ちはだかる。リリはアイアンハートMk.1で、シュリはバイク、オコエはリリの乗用車で逃走。前作『ブラックパンサー』(2018)で一番盛り上がったカーチェイスの再来。今回もカッコよくて楽しい。
逃走した三人だが、タロカン最強武将アットゥマ(演:アレックス・リヴィナリ)とネイモアの従姉妹ナモーラ(演:メイベル・カデナ)に追いつかれ、シュリとリリはタロカンに連れ去られる。

 

🐈‍⬛ 🧜🏻‍♂️オコエの黒人女性サブヒーロー補正期間終了。アットゥマ強すぎ。リリの魅力
ワカンダ最強の戦士、ドーラ・ミラージュ隊長オコエは、タロカンの武将アットゥマに完敗。原作ではヴィランらしいのでアットゥマは怖い奴かと思ってたらオコエが槍を落としたら拾って渡してきたりナモーラが加勢しようとしてもそれを止めてタイマンを貫く。正々堂々とした戦いを好む武人タイプだった。何ら卑怯な手も使われず正々堂々と配慮までしてもらった上でオコエが敗北。命もとられないし完全なかたちでの敗北。
これは地味に衝撃だった。
何しろオコエは主人公補正を持ったメインヒーローやラスボス補正を持ったヴィラン以外に負けた事がないサブキャラ最強のヒーロー。
前作でも「このオコエって人、おハーブも飲んでないのに何でブラック・パンサー並に強いの?」と評判だった。『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)でも、サノス四天王ブラック・オーダーのプロキシマ・ミッドナイトも撃破(という事はアットゥマはプロキシマ・ミッドナイトより遥かに強いという事か)。オコエは地球ヒーローの中で物理最強だった。何でこんなに強かったのかメタ的に言うとストームのような「MARVEL黒人女性ヒーロー」が他に居なかったため。原作ではドクター・ストレンジの従者のハゲでしかないウォンがMCUでは尋常じゃないほど目立ってるのも他にアジア人ヒーローが居なかったせいだが、それと同様にオコエも「黒人女性」という唯一無二の「マイノリティ女性ヒーロー補正」が効いていた。だが後述するがシュリが新ブラック・パンサーとなりリリがアイアンハートになるためか、その補正も切れて敗北した……というのが僕の分析。
このページ、以降はネイモアやシュリのことばかり書いてアイアンハートの事を書く流れの隙間がなかったので、ここに書くが前半と後半のアイアンハート登場シーン、ハンマーで鉄を打つトニーっぽいシーンどれも見て1秒以内にワッと盛り上がれる良いシーン(アイアンマン刷り込み効果)。オコエとシュリと絡むシーンも楽しいし。アイアンハートのデザインもアイアンマンより好き(面の部分がブラックなのがカッコいい)。
シュリもリリも攫われ一人、帰国したオコエはラモンダ女王に死ぬほどブチギレられ涙目、ワカンダ防衛大臣ならびにドーラ・ミラージュ隊長の職も解かれ無職となる……これほどまでに大人が大人を怒鳴り散らして泣かす場面を久々に見た。拳法の師匠に叱られて泣く若きジャッキー・チェンを思い出した。激昂してるだけでなくラモンダ女王は論理的に怒ってるし、そもそも女王なので誰も口を挟めない。「キルモンガーが息子を倒して王座に就いた時も許した。だが息子も娘も失った今は許さない!許すつもりもない!」と、言われてしまってはさすがのオコエもシクシク涙を流すしかなかった。
ちなみにオコエの恋人ウカビ(演:ダニエル・カルーヤ)は前作のキルモンガーの乱に加担して投獄され続けてるらしい。僕は、ウカビはどうでもいいがウカビの中の俳優、ジョーダン・ピール監督の『ゲット・アウト』(2017)『NOPE/ノープ』(2022)で主演を努めた、誰も信用できない半眼の眼差しを持つ黒人俳優ダニエル・カルーヤの顔が大好きだったので前作で裏切ってガッカリした。ダニエル・カルーヤが忙しいため、『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018)『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)の二作に渡るサノス侵略にも出てこなかったし本作にも忙しくて出てこなかった(オコエとラモンダ女王が言及はする)、三作目でこそ出てきてほしい。

 

🧜🏻‍♂️🐈‍⬛ 深海版ワカンダのタロカン。ネイモアのオリジン。シュリとネイモア和平への道
タロカンに連れ去られたシュリとリリの天才少女2人。
ネイモアはシュリに、美しく平和なタロカン、そこで楽しく暮らすタロカン人達の暮らしを見せる。
原作でネイモアは以上に血の気が多いから、もっと好戦的かと思ったが意外と優しいキャラだった。アットゥマやネイモアの従姉妹もあまり凶悪ではなく意外。
このように本作は大枠ではファンや観客が期待した予想通りストーリーは進むものの、ディティールは予想を上手くズラしてある。これはドラマの最新作『シーハルク:ザ・アトーニー』(2022) が、目の越えたMCUファンやアメコミ読者の予想を上手く外してたのと似てた。
メキシコの部族の女性を母に持つ長寿の王ネイモア、地上を追われた母や仲間達は秘薬の儀式によって水中で酸素を取り込む青い肌を得て深海に移住する。母が死んだので地上に埋めに行った幼きネイモアは、相変わらず争ってばかりで奴隷を虐げる地上人に愛想を尽かして皆殺しにし、かつてのワカンダのように愚かな地上人と一切の交流を絶つ。本作で「地上人(特にアメリカ人)は野蛮で愚か」という描写、これは最初から最後まで徹底している。
つまり開国した新生ワカンダの前に以前までの鎖国しているワカンダが現れた形。
自らのダークサイド版ヴィランと戦う」という展開はMARVELに留まらずアメコミヒーロー映画の定形だが、今回はワカンダという主人公国そのものが以前までの心を閉ざした自国のようなタロカン……つまりワカンダ自体が、かつての自分自身と戦うという国単位での展開。
ネイモアはタロカンに潜ってこれる深海スーツを作れるリリを処刑したがっているが、太古の自然を維持して科学的にもモラル的にも洗練されたワカンダとは仲良くしたがっている。ネイモアはシュリにタロカンの秘草で編んだミサンガを贈る。
ここまでネイモアの方から友好的にしてくるのも意外。
この中盤、観る前に想像していたのと全部が少しづつ違うので、どんどん面白くなる。
シュリはタロカンとは仲良くしたい、しかしリリを殺させる事には反対の立場を貫く。
ネイモアは思いのほか話せる王だった。シュリが「和平の道」を解くとネイモアも一考し始めた。何とか流血を避けて共存の道を歩めるかもしれない。
そんな希望の光が見えてきた。

 

🐈‍⬛ ナキア暗躍。ワカンダとタロカン開戦
シュリ姫の身を案じたラモンダは、故ティ・チャラの恋人にしてワカンダ最高のスパイだったナキア(演:ルピタ・ニョンゴ)に「どんな事をしてでもシュリを取り返して」と依頼。この「どんな事をしてでも」という命が命取りとなった。
メキシコで手がかりを掴んだナキアは、シュリが事前に開発していたハイテク・スーツを装備して潜水艇でタロカンに侵入。
……ナキアというキャラ自体はそうでもないが演じているルピタ・ニョンゴが好きなので(単純にルックスが可愛いから)本作でナキアの出番が異常に多くて嬉しかった。ナキアの出番が多いのは4DX版ポスターでセンターにいた事から予想していた。
タロカンに侵入したナキアは、シュリとリリを連れ返すために揉み合ったタロカンの女性を銃殺。この死んだ女性は戦士ではなく、シュリやリリに食べ物をくれたり身の回りの世話をしてくれていた非戦闘員だった(多分)。
どの瞬間に戦争が始まったかは諸説あると思うが僕はこの、我が娘を想うラモンダ女王が優しいナキアを派遣して優しいタロカン人女性をブッ殺してシュリが「キモヨビーズで治療を……」とか言ったのにナキアが「そんな暇ない!」と優しいタロカン人女性を置き去りにして見殺しにした……民を想いワカンダにも歩み寄ろうとしていたネイモア……もこれでキレてしまい、この時に戦争が始まった。
で、僕はここが良かった。
皆、ティ・チャラみたいに優しいのだがティ・チャラみたいに他者を許すことが出来ない人達のボタンの掛け違いで悲劇がどんどん大きくなってしまう。
この『アウトレイジ』シリーズみたいな復讐の連鎖、こんなMCU全作品中、最も暴力的な内容でもってティ・チャラを追悼する……アンビバレントな感じなので同意する人は(特に若者は)少ないかもしれないが僕は、この構図に痺れました。
しかも、この間、ラモンダ女王がネイモアを地上に呼んでタロカンを留守にさせていた。つまりワカンダはタロカンを騙し討ちした。
ちなみにラモンダ女王はワカンダとアメリカの橋渡し役エヴェレット・K・ロスと連携している。そしてエヴェレットは、USエージェントやエレーナ・ベロワ/ブラック・ウィドウなど正義でも悪でもないグレーの超人達を勧誘している政府の女ヴァレンティーナ・アレグラ・デ・フォンテーヌ伯爵夫人……通称”ヴァル”(ジュリア・ルイス=ドレイファス)の元夫だった。エヴェレットは命の恩人であるワカンダを救おうとしているが、ヴァルの狙いはヴィブラニウム奪取、そしてアメリカがそれを奮うこと、それだけ。
ナキアは娘を案じるラモンダ女王の命令通りにミッションをこなしただけなので悪く言いたくはないがナキアの銃弾でワカンダ vs.タロカンの殺し合いが始まった。
開戦だ。

 

🧜🏻‍♂️ネイモアのワカンダ侵攻
「地上人は信用できないがワカンダには譲歩しよう」としていた温厚なネイモア王だったが、ワカンダの策略でタロカン人の非戦闘員女性が殺された事でキレた。
ワカンダに侵攻、洪水を起こす(震災を思い出して怖くなった)。
ジャバリ族の族長エムバクも、オコエに完全勝利したアットゥマ将軍にやられた。
木製の棒と鎧だけでサノス軍と2回戦って生き抜いたエムバクも完敗。「サノス軍と2回戦っても折れなかった木の棒と鎧」もネイモアだかアットゥマだかの正拳突きで粉微塵になった。
タロカン人どんだけ強いの?なんならアットゥマは下手したら、明確な弱点があったネイモア王より強い可能性まである。まぁオコエやエムバクにあった補正がタロカンに移っただけだが……今とにかく地上最強レベルで強いのは間違いない。
ネイモアの攻撃を受けたラモンダ女王とリリ。ラモンダ女王は出会ったばかりのリリを救って力尽きた……。
兄ティ・チャラ王に続き母ラモンダ女王までも失ってしまったシュリ(具体的に描かれてないが洪水が起きたのでワカンダ国民の死者も大勢出ているはず)。明るく生意気なメスガキ然としたキャラクターだったシュリの顔は哀しみと怒りで10歳くらい一気に加齢したように変貌。予告やポスターや試写会画像で「これがメスガキっぽかったシュリ役のレティーシャ・ライト?何でこんなカリスマ感あふれる顔になったんだ?」と思っていたが劇中では兄と母を喪ったから、現実世界ではシンボリック過ぎた黒人世界の希望の星チャドウィック・ボーズマンを喪って代わりに主人公スーパーヒーローを演じなければならなくなった重圧、それがシュリ=レティーシャ・ライトが纏う空気を一変させた、それがはっきりわかった。
「後日に再訪する。その時までにリリを引き渡せ」と告げてネイモア達は帰っていく。
ワカンダが壊滅した今リリを見つければタロカン勝利で終わっていたのだが猶予を与えたために……ここは少しお都合主義的なものを感じたが、ネイモアもタロカンも公正を美徳とする国家っぽいので猶予を与えたのかも?
事ここに至って優しかったシュリも家族を全て喪い「母の仇……、ネイモアをブッ殺す……!」という漆黒の意思を見せたのも意外だった。明確に何度も「殺す」と言っていた。……ナキアの非戦闘員タロカン人殺し、ネイモアの女王やワカンダ市民殺し、シュリの「殺す」連呼。ワカンダ戦艦が襲われた時も通信で「死傷者多数!」と言っていた(MCUでは「死」を明確に口にする事は珍しい)。タロカン人がドーラやジャバリ族を槍で突いてるカットも多かった(こういうカットでも確実に死んでるんだろう)。ライアン・クーグラーはフンワリと誤魔化さずに明確に「死」や復讐の連鎖を描いている。
これは、きっとチャドウィック・ボーズマンの死を見つめ続けた結果だろう。
観ているファンの子供たちに「お互い攻撃したらポイントが増えたり減ったりするだけじゃない、死ぬんだぞ!?そしてそれが永遠に続く」と言わんばかりだ。
そもそも「てっきり原作同様好戦的だと思ってたネイモアが思いのほか優しくて和平の道の可能性もあった」→「我らがワカンダの勇み足が原因で開戦」という、この展開が予想の真逆。予想は外さず細部は予想を外す展開が面白い。

 

🐈‍⬛ シュリとリリの兵器開発
シュリは、兄を喪った哀しみと伝統を軽んじる性格からか「ワカンダの守護者ブラック・パンサー復活」を進めていなかった。兄の病気の治療のためのハーブ精製に失敗したのでハーブ精製に挑戦する事は兄の死を追体験するようで嫌だったのかも。
しかしワカンダの危機、そして母の仇を討つため、もう一人の天才少女リリの手も借りてブラック・パンサー復活の道を模索する。ハイテクを嫌うオコエとエムバクにもハイテクスーツを開発。現ワカンダ最強と思われたオコエとエムバクが完敗したのだから、もうアーマーをプラスするしか無い。
オコエそしてハイテクを好む新入りドーラ・ミラージュのアネカ(演:ミカエラ・コール)は、鳥類を思わせるアーマーを着た”ミッドナイト・エンジェル”という恥ずかしい名前のヒーローとなる。ヒーロー名を聞かされたオコエも「ああっもう!恥ずいっ!」と嘆いた(シュリは切羽詰まってるのでそんなオコエを真顔スルー)。個人的に「身体一つの槍持っただけの人間なのに何故か超人兵士くらい強い」というオコエの長所がミッドナイト・エンジェルで消えてしまったので個人的にイマイチ。ハイテクを好むアネカ(演:ミカエラ・コール)がハイテク・アーマー着るのはいいがオコエはちょっと……。ちなみにバッキー・バーンズ/ウィンター・ソルジャーの洗脳も解いたドーラ・ミラージュ副隊長アヨ(演:フローレンス・カサンバ)はそのままドーラ。
言及されてないがアヨがドーラの新隊長となり、無職になったオコエと新人アネカが”ミッドナイト・エンジェルズ”という二人組アーマーヒーローになったんだと思う。エムバクもハイテクアーマーを着用。こちらは木の鎧がヴィブラニウムになっただけ。
ハイテクを嫌うオコエも、木製装備しか身に着けてなかったエムバクも、母国存亡の危機を前に、背に腹は変えられなかったためか文句を言わず最新スーツをおとなしく着た。サノスの侵攻にも生身で対抗してたのにね。
エムバクといえばネイモアが得意な洪水を起こした時に真っ先に着水ポーズで市民救助に飛び込んだエムバクかっこよかった(震災の記憶のせいで洪水で街を襲うネイモア怖い)。それと気に入らん奴が何か言ったら配下と一緒に「ホウッ!ホウッ!ホウッ!」とサルの鳴き真似して黙らせるエムバクのパワハラ好き。
ブラック・パンサーを生むにはヴィブラニウムの影響を受けたハート型のハーブが必要だが前作『ブラックパンサー』(2018)で、自分以外のブラック・パンサー誕生を恐れたキルモンガーによって全て燃やされてしまった。兄ティ・チャラが病死してしまったのも”ヴィブラニウムの影響を受けたハート型のハーブ”が消失してしまっていた事が遠因。
兄を喪ったシュリが母に「世界を燃やし尽くしてやりたい」と言っていて「ティ・チャラは暗殺じゃない病死なのに何で世界が憎い?」と思ったがキルモンガーによる、おハーブ焼失、ティ・チャラの開国により世界各国(特にアメリカ)が攻めてくる外界の悪意を恨んでのものだったんだろうな、ティ・チャラの病気が何なのかわかんないし今のところ、これで間違いないだろ。
シュリは、ネイモアに貰ったタロカンの秘草で”ヴィブラニウムの影響を受けたハート型のハーブ”精製に成功。


🐈‍⬛ シュリの意外な本性!!
ヴィブラニウムの影響を受けたハート型のハーブ”精製に成功したシュリは早速、おハーブを煎じて服用、ナキアとリリの見守る中「亡き先祖と出会うビジョン・クエストめいた幻視の世界に旅立つ」という神秘の”ブラック・パンサー誕生の儀”を行う。
「先日、殺されたラモンダ王妃」が導いてくれると思っていたシュリとナキア。
……なんで一番、頼りにしていたティ・チャラが来ることを願わなかったのか疑問だ。
と言っても理由は明白か。ライアン・クーグラー監督やMARVELスタジオが「ティ・チャラ役の故チャドウィック・ボーズマンをアニメだろうが何だろうが彼の新たな演技を創作するなんてとんでもない」というメタ的な理由で嫌がったためだろう。
劇中で「シュリやナキアが、幻視の世界でティ・チャラが導きに来なかった理由」すら口にしなかったのは不自然だが、それほどボーズマンの聖地化されてるのかな。
「亡き先祖と出会う幻視の世界」でシュリを待っていたのは先日殺されたラモンダ元女王……ではなく意外な人物だった。
現世に戻り、誰に会ったのかナキアに訊かれても答えないシュリ(ちなみにシュリは最後まで誰にも教えない)、そして予定していたブラック・パンサーの紫のマスクではなく違う色のマスクを手に取るシュリ……。
僕としては、ここが本作の「チャドウィック・ボーズマン追悼」以上に、一番凄くて鳥肌が立った部分だった。観てた劇場内からも「ハッ……!」と息を呑む声無き声が聞こえた。前作公開時Twitterに大勢居た腐女子のお姉さん達が「しゅ、シュリちゃん……陛下と○の娘じゃん!」と盛り上がりそう(いや「ネイモアの秘草」も入ってるのでネイモアの娘とも言える)。
ここでシュリの今の想い、今までの良い娘ではなく怒りのシュリが明らかになる。
本作の全体的なストーリーや「チャドウィック・ボーズマンを追悼するんだろうな」というテーマこそ大勢が想像する通りだったが、細部は全く予想してないものだった……と何回も言ったけど「主人公シュリの描き方」はその最たるものだった。僕は好き。
MCUに足りない……前作にも足りてなかった「殺気」が凄くたくさん描かれているからかも。
新ブラック・パンサーとなったシュリは、その姿をワカンダ長老たちに見せる。沸き立つワカンダ上層部(僕が好きな、下唇にお皿はめたおじさんも生きてた。あのお皿にも機能があってほしい)。
タロカンを迎え撃つ意思を見せるシュリ/ブラック・パンサー。
優しかったシュリが比類なき攻撃性を見せ、好戦的だったエムバクが珍しく疑問を呈する珍しく面白い展開。
「シュリとリリの拉致」→「ナキアが弾みでタロカン女性を殺害」→「怒りのネイモアがラモンダ女王と市民を殺害」……復讐の連鎖。ネイモアを殺してどうなる?怒ったタロカン人が復讐に来るだけだ。最初は平和を願い同盟を結びかけていたワカンダとタロカン……どうしてこんな事に……というか人類は一体いつになれば殺し合うのを止める事ができるのか?
エムバクは、死ぬ前の親友ティ・チャラに「我が妹シュリを頼む」と言われていたらしく乱暴者だった前作とはうって変わって親戚の叔父さんみたいにシュリを優しくサポートする。
エムバク「(復讐の連鎖のくだり)そういうわけだぜ?ティ・チャラやラモンダ女王なら、諦めず和平の道を模索するんじゃねぇか?」そんな意味の事を言う。
シュリ「まるで母が生きてるかの事を言う。ネイモアを殺す!……彼が息絶えるまで、その様を最期まで見下ろしてやる!
まるで誰かが乗り移ったかのように怒り憎しみを見せるシュリ。これには、さすがの元暴れん坊エムバクも沈黙して目線を落とすしかなかった。

 

 

……映画観て帰宅したばかりで興奮して、ついつい観てきた事全部書くモードになってた。ネタバレ書きすぎたから、ここからボカして書こう。
観る前は「シュリは好きだが……レティーシャ・ライトが演じる映画版シュリは原作の強そうなシュリじゃなく、あくまでも愛らしいサポート少女キャラだよね?果たしてブラック・パンサーになれるのだろうか」と心配していた。MCU版『スパイダーマン』シリーズのMCU版フラッシュ・トンプソン(演:トニー・レヴォロリ)が原作のようにエージェント・ヴェノムになるとは、とても思えないのと同様に(いや、トニー・レヴォロリもMARVELスタジオに「エージェント・ヴェノムになれ!」と言われたら筋トレして仕上げてくるだろうけど)。
とにかくシュリはチャドウィック・ボーズマンにも劣らないカリスマを持ったシリアスなブラック・パンサーへと生まれ変わった。ポスター等で気になってたが、悪堕ちに近いかたちでシリアスなキャラになるとはね。「シュリかっこいい」と思うと同時に、映画製作が決まって今日までのレティーシャ・ライトへかかったプレッシャーは凄かっただろうな、とそれにも感動した。
しかしスパイダーマンもそうだが愛する者を失わないとヒーローになれないのだろうか?
シュリ/ブラック・パンサーのラストバトルも盛り上がった。「ワカンダ運動会」と馬鹿にしていた前作のラストバトルは違い今回は上下の動きも意外性もあった。
そしてシュリの明確な殺意もあった。殺意だけでなく殺される覚悟すらも持って挑んだ(一瞬「あれ?まさかシュリ死んだ?」と思わされるほどシュリとネイモアは互いに相手を殺そうとする)。
戦いが終わる頃「この漆黒の殺意を持った新生シュリ好きだが……しかし気高いお兄さんの要素なさすぎじゃないか?」と心配してたら、最後の最後でそれも見せたのでホッとした。
一方、ネイモアは頭が冷えたのか元の温厚な王に戻った感じ。従姉妹や部下たちは不満に思ってそうだし、ネイモアはフェイズ6くらいに単独作が作られ、部下に下剋上されて地上に来る気がする。
僕はこれ最高だったが一作目のディズニープリンセスものっぽいストーリーが好きすぎた人は腹立つかもしれないなと思った。
観る前は「しんみりした湿っぽい話だったら嫌だな」と思ってましたがMCUの中でも最も「暴力」「復讐」「死」の要素が強い、そういう激しい要素を通してティ・チャラを追悼するという造りに感動しました。。あとシュリとリリの絡みの楽しさ。
本作の直接の続きはどれもライアン・クーグラーが関わるらしい、まず来年に『アイアン・ハート』(2023)単独作ドラマ、あとタイトルや時期は不明だがワカンダを舞台にしたドラマが、オコエを中心にしたものと新キャラのもので2本予定されてるらしい。そして『ブラックパンサー』3作目もありそうだし。ワカンダは人気出すぎたし世界を広げる要素ありすぎるせいか拡大してくみたいですね。僕は、前作はまぁまぁって程度だったけど本作で完全にワカンダ好きになったので嬉しいです。
前半、ティ・チャラの死を克服する儀式を「兄の死を受け入れるのが怖い」という理由でシュリは拒否したが最後にそれも行う。ティ・チャラ=チャドウィック・ボーズマンは死んだ。
そんなラストシーンを見て「この映画全体が『ティ・チャラ=チャドウィック・ボーズマン』を、おくりだすための映画だったんだな」と最後に気づいた。
何の情報も入ってない初日に観て色々な事を一人で思うことができて本当に良かったと心からそう思った。

 

MCU、本作がフェイズ4最終作だったんだが、あとDisney+で11月25日に『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:ホリデー・スペシャル』(2022)が配信されて、それが本当の本当に最後。Disney+も会員が伸び悩んでるらしい。MCUドラマもSWドラマもイマイチなものの方が多かったからね。でも嫌いな人も多いが『シーハルク:ザ・アトーニー』(2022) とかMARVELスタジオの対応などを観て来年のフェイズ5からは褌を締め直して良くなるだおうと単純に思ってます。
まだアベンジャーズの数倍楽しみな本命の『ブレイド』『デアデビル』『ファンタスティック・フォー』『X-MEN』が残ってるので僕にとってはまだまだフェイズ6あたりからが本番です。
MARVELじゃなけいけどジェームズ・ガンがDC映画の代表になったのも、MCUにとって嬉しいニュースです。一極集中は腐るから。DCも盛り上がれば相互作用できっと良くなるでしょう。
シュリの今後も、ネイモアやリリの今後も楽しみ。

追記(2023.02/14):配信はじまってたから再見しました。今回もまた、無難に行くならシュリも兄のように誰も傷つけないキャラにするところを凶暴にしたところが素晴らしい(兄の代用品じゃなく別の新たなパンサーとして立ててるから) 。そして、ティ・チャラ=チャドウィック・ボーズマン追悼作品なのに他の作品よりも血え血を洗う暴力的な内容になってるところも良かったです、これも前述のシュリ同様に、追悼作品だからといって無難な感じで置きに行ってないから良かった。あと『アッセンブル(メイキング)も観たけど、ネイモアが肘打ちや靠(肩や背中での体当たり)を多用するのは八極拳から着想してたと知りました。

 

 

 

 

そんな感じでした ワカダフォレヴァ!

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Black Panther: Wakanda Forever (2022) - IMDb
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ブラックパンサー VS. デッドプール

『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)/ニコラス・ケイジ復讐ものだが本編の3分の2はサイケデリックな映像が続くのでそれに合わせに行く必要がある👿


原題:Mandy 監督&脚本&原案:パノス・コスマトス 脚本:アーロン・スチュワート=アン 音楽:ヨハン・ヨハンソン 製作国:ベルギー 上映時間:121分

 

 

気になってた映画だが「妻が殺されてニコラス・ケイジが復讐する」という所謂、復讐もののあらすじを聞いて冒頭からラストまで全て予想ついたし、加齢のせいか「妻や娘が殺されるorレイプされる」という映画がキツくなってきた、何でかというと単純に可哀相だから。

パノス・コスマトス監督
だが、先週観た『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』(2022) が面白くて、中でもブッちぎりで一番良かった第七話「観覧」の監督が本作のパノス・コスマトス監督だった。もう今後の監督作も観たいと思うくらい気に入ったので仕方なくコレも観る事にした。ちなみに、このパノス監督の父は、まぁまぁ好きだった『ランボー/怒りの脱出』(1985) や『コブラ』(1986)ジョージ・P・コスマトス監督らしい。
ドラッギーでサイケデリックな原色を使ったドギツイ映像とバイオレンス。って感じの監督。本当に「コカインとLSDとロック、カッコいい品々が好き」というのが溢れている。『ドライヴ』(2011)でお馴染みのニコラス・ウィンディング・レフンの映像に似てる。未だに若者向けNetflix作品などで流行ってるピンクと青の照明が常に夜道に光ってるブームを作ったのはレフンだと思う(いやピンクと青い光は最近減ってきたか)。あとロブ・ゾンビが撮るサイケデリックな映像っぽくもある。大体ドラッグやロックが好きな人はこういう感じになる。

ニコラス・ケイジ
なんか知らん間に大作映画に一切出なくなり最近、色んなB級映画に出て地味に再評価されてきたニコラス・ケイジ。「そういえば何で大作に出なくなったの?干されてるの?」という事が友達と話題に上がったので検索したらMARVEL映画『ゴーストライダー2』(2012)とかが連続でコケてオファーが来なくなり、私生活で結婚・離婚の繰り返しでカネをごっそり持っていかれて浪費も激しすぎて借金がクソ増えたという自業自得な感じだった。ニコラス・ケイジ本人は好きだけど彼が出てたハリウッド大作どれも面白くない印象だから作品選びも悪かったのかも?なんか「ニコラス・ケイジ主演」と聞いても観る気起きなかったもんね、「ネットでミームになってる本人は面白いけど面白くない映画に出るおじさん」のイメージがついてた(そう考えると干されたのもわかるな)。そんでニコラス本人は借金を返すために年に3、4本くらいのB級映画に出まくってたみたい、そんで最近、借金を返し終えたらしい。
で、近年の「B級俳優ニコラス・ケイジ」時代はというと、H・P・ラブクラフト原作コズミック・ホラー小説「宇宙からの色」の実写映画化『カラー・アウト・オブ・スペース -遭遇-』(2019)や文句なく大好きな『ウィリーズ・ワンダーランド』(2021)など、あと最後まで楽しめる程度には楽しかったけど、そこまで面白くもなかったのでブログに書かずFilmarks行きになった『オレの獲物はビンラディン』(2016)など明らかに、大味でつまんない大作に出てた時より楽しい。今後も愛する豚が誘拐されて助けに行く公開中だけどまだ観れてない『PIG ピッグ』(2021)とか、ニコラス・ケイジ本人役を演じる『マッシブ・タレント』(2022)など楽しみなB級映画が多くある。風変わりで楽しい映画ばかりに出るようになったおかげでニコラス・ケイジも再評価されつつある。借金も返したし大作に戻ってくるのかもね。

ネタバレあり

 

 

 



Story
1983年、レッド(演:ニコラス・ケイジ)は、愛妻マンディ(演:アンドレア・ライズボロー)と山奥で静かに暮らしていた。
しかしマンディに固執するカルト集団によって、レッドの眼の前でマンディが焼き殺されてしまう。怒り狂ったレッドはオリジナル武器を作り復讐を誓う――

ストーリーはシンプルで本当に上の通り。
カルトの教祖が、マンディを気に入り恐らく自分の女にしようとして屈強な配下のバイカー”ブラック・スカルズ”を使って主人公レッド――いや、わかりにくいからニコラス・ケイジと書く――ニコラス・ケイジを縛り上げ、ドラッグを喰わせて酩酊状態のマンディに得意の説教するもののマンディは悪魔のような顔で教祖を嘲笑しまくる。それで怒った教祖によってニコラス・ケイジの前でマンディを焼き殺してしまうってわけ。
「妻or娘が殺されるorレイプされて復讐する」系の映画が加齢と共に苦手になってきた俺。といっても所謂ジャンルもののフィクションだし「第一幕でやられて→第二幕で準備して復讐を始め→第三幕でちょっとだけ負けて捕まるけど逆転勝利!」という構成なのはわかりきってるし、実際に映画を観たら「殺されるorレイプされる」場面は割と平気なんだけど、加害者がやってくるまでの序盤、殺される予定の被害者が何も知らず平和に楽しく過ごしてる場面を観るのが辛い。可哀相で。むしろ「可哀相だから、さっさと殺されて復讐パートにいってほしい」と勝手なことを思ってしまうものがある。
オバケとかが本格的に苦手な友達、何人かいるけど勿論そーいう人は「Jホラーとか絶対に観ない!」という感じなのだがいざ観たら大して怖がらない場合が多い。僕も「怖さ」や「エロ」に対してそういうところがある。要は本番よりも自分の想像の方が怖かったりエロかったりするタイプ。「殴られるのは痛いの我慢すればいいだけだが、それよりも殴られる事が濃厚な、殴られてない時間の方が怖い」というやつ。
まぁよくわからない事を熱弁しても仕方ないので映画の話に戻る。
ネットの批評を見ると「ニコラス・ケイジ大暴れアクション」を期待した人は、観念的で抽象的なサイケデリックな映像にウンザリした人が多いみたい。「ニコラス・ケイジ大暴れアクション」はちゃんとあるのだが、それは映画が3分の2くらい進んだ後半からであって、そこまでは観念的で抽象的なサイケデリックな映像が続く。僕は前述した通り『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』(2022) 第7話「観覧」で、このパノス監督のドラッグムービー的な趣向を知って、それで好きになったので本作もそういう感じなんだろうなと最初からわかってたので自分もドラッグ……なんてあるわけないのでメイカーズマークのウイスキーをロックで嗜みつつ観てた。
……が、サイケデリックな映像が続くのは僕は嫌いじゃないけど、やっぱり復讐ものという本作にはあまり合ってない気もした。『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』(2022) 第7話「観覧」の場合は「次に何が起きるんだろう」「自分のこの場に居て楽しみたいな」等と思いながら浸れたのだが、「復讐もの」という観なくても最初から最後まで全部わかってる本作においてはドラッグムービーみたいなのは邪魔かもしれない。「後で10kmジョギングしてもらうけど、その前に温泉に浸かってよ」と言われてる感じというかね。「後で汗かくとわかってるのに湯に浸かる気になれないなぁ」という気持ちというかね。
殺されてしまうマンディは『シャイニング』(1980)のジャック・ニコルソンの妻役してたシュリー・デュバルっぽい顔で、単純に顔が怖い。
妻を殺したカルト集団が立ち去った後、一人残されたニコラス・ケイジ
変わり果てた妻の亡骸を抱くと灰になって崩れた。
ニコラス・ケイジはオシャレな部屋でTシャツと白ブリーフでウォッカ的なものを飲みながら慟哭、絶叫する。こうなってしまっては当然、復讐しないことには普通の生活に戻れるわけもない。もう元の平和なニコラス・ケイジも死んでしまったのだ。
ニコラス・ケイジは昔の仲間?らしき男のところに行き特性ボウガンを貰う。そして自分オリジナルの斧を鋳造。
さっそくカルトの後を追い、用心棒のバイカー”ブラック・スカルズ”や信者達を、ボウガン、オリジナル斧、チェーンソー、素手で血祭りにあげていく……まぁ別に特に書くこともない。想像通りの展開。
こちらがニコラス・ケイジに常に期待している、目を見開いたキメ顔や若干、大袈裟な演技も堪能できる。香川照之亡き今『半沢直樹』で香川照之役をしてほしい感じもある。
顔も全身も血まみれになる中、一番ラストでスターゆえの真っ白い歯を見せてのキチ○イスマイルが決まっていた。
まぁ、そんな感じでそれ以上でも以下でもない感じ。
やはり事前に自分も酩酊した状態で観て丁度よかった。そうじゃないとこういう映像が苦手な人は後半まで退屈するかもしれない。というか監督た本作のファン、多分きまった状態で観てると思う。それは日本では無理なので何とか工夫して違う方法で映画に自分の精神を合わせに行く必要がある。

 

 

 

 

そんな感じでした

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Mandy (2018) - IMDb

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『トップガン マーヴェリック』(2022)/限界までわかりやすくして敵や死の香りを完全に消して気持ちいいシーンを増やした爽やかな映画🛩️


原題:Top Gun: Maverick 監督:ジョセフ・コシンスキー 脚本:アーレン・クルーガーエリック・ウォーレン・シンガークリストファー・マッカリー 主演&制作:トム・クルーズ 製作:ジェリー・ブラッカイマーほか 主題歌:レディー・ガガ「Hold My Hand」 製作国:アメリカ 上映時間:131分 シリーズ:『トップガン』シリーズ第2作目

 

 

『トップガン』(1986)の36年振りの続編。監督は『トロン: レガシー』(2010)とか『オブリビオン』(2013)という不安な監督……だがトム・クルーズ作品は半分トム・クルーズが半分監督みたいなもんだしブラッカイマーもまた絶大な力がある。そんで死ぬほど大ヒットした。前作は観てなかったから公開前に観たが全然面白くなかったですね……でも映像とか音楽や雰囲気は最高でした。

ネタバレあり

 

 

 

 

Story
アメリカのエリート・パイロットチーム“トップガン”。かつてない世界の危機を回避する絶対不可能な極秘ミッションに直面する。ミッション達成のため チームに加わったのはトップガン史上最高のパイロットでありながら型破りな性格で組織から追いやられたマーヴェリック海軍大佐(演:トム・クルーズ)。組織が嫌う彼を呼んだのはかつてのライバル、アイスマン海軍大将(演:ヴァル・キルマー)だった。若き精鋭パイロット達の中には、マーヴェリックの戦死した相棒グースの息子、ルースター海軍大尉(マイルズ・テラー)の姿も。タイムリミットは迫っていた——

本来、将官になってもおかしくない戦歴だが現場主義を貫いてマーヴェリック、音速テスト機のテストパイロットをしていた。アイスマンに呼ばれて若き精鋭パイロットたちの教官となる(ちなみに若き精鋭パイロットたち全員よりもマーヴェリックの方が操縦が上手い)。
ならず者国家NATO条約に違反するウラン濃縮プラントを建設し稼働させようとしていたため、それをぶっ潰すチームの教官になったというわけ。
この作戦は、編隊を組んで地形に沿って飛来し先鋒がプラントの入り口を射撃、後続がそこに爆撃!するとプラント全体が完全に死亡!という『スター・ウォーズ ep4/新たなる希望』(1977)デス・スター破壊を始めとしてハリウッド映画でお馴染みの、一点突破方式。『アベンジャーズ』(2012)とか大作映画のトドメは全てこれ(『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019)はインフィニティ・ガントレットをGetして指パッチンするのがコレにあたる)。「本当に2発撃つだけでプラントを全破壊できるのかい!?」「それを調べるまでも色んな苦労があったんだろうな」とか色々思わせるが本作は爆撃2発でOK!と限界まで単純明快にしてるのが本作の大ヒットに繋がってるんだろう。
で、プラント破壊も難しいがチームが、このエリアを敵の攻撃を躱して離脱するのが最難関!という作戦。マジで小学生でもわかる明快な作戦。ハリウッド大作映画は、もう20年くらい一点突破全解決クライマックスが続いてる。そうしないと映画一本の間に作戦が終わらんだろうし代わりの展開も思いつかないのでしばらく続くのだろうし別に悪いとは思わない。
本作はこの実戦以外のありとあらゆる要素が、凄くわかりやく爽快。
作戦を一堂に説明する時に偉い人が……台詞はうろ覚えだけど「チームの中の優秀な者が」的な事を言うと自信家のベジータ的なハングマンの笑みがアップになり「チームの中の後れを取る者がいれば……」的な事を言うと「ハングマンがルースターを見る」カットが入る。物凄く全編、分かり易いサービスが行き届いている。
この爽やかな単純明快さが大ヒットした理由なのかも。
今の大作って社会問題を考えさせる要素やMCUみたいにオタク知識がないと完全には楽しめないものが多すぎる。僕は好きだが「映画なんて年に一回しか観ない」……という世の中の殆どの人にとっては本作のほうがいいだろう。関連作を観る必要もないし。
正に、この映画そのものが劇中のプラント破壊作戦同様にシンプル。他の観る前に考慮する前提が必要な大作映画の風潮の間隙を縫った映画。本作一本だけ観れば老若男女誰でもいける本作の爽やかさが際立ったんだろう。
……というのが一番に頭に浮かんだ感想。


マーヴェリックは作戦成功させるためチームを特訓する、それと並行して仲良くないチームを一つにまとめるという精神的な役割をこなす。といっても皆、立派なパイロットなので割と早い段階で自然と仲良くなるのだが、グースがマーヴェリックを恨んでいるので、この疑似父子の和解がテーマの一つとなっている。
で、おまけとしてマーヴェリックが、元カノであるジェニファー・コネリーと仲良くなるラブストーリーもある。彼女の娘が留守中にベッドインしてたら娘が帰宅してきたからベランダから落下して帰宅しようとしたら娘に見られててトホホみたいなシーンは「中年になったのにトム・クルーズ、高校生みたいな朝帰りしてるやん」という微笑ましい笑いが生まれる。
「マーヴェリックの元カノ」と言えば前作での女性教官だが演じてたケリー・マクギリスが年相応の老け方してる上に肥満になったせいかオファーが来なかった。別に年相応に老けることも太ることも良くないとは思ってないが現在のケリー・マクギリスに比べてトム・クルーズがあまりに若々しすぎるので、確かに今のトム・クルーズが今のケリー・マクギリスとラブストーリーを展開したら観客が「えっ……」となってしまい映画鑑賞のノイズになってしまう、だからジェニファー・コネリーにしたんだろうと思った。あと前作を改めて観てもあの女性教官、全く良いキャラじゃないんですよね。「ロッキーとエイドリアン」みたいに愛し合いすぎてる関係なら「エイドリアン出さんとダメだろ!」となるけど女性教官なら全くそんな事はない。
ちなみにジェニファー・コネリー、今の今まで新規キャラだと思ってたが、検索したところ前作でマーヴェリックが付き合ってた大勢の女の子の一人として名前だけ出てた「司令官のお嬢さん」らしい、知らなかった。
それを知ると前半、この地に戻ってきて「あの笑顔」で接近してきたマーヴェリックを、店のベルでやり込めて叩き出してたのも遊ばれた上に違う女を選んだ過去があったからだったのね。
グースの妻で当時無名だがその後超絶ブレイクして超絶映画に出れなくなったメグ・ライアンアーカイブ映像で出た。だが「『ルースターをパイロットにしないでくれ』とメーヴェリックに頼んだ。だからマーヴェリックはルースターがパイロットになる道を遅らせて死ぬほど恨まれた。だがメグ・ライアンが言ったと言えば母子が気まずくなるからマーヴェリックは秘密を抱えている……」という設定。出演してないメグ・ライアンがあんまり良くない形になっててトム・クルーズだけ良い役すぎて、あんまり感じよくないのでメグ・ライアンも出して「私がマーヴェリックに言ったのよ!」とルースターに言ってルースターが「母さんは心配してくれたからだろ、でもマーヴェリックは自分が父さんを死なせた負い目があるから俺を邪魔したんだ!」みたいな形で、メグ・ライアンを消化してルースターxマーヴェリック2人の問題にした方がスマートだったかもしれん。

 

ほぼ全編、全体的に気持ちいいシーンで構成されてる。
冒頭の”ブラックスター”のテスト飛行。怒った上司(エド・ハリス)が止めに来るがマーヴェリックは強行してテスト開始→成功!→気持ちいい!
夕方、例のジャンパー着てノーヘルでバイク爆走!
ジェニファー・コネリーに接近したトム・クルーズ、店にはまだ面通ししてない精鋭チーム。店から叩き出されるマーヴェリック、でも皆笑顔。ルースがピアノ演奏、それを聴いて店の前で哀しむマーヴェリック、心配するジェニファー・コネリー
皆でビーチフットボール、軽薄な曲が流れる中、異常に濡れたムキムキボディの一堂がフットボール!軽薄な曲の中の最も軽薄な部分でルースがスローモーションで身体をくねらせる!(映画公開時この場面がTikTokの海外女性の間で「クソエロい」とバズってた)

youtu.be
久々に会ったアイスマンと友情を確かめ合うマーヴェリック。
教官をクビになりそうになったマーヴェリック、またお得意の無許可強行発進で、プラント破壊作戦が可能な事を証明→マーヴェリックを疎んじてたアイスマン尊敬しまくり上司も認めざるを得ない→気持ちいい!

でクライマックスの実戦。「フレアは大事なんだな」という小学生みたいな事を思わされる空中戦。撃墜されたマーヴェリックとルースターの共闘、懐かしのF-14に2人が乗り込む!→時代遅れのF-14で二機撃墜→でも弾切れ→ハングマンが助けにきてくれた→マーヴェリックとルースター和解のハグ→マーヴェリックを疎んじてたアイスマン尊敬上司もさすがにニッコリ→気持ちいい

という感じで全体的に、わかりやすくて気持ちいいシーンの連続で出来ていた。
敵対国を伏せ敵兵の顔すら出さず「死」や「血」を極限まで消し、観終えた時には『スラムダンク』を読んだ後のような清涼感があった。監督は「意図的に敵国を伏せてスポーツ映画を作る感じで作った」そうなので監督の狙い通り楽しんだ。

そんな本作に具体的な文句はなく、出演者自ら操縦してる飛行シーンは勿論、最初から最後まで楽しんだものの、なんかいまひとつ物足りない気持ちなのは何なんでしょうかね。自分でもよくわからない。映画公開時も観に行ったんですけど正直そういう気分……良すぎず悪すぎずって感じでしたが観に行った人が超絶絶賛してて、それがよくわかんなかったんですけど、かといってこれといって悪い部分もない……だから劇場から帰っても感想書かなかったんですよね。レンタルしてまた観たので書いときました。それでも理由よくわからんけど明快かつ爽やかすぎたかも。やっぱ敵がどこなのかとかマーヴェリック達によって絶命する敵の顔とかが無いのが好みじゃなかったのかもね。でもそういうのは本作の狙いじゃないから文句を言いたいまでじゃないって感じか。
好きなキャラは……ハングマンかな!

 

 

 

 

そんな感じでした

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Top Gun: Maverick (2022) - IMDb

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『バーバリアン』(2022)/謎の隠し方と語る順番とミスリーディングが巧みすぎる!超超超最高🏠


原題:Barbarian 監督&脚本:ザック・クレッガー 配信:Disney+ 製作国:アメリカ 配信時間:103分

 

 

なんか最近Twitterでちょいちょい評判を聞くホラー。
観た人は皆「ダブルブッキングで一軒家の宿泊施設で知らない男女が一晩過ごす」という設定だけ言って後はネタバレしないようにしてる。よほど面白いらしい、と期待が上がった。「『バーバリアン』っていうぐらいだから野蛮な奴が出てくるホラーか?」という予想しか立たない。ずっと気になってたので観た。
監督のザック・クレーガーって誰?と思ったらアラフォーの俳優。あまり知らないコメディ2本とドラマをいくつか監督したり出演してる人だった。日本では無名に近い。それで殆ど宣伝されなかったのか(こんなに面白いのに……)。

ネタバレ殆どなし。前半のことだけ書く事にする。

 

 

 

 

Story
仕事のためデトロイトの荒廃した町ブライトモアを訪れた女性テス(演:ジョージナ・キャンベル)。
宿泊のために借りた一軒家に到着するが、ダブルブッキングにより見知らぬ青年キース(演:ビル・スカルスガルド)が滞在していた。
嵐の深夜のため、他に行く当てがなかったテスは、仕方なくキースとそこに宿泊することにする。
その夜、自部屋で眠っていたテスは、部屋のドアが開けられ家中を動き回る大きな音で目がさめる。翌日、地下室にトイレットペーパーを探しに下りたテスだが、地下へのドアの鍵が閉まり閉じ込められる。そこで謎の扉を見つけるが――

映像は、始まって数分で好みの映像だと思った。言葉で説明するのが難しいが……A24映画とかクリント・イーストウッド映画みたいな、ガチャガチャとカットが変わらない大人っぽくて現実的な映像(これ以上わかりやすく映像を言葉で説明できん)。

テスはAirbnb(別荘やコンドミニアムをレンタルできるネットサービス)で小さくて小綺麗な家を借りた。
ダブルブッキングで一緒に泊まる事になった青年は、非常に紳士的で優しいイケメン。
キースを警戒していたテスだったが、ワインを飲んで少し話すだけで仲良くなる。キースはテスが面接を受けるドキュメンタリー監督のマイナーなドキュメンタリーも観ていたし実業家だった。何よりも常に感じが良い(だがホラーのパターンだとこういう好青年は豹変するのでまだ信用できない)。テスは恋バナまでして「ダメ男とわかっていても私ってついズルズルと流されてしまう」と嘆く(これも伏線、というか全部が伏線)。
ずっとテスに親切だが、演じてるのが『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』(2017)の殺人道化師ペニーワイズ役でお馴染みの、イケメンだが悪そうな印象のビル・スカルスガルドなので「ひょっとして連続殺人鬼じゃ……」という疑惑が拭いきれない。この気持ちが「知らない若い男性と一晩泊まらなければならなくなった若い女性テス」と完全にシンクロする事になる、その緊張感はずっと続く。キースはテスにベッドがある鍵付きの部屋を譲り自分はソファで寝る。
深夜、歩き回る物音がしてテスは目を覚ますと自部屋のドアが開いていた。やはりキースは殺人鬼なのか?しかしキースはソファで寝てうなされていた(彼がここでうなされてた意味、最後まで観ても謎。何者かに物色されていた影響か?)。テスがキースを起こすとキースの方がビビっている。どうやらキースは殺人鬼ではない?いや、まだわからない。話してる間、テスが寝ていたドアが背後で動いている。幽霊系のホラー映画なのか?テス、再び寝ると次の朝。キースは先に出かけていた。
普通だったら一夜のうちに恐ろしいことが起きて、朝に映画が終わるものだが何も起きなかった。キースは、とりあえずこの夜は悪人ではなかった。
キラキラした都会の面接先に向かうテス。朝になると自分たちが宿泊していた家だけ綺麗で、後はボロ屋……というレベルを遥かに越えて殆ど廃墟みたいな家ばかりで、はっきり言って治安的な意味でめちゃくちゃ怖い。
追記:このデトロイトのブライトモアという地域は本当にこんなに荒廃しているらしい。同じく自動車産業が廃れたデトロイトが舞台の『グラン・トリノ』(2008)も治安が悪かったね。
街に出て面接するテス。まだ何も起きてないうちに危険っぽい地から完全に安全地帯に出てしまう展開も珍しい。
面接してくれたドキュメンタリー監督に、宿泊してる所がブライトモアだと言うと監督は「え?冗談でしょ」と真顔になる。テスは心配無用と言う。
こういった感じで映画が始まってから謎や興味がずっと持続し続けるよう全てに工夫を凝らして作られてる。

 


面接を終え、相変わらず治安的にヤバそうなブライトモアの例の家に帰ってきたテス(テスとキースは何日か宿泊するみたいだ)。
恐ろしげな町だが、テスは面接先でキースの写真を見て微笑んでいたし、キースと恋の予感を感じているのかも。
家に入る前、ホームレスの男が「おい!そこの女!待て!その家に入るな!」と絶叫しながら走ってきた。めちゃくちゃ怖い!万事休す、急いで家に入り鍵を閉めるテス。(でもホラー映画よく見てたらわかるよね?このパターンだと、このホームレスは実は良い人ってことが)。
トイレットペーパーがないので地下に取りに行くとドアが締まり鍵がかかってしまう(このドア、この後も放っとくと必ずこうなる。こういう仕掛けなんだろうか)。
スマホは上の部屋に置いてきたし、キースが帰ってくるまで地下で待つしかない。地下室の壁に不自然なロープがある。引っ張ると地下室の壁の隠し扉が開いた。
扉の向こうが不気味すぎてテスは入るのを一旦やめる。だが気になるし他にやる事もないので扉の向こうに行く(この一回、躊躇してやめるのも良い)奥には部屋があり、電灯を点けるとボロボロのベッドに向いた撮影用カメラ、バケツ、壁に血の手形……監禁部屋だ。どう考えてもヤバい。
他には誰も居ないが忌まわしい監禁部屋にビビりまくり地下に戻るテス。帰宅したキースの足音が聞こえたので、『パラサイト 半地下の家族』(2019)でも出てきた庭が見える半地下の窓を叩きまくって家に近づくキースに助けを求める。
この時点ではまだ「昨夜は何も危害を加えてこなかったが、やっぱりキースがタイトルにもなってるサイコパスの殺人鬼……バーバリアン(野蛮人)という可能性もゼロではない……」と再び身を固くして見守る、が……普通に助けてくれた。昨夜も何もせず、閉じ込められた地下からもテスを開放。そろそろ「キースはバーバリアンではない」と見ていいだろう。
これで、怪しいサイコパスにしか見えなかったビル・スカルスガルドをキース役に起用してたのは「犯人かもしれない……」と、常に視聴者が身を固くして集中して映画を観続けさせるように配置されたキャラだとわかった。『ツイン・ピークス』風に言うなら「フクロウはフクロウではない」(人は見た目通りではない)。
テスはビビって荷物をまとめて家から出ていこうとするが、キースは「自分も見てくるからちょっと待ってて!」と言う。しかしキースは地下から帰って来ないし呼んでも返事がない。
テスは仕方なく地下室に様子を見に行く。
……いや絶対、町の外に出てから警察に通報だろ!というかキースが地下に行くのすら止めて通報すべきだろ。どこかに変態が潜んでるかもしれんし乗り込んでくるかもしれん!昨夜もドア開いてただろ。
まぁテスは正義感強すぎるみたいなので良い奴のキースが見捨てられなかったのだろう。キースは「君を信じてるが僕は監禁部屋を見てないから、見て信じさせてくれ」という感じだったし「少し良いな」と思ってそうなキースを置いていくと縁も切れてしまう……という気持ちもあったのかも。
しかし、どういうわけか地下室にも、地下室の隠し扉の奥の忌まわしい監禁部屋にもキースは居ない。キースがどこに行ったのかマジでわからん!?異界にでも行ったのか?
しかし、よく見ると監禁部屋を通り過ぎた通路の行き止まりに金属製の扉があった。
それを開けると、なんと……地下室の隠し扉の奥の監禁部屋……の奥から更に地下二階に降りる階段がある!地下の地下だ!
隠し扉の監禁部屋だけでも怖いのに更に地下!?
異常の上に重なる異常。
まだ何も怖いものは出てきてないが既に怖すぎる空間!
一体、地下には何が……?そして誰が、何のために作ったのか!?
っていうかキースは?まsか地下二階に?
すると地下の地下から助けを求めるキースの声がする。テスは当然ビビり散らかしているが、仕方なく地下へ……(武器もないんだから今度こそ絶対に通報だろ)。

 

 

……という辺りが前半までの展開。
こんな感じで気がついたら劇中で起こる出来事をラストまで全部書いて逐一その時の自分がリアタイでどう思ったか全て書きたくなる映画だった、が……やめとこう!
これは自分で観て感じてこそ面白い映画なので、観てない人がたまたまこのページ観て全部知ってしまうとつまらないのでやめよう。ネタバレ知りたい人はYOUTUBEや違うサイトで読むだけだろうし、自分も観るつもり無い映画のネタバレ読んだりするから別に、それに否定的な事も思っていない、だが本作はめちゃくちゃ面白かったから自分のブログがネタバレの加担になりたくないだけ。以降の展開こそ全て念入りに書いて褒めたい気持ちを抑えて記事をここで止める気持ちを汲んで、これを読んでる未見の人は観てほしい。既に観た人が全くネタバレしてなかった理由がわかった気がするわ。
とにかく謎の隠し方、その謎を明かしていく順番。ビル・スカルスガルドの件もそうだが上手なミスリーディング。一回クライマックスが来たら突然全く関係ない知らないキャラを出して何か関係ない事してて「いや、誰だよ?家の状況は?」とか思ってたら、そいつもあの家に結びつく……という展開x2。次々と出てくる異常にムカつく人間やシステム……など、とにかく最後まで興味や面白さが途切れない。後から出てくるジャスティン・ロングの使い方も良いし(余裕のある時は善人ぶるがピンチになると本性を表すクソ野郎っぷり。テスが心配な時に訴えられてるくだりを延々見せるのも最高)、とにかく危なっかしいテスを応援せずにはいられない。これは評判通り面白いホラーでした。
この監督、ミスリーディングやストーリーの進め方が上手すぎるし、MCUにうってつけの人材。Disney+だし当然MARVELスタジオの人も見てるだろうし是非、起用されてほしい。
特に文句言いたくなるような欠点はない。
が、個人的なワガママ言わせてもらうなら、終盤に何でも知ってるホームレスが全部教えてくれるのだが、教えてくれるとスッキリするが自分で考える謎がなくなってつまらないので教えてくれない方がよかった(これは文句じゃなく、あくまで無理やりケチつけるならね)。
ホラーのお約束を少しづつズラして飽きさせず集中させる……それでいて要所要所は外さない!最高でしょう。

 

 

 

 

そんな感じでした
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バーバリアン|映画/ブルーレイ・デジタル配信|20世紀スタジオ公式
Barbarian (2022) - IMDb

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『ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋』 (2022) 全8話/ギレルモ関係作でこれが一番好きかも。特にパノス・コスマトスの第7話👿


原題:Guillermo del Toro’s Cabinet of Curiosities 企画&原案:ギレルモ・デル・トロ 各話の監督&脚本&原作:※後述 制作&配信:Netflix 製作国:アメリカ 配信時間:各話40分、全8話

 

 

優しく熱心な人格と癒し系のルックスとオタクな趣味で、本人の魅力は高いのだが個人的に監督する作品はどういうわけか合わないものが多いギレルモ・デル・トロ
で、ギレルモの名が冠された本作も興味なかったが、H・P・ラブクラフトの「ピックマンのモデル」「魔女の家での夢」があるので興味を惹かれて観た。第2話「墓場のネズミ」もラブクラフトの友人ヘンリー・カットナーが書いたクトゥルー神話らしい。そういえばギレルモ氏は昔からクトゥルー神話を映画化しようとしては断念してるよね。クトゥルー神話はオタクに人気で映画化もされてるがメジャーな大作映画にして大ヒットするとは思えない微妙な位置にある。ギレルモが好きなクトゥルー神話を始めとしたホラー短編小説や自身が原案したホラー小話を好きな若手監督に撮らせたオムニバス・ホラーってところか(ちなみに第一話と最終話がギレルモ考案の話)。今まであまりハマる作品がなかったギレルモ制作作品だが全作めちゃくちゃ良かった。ギレルモ監督作の苦手な部分は情が溢れる場面が異常にウェットで苦手だったが、ギレルモ本人が撮るより他人に撮らせてワンクッション噛ませた方がちょうど良くなるのかな?そういえば唯一好きだったギレルモ作品である『パンズ・ラビリンス』(2006)はドライで本作っぽかったね。本作は『パンズ・ラビリンス』(2006)に近い。そういえば『クリムゾン・ピーク』(2015)も、本作の中の一話でもおかしくないドライな作品だったが単純に面白くなかった。『クリムゾン・ピーク』(2015)こそ短くしてオムニバスで良かったのでは……。大物監督だしNetflixから潤沢な制作費が与えられているのか小物に至るまで惚れ惚れするほど美しい。意外な掘り出しものでしたね。なんならギレルモ・デル・トロ関連作でこれが一番好きかも。

早く続きが観たくなる『イカゲーム』 (2021)とか『ストレンジャー・シングス 未知の世界』などの続きものならNetflix特有の「全話一挙公開!」形式は合っているが、凄くコッテリした40分の一話完結の本作には合ってない。だから「数日ごとに2話づつ公開される」という形式で「上手いことやってるな」と思った。まぁ僕はほぼ全部公開された頃に観始めたので全話一挙公開みたいなもんでしたが……。

ネタバレあり。5点満点で考えよう。2点が「まぁまぁ」3点が「結構よかった」くらいの感じ。

 

 

 

 

第1話「ロット36」🐙 ★★★☆☆
原題:Lot 36 監督:ギレルモ・ナヴァロ 原作&脚本:ギレルモ・デル・トロ 脚本:レジーナ・コッラド

借金返済のためレンタル倉庫の中身を買い取って金目の物を売りさばくことにしたレンタル倉庫管理人(演:ティム・ブレイク・ネルソン)。持ち主の老人が死んだ36番の倉庫のガラクタを処分しようと足を踏み入れた管理人だが、保管されていた恐ろしいものを目の当たりにする事となる――

36番のレンタル倉庫の家賃の支払いがほんの少し遅れてしまった移民の女性。管理人は「もう遅い、倉庫のものは俺のものだ」と言う。女性は家族のアルバムなどを取り戻したいだけで「私のアルバムを貴方が所持してて何がいい?」と言うのだが管理人は女性を無下にする。そんな意地悪な管理人には勿論、災難が降りかかる。「銀行員の女性が出世のために、ローン延期を訴える老婆を無下にしたら呪殺されてしまう」というサム・ライミ監督の『スペル』(2009)と殆ど同じ話と言える。しかしこの主人公である管理人もまた戦争で耳をやられ女房には逃げられ借金に追われ……幾つかの不運が重なり不寛容な人間になった事が語られる。物語の中で、不寛容の連鎖は高いところから低いところに流れ……だからホラー映画での犠牲者は若い女性や年寄りた貧困者など社会的弱者になる。
管理人は『インクレディブル・ハルク』(2008)でMrブルーことサミュエル・スターンズ役してた人だな。このサミュエル・スターンズは『キャプテン・アメリカ ニューワールドオーダー』(2024)でハルクの血液のせいでヴィラン〈リーダー〉として帰ってくるらしい14年ぶりに帰ってくるらしい……。
管理人は36の貸し倉庫から降霊台を見つけ、売りに行くと質屋の友人であるオカルティストが霊的な書物を見つけ「三冊目もあれば高い値で買う」という。
管理人とオカルティストは倉庫に行き、三冊目を探す。
太古の邪悪なオカルティストは妹に悪魔を取り憑かせた。大量の触手を持つ顔のないクトゥルーっぽい死体が管理人を襲う。

 

 

第2話「墓場のネズミ」🐀 ★★☆☆☆
原題:Graveyard Rats 監督:ヴィンチェンゾ・ナタリ 脚本:ギレルモ・デル・トロ 原作:ヘンリー・カットナー「墓場の鼠」(1936)

墓地に埋葬された金持ちの遺体に装着された金目の装飾物を盗んで売り捌く墓泥棒(演:デヴィッド・ヒューレット)。遺体の装飾物を奪うため墓地のネズミが掘った迷路のような地下トンネルを進むが――

ラブクラフトの友人の作家ヘンリー・カットナーが書いたクゥトルー神話が原作。
この話もまた、借金に追われていて墓泥棒せざるを得ない社会的弱者が主人公。
閉所恐怖症である主人公は、棺に生き埋めとなりネズミに襲われる悪夢を見る。すごくエドガー・アラン・ポーっぽい息苦しい悪夢。もうオチが見えるし観ていて息苦しい作品。
ネズミ達は、遺体を巣に持ち帰るため棺を食い破り遺体を移動させられるほど大きいトンネルを掘っていた。主人公はトンネルを進むと、人間の子供くらい巨大なネズミの親玉も居た。明らかに普通ではない。地下には広い部屋があった。そこにはネズミが持ち帰った墓地の遺体の骨がたくさんあった、墓泥棒は地下の遺体が付けていた金目の遺品を大喜びで拾う。部屋をよく見ると旧支配者を思わせる邪神像、そして邪神を信仰する教祖のミイラがあった。ミイラが付けていた旧支配者ネックレスを奪うとミイラは動き出し上半身だけで追ってくるので墓泥棒は逃げる。するとネズミの王も追ってくるので挟み撃ちになる墓泥棒。だが勿論エドガー・アラン・ポー的な結末にはなるものの、なかなか楽しい。旧支配者信仰がネズミに禍々しい力を与えていたという話のようだが原作では「超常的な存在がネズミに力を貸していたらしい」程度の話で邪神像やミイラなどは出て来ないらしい。

 

 

第3話「解剖」👴  ★★★★★
原題:The Autopsy 監督:デイビット・プライアー 脚本:ギレルモ・デル・トロデヴィッド・S・ゴイヤー 原作:マイケル・シェイ「The Autopsy」(1980)

森で見つかった血が残っていない遺体の捜査にあたる保安官は、古い友人である検視官(演:F・マーリー・エイブラハム)を呼び、一連の奇妙な出来事の真相解明を依頼する――

星空から岩盤、保安官の組んだ手が森林にディゾルブする前半、妙に凝った映像で惹きつけられる。
田舎町で、血が一滴も残っていない連続殺人事件が起こる。ベテラン保安官の旧友の年老いた検視官が鉱山で起きた爆発事件の遺体を調べる。
どうやら鉱山で働く男が突然、同僚を殺し始めたようだ。最初は他の話のように「邪神や悪魔にでも取り憑かれたのかな?」と思うのだが男の家には光る球体がある。これがオカルト的なことと結びつかず「一体何なんだろう?」とストーリー的な興味が湧く。
また他の作品同様に美しい映像なのだが「死体安置所」「渋い検視官(『アマデウス』(1984)のサリエリ役の人)」「解剖の道具」「ペダルを踏んで録音する機械」「換気扇のプロペラ越しの映像」「懐メロが流れるラジオ」「遺体の服を切って箱に保存」「皮膚を切り開いて内蔵を取り出してチェック」……そんな異常にフェティッシュな作業をドアップで映す。デヴィッド・リンチタランティーノの映像みたいで「検視ってカッコいいなぁ」と思わずにいられない。というかこの監督が仕事してるところを撮ったら何でもカッコよく映りそう。
主人公の検視官は妙な雰囲気を纏っている。旧友である保安官は連続殺人事件について語り車で死体安置所に向かう途中「……で、何があった?」と尋ねる。検視官は癌で余命半年だと言うが完全に死を達観している。
コズミック・ホラー的な展開になっていき「やはりこれもクトゥルフ的な話だった」とわかる。クライマックスで体内の神経組織というミクロなものを広大な宇宙のように撮ってるのも、微細なものを描くことで「その者」が来た外宇宙を同時に想起させるし、老検視官はジョジョの登場人物みたいな勇敢な振る舞いでエイリアンを撃退するしで、最初から最後まで魅了されっぱなしの話だった。
冒頭の殺人事件を描写してた時から、こういう結末になるとは思わなかったし、このまま2時間の映画でもよかったくらいだが、こんなおじいさん検視官が頑張る話は地味すぎてヒットしそうもない。だからやはりギレルモの皆が観るオムニバスの中の1篇で丁度よかったのだろう。

 

 

第4話「外見」👩🏻 ★★☆☆☆
原題:The Outside 監督:アナ・リリー・アミリプール 脚本:ハーレイ・Z・ボストン、ギレルモ・デル・トロ 原作:エミリー・キャロル「Some Other Animal's Meat」(2016)

人付き合いが苦手なステイシー(演:Kate Micucci)は職場に溶け込むため、人気のローションを使い続けるうちに彼女の身に思わぬ変化が起こり始める――

Webコミックが原作。
野暮ったくてホラー映画や動物を剥製にするのが趣味の、いわゆる変り者のステーシー。職場の、ゴシップやSEXの話題ばかりしている所謂「普通の女性たち」の仲間入りしたくて、女性のリーダーが勧めるスキンケアのローションを使うがかぶれてしまう。優しい夫は「そんな事しなくても君は魅力的だよ」と熱心に慰めるのだがステーシーは聞き入れず使い続けて肌が悪化し、精神も狂気をはらんでいく。
……という、こういう女性の「美」へのコンプレックスをテーマにしたホラーでは、肌も心もグズグズになったり、自分には美しく見えるがハタから見るとグズグズになっているという狂気オチが定番だが本作は本当に美しくなってしまう。そしてステーシーは他のマダムたちと同じように、くだらないゴシップを話し狂った表情を見せて終わる……同調圧力に合わせて自分を捨てて「普通の人」の仲間入りする事のグロテスクさを描いた作品だった。
最も痛々しい話だったかも。主演の女性は美人なのだが瞳が異常にデカくて鼻も凄く高いという極端な顔をしている、そして前半の「変り者ステーシー」の時は寄り目で顎を引いて姿勢を悪くしてそれを魚眼レンズで撮って「ブス」演出で撮っていた(こういう撮り方すればアン・ハサウェイでもブスに映るだろう)。
この作品が真にホラーなのは、主人公は最初の時点で既に幸せだったのにどんどん狂っていくところだろう。鳥を撃って剥製にしたり「怖がりなのにホラー映画を好む」という自分をしっかり持った趣味を持っており、優しい夫は「君は今のままで中身も外見もとても魅力的だよ」と熱心に言う。なかなか巡り合うことのできない「ありのままの自分を愛してくれる真に優しい夫」なのだが「美しくなって職場のマダムたちの仲間入りしたい」という夢を叶えたいステーシーに夫の言葉は届かず、遂にはそんな夫をブッ殺してしまう。そして美しくなったステーシーは職場のマダムの仲間入りして「男のペニスについて話してばかりのマダム達の仲間入りし、狂ったように笑って終わる。最初に自分をしっかり持ってて優しいパートナーがいるのにどんどんしょうもうない人間になっていく……というホラーは、これは最も恐ろしい展開かもしれない。

 

 

第5話「ピックマンのモデル」🎨 ★★★☆☆
原題:Pickman's Model 監督:キース・トーマス 脚本:リーパターソン、ギレルモ・デル・トロ 原作:H・P・ラヴクラフト「ピックマンのモデル」

リチャード・アプトン・ピックマン(演:クリスピン・グローヴァー)という内向的な男と出会い、その恐ろしい絵に心ひかれた美術学生のウィル。ピックマンの絵はウィルの精神に多大なる影響を及ぼす――

この話が観たくて『驚異の部屋』を観始めたのだが実際のところ、この話以外の方が面白くて、この話はまぁまぁだった印象。
バック・トゥ・ザ・フューチャー』一作目のマーティの父親役とか『チャーリーズ・エンジェル』(2000-2003)の痩せ男役とかで有名な奇人俳優クリスピン・グローヴァーがピックマン役、60歳近いのに美学生役してるのも凄いがスタイルが良いし劇中で他の生徒に「あいつだけ80歳くらい老けてない?」と言及されるのであまり気にならない。むしろ「忌まわしい絵を描いてるせいで実年齢より老けてるのか?」と思わされる。
原作だと「凡庸なイケメン美学生ウィルは、処刑された魔女を先祖に持つピックマンの秘密のアトリエに招待され、グールが人を食っている数々の忌まわしい絵を見せてもらいピックマンの想像力に感嘆する。だがピックマンは本物のグールの写真をモデルにして見たまま描いただけだった→怪物が周りにいるというだけでピックマンには別に優れた美術の才能などなかった」みたいな話。「魔女が先祖に居て周囲に怪物がウロウロしてる」という不思議な出来事より「別にピックマンには想像力はなかった」という現実的な事の方が大オチになってるところが味わい深い。
原作での語り手である主人公ウィルの生活がピックアップされている。ピックマンの絵を見てから現実世界でも怪物の幻覚をよく見るようになっていくのでウィルはピックマンを遠ざける、しかし数十年後にピックマンが街に帰ってきて再会。ウィルは再び幻覚を見るようになる(ウィルはピックマンを遠ざけようとするのでピックマンは「僕たち友達じゃなかったの?」とか言うのが物悲しい)。
ウィルはピックマンの絵にどんどん侵されていって彼の世界は破滅する……という、こういう展開はラブクラフト的ではあるが原作とはもはや全く違う話になっている。
ピックマンの絵が画面に出る時はバーン!とアップになって揺れたり絵の中の魔女がCGで少し動いたりする。見ただけで精神を侵されるような絵を映像で見せるのは無理なのでこうするしかないのか。個人的には、こうするよりも『パルプ・フィクション』のお宝みたいに、絵を見た人のリアクションだけ見せて絵そのものは一切見せない手法の方が良かった気がする。
美学生時代に自分や同級生の平凡な絵とは違い教師からも反発される強烈な絵を描いていた変り者ピックマンの才能に惹かれつつショックを受けたウィル。数十年、画家にはなれなかったが美術関係の仕事して妻子にも恵まれて幸せに暮らしていたウィル、そこへ同級生の中で一人だけ有名な画家になれたピックマン(しかし生活能力ゼロで電気も停められている)。ウィルは彼を遠ざけようとするが美術関係の同僚や妻子までもピックマンに魅了されていき遂にはウィルはピックマンを殺す。ピックマンは撃たれても全く恨み言を言わず「この世の裏にある真実を描きたかっただけだ」と繰り返して言う……というストーリーからして「本物の天才への嫉妬で身を滅ぼす凡人」という話にしたんだなと思った。
ピックマンの「モデル」って部分がもはやどうでもよくなってるのでタイトルの意味がわからなくなってしまっている気もしたが、ピックマンが描きたかったモデルとはグールなどの怪物じゃなくて、この世の欺瞞とかそういう社会に隠された闇を指したのが「モデル」って事だったのかな。それに、この回のポスターはウィルが描かれている、だから原作での人食いグールが本作ではウィルに置き換えられてるんだろう。だからウィルが嫉妬でどんどん狂っていったんだな。

 

 

第6話「魔女の家での夢」🧙 ★★★☆☆
原題:Dreams in the Witch House 監督:キャサリン・ハードウィック 脚本:ミカ・ワトキンス、ギレルモ・デル・トロ 原作:H・P・ラヴクラフト『魔女の家の夢』

1930年代、死別した双子の妹と再会することだけを願って生きてきたウォルター・ギルマン(演:ルパート・グリント)は、特別なの力を借り、妹の魂が存在するかもしれない不思議な世界に足を踏み入れる――

ハリーポッター』シリーズで一番いい顔してるロン役で有名なルパート・グリント主演。これもラブクラフト原作の短編小説が原作。幼い頃に超常的存在に妹の魂を抜かれてるところを目撃した主人公、彼は学業も仕事も投げ出しスピリチュアル系の研究員として妹が連れて行かれた世界のことを探し続けている……死者が蘇るわけでもなし未来のない無職だ。スピ仲間は取り返しがつかなくなる前に就職してウォルターを心配して勤め先を勧める、つまりスピ仲間やスピリチュアル研究所の人たちでさえ遊びでスピってたんだが主人公だけ本気なのだ。これもまた「ピックマンのモデル」と同じく「本物と本物ではない人の違い」の話といえる。
原作では「兄妹」の設定はなく主人公ウォルターが魔女が棲んでた物件で暮らしながら数学を極めすぎた結果、眠りの世界で不思議な世界に行って様々な邪神を目撃しつつ魔女を倒すって感じだった。本作では主人公が「幼い時に連れて行かれた妹を取り戻すために頑張る」という事を主軸としたオリジナルの話になっている。更にスピリチュアル画家やシスターやウォルターの友人などがウォルターに協力してくれる仲間が妙に多いので、ちょっとした冒険ファンタジー映画のような雰囲気。ウォルターが妹の霊とリンボの森を彷徨ってるシーンなどはどうしてもハリポタを思い出させる。
しかし数々の邪神たちを夢で目撃したり「数学でリンボ(異界)の存在を探知する」などのオリジナリティありすぎる要素が消えてしまったのが残念。ラブクラフト色よりファンタジー色を強くした感じ。
ウォルターがリンボで、幼い頃に死んだ年齢のままの妹と出会った時に「交響楽団に入った?」と妹が訊いてきて「君にまた遭うため音楽は辞めたよ」と答えて「才能あったのに……」と妹が落胆する場面、めちゃくちゃ哀しすぎてこんなシーン撮るなよと思った。
「過去に囚われたままの青年がドラッグで身を滅ぼす話」とも観れるがクライマックスで急に仲間が集まるという原作とは違う少年漫画的な展開になるものの結局バッドエンドになってしまうのも可哀想な気持ちが倍増してションボリさせられた。妹のことだけ考えて生きてきた兄が救いに来ても妹の霊は「嬉しいけど兄さんは自分の人生を生きてほしかった」とずっと思ってそうなところもまた哀しい。
妹がこっちの世界に実体を持って来て、こっちの世界の人とコミュニケーションを取るという場面は意外で面白かったが、ファンタジーっぽくするなら救って欲しかったし、そうじゃないんだから原作まんまの話で良かった気がする。

 

 

第7話「観覧」🥃 ★★★★★
原題:The Viewing 監督&脚本:パノス・コスマトス 脚本:アーロン・スチュワート・アン、ギレルモ・デル・トロ

謎に包まれた大富豪リオネルピーター・ウェラー)の素晴らしい邸宅に、各々が異なる才能を持つ4人の男女が招かれる。邸宅にはドクターザーラソフィア・ブテラ)とボディガードの男が一人。一行は「一生に一度の経験ができる」という話を持ちかけられる。彼らの好奇心が恐怖へと変わるのにそう時間はかからなかった――

ブルータリズム建築の素晴らしい屋敷に作家、科学者、ミュージシャン、超能力者?など各界の最高峰の人材が招かれる。
ロボコップ役でお馴染みのピーター・ウェラー演じる大富豪は彼らと共にある物を観覧するために呼んだ。まずその前に客人それぞれの好物の飲み物や煙草などの最高級品が振る舞われ、次に至高のウイスキー原哲夫」、至高のマリファナ、至高のコカインなど順を追って一段上の嗜好品が振る舞われる。
素晴らしい邸宅には音楽が流れて、室内の光はビル・シンケビッチのアートのように常に帯になっている。この話自体が究極の嗜好品という感じ。
壁にはボディガードの機関銃が飾られている。富豪が客にそれを紹介するとボディガードは説明せず、つーっと涙を流す。何やら過去に辛い戦いがあったようだが一言も説明しないのが却って重みがあって良い。
コカイン吸う場面も非常にフェティッシュな感じで撮られてて「吸ったことないけど自分がこの場にいたら絶対にコカイン吸いたい」と思う非常に教育に悪い作品だ。
コカインを躊躇するミュージシャンに大富豪は「人生は二度ある。『人生は一度きり』と思った瞬間から二度目が始まる……」などと如何にも大富豪が言いそうな口説き文句を言う。すっかり酩酊した一堂は奥の部屋に通される。そこには地球外の不思議な石があり恐ろしいことが起こる……というラブクラフト的なクライマックス。ボディガードも例の機関銃を壁から外して戦う!
大した事は起きないのに最初から最後まで面白いのが凄い。科学者のアジア人女性が車を飛ばして逃げるシーンも、日本アニメのようにテールランプが尾を引いているのが最高。この話は監督&脚本だったので、この監督を調べたらニコラス・ケイジ主演で撮った一部で人気だった『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)の監督だった。マンディもすぐ観ようと思った。

 

 

第8話「ざわめき」(最終話)🕊 ★★☆☆☆
原題:The Murmuring 監督&脚本:ジェニファー・ケント 原作&脚本:ギレルモ・デル・トロ

1951年、子供を失った哀しみを抱えた鳥類学者ナンシー(エッシー・デイヴィス)とエドガーアンドリュー・リンカーン)夫婦。夫婦は、外敵に対して群れで一つの生物のような行動「ざわめき」を行う鳥ハマシギの調査に来た。ナンシーは寝泊まりする一軒家で不思議な現象に遭う――

『ババドック ~暗闇の魔物~』(2014)で悲しい母親を演じてた俳優さんがここでも悲しい母親を演じている。赤ちゃんを喪い破綻しかけた鳥類学者の夫婦、ナンシーは過去に調査のために滞在している一軒家で子供の声や足音を聞く。やがて、この家で母親が子供と心中した過去がある事を知る。そしてやがて感動的な異例のハッピーエンドに……。
ここまでクトゥルフ神話っぽいコズミック・ホラーや刺激的なホラーが多かったし、最終話のコレはギレルモ・デル・トロが書いた話だったので、てっきりクトゥルフ神話みたいな話でシメると思ってたので、静謐な幽霊屋敷もの+中年夫婦倦怠そして回復ドラマだったので拍子抜けしました。中年女性の哀しみと中年夫婦のギスギスが続く。
俳優さん達の熱演や美しい映像、そして幽霊屋敷ものも普段なら好きなんですが、こういうものを求めてなかったので全く乗れませんでした。これをお出しになる番組と順番が悪かったと思った。一個前の第7話がめちゃくちゃ刺激的だったのも災いして……。
この話自体は良い話なので、感動する方も多いと思うし否定する気持ちはないのだが、僕の場合カレー屋に入ったのに素うどんが出てきて「いや完全にカレーの舌になってるから……」という感じの戸惑いが最後まで消えませんでした。
よく考えたらギレルモ・デル・トロは中年女性を描きがちというのを忘れてた。

 

 

そんな感じで僕は第3話「解剖」、第7話「観覧」がダントツで良かったですね。比較的そこまで気に入らなかった話も最後まで興味が持続するくらい面白かったです。全話、美術や映像が凄い美しかったし。大好評らしいのできっとシーズン2も作られる予感。

 

 

 

 

そんな感じでした

〈本作の製作者や監督の関連作〉
『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017)/きっと良い映画なんだろうとは思うが色んな過剰な描写が不要に思えて全然乗れなかった🐟 - gock221B
『スケアリーストーリーズ 怖い本』(2019) /全体的に平凡だったが大柄女性怪異と結末が良かった📕 - gock221B
『マンディ 地獄のロード・ウォリアー』(2018)/ニコラス・ケイジ復讐ものだが本編の3分の2はサイケデリックな映像が続くのでそれに合わせに行く必要がある👿 - gock221B

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 ギレルモ・デル・トロの驚異の部屋 | Netflix (ネットフリックス) 公式サイト
Guillermo del Toro's Cabinet of Curiosities (TV Series 2022– ) - IMDb

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